実家の小料理屋を手伝っている一ノ宮雫は、ある日謎の存在「芸術を愛する者」に才能を見出され、願いを叶える宝石を渡されました。 その宝石に願いを込めると、そこは雫にとって見たことがない場所でもあった…。 (※連載当時のまま掲載しているので、誤字脱字があります)
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伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

全ての事が終わった夜の事、雫は父親の真面目な写真を見ながらに、我慢していたものが目から溢れ、誰も居ない部屋の中で一人、泣いていた…。

2020-12-04 20:49:11
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

それからの一ノ宮 雫の心は徐々に不安定な兆しをみせていった、元々いた場所に居たいと思う時もあれば、あちらの場所にもずっと居たい…という具合だ。 何故、私が彼女が本来生きていない場所……「料理座」へ導いたのかと? #料理座の怪人

2020-12-05 19:40:17
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

彼女の才能を見出し、伸ばす為だと。 現に、彼女の生きている時代には存在しえなかった料理に作れるようになっている。 流石だと思わないか? だが、何時までもこの時は続くとは、限らないと言う事を、彼女に知らせなければなるまいなぁ…。

2020-12-05 19:46:00
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫が料理座に居た時の事でした、他の料理人たちが下準備をしつつ噂話で盛り上がっている所でありました。 「なぁ、知ってるか?ココのちょーっとコワーイ噂話」 「噂話?なにそれ?」 「なんか、出るらしいよ」 「なんかって何よ、具体的な事を言いなさいよね」#料理座の怪人

2020-12-06 20:34:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「んー、まだ詳しい話はちゃんと聞いてないからアレだけどね。…俺らの住んでる寮あるじゃない、そこに隠された開かず部屋ってのがあるらしいのよ、そこから人の声が聞こえるってさ」 「なにそれこっわー」

2020-12-06 20:35:20
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「でもさー、私らの住んでる寮って男女別だし、部屋一杯あるからね。そういう話の一つや二つはあっても不思議じゃないかもね」 「確かに…!」

2020-12-06 20:35:30
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その話を聞いた時、一ノ宮 雫の中で(私の行動が、誰かに見られているのでは…)という、焦りの気が生じてしまう矢先「今の話、どう思います?」と、隣に居た同じ料理人でもある前沢慎太に問いかけられたのだ。

2020-12-06 20:38:36
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

しかし、その声も耳には入らず、雫は黙ったまま下準備の調理を続けるのであった。

2020-12-06 20:40:06
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ディナータイムの時間も終わり、一ノ宮 雫と前沢慎太が二人で食器を洗っている時の事です。 「前沢くん、この前はありがとうね。オムライスの作り方、教えてくれて」 「どうでした?ご家族の反応は」 「とても良かったわ、若葉は3杯もおかわりしたのよ」#料理座の怪人

2020-12-07 19:50:46
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「そうなんですね!いやぁ、嬉しいなぁ!」 「今度また、私の知らない料理を教えてくれるかしら…?」 「勿論ですとも!」

2020-12-07 19:54:36
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

誰もが寝静まったであろう、真夜中の事です。 一ノ宮 雫は例の空き部屋へ入り、壁にある本棚に並べられている本を取り出した後、小さな声で「私を、あの子の元へ帰らせて下さい…」と言いながら、再びその本を元の場所に戻しました。#料理座の怪人

2020-12-08 19:19:30
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

すると、本棚は勝手に動き出し、先の道を示す階段が現れ、足元を照らすように光が灯ったのです。 ――若葉の元に帰れる…。 そう思いながらも、雫はゆっくりとその道を歩みはじめたのでした。

2020-12-08 19:21:51
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫がたどり着いた場所は確かに見慣れた壱ノ笠でしたが、様子は一変していました。 どこもかしこも火が炎へと変わりながらに燃え盛り、人々はその火から逃げ回ってはいましたが、その炎は生き物のように人を捕まえたかと思えば、あっという間にその人を丸呑みに喰い尽くしたのです。#料理座の怪人

