実家の小料理屋を手伝っている一ノ宮雫は、ある日謎の存在「芸術を愛する者」に才能を見出され、願いを叶える宝石を渡されました。 その宝石に願いを込めると、そこは雫にとって見たことがない場所でもあった…。 (※連載当時のまま掲載しているので、誤字脱字があります)
0
前へ 1 ・・ 3 4 次へ
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

それに、実家の方も以前よりかは客足は徐々に戻って来てはいるが、時世の影響は出ており、以前のような賑わいは少なくなっているようだ。 なんとも言えぬものだな…。

2020-12-19 19:36:13
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

この様子を読み取り、私は彼女へ逃げ道という名の手を差し伸ばしている訳だ。 残りの回数はもう、あと僅かだがね――。

2020-12-19 19:36:13
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一ノ宮 雫の日々は、変わらないものだった。 朝早くに起きて朝食の準備をしていれば、一人息子の若葉が匂いに釣られて起きてくる。 ご飯を食べている時か、もしくはその後で夫が帰って来るものの、何時も気まずい空気が流れながら、なんとかやり過ごし、若葉を見送る。 #料理座の怪人

2020-12-20 20:44:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

朝食の後片付けの後、洗濯をしようと思い、洗濯籠を運んでいた時だ、籠の中、無造作に入れられていた夫の服の肩あたりに見たことが無い口紅の跡がついていた。 出来る事ならば気づきたくなかったし、もっと言えば、それを見つけたからと言って、あの夫に言い向かえば負ける事は解っている。

2020-12-20 20:44:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

こういう気持ちになった時、雫は無意識に思う。 こんな現実から、逃げたいな――と。 その気を汲み取り、雫を料理座の元へ誘っているのが「有無形を問わぬ存在『芸術を愛する者』」なのである。

2020-12-20 20:44:20
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫が料理座に再び来た時には既に、ある話題が料理人たちの間で盛り上がっていました。 「次の味見会どうする?」 「まだ決めてないけど…、そっちは?」 「こっちも決まってないから、聞いてんだっての」 というような話が繰り広げられていたのです。 #料理座の怪人

2020-12-21 19:51:44
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

隣に居る前沢慎太に「前沢くん、ちょっといいかしら?」と、小さな声でかけたところ「なんでしょう?」と反応し、下準備する手を止めました。 「皆が言っている味見会っていうのは…?」

2020-12-21 19:51:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「味見会っていうのは、半年に一度、オーナーとオーナー代理に自分達の作った料理を見て味わってもらう会の事ですね。その時に作る料理は和洋中、どんな料理でもオーケーで、二人に認められたら期間限定で出されるし、お客様に好評ならば、料理座のメニューとして採用されるっていう話ですね」

2020-12-21 19:51:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫の実家でも、試食した料理を出したことは何度もあります。 ですが、料理座と小料理屋の規模における違いを想像した雫は、思わず気が遠くなりそうな表情を浮かべてしまいますが、首を振り「ありがとう。…成程、ココではそういう会があるのね」と返しました。

2020-12-21 19:51:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

あれ、と疑問に思った前沢でしたが、考えてみればと思い出しながらに言いました。 「確か、説明会があった時って……一ノ宮さんって休んでたから知らないも同然、でしたよね」 「えっ、えぇ……駄目ね、私もココの事ちゃんと把握しなくちゃいけないのにね」

2020-12-21 19:51:45
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

料理座で過ごす夜というのは、雫にとっては何時も「人目を気にしつつ、例の空き部屋へ向かい、我が家へ帰る」ための時間でもあります。 しかし、最近は前のように上手く帰れるようにはなっていないようで、結局の所、雫は料理座で過ごす日々が多くなりつつありました。 #料理座の怪人

2020-12-22 20:07:52
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――若葉、大丈夫かしら…。 その不安だけが残りつつも、雫は料理座での夜を過ごしました。

2020-12-22 20:07:53
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

料理座にも、お休みの日はあります。 その中で、ちゃんと休む者もいれば、新しいレシピやこれまで作られたレシピを復習する為に料理座の図書兼調理室で明け暮れる者もいます。 #料理座の怪人

