実家の小料理屋を手伝っている一ノ宮雫は、ある日謎の存在「芸術を愛する者」に才能を見出され、願いを叶える宝石を渡されました。 その宝石に願いを込めると、そこは雫にとって見たことがない場所でもあった…。 (※連載当時のまま掲載しているので、誤字脱字があります)
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伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

それと、言葉を続け様「今日はもう一件、お話があってアナタのお部屋に来ました」と、既に何時ものお堅い表情になりながら、雫に言いました。 「もう一件、ですか?」 「実は、アナタが雇われた後に雇った新人料理人がいましてね。…その見守り係をアナタにとオーナー直々のお願いを言伝してきました」

2020-11-17 20:51:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「おや、まだコチラに辿り着いていないようですね…」 調理場の裏についたオーナー代理と一ノ宮 雫でしたが、当の新人料理人がまだこの場所に辿り着いていないようです。 「……入ったばかりですからね、迷っているのでしょう。どちらにせよ、彼は特徴的で直ぐにわかりますから」#料理座の怪人

2020-11-18 19:47:59
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

話によれば、味付け海苔みたいに太い眉毛とくっきり二重瞼で小さな目の男性料理人、と道すがらで聞いた話ではありますが、雫自身、そのような男性が居るのかしら?と思いつつ、何時ものように持ち場で作業を始めて数十分後のことでした。

2020-11-18 19:50:16
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

大量に抱え込んだ下準備用の材料と、道具一式を持ってやってきた男が一人。 空いている場所が雫の隣だったというのもあり、その者は ようやくな足取りで辿り着き、荷物を置きました。 ――この人が、私の見守る新人さんって事になるのね…。

2020-11-18 19:55:52
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

話で聞いていた通りの特徴を持つ男でしたので、雫は小さな声で「あの…」と話しかけました。 「俺、前沢慎太って言います…!」 威勢の良い声に、思わずたじろいでしまいそうになった雫でしたが、首を振った後に名乗りました。 「私は…、一ノ宮 雫といいます。コチラこそ、よろしくお願いします」

2020-11-18 19:59:17
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

手を動かしながらも、雫は慎太に聞かれた事を答えたり、逆に雫が慎太に聞いてみたりしました所、様々な飲食店で働いていた事や、両親の他にも上に姉と下に弟が居るという事だそうです。#料理座の怪人

2020-11-19 19:46:28
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ですが、様子を見に来た先輩料理人から「話するよりも、手動かせよ。新人たち!」と声をかけられると、二人を含めた他の料理人たちも威勢よく返事をし、再びその手を動かし始めたのでした。

2020-11-19 19:48:59
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

下準備の後は先輩や料理長が作る料理の手伝いをしたり、食べ終わった食器を洗ったりという事をしたりして、ランチとディナーの時間は過ぎ、まかない料理の夜食を作って食べた後、ようやく料理人たちの一日は終わりを告げるのです。#料理座の怪人

2020-11-20 20:29:20
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

各々の部屋へ向かう中、前沢は雫に向かって「今日も一日、ご苦労様です!」と、改めて挨拶をしました。 「こちらこそ、お疲れ様。明日も頑張りましょうね」 「はい!」 自分の部屋へ入った雫は思う所がありつつも、上着に入れていた宝石を握りしめると、その場所から姿を消したのです。

2020-11-20 20:33:54
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

瞼をあげれば、そこは元居た芽吹屋の調理場で、壁にかかっている時刻も自分が居なくなった時とはさほど変わりません。 何時も不思議に思いながらも、雫は内心ではホッとしつつも、後片づけを済ませ、両親に「また明日」と言い、芽吹屋を後にしました。 #料理座の怪人

2020-11-21 20:19:22
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

---数十分後--- 無事に家へついた雫は、休む間もなく夕食を作り始めましたが、何時もの癖で三人分の料理を作ろうとした時(そうだ、今日は二人分でいいんだ…)と思い出し、何処か寂し気な気持ちになりつつも、雫は調理を始めるのでした。