2020-12-09 20:24:32
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――一体、何が、どうなっているの!? 訳が分からないまま立ち尽くし、その様子が目に移る中、炎を纏った化け物が何処かを見ていた後、ゆっくりと動き始めた時(あの子は!?…若葉は!)と我にかえり、化け物に気づかれぬよう、雫は家がある方へ向かって行ったのです。

2020-12-09 20:29:07
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

幸いにも、一ノ宮家の方はまだ炎の化け物が来ていないのもあってか家そのものは無事ではあるものの、火の粉が風にのって来ているのが目でも見ても解る程。 例の化け物が、何時コチラに来てもおかしくはない事は明白でした。 #料理座の怪人

2020-12-10 19:32:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

勢いよく玄関の戸を開けた雫は「若葉!」と大きな声で叫びましたが、返事する声は聞こえません。 「若葉…、何処かに居るの?」 家の中は勿論、庭や裏口、倉庫と言った所、若葉が居そうな場所を探しましたが、何処にもいないのです。

2020-12-10 19:38:11
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

不安が募る中、雫は茶の間へ戻った時でした。 先程まで、姿さえ見えなかった一ノ宮若葉が頭を下げ、正座したままの状態で居たものですから、雫は直ぐに駆け寄って抱きながらに言いました。 「若葉!大丈夫だった!?不安だったでしょう、もう、大丈夫だから…!」

2020-12-10 19:43:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

しかし、若葉の様子は特に変わりなく、ただ黙ったままで居る訳ですから、雫は「若葉…?」と声をかけた時でした。 「母さんなんて、大嫌いだ――」 そう言い残したかと思えば、若葉だったものは直後に炎へと変わった所で、雫の居た世界は暗転し、全てが無くなってしまったのです。

2020-12-10 19:48:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――ねぇ、どうして…。若葉、そんなことを言うの? 暗転した世界の中、雫はそう思いながらも、その場でただただ泣いていた時でした。 『さてはて、君にはそろそろ、決めなければいけない事があるのだがね…?』 聞き覚えのある声が響き渡り、雫は服の袖で涙を拭き、その方を向きました。#料理座の怪人

2020-12-11 19:15:56
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「決めなければ…?」 『いかにも、単刀直入に言えば「君はどちらの場所に居たいのか」という事だ』 「そ、それは…」 『迷っている?…無理もない、君は人間だからな。当然の事だ』 解っていて、そのような事を聞くのだから、たちが悪い事このうえありません。

2020-12-11 19:20:15
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『私もそこまで気は長くない方だが、不思議と、君の同行は見ていて飽きがこないと思っているがな』 「私は……」 『声に出さなくても結構、君は今、あちらの場所に居たいと、そう思っただろう?』 雫が次に瞼の瞬きをした時には、例の本棚がある部屋…、料理座の空き部屋に居たのでした。

2020-12-11 19:24:41
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

元の場所に帰る方法も絶たれたような状況の中で迎えた、この日のディナータイム。 雫の中で複雑な気持ちになりつつも、何時もの持ち場に居た矢先でした。 料理座の方で「不気味な客人がやって来た」という話も調理場の方でもあっという間に広がったのです。#料理座の怪人

2020-12-12 19:27:29
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「なんでも、オーナーの大切なお客様なんですって」 「でも、顔も何もわからないんでしょ?ちょっと怖いよな」 「お前ら、口動かすなよ。手をだな!」

2020-12-12 19:28:40
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

隣に居た前沢も雫に何か話そうとした矢先でした、調理場に慌てて入って来たウェイターに、料理人の一人が「例の客人、何を頼んで来たんだ?」と声をかけました。 「家庭的な料理、それも和食です」 と、息をようやく落ち着かせて答えたのでした。

2020-12-12 19:31:16
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

他のお客様の頼まれた料理も作りつつ、手の空いている料理人らは「和風で家庭的な料理」を作っていきます。 しかし、作る料理は完食し空になった器は戻ってくるものの「満足はしていない」と伝えられ、益々と躍起になります。#料理座の怪人