2020-12-23 20:20:15
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一ノ宮 雫は前沢慎太に「今度の味見会で使う食材を、一緒に見に行きませんか」と誘われたのです。 一旦断ろうとも思った雫でしたが、ひょっとすれば、自分の知らない食材があるかもしれないという興味も湧いたのもまた、事実です。

2020-12-23 20:20:15
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

しかし、いざ当日になってみると、私服らしい私服を持っていないなと気付き、どうしたものかと思いながら、部屋のクローゼットを開けました。 するとどうでしょう、クローゼットの中には外に出歩いて行けるような私服が入っていたのです。

2020-12-23 20:20:16
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ーーまるで、魔法みたい...。 そう思いつつも、クローゼットの鏡を見つつ、中に入っていた服に着替えた雫は少し急ぎながらも寮の玄関に向かって行ったのでした。

2020-12-23 20:20:16
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一ノ宮 雫よりの少し早めに玄関に着いていた前沢慎太は、外出用のラフな服を着つつ、腕時計の時刻を確認していた時でした。 「ごめんなさい、前沢くん」 雫の声に気付き、頭を上げ「いいえ、俺も丁度玄関に来たばかりなので大丈夫ですよ」と、前沢は返しました。 #料理座の怪人

2020-12-24 19:13:33
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ですが、前沢は黙ったまま彼女を見ていたものですから「なにか、着いてるかしら...?」と言いながら自分の手で髪や顔を触ります。 「いいえ!大丈夫です!」 「そう?ならばいいのだけれども...」 「じゃあ、改めまして...、食材探しに行きましょうか!」

2020-12-24 19:13:33
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一ノ宮 雫と前沢慎太が向かったのは料理座からほど近い生鮮市場で、壱ノ笠で採れた野菜や果物や海産物を取り扱っているお店でもあります。 二人は味見会の為に使う食材を見ようと行き込んでみたものの、自分達以外の料理人たちの姿も見えたのです。#料理座の怪人

2020-12-25 19:24:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「やっぱり、みんな考える事は一緒なんですねぇ」と言いながら頭を掻く前沢の一方で、雫は段ボールに入れられていたある野菜を見ていました。 「ねぇ、前沢くん」 「なんでしょう?」 「これって、全部、同じ種類なのよね?」

2020-12-25 19:24:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫が不思議そうに見ていたのはジャガイモだったのです、前沢は箱の上にある値札を見て「あぁ、このジャガイモは煮崩れしにくい品種ですね」と返しました。 「そうなの?」

2020-12-25 19:24:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「ジャガイモに限った事じゃないんですが、一つに同じ野菜や果物と言っても、品種改良によって様々な特徴が出るんですよ」 「成程ぉ…」

2020-12-25 19:24:51
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

生鮮市場で一通り見終えた二人は、近くのカフェに立ち寄っていました。 「それにしても、あの市場は凄かったわねぇ…。どれにしようか迷っちゃうわ、色んな食材が沢山売られているから」 #料理座の怪人

2020-12-26 19:23:30
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「俺もですよー、季節によってとれるモノも変わるって考えると、本当、見てるだけでもワクワクしますもん!」 小さな目は何処か輝いて見えた雫はふと、自分の息子でもある若葉の笑顔を思い出しつつも「そうね、前沢くんの言う通りだわ」と、返したのでした。

2020-12-26 19:23:30
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その日の夜の事です、一ノ宮 雫は何時ものように空き部屋へ向かい、自分が本来居るべき場所へそっと帰って行きました。 「母さん、おかえりなさい」 一人息子でもある若葉が迎える姿を見た雫は直ぐに駆け寄って、その場で抱きしめながら「ただいま、若葉」と、静かに返しました。 #料理座の怪人

2020-12-27 20:21:34
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

母さん、どうしたんだろう――。 そう思いながらも、若葉は黙っていましたが「お腹、空いたでしょう、ご飯、今から作るわね」と言って、ようやくその腕を解きました。 「うん、ありがとう、母さん」

