実家の小料理屋を手伝っている一ノ宮雫は、ある日謎の存在「芸術を愛する者」に才能を見出され、願いを叶える宝石を渡されました。 その宝石に願いを込めると、そこは雫にとって見たことがない場所でもあった…。 (※連載当時のまま掲載しているので、誤字脱字があります)
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伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その夜、一ノ宮 雫は人目を気にながらも例の空き部屋へ 行き、今日こそはと思いながら本棚の本を動かした時でした…。 『また来たのか』 何時もの声が問いかけ「…わかっています、私がどちらの場所に居られる時と回数が指で数えられるというのは……」と、震えた声で雫は返しました。 #料理座の怪人

2021-01-05 19:28:24
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「しかし、私はあの子の事が心配なのです…」 『成程、ならば、あと僅かな願い、叶えさせてやろう』 すると、久々に本棚は動き出しますと、奥に見える光につられるように、雫はその方に向かって行ったのです。

2021-01-05 19:28:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一ノ宮 雫が行きついた場所、そこは、自分が暮らし慣れた我が家。 安堵の息をつかせ、玄関の引き戸を開けようとした時でした。 瞬く間に見える世界は一変し、家も、街も、何もかもが炎に包まれてしまったのです。 #料理座の怪人

2021-01-06 20:36:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

どういうことだと思う事よりも先に、雫は精一杯の声を出し「若葉!」と叫び、家に入って助けに行こうにも、炎は行く手を阻み、助けに行くことさえも出来ません。 その場で立ちつくしかない中で、あの声が雫の耳元で囁くように言いました。 『この炎を別の場所へ移してやらんこともないがね?』

2021-01-06 20:36:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『この炎を別の場所へ移してやらんこともないがね?』 雫の耳元で聞こえたその言葉はまるで、悪魔の囁きにも似たものでした。 「それは、本当なのですか…?」 『勿論、私は嘘をつくような性分ではないが……条件がある』 「条件?」 #料理座の怪人

2021-01-07 21:06:33
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『どちらかが救われる代わりに、君はどちら側の場所に居られなくなるという話さ』 言葉の意味は解っている、けれども、どちらとしても自分は……?

2021-01-07 21:06:34
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

迷っている間にも炎は燃え上がってゆくばかり、雫は前掛けのポケットに入れていた石を握りしめ、小さな声で「あの子が、救えるのならば…」と、言っていた途中でした。 料理座で一緒に居た料理人たち、そして、誰よりもあの場所で苦楽を共にした前沢慎太の顔が過り、雫は言葉を切ったのです。

2021-01-07 21:06:34
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

願うべき言葉を発しようとした雫の声は震え、言葉が止まりまったのです。 『何故だ、何故願わない?』 「違う……私は、若葉を…だけど、あの人たちも、危険な目に……」 『その口で、素直に言わせてやろう』 #料理座の怪人

2021-01-08 19:47:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

自らの意思を反するように、口は勝手に動き始め、先程の願いの言葉を発せられる時でした。 雫の足元に突如として亀裂が生じたかと思えば、大きな音をたたせて地面は割れ、果てにはすべてを粉々にさせてしまったのです。

2021-01-08 19:47:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫が目を覚まし視界に見えたのは、自身が居たもう一つの場所でもある料理座でありました。 ようやく立ち上がり、辺りを歩き始めるも、何時もとは明らかに様子が違っていました。 ――誰も、いない…。 何処を見に行っても、人っ子一人もいないのです。 #料理座の怪人

2021-01-09 20:02:37
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――もう一度、探してみないと…。 そう思った時でした、調理場の窓に黒い手がベタリと張りつく音が聞こえたかと思えば、顔のようなモノが雫の方を見てみてニタリと口角を上げて言いました。 『見つけたぞ、私の雫…』 聞き覚えのある声に反応し、雫は震えながらも、聞きました。 「あ、あなたは…」

2021-01-09 20:02:38
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『言っておくが、ここに居る人間たちは前菜として頂いたさ』 「ど、どうして…」 『腹が減っては戦は出来ぬ、という事だ』 「そんな――」 『メインは勿論、君だ。…デザートとして、一人。敢えて残しておいた者も居るが、時間の問題とでも言っておくべきだな。どちらにせよ、私に喰われるのだから』