2020-11-21 20:25:05
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

どこまでも真っ暗闇の中で燃え続ける炎の周りに、一ノ宮 雫がただ一人、立ち尽くしたままでいるという夢を見た時、雫は慌てたように目を覚まし、慌てた様子で辺りを見渡したり自身の身体を確認した所、特に変化はなかったので、安堵の息をつきました。#料理座の怪人

2020-11-22 21:49:07
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

しかし、その不安自体は消える事なく、雫は真っ先に思いました。 ――この夢が、悪い予兆でなければいいけれど…。

2020-11-22 21:50:29
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

この時の雫には、迷いという気持ちが生じていたようだ。 自分が居る場所にも居たいのは勿論のこと、新たに居始めた場所でも居心地を覚え始めている。 …人間は常に迷って決める所があるからな、だからこそ見ていて面白い所でもあるし、飽きがこない。#料理座の怪人

2020-11-23 19:19:18
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

もう少し見守って、彼女の願いを叶えてやろうじゃないか。 私の力は強いもの、だからな――。

2020-11-23 19:20:46
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

目が覚めて隣を見ても、自分の夫が居ない事はもう慣れている、というよりも、居る方が珍しい位なのに、何時も一つだけ深い溜息をつきつつも、一ノ宮 雫は布団から抜け、箪笥から服を取って着替えた後、部屋を出ていきました。#料理座の怪人

2020-11-24 19:36:31
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

肌寒い茶の間にあるストーブに火をつけ、壁にかけている前掛けを手に取って、後ろにひもを結びながらに(朝も大分、寒くなって来たわね…)と思いながらも、朝食を作り始めるのでした。

2020-11-24 19:42:13
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

朝食を作り終えた頃、味噌汁の匂いに誘われたのか、眠気眼をその手でこすりながら「母さん、おはよう…」と声をかけてくる息子の姿を見た雫は「おはよう、若葉。まずは顔、洗いなさいね」と言えば、ウンと返し、若葉は手洗い場に向かいました。#料理座の怪人

2020-11-25 19:36:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ご飯をよそった頃になれば、若葉は雫の正面に座ったのを見て、二人は両手を合わせて「いただきます」と言い、朝食を食べ始めてしばらくたった後の事です。

2020-11-25 19:42:34
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「帰ったぞ…」 朝帰りの夫に対し、雫は「おかえり、なさい」と小さく言いながらも「朝食、どうですか?」と聞きましたが「いや結構だ」と返し、そのまま寝室の方へ行ってしまいました。

2020-11-25 19:44:31
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その様子を見ていた若葉は、何処か不安そうな表情を浮かべ「今の父さんの顔、怖かった…」と呟くのを聞いた雫は「大丈夫だから、父さん。仕事で疲れているだけだと思うから…」と返すしかありませんでした。

2020-11-25 19:45:57
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

若葉を送り出した後、雫も使った食器などを洗い片付け、実家でもある芽吹屋へ行こうと支度をしていた時でした。 「おい」 低い声で呼び止められた雫は「なんで、しょうか?」と、そちらを向きながらも、少し震えた声で聞きました。 「俺の飯はあるのか?」#料理座の怪人

2020-11-26 18:59:06
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「あります…、今朝のご飯と味噌汁…それとサンマの塩焼きですが」 「そうか、わかった」 それを最後に、夫は再び眠りについた姿を見た雫は小さな声で「行ってまいります」と言い、家を後にするのでした。

2020-11-26 19:01:22
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

家を出た一ノ宮 雫の筈でしたが、どういう事でしょう。 一歩先へ進み、一瞬だけ瞼を閉ざしただけだというのに、その瞬時で外ではなく、見たことが無い部屋に辿り着いていたのです。#料理座の怪人

2020-11-27 19:35:07
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――ここは…、何処? そう思いながらも、雫は目の前にあった扉へ行き、静かに開けました。 ――まさか、ここは…料理座……? 洋風な廊下と窓枠、静かな朝焼けの空が窓から見えます。 ――しかし、どうして私はここに…。

