「何か、ですか?」 「そうねぇ、例えば…隠し扉、とか」 「そうなの、ウサギさん?」 まさか、自分の言ったことをそのまま信じて白兎にそう聞くとは思わなかったわ…。とユーリエは思いながらエミルと白兎の方を見ましたら、白兎はエミルの言った事を理解したように、頭を縦に動かしたのです。
2019-04-13 19:05:17「本当に?」 「どうやら、そうみたいです」 そういいながらエミルが壁にある装飾品に触れた時でした、ギギギイィ…と鈍い音が鳴り始めたかと思えば、その装飾品が機械仕掛けのように動き出し、その奥へと続く道が現れました。 白兎は先へ行き、二人のその後を追うようにその道を歩み始めたのです。
2019-04-13 19:11:06機械仕掛けの壁から道が現れたかと思えば、白兎はその道へ進むものですから後を追ってゆくエミルとユーリエがたどり着いたのは、天窓から降り注ぐ日差しが入る大広間でした。 中央に飾り気のある椅子が置かれていますが、誰も座っていません。 #魔法仕掛の城
2019-04-14 18:47:23「あれは玉座、…でしょうか?」 「多分そうだとは思うけど、いるべきハズの人の姿が見えないわね」 もしもの為と思い、ユーリエは剣の柄に手を添えつつ、エミルと歩いていた時です。 『君たちか、私の城にやってきたのは?』
2019-04-14 18:51:45その声が聞こえた途端「誰?!」と、大きな声でユーリエは叫びました。 『これはこれは、随分と威勢の良いお嬢さんだ』 「アンタ、私たちの事が見えてるのね?」 『勿論だとも』 「じゃあ、姿を現しなさいよ」 『悪いが、それは無理だ』 「どうして」 『そういうことだからだ』
2019-04-14 18:54:32「どういう事よ、意味が解らないこと言わない方が身の為よ」 ユーリエは剣を取り「エミル、下がってなさい」と前に立ちます。 「ユーリエさん、どうするんですか?」 「声の主が私たちを見えてるってことは、この何処かにいるって言うのは間違いないのだから、あとはその主を探すだけの事よ」
2019-04-14 18:57:35「でも、声だけ聞こえている者に相手を挑むなんて危険すぎます」 二人がそうやって小声で話している時でした、コツコツコツ…と足音が聞こえたかと思えば『そちらの大人しいお嬢さんの言うとおりだ、それに、この場所を荒らされては困るからね』と声の主は言ったのです。
2019-04-14 19:01:28ユーリエは足音が聞こえた方を見ながら「せいぜい、姿を現しなさいよ」と言いますが『それは無理だ』と否定します。 「だから、なんでっ…!」 剣を掴まれているような感覚を覚えたユーリエがその方を見た時です、なんと、剣から血が流れてきたのです。
2019-04-14 19:06:32後ろにいたエミルも、流れる血を見てハッとしたような表情になったとの同時に、その場でショックを受け、気を失い倒れそうになったところをユーリエが受け取った後に聞きました。 「まさか、アナタが…」 『見ての通りだよ、私はこの城の主でもあり、魔術師でもあり、魔法にかけられてしまった者だ』
2019-04-14 19:12:28エミルが瞼を開けた時、そこには見覚えのある顔が一つ見えました。 「エミル、よかった気がついたのね!」 「ユーリエ、さん…」 自力で起き上がろうとしますが力が入らず、ユーリエは「無理しないで」と言いながらエミルの上半身を抑えます。#魔法仕掛の城
2019-04-15 18:49:51「たしか、私…」 「ここの主は確かに存在するわ、けど、相手は普通の人間じゃない。エミルも見たと思うけど、あの主は私たちには姿が見えない者だったのよ」 エミルは最後に見た光景を思い出しました、ユーリエの持つ剣から流れ滴る赤い血を。
2019-04-15 18:53:00「本人の言い分では『魔術師でもあり、魔法をかけられてしまった』者だって言ってたけどね」 「そ、そんな…!」 「どうする、帰るならば今のうちだと思うけど――」
2019-04-15 18:57:10ユーリエの発言は「エミル自身の為をと思って」というのは十分に分かっています、しかし、エミルは「折角ここまで来て、帰る訳には――」という気持ちがあったのです。 「私、ここで頑張ってみます」 「エミル…」