2021-01-09 20:02:38
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

人間と言うのは不思議なもので、窮地に近ければ近い程、土壇場で何かをしでかすのだ。 今回の獲物は素直に喰えるものだと思っていたのだが、結局は人間だったという事を私自身が忘れていた事もあり、彼女は近くにあった包丁で私を刺したのだ。#料理座の怪人

2021-01-10 20:22:24
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

それ如きで私の身体が滅ぶ訳でもないが、一時的に弱くなった隙にその場を逃げ切り、何処かへ向かっていた。 ――逃げても無駄と言うのに…、これだから人間は見ていて飽きがこない。実に愉快だ。 そう行くのならば、私にだって考えはある。 覚悟しておくがいいさ。

2021-01-10 20:22:24
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

いつか見た夢と同じ事が今、現実で起きていて、私の前には何が起きているのか理解できない前沢くんが居る。 そんな前沢くんを見ながらに、私は言った。 「私、皆の居る場所、知っているのよ」 それを聞いた前沢くんは、少しだけ希望が宿ったような目で私を見る。 #料理座の怪人

2021-01-11 18:55:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その顔を見ながらに、私は前沢くんを少しでもあの者から離し歩いていくけども…。 段々とその歩みは遅くなり、仕舞には自分の眼には涙が溢れてくる。 ――嘘は言っていないのに、私は彼を騙している。 そう思った途端に足は止まったのと同時に、前沢くんに肩を掴まれ、振り返ってみると私は泣いて返す。

2021-01-11 18:55:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「ココには、だれも居ないの…」 既に地下から出ていた私達だったが、その火は他の場所にも燃え移り、いつ、私達が居る場所に来てもおかしくない所で「誰もいない…一体、どういう事ですか?」と聞かれて、私は返すべき言葉よりも先に謝った。 「前沢くん、本当に、ごめんなさい…」

2021-01-11 18:55:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「大丈夫、ですよ」 こんな状況でそう言われたら、場違いだと思われても無理はない。 けど、私は、その言葉を聞いて安心した。

2021-01-11 18:55:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

たとえそれが、夢の続きでもあり、一つの現実が襲い掛かってくる事だとしても――。

2021-01-11 18:55:40
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『逃げても無駄だぞ、雫』 低い声が二人の耳に響き伝わるのと同時に、二人の周りは更に炎が燃え盛っている。 「アナタは一体、何者なんですか」 黒く、炎そのものを身に纏わせた存在を睨みつけながら、前沢は聞いた。 #料理座の怪人

2021-01-12 20:41:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『私は雫をこの場所を案内させた者でもあり、ありとあらゆる芸術を愛する者だ』 「芸術…?」 『芸術とはそれぞれが素晴らしいと思うモノ、故に、私は彼女と言う存在と、今の状況そのものが芸術だと思っているがね』 「だからって、こんな風にしなくてもいいじゃないか!」

2021-01-12 20:41:02
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『五月蠅い者だ――』 指を鳴らした直後、その者は雫に向かって言いました。 『雫、こちらに来なさい』 その声は優しさの中にも強制の意味が含まれているようで、雫の意思とは反するように炎の先へ歩んで行ってしまいそうになりました。

2021-01-12 20:41:02
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「行っては駄目です!」 制止の声を出し、更にはその手を力強く掴んだのは前沢慎太、その人だったのです。

2021-01-12 20:41:02
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫の手を握る彼の手は、あの者が下す命令よりも、力強いものでした。 「前沢くん、短い間だったけど、私……アナタと一緒に料理が作れて、とても楽しかったわ」 「俺もです、一ノ宮さん!」 #料理座の怪人

2021-01-13 20:26:37
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『小賢しい奴だ…!』 互いに握る手が徐々に引き離されてそうになる中で「なんとしてでも離さない」と、前沢慎太は思いながら力強く握りますが、段々と二人の元にも炎が近づき、風に乗って火の粉が前沢の手に近づく姿を見た一ノ宮 雫は言いました。 「もう、無理はしないで、前沢くん…」

2021-01-13 20:26:37
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「この手は、絶対に、放しません…!」 やがて、炎が前沢の手にも燃え移り始めた途端、悲鳴を上げる前沢の姿を見た雫は大粒の涙を流しながら訴えました。 「もう、やめて下さい…!今、そちらに行きますから……」 『その言葉に、嘘偽りはないな?』

