役場に併設されている食堂で働く前沢慎太は最近、自分の料理の腕に自信を無くしそうになっていた。 そんな折、謎の人物から「自信を取り戻す石」を渡されるが――。 (※連載当時のまま掲載しているので、誤字脱字があります)
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伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

止まる前に紗南は荷物を纏め、降りられるように整え終えた頃には丁度よくバスは停まり、紗南は定期券をかざし、バスを降り、自宅への帰路を歩き始めるのだった。

2021-12-28 20:05:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

バーを出た前沢慎太と三田村は、途中まで同じ帰路を歩いていた。 自分が以前から行きたかった場所でもあり、好きなバンドの楽曲を聞けた喜びがあり、三田村自身は満足感に浸っている一方で、何処か浮かない表情を浮かべている慎太を見て、三田村は声をかけた。 #事務所物語

2021-12-29 20:26:12
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「前沢さん、大丈夫、ですか?」 「あぁ…、久々に大きな音を聞いたせいかな……ちょっと、ぼーっとしちまってるかも」 「すみません…」 「三田村君が謝らなくてもいいんだよ!いっつも俺が行きたい場所に連れて行ってるからさ、本当、三田村君が行きたい場所言ったの、マジで嬉しいんだからさ!」

2021-12-29 20:26:13
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

少々慌てたような言い方になったものの、慎太は本当の事を言った姿を見て「前沢さん、もし、何か、困った事があったら遠慮なく、話してくださいね。僕で解決…は難しいかもしれませんが、ある程度の相談は乗れますから」と返した。

2021-12-29 20:26:13
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

かえって悪い気にさせてしまったな、と慎太は思いつつも「ありがとう、三田村君」と、礼を述べるのだった。

2021-12-29 20:26:13
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

翌朝、紗南は小さな欠伸が出つつも、ゆっくりと上半身を起こした。 寝ぼけ眼をその手でこすり、ぼやけていた視界をハッキリとさせると、窓際に一人、朝日を浴びているミュミュの後ろ姿が見えたのだ。 #事務所物語

2021-12-30 20:12:26
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「ミュミュさん、おはようございます」 紗南の呼び声に気づいたミュミュは、こちらを向き『おはようございます』と、頭を下げる。 「なに、してたんですか?」 『朝の匂いを嗅いでいましたの』 「朝の匂い……ですか?」 『えぇ、とても良い匂いですのよ』

2021-12-30 20:12:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そうなのかと思いつつ、紗南は嗅いでみるものの、ミュミュの言う朝の匂いを感じ取れなかった。 「すみません…、私にはちょっとまだ、わからないみたいでした…」 『謝る必要はありませんわ、私がそう感じているだけの事ですから』

2021-12-30 20:12:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

目覚めの良い夢は覚えている事が少ないくせに、目覚めの悪い夢程に、その内容は色濃く残ってしまう。 だが、それは夢ではなく……かつて、前沢慎太が経験した出来事が夢として現れてしまうから、厄介だ。 #事務所物語

2021-12-31 19:29:20
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

あの人を……一ノ宮 雫を助けられなかった現在の俺と、それを見て「無理だよ、君は能力者でもなんでもない、ただの人なんだから」という俺が現れる。

2021-12-31 19:29:21
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その度に、俺は自らの手で視界を塞ぐけれど、俺によく似た存在が大きな声で「無理だ、無理だ」と至近距離で言うのだから、俺は返せられないし、泣きそうになる所で、何時も眼が覚める。

2021-12-31 19:29:21
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――俺は一体、どうしたらいいんだ…。 そう思う度、前沢慎太は現実で泣いていた。

2021-12-31 19:29:22
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

同時刻、秋山事務所にて。 秋山愁治は事務所の二階、すなわち自宅スペースで朝を迎えていた。 のそりと上半身を起こし、壁にかかっている時計の時刻を見る。 ――ご飯、食べなきゃあなぁ…。 #事務所物語

