「少なくとも、私の目にはそう見えるわ」 『本当、スゴいです!まさに、目にも止まらぬ早さ、ですね!』 エミルは二人の言葉をキチンと受け取り、ゆっくりと頭を下げながら「ありがとう、ございます」と言い、顔を上げた。
2019-04-22 18:44:36エミルとユーリエ、そして白兎の一行はキッチンから出てすぐ隣にある部屋へ移動し、出来上がったばかりの朝食を並べます。 「お腹もすいてるし、食べましょう!」 「でも、まだこのお城の主様のお姿が見えませんが…」 「多分、大丈夫でしょ。もしくは、もうこの部屋に居たりして?」 #魔法仕掛の城
2019-04-23 19:56:12「そういうものでしょうか…、それに、キッチンにあった食材を勝手に使ってしまいましたし…」 エミルが不安な表情を浮かべると、白兎は『アナタが調理してた時に人の気配は感じませんでしたよ。それにもし、それを目撃したとしても、主様はお怒りになりませんから、大丈夫ですよ』とフォローします。
2019-04-23 20:00:28「ありがとうございます、白ウサギさん」 「そういえば、白兎君はまだ私たちの名前、教えてなかったわよね?」 と、気づいた声でユーリエが言い、エミルもそのことにようやく気付きました。 「そういえば!…遅れてごめんなさい、私の名前はエミル・ソラと言います」 「私はユーリエよ、よろしくね」
2019-04-23 20:03:01『エミルさんに、ユーリエさん、よろしくお願いします』 白兎は、互いの顔を確認しつつ名前を覚えました。 「そういえば、白兎君は名前とかあるの?」 『ボクは特にありません、なにせ、この城の近くにある森の中に居る野生の兎ですから』 「そうなんですねぇ」
2019-04-23 20:05:22『だから、ボクの事は好きなように呼んでくれても大丈夫ですから』 「なるほどね」 すると、ユーリエの腹の虫の音が鳴り、エミルと白兎はユーリエの顔を見ますと少々顔が赤くなりつつ「お腹、すいちゃった…」と照れながら言いました。 「そうですね、ご飯、食べましょうか」 『はい!』
2019-04-23 20:09:53朝食を食べ終えた一行は、キッチンへ戻り、エミルは食器を洗っている横でユーリエはその食器についている水滴を拭いていました。 「そういえばエミル、テーブルに手つかずのご飯があったけど?」 #魔法仕掛の城
2019-04-24 19:57:45「大丈夫ですよユーリエさん、あれは、このお城の主様の分ですから」 「手をつけるかもどうかわからないのに、置いてるの?」 「はい、いくらこのお城の主様がどういう存在かが分からないにしたとしても、お腹は空くかと思いまして…」
2019-04-24 19:59:43ユーリエは思わず大きなため息を一つつきながらも「エミルは優しいのね」と言いました。 「どんな人でも優しく接すれば、相手や自分も良い事が起こる。と、教えられてきましたから」 「なるほどねぇ…」
2019-04-24 20:01:18エミルとユーリエがキッチンから出たのを見計らい、お城の主は隣の部屋へ行きました。 テーブルには大き目な半円型の蓋が被せられており、それを取ってあげてみますと、エミルが作った料理がありました。#魔法仕掛の城
2019-04-25 18:44:23お皿を触ってみますと、料理自体は完全に冷めていなかったのです。 その料理を見たからでしょうか、お腹の虫も鳴り、主はこの様子を誰も見ていないかと思い、辺りを見回したのち、椅子に座り静かに「いただきます」と手を合わせながら言い、ゆっくりと朝食を食べ始めました。
2019-04-25 18:47:15エミルがキッチンを出たあと、再び自分達がいる部屋に戻ったのですが、どうも落ち着きません。 --なにか、このお城で役に立てられる事は出来ないだろうか...。 と思った時、エミルはふと気になった事を思い出していました。 #魔法仕掛の城
