草津温泉の伝統文化『時間湯』の廃止騒動について調べていたら、いつの間にか温泉文化のユニセフ無形文化遺産登録運動が始まっていたのに気付いた。結局あの町の温泉文化が今後どうなるのかがとても気になる、という話。

　温泉療法医は、温泉文化の発展になくてはならない職業なのですね。

　療法医は、研修会を受講して全過程を履修してから３年もしくは学会に入会して３年以上経過しないと資格取得できません。
　また、５年ごとに更新があり決められた単位も履修しなければなりません。

　温泉療法専門医に至っては、療法医認定から２年以上で、専門医試験に合格しなければならず、５年ごとの更新の際の履修単位も、単純計算で療法医の４倍です。更新料もかかります。

　こうしたことから、温泉療法を治療に取り入れて診断することはかなり難しい技術と知識と経験（そして続けられるほどの信頼）が必要なのだということが分かります。

≪参考≫
温泉療法医の紹介（日本温泉気候物理医学会）

　個人的には、『湯治』とは医療や宿泊施設や死亡リスクもすべて含んだシステム体系やルールなのだと思っていました。

　温泉に浸かって病気や怪我を治そうと思って、なんのあてもなく有名な温泉地に行って、適当に入浴して、ご飯を食べて、ホテルに泊まってお土産買って帰る…これで怪我や病気がなんでも治ったら…医者は要らないですよね。

　病気や怪我で苦しむ人が温泉治療を受けたいと思ったときには、相談に乗ってくれる、治療法を指導してくれる、温泉地をアドバイスしてもらえる、そういう存在が必要ですよね。

　医者だけではなく、栄養のある食事の管理をしてくれる人、運動不足を解消してくれる人、リハビリのお手伝いをしてくれる人、愚痴を言い励ましあえる同志…そういった人も、温泉治療には欠かせないのだと思います。

　『湯長』というのが、医者の診断や指導に基づいて、適切なお湯の状態を作ってくれる管理人なのだとしたら、それはそれで温泉治療には欠かせない存在であるということは（患者目線からしたら）間違いないのでしょう。

草津町の温泉療法医

　草津町に関わる温泉療法医は２人います。

　一人は、３代にわたって草津町で病院を開業し、初期の時間湯に関してもアドバイスをしていたという病院の、現在の院長・布施正博氏です。

　もう一人は、元々草津町に建っていた群馬大学医学部付属病院草津分院の院長だった久保田一雄氏です。

　この2人の名前を調べていきますと、黒岩町長が時間湯の件について相談していた医学者であるということが分かります。
　町長が日本外国特派員協会の記者会見で述べていた『近代医学では非常に危険な入浴として医学者二人から、危ないから止めたほうがいいという報告がありました』という話の、医学者二人であるようです。
　この2人が主に、町長に対して『時間湯のやりかたが問題であること』『高温浴が危険であること』と『お湯の温度を42℃にすること』を提言したようです。

　つまり、草津町内の温泉療法医は『町長派』であるということになります。

【問題提起】つまり草津温泉は危険なのか？

　現実問題として、草津温泉の共同浴場は常態的に『高温浴』なのです。

　その高温のお湯を病気や怪我の回復に利用するための昔の人々の知恵と努力（と多分多大な犠牲）の結果であるのが『時間湯』なのではないか…？と考えたときに、無暗に『高温浴は危険だ！』『だから時間湯を廃止しよう！』と言い切ってしまうのはどうなのかな、という思いがあります。

　草津温泉を訪れる観光客は、町に住む町民は、全員が果たしてこの高温浴の危険を知っているのでしょうか？

　町民や観光客の健康を守るためにも、『高温浴の入浴ノウハウ』としての『時間湯』と『湯長』というのは、（危険が伴うとして一般的な利用は廃止するにしても）草津温泉を利用するための知識として後世に継承していった方がいいのではないのでしょうか？

　とすると、町長の行った一方的な『湯長』の排除は、果たして本当に町民や観光客の安全につながることなのでしょうか…？

　そういった点において、この『時間湯』廃止騒動に関しては個人的に大いに疑問であるのですが、町長派も時間湯派も拙速で一方的で議論の余地が無いというところで外部から声をあげられるものでもなく、ただ諦観してしまいます。