2020-12-13 21:02:10
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その様子をチラりと見つつも、前沢慎太は隣に居た一ノ宮 雫に「一ノ宮さんって、実家が小料理屋さん…なんですよね?」と小さな声で聞いたのです。 「えぇ、そうだけども…」

2020-12-13 21:02:11
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「もしかしたら――」 前沢が言葉を続けて言おうとした時でした、調理場の扉が勢いよく開かれたかと思えば、料理座のオーナーがやって来たものですから、誰かが「オーナーがいらしたぞ!」と声をかけたのです。

2020-12-13 21:02:11
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

オーナーが直々に調理場にやって来たのですから、殆どの者の動かす手は止まり、オーナーの方を見て頭を下げました。 しかし、オーナーは辺りを見渡しながら聞きました。 「一ノ宮 雫さん、いらっしゃいますか?」 丁度、洗い終えた皿を置いた雫は「はい!…私、です」と返事をします。 #料理座の怪人

2020-12-14 19:35:26
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

オーナーは雫の方へ駆け寄り「アナタは確か、実家が小料理屋さんだったという事ですが……。今から、その腕をふるえる事は出来ますか?」と聞いて来たのです。 「私が…ですか?」

2020-12-14 19:35:26
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

突然の申し出に、戸惑いを隠せない雫は「しかし、私の作る料理でお客様の要望に応えられるかは…」言葉を詰まらせるのを聞くや「オーナー!新人にいきなりそんなことを!」という声が聞こえる中、雫の視界が一瞬だけ暗転し、あの声が聞こえたのです。

2020-12-14 19:35:26
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『聞き捨て悪い声は耳に入れるな、一ノ宮 雫』 疑問を思う間もなく、視界は元に戻ると、先程までの声は嘘のように無くなっており、一体どういう事だと思いながらも、隣に居た前沢慎太は言いました。 「一ノ宮さん、ココはやってみましょうよ!」 「で、でも…」

2020-12-14 19:35:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

すると、他の料理人たちから「一ノ宮さん!私達も強力するわよ!」「そうだ!俺達は料理長らからすればペーペーの料理人かもしれんが、一つに協力すれば出来るはずだぜ!」という声が上がる中で、オーナーは真っ直ぐに向かって聞きました。 「改めて問いましょう、お願い、出来ますか?」

2020-12-14 19:35:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫自身、何故周りの料理人たちが自分に対して協力的になったのか…? その疑問が頭の中で浮かびながらも、雫は頭を振って食材の確認をし、各々の料理人たちに作ってもらうメニューを言い伝えて、調理に取り掛かろうとした時だ。#料理座の怪人

2020-12-15 20:59:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『君の対価、――は頂くよ』 雑音交じりにあの声が耳に入った時でした、雫の身体がぐらっと揺れるような感覚に襲われ、その場に倒れそうなったのです。 しかし、間一髪の所で隣に居た前沢慎太が雫を支えながら「大丈夫…ですか?」と心配そうに聞きました。

2020-12-15 20:59:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「…うん、大丈夫よ」 なんとか体勢を立て直した後に言いました。 「ここで私が倒れちゃあ、いけないわよね…。オーナー…、お客様に頼まれているのだから」 「でも、無理はしないで下さいよ…」 「うん、ありがとう」

2020-12-15 20:59:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一通りの料理が完成し、あとはウェイターに運んでもらう為、カートに載せて出入口の所で頼もうとした時でした。 オーナーが再び現れ「君一人で行きなさい」と、言ったのです。 「私だけで、ですか…?」 「作った人の反応込で料理を食す…という、少々変わった趣味を持っているからね」 #料理座の怪人

2020-12-16 20:40:24
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「でも、私のような新人が作ったと知ったら、なんと申されるか…」 「料理を作る者に、新人も玄人も関係は無い。他所の事情はさておき、私がオーナーである限り、この場所はそう言う風に考えているからね」 オーナーの話を聞いた雫は、ゆっくりと「わかり、ました」と返しました。

2020-12-16 20:40:24
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

運んでもらうウェイターに「ありがとう」と言いつつ、調理場を出る所で振り返りますと、他の料理人たちが期待と不安が入り混じった表情を浮かべる所を見ながらに言いました。 「どんなことを言われたとしても、私は大丈夫ですから」