2020-12-27 20:21:35
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

自分の我が家で夕食を作っていた時でした、雫の後ろで若葉は「母さん、何作ってるの?」と聞いてきました。 「これはね、チキンライスっていうのよ」 「チキンライス…」 「若葉の好きなお肉たっぷり入っているから、楽しみにしててね」 「うん!」 #料理座の怪人

2020-12-28 20:16:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

二人の会話が終わった時でした、カラカラと戸が開く音が耳に入った雫は炒め始めようとした火を止め、玄関に向かい「あなた、おかえりなさい」と言いました。 「帰った」 出会った時から何処か不機嫌そうな声を出す人ではありますが、今日は何時も以上に機嫌が悪いようです。

2020-12-28 20:16:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

雫は何処か緊張しつつも聞きました。 「ご夕飯は――」 「結構だ」 「けども…」 「要らないと言ってるだろう、聞こえなかったのか」 何時も以上に強い声で言い、雫が怖気付いてその場にへたり込んだのも見ずに自室に入って行きました。

2020-12-28 20:16:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一方、その声に気づいた若葉はへたりこんだ雫に肩を貸し「母さん、大丈夫?」と聞いてきました。 「えぇ、ありがとう。若葉…」

2020-12-28 20:16:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

夕食のチキンライスを食べ終え、若葉がお風呂の準備をし、雫は台所で使っていた食器を洗いながらふと、思いました。 ――あぁ、私はどうして、この場所にいるのだろう。 確かに、この場所には私の大切な人がいる。けれども、向こうにだって大切な人が居る。 #料理座の怪人

2020-12-29 20:00:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

出来る事ならば、どっちにも居たいというのが雫の本音でもありますが、そんなに甘い話無い位、本人が何よりも解っています。 ――でも、私は今、あの人から距離を置きたい。常に何を思い、何処か冷めた目で見るあの人から…。 そんなことを思いながら瞼を閉ざし、直ぐに瞼を上げた時です。

2020-12-29 20:00:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

先程まで自宅の台所に居たはずなのに、なぜか今、自分gは居るのは料理座の調理場だったのです。

2020-12-29 20:00:02
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――私はどうして、ココにいるの?今、さっきまで、家の台所に居て、食器を洗っていたのに…。 そう思いながらも、雫は再び瞼を強く閉ざし、ゆっくりと瞼を開けましたが、何も変わりませんでした。 「あれ、一ノ宮さん」 #料理座の怪人

2020-12-30 19:17:46
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

聞き覚えのある声に呼ばれ、雫が振り返ってみると、そこに居たのは前沢慎太だったのです。 「まだ、ココに居たんですね」 ――ちがう、私はさっきまで、自分の家に居たの。 なんて言っても、信じてもらえないのが関の山だろう。 一種の諦めにも近い気持ちになりながらも、雫はこう返しました。

2020-12-30 19:17:46
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「ちょっと、忘れ物しちゃって…」 「そうなんですか?じゃあ、俺も探すのを手伝いますよ」 「いいの!探しものはもう、見つかったから」 「そう、ですか…」

2020-12-30 19:17:47
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

料理座に居る夜の事でした、与えられた部屋にいた一ノ宮 雫は、例の部屋に向かおうとした時でした。 『ご機嫌如何かな?』 例の声が聞こえるやいなや、雫は「...どうして、こんなことをするのですか」静かに震えた声で返しました。 #料理座の怪人

2020-12-31 19:10:16
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『私の気まぐれ...というのもあるが、君が望んだことだろう?自分の夫から距離を置きたい、とな』 「そ、それは...」 すると、声の主は雫の耳元で囁きように言いました。 『ここに居れば、今よりも作れているだろう?それに、作れる数が多ければ、君が愛する息子の喜ぶ顔がもっと見られるだろうさ』

2020-12-31 19:10:16
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そうだ。 ココに来てから、私は前よりも料理が作れるようになった。 けれども、同時に私は、どちらに居ても不安定な存在として居るような気がして...。