2020-11-27 19:39:46
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

何時も使っているの前掛けのポケットに入れていた宝石を取り出すと、仄かに光が増しているように見えましたが、直ぐに光は消えてしまいました。 ――まさか、ね…。 辺りを見渡し、誰かに見つからぬよう、その部屋に戻ろうとしましたが、向こうから鍵を掛けられたかのように扉が開かないのです。

2020-11-27 19:44:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――どうなっているの!? 慌てる気が出そうになる雫ですが、深い息を何度も吸い、なんとか気を落ち着かせながらに考えました。 こうとなれば、自分は一体どうすればいいのか…。 しかし、ココに居ては誰かに見られて何かを聞かれるだろう。…ならば、料理座における私の場所にいればいい。

2020-11-27 19:53:57
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

人目を気にしつつも、雫は料理座の自身の場所である寮の自室へ静かに向かい行くのでした。

2020-11-27 19:54:55
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫が部屋へ向かっている時でした、味噌汁の匂いが何処からか漂っているのを一息で吸い取った雫は、その匂いの方へ向かうと太眉の新人料理人こと、前沢慎太が一人で朝食を準備している所でした。 ――朝食の時間を邪魔しちゃあ、悪いわよね…。#料理座の怪人

2020-11-28 19:02:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

黙ったまま、雫はそのまま部屋へ向かおうとしましたが「おはようございます!一ノ宮さん!」と、朝から威勢良い声をかけられ、思わず足が止まりながらも「おはよう、前沢くん」と返しました。 「朝、早いのね」 「えぇ、料理研究の為にご飯とお味噌汁と、おかずを作っていたんですよ!」

2020-11-28 19:06:51
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

前沢の方から雫の方へ駆け寄り、今朝の出来事を聞くと、研究の為に料理を作っている最中に先輩達に味見をされたものの、それが見事に「美味い」と言われ、結果的には一人分以上の朝食を作る事になったとのことだ。

2020-11-28 19:09:57
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「大変だったわねぇ…」 「いえいえ、俺、料理作るの好きですし!それに、自分の作ってくれた料理で誰かの腹を満たせられた事、最後まで美味しく食べてくれた皆の姿が見られて、嬉しいんですよ!!」

2020-11-28 19:11:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

曇りなき眼で向けられて語る前沢の姿を見た雫も「その気持ち、私も解るわ」と、こちらも綻ばせながらに返したのだった。

2020-11-28 19:13:26
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一ノ宮 雫と前沢慎太が何時ものようにランチタイムの下準備をするため、調理場の裏口へ一緒に向かっていましたが(そういえば、玄関へ出ていきなりだったから、父さんや母さん…それに、若葉も心配しているのでは)という気がふと、頭を過りました。#料理座の怪人

2020-11-29 20:55:29
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ですが、何時もこの場所に来て、元の場所へ戻る度、時間はたいして過ぎていない事を思い出し「大丈夫…、よね」と小さな声で呟いたのを聞いた前沢は「何がです?」と反応しました。 「ううん!なんでもないの!」 「そうです?」 「うん!大丈夫!!」 「なら、いいですけども…」

2020-11-29 20:57:44
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

彼女が【している事】【望んでいる事】【心配している事】はある程度の事は把握しており、私は彼女の望むように動いている。 だが、所詮は私は私であるから、時として「彼女の意にそぐわない事」もしてしまう。#料理座の怪人

2020-11-30 19:07:24
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

例え、彼女が不思議そうに思ったのだとしても、私が力を使えば「不思議と思ったことも忘れてしまうように出来る」事もまた、容易である。

2020-11-30 19:09:06
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

料理座の屋根の上、一羽の烏が裏の様子を見守っていたようだが、ひと鳴きした後、その烏は何処かへ飛んで行ってしまったようだ…。

2020-11-30 19:10:48
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

料理座での一日が終わる頃、雫は自分の部屋へ帰る振りをして、例の空き部屋に再び向かい、扉の前で一息つかせ、取っ手に手をかけてゆっくり回すと、カチャンと静かに音が鳴ったのが聞こえ、重い扉を開けました。 ――良かった……。#料理座の怪人