2019-04-15 18:59:51「だって、このお城の主様は私やユーリエの為にこのような場所を用意してくださったんですもの。そのお礼もしたいんです」 声が少しばかり震えてはいましたが、エミルはユーリエの目を真っすぐ見て言いました。その姿を見たユーリエは「…そっか、エミルは強いね」と返します。
2019-04-15 19:02:43「そう、でしょうか?」 「私はそう思うわ、普通だったら帰るどころか、逃げても不思議じゃない状況ですもの。そう考えたら、エミル・ソラ、アナタは強い女性だわ」 「ありがとう、ございます。ユーリエさん」
2019-04-15 19:04:24ところ変わって、お城から1番近い街より少し離れた場所に建つお屋敷に一人の女性が住んでおりました。 給仕は勿論のこと、傍にはいつも執事がひとり必ずいます。 机の上で熱心にあるものを見ていた時です「お嬢様、紅茶の用意が出来ました」と執事が声をかけました。 #魔法仕掛の城
2019-04-16 20:06:45お嬢様と呼ばれた女性はその目線を執事に向け「わかったわ」と言い、席を離れました。 「お嬢様、ティータイム後のご予定は…」 「お偉いさん達のお相手をしなくちゃならないんでしょう?」 「……えぇ、まぁ。しかし、今の言い方は如何なものかと思われますが」
2019-04-16 20:09:13「いいじゃないの、本人達が居るわけでもないのですから」 「それは、確かにそうですが」 女性は執事の前で出てこう言いました。 「こうなるんだったら、例のあの方の元へ行った方が私にとって、これからのような事をしなくて済んだかもしれないわね?」
2019-04-16 20:11:29すると、執事は慌てた表情を見せながらに返しました。 「いけません!ただでさえ、あの方の噂は聞いていらっしゃるでしょう?!」 「解っているわよ、今のは、冗談よ」 「冗談も大概にして下さい」 「生贄みたいにあの子をあの方の元へ行かせる、なんていう事を考えたアナタも大概だと思うわよ」
2019-04-16 20:14:46エミルとユーリエがお城へやって来た日の夜のことです、お城の主は一人、お城の外へ出て外の様子を見ていた時、見覚えのある白兎がこちらにやって来たのを見て「おや、君はまだここにいるのかい?」と聞きました。 #魔法仕掛の城
2019-04-17 18:40:12最も、白兎にそう言う事を聞いても人間のように喋る事なんて出来ない事に気づき、主はその手に持っていた魔術書を開き、ある呪文が書かれている項を見つけ、白兎に向かって小さく唱えました。 白兎自身に変わった所はないのですが、口を開いた途端『あー……あ…?』と声が出せるようになったのです。
2019-04-17 18:44:36『ボク、なんで?』 「私の魔法だよ、最も、君は言葉を発せられるというよりも、直接伝えている、と言えばわかりやすいかな」 『でも、どうして?』と白兎は首を傾げます。 「その方が、君もあの客人と接しやすいと思ったからね、言わば、伝言役だと思ってくれれば有難い」
2019-04-17 18:48:56『アナタが行けばいいのに…』 「私は無理だ、ただでさえ、さっきは透明人間のように見られていたみたいだからね」 『本当の姿で見てくれると、思いますよ』 つい先ほどから喋れるようになった白兎ですが、喋る言葉そのものはちゃんと選んでいる事は聞いていてわかります。
2019-04-17 18:52:08お城の主は先ほどやった行為、存在に気づかせるように、剣士の持つ剣の刃に近づき自らの手を軽く切った手を見ながらに呟きました。 「どうかな。ただでさえ、私は中途半端な存在、なのだから…」
2019-04-17 18:55:57翌朝、ユーリエはエミルよりも先に目を覚まし、部屋を出てすぐの庭にいました。 ――それにしたって、ここの主様一体何を考えているのかしら。全くもって分からないわね…。 そんなことを思いつつ、ユーリエは荷物から取り出していた木刀を振り始めます。#魔法仕掛の城