2020-12-31 19:10:16
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そんな事を読まれたのか、声の主は『まぁ、私の力も残す所あと2度ほどだ。覚えておくといい』と言い残し、その場を去っていったのでした。

2020-12-31 19:10:17
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そろそろだろう、彼女を...一ノ宮 雫を食す時はもう近い。 その声はようやくとして姿を表すものの、誰もその姿は目に出来ない。 何故ならば、私は見る人によって姿も形も変わるからな。 #料理座の怪人

2021-01-01 21:05:13
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

彼女の前に私が現れた時の反応が楽しみだが、それよりも、あの場所に居る者達を...どうにかしないといけない。 食事をする時はなるべく、作り手以外の者とは、居たくないのでね...。

2021-01-01 21:10:51
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

次の日も、その次の日も...、一ノ宮 雫は料理座の空き部屋へ行って自身が帰るべき場所への道を開くのを祈るように工程を行いましたが、何一つ動かず仕舞でした。 ーー若葉...、一人で大丈夫かしら...。 #料理座の怪人

2021-01-02 21:06:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

一人息子でもある若葉の心配と、日々募る気によるものにより、雫は次の日、体調を崩してしまったのです。 それを聞いた前沢慎太は、仕事終わりの夜に余ったご飯でおにぎりと、卵焼き、そして玉ねぎのスープを作り、雫の部屋まで運んで来ました。

2021-01-02 21:06:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

廊下から声が聞こえるものの、雫は一切として返事を返さずにいると「晩御飯、コチラに置いておきますので、好きな時に食べて下さいね」と言い残して前沢が去った後のを見計らい、雫は扉を開けて、お盆に乗った運び、一人で泣きながら作ってくれた料理を食べたのでした。

2021-01-02 21:06:40
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

次の日の事です、雫は誰よりも早く調理場へ向かっていました。 途中、例の部屋に立ち寄ろうともしましたが、誰かに見られたら何か言われそうだと思い、その場を後にしました。 #料理座の怪人

2021-01-03 20:33:21
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

調理場に着いた雫でしたが、自分でも気づかぬ内に眼には涙が溢れていたのです。 ――ここに居られるのも、若葉が居る場所に帰れるのも…あと、指を数えられる程なのね…。 と、思いながら袖で涙を拭いていた時でした「おはようございます、一ノ宮さん」と聞き覚えのある声がしたのです。

2021-01-03 20:33:21
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

少し慌てた様子になりながらも「おはよう、前沢くん」と雫も返事をしました。 「体調、大丈夫ですか?」 「前沢くんの作ってくれたおにぎりと卵焼き、それと玉ねぎ味のスープのお陰で元気になったわ。ありがとうね、前沢くん」

2021-01-03 20:33:21
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ランチタイムの下準備をしている時の事です、一ノ宮 雫は隣にいる前沢慎太に声をかけ、ある事を聞きました。 「もし、今よりも自分の料理の腕が上がる術があるのだとすれば…、どうする?」 その問いに対し、前沢は少々悩むような態度になりましたが、前沢はゆっくりと返答します。 #料理座の怪人

2021-01-04 19:21:55
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「そりゃあ確かに…、料理の腕が上がれば、今よりも作れる幅が広がるとは思いますけど…」 ――そうだ、この子は私よりも若いし、誰よりも志が強い…。 雫はそういうことを思いつつも「そうよね、料理の腕が上がれば作れる幅が広がるものね」と、少しだけ笑いながら返すのでした。

2021-01-04 19:21:55
前へ 1 ・・ 3 4 次へ
0
まとめたひと
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

基本は自分が考えた創作ッ子達の事を呟いたり、絵を上げたり、お話も書いたりします。偶に違う話等もしておりますが……ようは気まぐれだが基本は創作用アカウントです。(※食べても美味しくない鶏野郎で無言フォローをしたり、時として話すとアツくもなりますがそれでもよろしければです)御用の方はDMまで。