2020-12-01 20:50:03
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そう思いながらに部屋へ入ると『おや、もう、お帰りかな?』と、聞き覚えのある声と共に先程まで居た場所とは異なる所、何処でもない場所に連れられました。 「皆が…、心配しますから…」 『…いいだろう、これからはこの部屋に来るがいい。ただし、誰にも見られずに来るのがあちらへ帰る条件だがな』

2020-12-01 20:54:41
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そう言うと、暗い場所に複数の光が灯り出し、一つの道とを作り上げ、雫はその道を恐る恐るな気になりつつも、光の先へ向かったのだった。

2020-12-01 20:56:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

光の先にあるのは見慣れた街角だったので、雫はホッと胸を撫でおろしつつも(急いで家の手伝いに行かくちゃ)と思い、実家でもある芽吹屋に向かいました。#料理座の怪人

2020-12-02 20:25:42
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

しかし、店側の扉には「まことに申し訳ございません 本日は臨時休業にさせて頂きます」という張り紙がありましたから、一体どういう事だと思って裏口兼家側の方へ入ろうとした時です。 「ちょっと雫ちゃん!」 と、近所のオバさんに声をかけられたのです。

2020-12-02 20:28:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「こんにちわ、シノさん」 シノさんと呼ばれた女性は、雫が小さい時からのご近所さんという事もあり、一ノ宮家の事も何かと気をかけてくれる存在だ。 「それよりも雫ちゃん、大変なんだよ!」 「あの、お店が休みと関係あるのですか…?」 「大変も何も、雫ちゃんのお父さんが急に倒れたのよ!」

2020-12-02 20:31:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その後の事はあまり耳には入りませんでしたが、なんとか冷静さを取り戻した後「父さんは今、何処に居るのですか!?」と雫は聞きました。 「近くの病院に運ばれて行ったけども…」 動揺をこれ以上表には出さないよう、なんとか頭を下げ、シノさんが言った病院に急いで向かうのでありました。

2020-12-02 20:34:54
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

病院の前までたどり着いた一ノ宮 雫は、荒い息を落ち着かせながら中に入り、受付に居る女性に「私の父が、この病院に…」と伝えました。 「お名前は?」と聞かれ、震えるような声色で答えますと「少々お待ちください……、3階の病棟に居ますね」とこちらは冷静な声で返されました。 #料理座の怪人

2020-12-03 20:23:56
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「ありがとうございます」 頭を下げ、急ぎ足で三階の病棟へ向かい、父親が居るであろう部屋を探しますが、その時にふと、雫の中で不安という名の気が過った時、あの声が耳元で囁くように言いました。

2020-12-03 20:30:54
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『この場から逃げたい、…今、そう思っただろう?』 ――思っていない。 『嘘はよせ、例え、口では言わなくとも、思考は嘘をつきやしないものだぞ?』 ――違う。 『…ならば、私の気のせいであると?』 ――そう言う事に、なるかしら。

2020-12-03 20:33:35
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『そういう言うのであれば、その先にある現実を受け止める覚悟はあると?』 ――どんな事であろうとも、受け止めるわ。 『成程、では、邪魔をしたな』 瞬きする程の一瞬で、元の場所に戻った雫は、急いで三階病棟の受付に行き、父親が運ばれた病室へ向かいました。

2020-12-03 20:35:21
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

出来る事ならば、助かっていてほしいと思った。 けれど、現実は、時間は戻る事もなければ止まってもくれない。 人によって感じる速度はそれぞれだとは思う、少なくとも私は……一ノ宮 雫にとっての時間の経ち方はあっという間だった。#料理座の怪人

2020-12-04 20:45:06
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まとめたひと
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

基本は自分が考えた創作ッ子達の事を呟いたり、絵を上げたり、お話も書いたりします。偶に違う話等もしておりますが……ようは気まぐれだが基本は創作用アカウントです。(※食べても美味しくない鶏野郎で無言フォローをしたり、時として話すとアツくもなりますがそれでもよろしければです)御用の方はDMまで。