2022-01-01 19:30:26
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

右手で頭を掻きながら、ゆっくりとベットから出るや、衣装箪笥から仕事着を取り出し、寝間着から着替えていく。 ――ったぁく、寒いったらありゃないぜ。この時期は…。 一通り着替えると、自室の隣にある台所で一人分の朝食を作り始めるのだった。

2022-01-01 19:30:26
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

朝食を済ませた秋山愁治は食器を洗いながらも、昨日、自身の上着のポケットに入っていたミュミュの言っていたことを思い出す。 『あの人が作っているモノを、食してみてほしいのですよ』 ミュミュの言う「あの人」とは、前沢先輩こと、前沢慎太だ。 #事務所物語

2022-01-02 20:56:09
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――彼の作る料理に何か…、彼女が感じ取れるような変化が起きたのだろうか?……そう言えば、本人も自分の作った料理を食べてないと知った時、安堵したような表情を浮かべていたのも気にはなるが…。

2022-01-02 20:56:10
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

色々と考えを巡らせていると、事務所兼自宅の玄関から呼び鈴が鳴り響き(んだぁよ、こちとらまだ食器すら片付けていないのに…)と思いつつ、愁治は蛇口の水を止め、冷蔵庫に掛かっているタオルで水を拭き、玄関に向かった。

2022-01-02 20:56:10
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「おはようさぁ~ん、いやぁ~、今日も寒いよなぁ!」 愁治が玄関の扉を開けたのと同時に中へ入って来たのは、長い髪を横に纏めて結う男こと、前沢慎呉がやって来たのだ。 「慎呉、何しに来たんだ」 #事務所物語

2022-01-03 18:54:52
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「朝ごはん食べに来たのよ。大丈夫だって、俺の分はちゃーんと買ってるからさ」 「そういう問題じゃあねぇよ、なんで俺の家兼事務所に上がるのかという事だ、朝食くらい、自分チで食べろ」 糸目で表情が読み取りにくいものの、慎呉の眉は上がりつつも愁治に対して反論する。

2022-01-03 18:54:53
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「家に帰っても寒いしさー、それにさ、ご飯ってのは一人で食べるよりも二人で食べる方が美味いって、兄貴も言ってたしさ」 慎呉の兄とは、役場に併設されている食堂で働くシェフこと、前沢慎太のことだ。

2022-01-03 18:54:53
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

前沢先輩ならば、確かにそう言う事は言いそうだ――とは思うものの、だからって自分の家が寒いからって、人の家に寄って朝食を済ますのも如何なものか。

2022-01-03 18:54:54
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

愁治は深い溜息をつきつつ「食べるのは勝手にしろ、ただ、営業時間前に済ませろよな」と返す。 「サンキュー!やっぱり、持つべきものは…だよな!」 意気揚々と慎呉は玄関から上がり、温かい室内に入って行った。

2022-01-03 18:54:54
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

俺の分だと言ってテーブルの上に広げたのは、愁治もよく利用するコンビニエンスストアの弁当や総菜、ペットボトルのほうじ茶だった。 「いっただきまーす!」 意気揚々と声を上げたかと思えば、前沢慎呉はガツガツと弁当の中に入っている白米を食している。 #事務所物語

2022-01-04 19:26:06
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「ゴミはちゃんと持ち帰れよな」 愁治の言い分を聞き、一度だけ頭を頷かせつつ、ごくりと飲み込んだ後「解ってるよ!」と返し、食事の続きをするのであった。

2022-01-05 19:17:40
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

両手を合わせながら「ごちそうさまでしたー!!」と言い、慎呉はさっさとゴミを片づけ始める姿を見た愁治は慎呉に声をかける。 「なぁ、慎呉」 「ん?」 「最近、前沢先輩に会ったか?」 「兄貴?…いいや、会ってはないけど…なんで愁治が兄貴の事を聞くのさ」 #事務所物語