2021-01-13 20:26:38
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ゆっくりと頭を縦に頷かせると、前沢の手に移った炎は瞬く間に消え失せた直後でした。 二人の距離は爆風によって一気に離されると、なんとしてでも雫を救おうと立ち上がり、再び炎の先に向かう前沢の姿が目に映った時、雫は小さな声で言いました。 「ありがとう、さようなら……」

2021-01-13 20:26:38
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

私が居ない時が進んで行く中で、あの人やあの子……私に関わって来た人達はどんなふうに過ごしていくのだろう? あの人は…きっと、私とは違う人と日々を過ごすだろうか。 あの子は一人では……、でも、私が居ない間にあの子の成長していたのだから、大丈夫。 #料理座の怪人

2021-01-14 19:38:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

それじゃあ、私を助けてくれた彼や、皆は……? こう言う時は、今までの事が思い浮かんでくると聞いたことがあるけれど、人の心配ばかりが浮かんでしまう、私の身がどうなるのかもわからないままなのに。

2021-01-14 19:38:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『一ノ宮 雫、最後に、何か言い残す言葉でもあるかね?』 「………」 『返答がないというのも一つの選択肢だろう、そういう所もまた、良い所だ』

2021-01-14 19:38:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

誰かの始まりがあれば誰かの終わりがあり、誰かの終わりがあれば誰かの始まりがある。 これ以上を語るつもりはない、何故か? それは、人の人生という一つの芸術というを一部始終を、私自身が堪能したからさ。#料理座の怪人

2021-01-15 20:26:52
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

私の探求心は一時的に満たされた、が、近いうちにまた誰かが作った、もしくは誰か作る芸術を堪能しに現れるだろう。 もしも、その時が来た時は、なんと名乗ろうか? そもそも名前もない存在なのだから、今まで通りに「芸術を愛する者」として、これからもこの街に漂う事にしよう。

2021-01-15 20:32:33
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

あぁ、次に出会う芸術を見つける時が、楽しみで仕方がない。

2021-01-15 20:32:33
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

どうも、改めまして今回の『料理座の怪人』を執筆しておりました伍条月斗です。 今回のお話は「前沢シェフが今の職場に就く前のお話を書いてみたい」という所から始まったのですが、いやはや…まさかこのような展開になるとは思いもしなかったです(汗)

2021-01-15 21:00:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

何故執筆した本人がそう言うのか…それは「先の展開が読みづらかったなぁ」と思ったからですね、いや本当、冗談抜きの話です。 前沢シェフもとい前沢慎太自身は、元々、企画創作ッ子だったのですが、その時から既に「前沢シェフって、過去に何かあったにちがいねぇ?!」っていう思いがあったのです。

2021-01-15 21:00:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そう強く思った理由は、この絵を描いていたからっていうのが大きい所で、最初に話したキッカケになるわけですね。 …そう考えると、約4年前から少しずつ考えていたという話になるのになぁって思いますねん( twitter.com/5jyouTsukito/s…

2021-01-15 21:00:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

本来ならば、前沢シェフ視点(もとい前編)で終わる予定だったのですが、如何せん私の事でしたから、書いて行く内に雫の事も気になって、書くとしたら地続きで行かなば!と思い、その勢いで執筆し、今日に至った所ですね。

2021-01-15 21:00:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

彼女は本当、あ奴(⇒芸術を愛する者)に魅入られなければ(?)、普通に過ごせたのにぃ!って、つくづく思うし、我が家の「悪い奴ら」メンツよりも厄介な存在だなぁと改めて痛感しております(汗)

2021-01-15 21:00:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

これ以上言っていたら長くなるので割愛します…。 改めまして『料理座の怪人』を読んで下さり、本当にありがとうございます。 次はどれを書こうか案の定迷っていますが、次のお話が上がった際は暖かい目で見て頂ければ幸いです。 それでは次に会えたらば――。 Snow Production 2021.01.15

2021-01-15 21:00:51
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まとめたひと
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

基本は自分が考えた創作ッ子達の事を呟いたり、絵を上げたり、お話も書いたりします。偶に違う話等もしておりますが……ようは気まぐれだが基本は創作用アカウントです。(※食べても美味しくない鶏野郎で無言フォローをしたり、時として話すとアツくもなりますがそれでもよろしければです)御用の方はDMまで。