2019-04-18 20:06:16――でも、この城にはあの主様以外誰もいないって言うのも、少し怖い所ではあるけれど…。いざとなれば、私が守るに越したことはないわね。 そんなことをしていると、近くの草むらからガサゴソという音が耳に入り、ユーリエは木刀を振るのをやめました。
2019-04-18 20:08:55草むらの方へ近づき掻き分けると、そこにいたのは一匹の白兎でした。 「あら、君はあの時の白兎君じゃない」 それは、エミルとユーリエが森の中で出会い、更にはお城の中へ誘った白兎だったのです。 「どうしたの、こんなところで?」
2019-04-18 20:13:00白兎はユーリエにそう聞かれ、あたふたしたような様子でいましたが何かを思い出したかのようにハッとなり、正面を向いたまま『ボ、ボクの声、聞こえてますか?』と聞いてきたのです。 「聞こえて……ちょっと待って、え?今の声、白兎君が出したの??」 『あ、はい…』
2019-04-18 20:15:06白兎自身が声を出したと言うよりは、腹話術にも近い雰囲気です。 しかし、ユーリエは何故白兎が当たり前のように喋っているのか疑問に思っていた矢先でした。 『このようにしてくれたのは、この城の主様の魔法によるものなんですよ』 「へぇ、あの姿が見えない主様がねぇ…」
2019-04-18 20:19:29ユーリエの言い分を聞き、白兎は『そんな事はありません!』と言い返します。 それを聞いたユーリエは少々驚き「そ、そんなにカッカしなくても」となだめるように言うと、白兎はハッとなり『す、すみません…』と縮こまったように謝りました。 「いいのよ、そういうのには慣れているから」
2019-04-18 20:26:08『でも、本当なんです。この城の主様はお優しい方ですから』 「……まぁ、君の言い分もわかるわよ。今のところ、私たちを特にどうする事もなく、普通にしてるんだから」 『よかった…』
2019-04-18 20:29:02「でも、何かあったら――」ユーリエは手に持っていた木刀を勢いよく白兎に振り、白兎の顔寸前で止めながらに言いました。 「――ただじゃおかない、って事だけは覚悟しておこうかしらね?」
2019-04-18 20:30:20エミルは目を覚ましますと、すぐにベットから出て支度をはじめました。 鞄から給仕の仕事で使う服でもあるロングのワンピースとエプロンを取り出し、慣れた手つきで着替えたのです。 ――朝の支度をしないと…、でも、このお城の事は全然わからないし…。 #魔法仕掛の城
2019-04-19 18:46:33そんなことを思いつつ部屋を出ますと、エミルの耳に「こっちだ」という囁くような声が聞こえ、少々驚いたような声を出すものの、エミルは辺りを見渡しますが、自分以外、誰も姿が見えないのです。 ――今の声は…? 不思議そうに頭を傾げていると、少し遠くから「エミルー」と呼ぶ声が聞こえてきました。
2019-04-19 18:49:31「ユーリエさん、おはようございます」 「おはよう、エミル」 ユーリエの腕には見覚えのある白兎が抱えられており、エミルは「あら、アナタは…。元気にしてましたか?」と声をかけます。 「この子の言い分によると、この城の主様が魔法をかけて喋れるようになったんですって」
2019-04-19 18:51:11「本当ですか?」 白兎は少し緊張したような顔つきになりつつも『はい、そうなんです』とエミルに返しました。 「凄いですね!」 『でしょう!』 「さっきまで、この子に城の案内してもらったのよ、何度か来てるからって言うからね」 『ボク、足遅いですし、ユーリエさんに抱っこしてもらいつつです』
2019-04-19 18:53:29「そうなんですか?確か、私が読んだ童話に出てくるウサギさんって足が早いとか…」 『それはあくまで童話だと思います、ボクはのんびり屋ですから』 「確かに、君は如何にも、のんびりとしてそうよね」 『人に言われると、ちょっと納得できませんね…』 「あら、そういう事までわかると来たか…!」