2019-04-26 13:21:24このお部屋に戻る途中、お城のあちこちには手入れが行き届いていない事を思い出したのです。 そうとなれば、とエミルは立ち上がり、部屋を出て行こうとした所『エミルさん、どちらに?』と白兎が聞いてきました。
2019-04-26 13:23:11「このお城を掃除をと思いまして」 『掃除ですか......、ってえぇ?!今からですか!?』 「一日では全てを綺麗には出来ないから、数日分けて...という風になると思います。だから白ウサギさん、お城の案内をまた、お願い出来ますか?」 『でも、それで主様がなんと言うか...』
2019-04-26 13:27:50白兎の言う事も確かにわかります、エミルはうーんという声を出して考えた結果「主様を見つけて、お掃除の許可を得る。これならば大丈夫だとは思いますが...」と言いました。 『そうですね、その方が良いかもしれません。けど、主様も気まぐれだからなぁ...』
2019-04-26 13:30:28エミルと白兎がお城の主を探している頃、当の本人は既にそのことを『透視聴の魔術』を使い、部屋の壁にかかっている鏡でその様子を見ていたのですが、それを見る度に「どうしたものか」と思い悩んでいました。 #魔法仕掛の城
2019-04-27 19:42:24――焦ったって仕方がないのは解っている、しかし、一体どんな姿であの娘の目から私が見える?もし、また昨日みたいに倒れたりしたら…。 そんなことを思っていると、鏡の向こうから「ここ、かしら…?」という声が聞こえ、主が益々思いつめた時、小さな額縁に入っている肖像画が目に入りました。
2019-04-27 19:46:15そこに描かれていたのは、小さな男の子と一緒に並んでいる女の人が居ました。 主はその肖像画を見て「私は一体、どうしたら…」と小さく呟くと、主の体が突如として光り出したのです。
2019-04-27 19:48:16白兎が鼻をひくひくと動かしながら、お城の主の匂いを嗅いでいますと『エミルさん、多分ですが、向こうに主様が居ると思いますよ』と言いました。 「白ウサギさん、本当ですか?」 『はい、ボクの嗅覚はヒトよりも良いですからね』 そう言って、白兎は再び匂いを嗅ぎ、先へ進みます。#魔法仕掛の城
2019-04-28 18:42:29少しして、白兎は立ち止まり『ここに居ると思います』と言いました。 他の部屋にある扉よりも、かなりの装飾が施され、エミルの身長よりも倍の大きさがある扉だったのです。
2019-04-28 18:45:29装飾が施され、エミルよりも倍の大きさがある扉を前に、エミルは二回ノックして「主様、いらっしゃいますか?」と聞きました。 しかし、向こうからは一切として返事はありません。 『おかしいですねぇ、確かにこのお部屋から匂いがするのですが…』と白兎は言います。#魔法仕掛の城
2019-04-29 22:23:45もう一度、エミルはノックをしようとした時でした、部屋の向こうから物が落ちたような音が聞こえ『主様!』と白兎は叫びます。 何かあったのではないか――エミルはそう思い、扉の取っ手を両手で掴み、重みのある扉を自力で開けようとしますし、白兎も協力しますが中々に開きません。
2019-04-29 22:27:08「どうしましょう…」 エミルが悩んだ声で呟き、顔を下向いた時でした。 「私が居るでしょ、エミル」 聞き覚えのある声を聞き、エミルが顔を上げれば、そこに居たのはユーリエだったのです。 『ユーリエさん!どうしてここに?』 「二人がココへ通る姿を見たからよ、俗にいう興味本位ね」
2019-04-29 22:32:00『なるほどぉ…』 「それよりも、このお部屋の扉、随分と派手だし大きいわね」 「白ウサギさんによれば、ここが主様のお部屋だと言うんです」 『間違いありません、現に、扉の向こうで物音がしたので間違いないです!』 「成程、それじゃあ、何かあった訳で様子を見ようとした訳ね」
2019-04-29 22:33:50「はい、その通りです」 「じゃあ、一緒に開けましょう」 ユーリエはエミルと白兎の方を見て言いました。 「一人より二人、二人より三人、でしょ」