2022-01-05 19:24:20
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「いや、ちょっと気になってよ」 「気になる?なになに、どういうこと?」 情報屋なせいか、自分が気になった事はとことん人に聞く癖がついているようだ、と気づいた時には既に遅く、慎呉はゴミを片したうえで何時ものようにスーツの胸ポケットからメモ帳を取り出し、情報を聞き出す姿勢になっていた。

2022-01-05 19:24:20
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

同時刻、朝松紗南も朝食を済ませ、外へ出る為の支度をはじめている。 テーブルの上では、朝食の匂いを嗅いで満足したミュミュが鼻歌を歌っている姿を見て(まずは役場の食堂に行って、ミュミュさんを送らないと…)と思う。 #事務所物語

2022-01-06 20:17:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

紗南の視線に気づき、鼻歌をやめたミュミュは紗南を見ながら『どうかしまして?』と聞いてくる。 「いいえ、なんでもありませんよぉ~」 『そうですか?まぁ、それならいいのですけども』

2022-01-06 20:17:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

昨日は入る所が無かったから、上着のポケットに入れて自宅まで連れてきたようなものの、流石に今日はそういう訳にもいかないだろうと思い、紗南は壁に掛かっている肩掛けバッグを手に取った。 #事務所物語

2022-01-07 20:26:59
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「ミュミュさん、今日はどうされますか?」 『そうですわねぇ、昨日と同じくアナタのポケットに…という訳にはいきませんものね。何かと入れる物もありますでしょう?』 「いやぁ、そういう訳でもないようで、あるようで…」

2022-01-07 20:26:59
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『まぁ、アナタの好きなようにしてくれても構いませんけども……しいて言う話ですけどね、あの中って、ちょっと狭かったのですよ』 やっぱりか…と、釘を打たれたような気持ちになりつつも「よかったらですけども、今日はコチラで如何でしょうか?」と言いながら、バッグのポケットを提案した。

2022-01-07 20:27:00
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

最初は少し考えながらも『まぁ、アナタがそういうのならば…』と言いながら、紗南の手に乗り、バッグの外側についているポケットの中に入ったミュミュは(昨日と大差はないでしょう)と思っていたが、中はそれなりに快適らしい。 #事務所物語

2022-01-08 18:48:33
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そのわけを言うと、ポケットの中には火傷しないようにハンカチでくるまれたカイロを入れていたのだ。 「どう、ですかね?」 『まぁ、悪くはないですわね』

2022-01-08 18:48:34
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

役場の方へ向かうバスに乗った紗南は一息つきつつも、腕時計で時刻を確認する。 ――朝の8時半、か…。 昨日みたいに、ミュミュを見て何か言われないように、通勤ラッシュを避けたが、乗客はちらほらいる程度で、幸いに自分の隣や前後に誰も無い事が何よりも安心だ。 #事務所物語

2022-01-09 19:02:08
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

バスに乗って三つ越えた所で『次は、壱ノ笠役場~』というアナウンスが流れ、紗南は壁にあった停車ボタンを押せば『次、停車しまぁ~す』運転手は続けてアナウンスをするのであった。

2022-01-09 19:02:09
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

早朝のこと――。 白い息として出る寒い外の中、前沢慎太は職場でもある食堂の調理場に繋がる裏口の前に立ち、上着のポケットから鍵を取り出し、中に入って行った。 ――外と大した変わらない寒さじゃあないかよぉ…! #事務所物語

2022-01-10 19:14:30
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

暖房の音は聞こえてはいるから、役場の職員が既につけてくれたのは解っているものの(暖かい空気が中々に回りにくいのがココの悪い所なんだよなぁ…)と、慎太は頭を掻きながら思いつつも、更衣室に入り、ロッカーを開け私服から仕事服に着替え始めるのだった。

2022-01-10 19:14:30
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

本日のランチの仕込みをしつつ、他の料理の下準備をし始めた頃に「おはようございます~」と、自分以外の料理人やシェフ達がやって来る。 「おはようさん」 「前沢さん、何時も早いですよねぇ」 「まぁ、ランチを任されちゃあ早くもなるものさ」 #事務所物語