2020-12-16 20:40:24
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一ノ宮 雫が例のお客様の部屋へ辿り着きました、緊張していることは本人が一番わかっていることですが、その事をなるべく向こうには悟られぬよう、雫は深い息を吸った後、相手に聞こえる程のノックをし「失礼します」と言い、部屋に入りました。 #料理座の怪人

2020-12-17 19:07:44
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「大変お待たせしました、本日のお料理を担当しました、一ノ宮 雫と申します」 深々と頭を下げた後、雫は一通り配膳しました。 「――では、頂こうか」 その声に、何処か聞き覚えがあるような気もしましたが、今は余計な事は――と思いつつ、雫は固唾を飲みこむように、お客様の様子を見ていました。

2020-12-17 19:07:44
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「成程、確かに私が求めていた料理の一つだが…、なぜこの料理達を選んだのか、という理由を聞いても?」 「おそらく、他の人から見ても一般的で、誰もが感が浮かぶ料理かもしれません。しかし、そういう料理だからこそ、より、各々の家庭がある…」

2020-12-17 19:07:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

小さな一息をつきつつも、雫は言葉を続けます。 「…今回は、私がよく食していた味付けなので、お客様の家庭の味とは異なるかもしれませんが…、皆で協力し、私なりの家庭的な料理を提供させて頂きました」 「成程、流石は、私が見込んだだけはあるな」 「えっ?」

2020-12-17 19:07:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「何、あらゆる芸術を愛する小さな独り言だ、気にすることはない」 そう言い返したお客様は、その後、あっという間に目の前に出された白米・豆腐の味噌汁・白菜の浅漬け・卵焼きを全て食し、席を立ちました。

2020-12-17 19:07:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「また、ココに来るとしよう」 その言葉を聞いた雫は「…ありがとうございます!」と返した後、勢い良く頭を下げたのでした。

2020-12-17 19:07:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

例のお客様が来店されて以降、料理座は以前より更に賑わいを見せる上に、人間とは異なる者達も来店するようになりました。 無論それは、一ノ宮 雫をはじめとする、他の料理人たちの手も忙しくなったという事を意味しています。#料理座の怪人

2020-12-18 20:55:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

閉店の時刻はとっくに過ぎ、何時もの空き部屋へ向かった雫は改めて辺りを見渡します。 ――人の気配は…ない、わね…。 そう思いながら足早に部屋へ入るや、書棚に置かれている一冊の本を動かしましたところ、なんと、久々に書棚は動きだしたのです。

2020-12-18 20:55:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――よかった、今日は若葉の元に帰れる…。 何処か安堵したような気持ちになりつつも、雫は先の闇の中へ真っ直ぐと進み歩むのでした。

2020-12-18 20:55:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

私は気紛れな性分でね、素直に願いを受け入れる時もあれば、つい、彼女が願う事とは反対な事もしたくなる時もある。 恐らく、それを本人に言ったらどんな顔をするのかは容易に想像出来るが…、今は黙って願いを素直に聞き、彼女が元々居た場所へ帰らせてあげようではないか。#料理座の怪人

2020-12-19 19:36:12
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

見給えよ、彼女の様子を。 我が息子を前にして、泣きながら抱きしめている。 あぁ、なんと美しいことか。こういうのも、私は見ていて嫌いじゃない。 が、その時を思うのは一体いつまでもつことか…。

2020-12-19 19:36:12
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

彼女の心情を読み取るに、結婚している夫とは徐々に溝という名の距離感が出来てしまっているようだ。 それのせいか、家に帰って来て会う度に何処か気まずくなっている。 あぁ、なんとことか。

2020-12-19 19:36:12
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まとめたひと
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

基本は自分が考えた創作ッ子達の事を呟いたり、絵を上げたり、お話も書いたりします。偶に違う話等もしておりますが……ようは気まぐれだが基本は創作用アカウントです。(※食べても美味しくない鶏野郎で無言フォローをしたり、時として話すとアツくもなりますがそれでもよろしければです)御用の方はDMまで。