2019-04-29 22:34:44エミルとユーリエが力を振り絞り、微力ながら白兎も扉を押し開けた時でした。鈍い音をたてながらも、扉は開いたのです。 部屋に入ると、昼間だというのに薄暗く、何処に何が置かれているのかは廊下から入る陽の光以外見えません。#魔法仕掛の城
2019-04-30 19:02:58『主様、大丈夫ですか。いたら返事をしてください!』と白兎は声を掛けますが、まったく返事はありません。 「ねぇ、白兎君。本当にこの部屋にお城の主様が居るの?」 『間違いありません!』 「でも、こんなに物だらけの部屋に居るなんで考えづらいけど…」
2019-04-30 19:05:34確かに、主様が居ると思われる部屋は様々な物で溢れ、人が一人通るにやっとな筋道があるだけです。 二人の会話が耳に入りつつも、エミルは窓の所まで行き、カーテンを開けようとした時でした。 「開けないでくれ」 と静かな声が聞こえ、エミルは振り向きます。
2019-04-30 19:08:28少し開けたカーテンの隙間から陽の光から見えたのは、窓の傍に置かれているベットと机の間に、男の子が隠れている風にしゃがんでいたのです。 「私は今、みっともない姿になってるから、見られたくないんだ」
2019-04-30 19:11:12ベットと机の間に隠れるように男の子がしゃがんでいた姿を見たエミルは、男の子と同じ目線になるようしゃがみながら聞きました。 「もしかして、このお城の主様……ですか?」 「なぜ、そう思った」 「白ウサギさんが、主様はここにいらっしゃると言っていたからです」 #魔法仕掛の城
2019-05-01 18:58:34兎は犬と同等、もしくはそれ以上の嗅覚を持っていることを思い出しながらも「だが、それだけじゃあ私がココの主である事の証明にはならないだろう?」と返します。 「そ、それは…」
2019-05-01 19:04:05男の子の言い分に思わず返す言葉を失い欠けた時でした、ユーリエと白兎が「エミル、そこに居たのね」と言い、二人の元に来ました。 ユーリエはエミルの傍に居た男の子を見て「ところで、この子は?」と聞きます。 「それが…」
2019-05-01 19:05:56白兎が男の子の方へ近づき『主様、どうなされたんですか、その姿は!?』と驚いたように聞きます。 「えっ、この子がこのお城の主なの?!……でも、昨日私たちが見たのは、姿形も全く見えなかったハズだけど…?」 「でも、本人は全くそうとは言わなくて…」 『主様、大丈夫ですか?』
2019-05-01 19:08:37男の子は黙って三人の様子を見ていたのですが、次第に中にある何かが切れ、勢いよく立ち上がったかと思えば「そこの娘さん方、そして、白兎君も、今すぐこの部屋から出て行ってくれ!」と怒鳴るように言ったのです。 「ちょ、何よ、いきなり大声出して…」 「いいから早く出て行ってくれ!」
2019-05-01 19:11:42男の子に背中を押され、三人は渋々と部屋を追い出されてしまいました。 『主様、一体、どうなされたんでしょうか…』 不安そうな声で話す白兎を横目に「多分だけど、私たちが居る事自体が気に障るんじゃないのかしら?」と返すユーリエ。 『えぇ、そんなぁ!』
2019-05-01 19:16:25白兎の耳はシュンと垂れ下がり、顔もうつむいてしまいます。 「どうする、エミル?あぁも言われたら、ココにいる意味、ないんじゃないの?」
2019-05-01 19:17:30夜になり、エミルはキッチンに立っていました。 ユーリエに「このお城に居る意味がないのではないか?」と聞かれはしましたが、エミルは「身勝手だと思われるのは重々承知です、でも、私達以外誰もいないこの場所で一人で居るのは寂しいと思うんです」と返し、今に至るのです。 #魔法仕掛の城