2022-01-11 20:33:18
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「料理長、今日はあっち側の方で会議に出るとか言ってましたよね」 「まぁ、俺達も一応は役場職員同等だからな。その中でも料理長はココのトップだからな」 「料理長が来るまで、ある程度終わらせましょう!」 「あぁ、勿論だともよ」

2022-01-11 20:33:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

役場から一番近いバス停に降りた朝松紗南は、一度、腕時計で時刻を確認し(歩いて行ったら、丁度良い感じなるかも…!)と思いつつ、バッグの外ポケットの蓋を開け「大丈夫ですか?」と声をかけた。 #事務所物語

2022-01-12 19:56:22
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ふぅ、と一息つきながら顔を出したミュミュは『問題ありませんことよ』と言い返す。 『でも…』 「でも?」 『この中に入っているモノ、暖かいんですけどね、ちょっとニオイが気になるなと思うのですよ』

2022-01-12 19:56:23
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

中に入れているモノ、すなわち、タオルでくるんでいる携帯用カイロのことだ。 未開封のモノを開けて入れたものの、嗅覚が鋭い存在でもあるミュミュにとってみれば、あまり嗅がないであろうモノに反応を示すのは無理もない事であると、改めて知らされた紗南であった。

2022-01-12 19:56:23
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

道に迷いながらも、スマートフォンの地図アプリを起動してなんとか役場に辿り着いた紗南は、自動ドアを通り、中に入ってゆく。 広いロビーの目の前にある役場内のマップを見て、改めて食堂の位置を確認する。 #事務所物語

2022-01-13 20:21:37
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――昨日は秋山所長が案内してくれたから、特に気にしてなかったけど…ちょっと順路とかが複雑かも? そう思いつつも、紗南は「ヨシ!」と決意を固め、食堂の方へ向かって行った。

2022-01-13 20:21:38
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

前沢慎太の頭の中である考えが巡りつつも本日のランチの調理をしていた時だった。 調理していたスープが慎太の指に飛び跳ね、軽い火傷をしてしまうが、すぐに応急処置を施し、大事には至らずに済む。 #事務所物語

2022-01-14 19:46:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ーーってぇなぁ...。 そう思いつつも、指を冷やしていると、近くにいた同僚が「いやぁ、前沢ってホント、手慣れてるよなぁ」と感心する。 「まぁ、下積み時代の賜物だよ」 「なるほどねぇ、まぁ、俺もその賜物に何度助けれたことかねぇ」

2022-01-14 19:46:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「前沢さーん、お客様ですー」 その呼び声に反応した慎太は「了解、今行くって客人に伝えておいてくれー!!」と返し、その方へ向かっていった。

2022-01-14 19:46:02
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

無事に食堂についた紗南だったが、扉の前に「準備中」という看板が置かれていたのを見て、どうしたものかと、考えていた時だった。 「何か、御用ですか?」 #事務所物語

2022-01-15 18:52:38
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

食堂の方に入る人に声をかけられた紗南は「あの、前沢慎太さんに用がありまして…」と話せば「前沢シェフですね、ちょっと待っててくださいね。今、読んできますから」と返され、中に入って呼びに行った。

2022-01-15 18:52:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

数分もしないうちに、前沢慎太はやって来て「君は確か、昨日の…」と紗南を見て声をかける。 『どうも』 バッグの外ポケットからミュミュが現れたものだから、慎太はそちらの方に目を向ける。 「ミュミュ子、なんでそんなところに居るんだ?!」 『だーかーら、私の名前はミュミュでしてよ!』

2022-01-15 18:52:39
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まとめたひと
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

基本は自分が考えた創作ッ子達の事を呟いたり、絵を上げたり、お話も書いたりします。偶に違う話等もしておりますが……ようは気まぐれだが基本は創作用アカウントです。(※食べても美味しくない鶏野郎で無言フォローをしたり、時として話すとアツくもなりますがそれでもよろしければです)御用の方はDMまで。