2019-04-19 18:55:47ユーリエと白兎のやりとりを聞いていたエミルは、フフッと小さな笑い声を出しますと、その声に気づいた一人と一匹はすぐにそちらの方を見たのに気づき「ごめんなさい、つい…」とエミルは謝りました。 「いいのよ、こういうやりとりは慣れてるからね」 『アナタの笑顔が見れて良かったです』
2019-04-19 18:58:00「そういう事まで言えちゃうか、白兎君」 『ボクを馬鹿にしてますね?』 「してないわよ、本当に関心した上で言ってるんだから!」 「二人とも、仲が良いんですね」 エミルは改めて白兎の方を見て聞きました。 「もしよろしければ、私にもこのお城を案内してもらっても良いでしょうか?」
2019-04-19 19:00:35『勿論です!』 そう言いながら、白兎はパタパタと後ろ足を動かしているのを見て、ユーリエは廊下に下ろしましたところ、白兎は張り切って『さぁ、こちらです!』と言いながら、進んでいったのです。 「威勢が良い子ね、あのウサギ君」 「そうですね、頼りになります」
2019-04-19 19:03:13エミルとユーリエ、そして人の言葉を喋れるようになった白兎はお城の中を歩いていた時のことです。 「男の人の声が聞こえた?」 「はい、ユーリエさんや白ウサギさんと会う少し前なのですが」 「でも、この城自体もだけど、主がヘンなんだし、何が起きても不思議じゃあないかもね」#魔法仕掛の城
2019-04-20 19:54:25『ヘンだなんて失礼なことを言わないでください!主様はお優しい方なんですから…!』 「あら、そじゃあ白兎君はココの主様とお城の事を世間ではどういう風に言われてるのか、ご存知なのかしら」 ユーリエにそう言われ、白兎は口をもごもごとしつつ『そ、それは…』と言葉を詰まらせます。
2019-04-20 19:58:31「ユ、ユーリエさん…」 エミルの声を聞き、ユーリエは「まぁ、流石に城内にいる中で言ったら失礼になるから、これ以上は言わないけどね」と白兎に言いました。 話を変えるように、エミルは「白ウサギさん、キッチンがどこにあるかご存知ですか?」と聞きました。
2019-04-20 20:01:29『キッチンですね!こちらです!!』と言いながら、張り切って案内します。 キッチンにたどり着くと、エミルは「失礼します」と言いつつ設備や調理器具、そして、冷蔵庫の中や戸棚の中まで確認したのです。
2019-04-20 20:09:01あまりの手際の良さに、思わず白兎も『すごい、ですね…』と驚きながらも感心した声を出しますと、それに返すようにユーリエも「流石、給仕なだけあるわね」と呟きました。
2019-04-20 20:11:06お城の主が見回りも兼ねて城内を歩いていますと、廊下から良い匂いが漂ってきました。 ――これは一体、なんだろう? そう思い、匂いがする所まで行きますと、台所で一人の女性が朝食の準備をしていたのです。#魔法仕掛の城
2019-04-21 20:03:37「エミルー、食器の準備ができたわよー」 「ユーリエさん、ありがとうございます!」 ――食器の準備をしているのがユーリエ、あの娘は確か、剣を持っていたな…。そして今、調理をしている方がエミル。確か、私の血を見て気を失った娘だったな…。
2019-04-21 20:06:55そんなことを思って覗いていると、キッチンの中に居た白兎がこちらを見たので、主は思わず身を隠しました。 白兎は頭をかしげますと、ユーリエに呼ばれすぐにそちらの方へ向きました。 ――まぁ、そのうち帰るだろう。 そう思い、主は再び城内を歩き始めました。
2019-04-21 20:08:58ユーリエが棚から出した食器へ、エミルが作った料理が盛られていき、その様子を見ていた白兎が『おいしそうですねぇ~』と言いながら、まじまじと料理を見ています。 「白兎君は食べれないでしょうが」 『えぇ~、やっぱりかぁ…』#魔法仕掛の城
2019-04-22 18:39:07ションボリと落ち込んだ姿を見て、エミルは近くにあった人参と胡瓜を手に取り、素早くスティック状に切り分け、余っているお皿に乗せ「白ウサギさんは、こちらで大丈夫ですか?」と聞きました。 『ありがとうございます!』 「エミル、本当、手際が良いというか、早いわね…」 「そうですか?」
2019-04-22 18:42:07