2019-05-02 19:31:57そこにはユーリエと白兎そして自分、更には昼間に会った男の子の分の夜ご飯が出来上がっていました。 台車に乗せ「お待たせしました」と言い、隣の部屋へ入ります。 「エミル、流石ねぇ」 『本当、エミルさん凄いです!』 「ありがとうございます」
2019-05-02 19:34:31其々の所に置いた後、ユーリエが「あれ、なんか料理多くない?」と言います。 「これは、主様の分です」 「今からあの部屋に行くの?」 「はい、そうです」 「あの子が仮にココの主様であっても、素直に食べるとは思えないけどねぇ…」
2019-05-02 19:37:20「そうであろうともなかろうとも、時間が来れば、お腹が空くのは確かなことですから」 「成程、エミルらしいわね」
2019-05-02 19:40:48エミルは例の男の子がいる部屋の前まで行き、夜ご飯を運んできました。 優しくノックを二回した後「晩御飯、お持ちしました」と言いますが、反応は全くありません。 「こちらに置いておくので、お好きな時にお食べになって下さいね。明日の朝、食器を取りに来ますから」#魔法仕掛の城
2019-05-03 18:54:46扉の近くに置き、エミルは部屋を後にしようとした時でした。その扉の静かに扉が開き、エミルが振り向きますと例の男の子がその隙間から顔をのぞかせながらに聞きました。 「これは、君が作ったのか?」 「はい、そうです」 「そうか、わかった」 「頃合いを見て、食器片づけに来ますね」
2019-05-03 19:00:44エミルの後ろ姿を見送った後、男の子は静かに両手を合わせ「いただきます」と小さく呟き、料理が盛られている皿とフォークを手に取り、夜ご飯を食べ始めました。 ――やはり、あの娘の作る料理は美味いな…。今度会った時、お礼を言わなくてはならないな。
2019-05-03 19:03:09朝陽が昇る頃にエミルは目を覚まし、寝間着から私服へ着替えます。 ――そういえば、昨日はあんなことがあったから、お城のお掃除をする許可を頂いていなかったわ…。 そう思いながら着替え終え、部屋を出た時でした。#魔法仕掛の城
2019-05-04 19:59:38扉の前には昨日より少し成長した男の子が立っていたのです、エミルは一瞬だけ驚きそうな表情を浮かべますが「おはようございます」と、何時ものように挨拶しました。 「あぁ、おはよう」 「朝、お早いんですね」 「それを言うならば、君もだろう?」 「長年の癖みたいなものです」
2019-05-04 20:03:08「まぁ、それで、これからどうするんだ?」 「朝食の準備をしようかと思っていた所です、主様はどうなさるんですか?」 目の前に居る男の子が本当に、このお城の主かどうかさえも確証がないのに、エミルは当たり前のように聞いてしまい、思わずハッと口をおさえましたが、既に遅かったのです。
2019-05-04 20:06:04エミルは「ごめんなさい」と頭を下げて謝ります、しかし、男の子は一つため息をつき「まぁ、これ以上隠すつもりはないが、私がこの城の主だ」と答えたのです。 「やはり、そうだったんですね」 「いつ気が付いた?」 「気づいたというよりは、直感と言いますか…。そうだろうなという予感です」
2019-05-04 20:10:28「私自身、本来はこのような姿ではないのだが、本当は……」 先ほどまで当たり前のように声を出して喋っていた主でしたが、その後を喋ろうと、いくら口を動かしても、その声がまったく聞こえないのです。
2019-05-04 20:14:10喉の調子を戻した後にようやく声を取り戻し「やはり、本当の事を伝えようとすると、すぐこうなってしまう。本当、厄介だな、私は…」と呟いたのです。 「厄介だなんてそんな…、今はきっと、無理をするな、という事かもしれませんし」
2019-05-04 20:17:01エミルの話を聞き、主は一瞬だけ考え込みましたが、すぐに「……なるほど、そういう風に物事を捉えるのも一手かもしれないな」と返したのです。 「申し訳ございません、重ね重ね…」 「いや、いいんだ。君は悪くない」
2019-05-04 20:21:04