【観光地化？排除？】裏草津・地蔵地区周辺再整備事業関係の記事あつめました。

　地蔵地区周辺…現在は『裏草津』と呼ばれている、オシャレでリゾート地感あふれる高台広場です。

　『時間湯』が廃止された『地蔵の湯』があった場所は、草津町の中心部『湯畑』から、路地に入って5分程度の高台にある『地蔵地区』と呼ばれていたところです。

　この『地蔵地区』の再整備を進めたい町長派に対して、『地蔵の湯』に併設されていた『時間湯』の関連施設や車椅子用トイレを巡り、当事者が不満の声をあげたことが、『時間湯』廃止の引き金になったとも言われています。

　その再整備に関連するニュース記事やTwitter記事をまとめてみました。

2019年3月～12月

2019年3月4日～12日に草津町議会3月定例会が、
2019年5月8日に草津議会第2回臨時会が、
それぞれ開催されました。

≪参考≫
草津町議会だより　harmony148号
2019年5月31日発行

議会だより引用：
P.5
『H29年度からの継続事業。今年度は地蔵広場の整備や、湯畑へと繋がる道路修景工事などが行われます。』

P.6
『31年度以降においては地蔵地区の再整備事業に財源を集中していく。』

P.7
『30年度(2018年度)に地蔵源泉の屋根新築工事が完了』
『31年度(2019年度)は高台広場へ通じる連絡階段の設置工事と高い大広場の土地造成工事、頼朝から旧一田屋旅館に抜ける道路および会談の修景工事、三関屋根の三角地に展望デッキの建設を実施』
『32年度(2020年度)は、地蔵広場の建設工事、図書ギャラリーの建設工事、飲食等店舗の建設工事、旧堀口床屋跡地にポケットパークの整備工事』
『33年度(2021年度)は、道路を隔てた東側エリアに百年石体験施設の建設を行う予定。』

2020年8月24日、地蔵高台整備事業起工式

≪参考≫
草津町広報いでゆ　9月号

広報誌引用：
P.7
『令和２年８月７日（金）、「地蔵高台整備事業」施工に際し、工事の無事進行・完了、この土地と建物の安全堅固、そしてこの地を訪れるすべての方のご繁栄を祈願し、起工式が執り行われました。』

2020年9月1日～7日、9月定例町議会

　町議会では『湯長』のいなくなった『時間湯』について話し合われていました。

≪参考≫
議会だより　harmony　154号
（令和2年11月6日発行）

P.7、P.9
①千代の湯と地蔵の湯を有料貸切風呂として利用したいという陳情
→これは町民数名からの陳情だったようです。
　（時間湯利用者かどうかは不明です）
『千代の湯は現状上手くいっているので、地蔵の湯のみなら良い。』
『地蔵の湯の貸切風呂に賛同するが、誰が入ったか記帳を残す必要がある。』
　…等の意見が委員会内で出され、議会では結局はっきりとは決めずに主旨採択としていました。
　この時点では、『時間湯』閉鎖の後の施設をどう有効活用しようかまだ決めかねている（敵の出方を伺っている？）段階だったようです。

②伝統湯の商標登録
→元々、2020年3月に時間湯関係のNPO法人から特許庁へ『時間湯』という名称を商標登録申請していたのですが、そこでも「町が登録しようと思っていたのに…」というトラブルが発生していました。
　そこで、当時の議会では、『時間湯』ではなく『伝統湯』という名称を商標登録申請することに決めたようです。

2019年9月26日～28日　第16回草津温泉観光士講座

日本温泉地域学会が意見書を提言。

　日本温泉地域学会は、温泉観光士の資格の養成講座を、毎年草津温泉で開催していた学会です。
　草津町も賛助会員として加入しており、町役場の会議室を講座の為に貸し出しています。
　その学会が、2019年9月に行われた第16回草津温泉観光士養成講座において、草津温泉の「時間湯と湯長」廃止問題について意見表明をしました。

日本温泉地域学会HPより引用：
『７）第16回草津温泉観光士養成講座において、草津温泉の「時間湯と湯長」廃止問題について、学会として意見表明をしましたので、ご覧ください。（2019/9/28）』
意見表明リンク

意見書引用：
『時間湯の現状や当事者の湯長、湯治関係者との話し合いをふまえたものではありません。』
『時間湯湯治中のアトピー患者をはじめ湯治客の声を聞かずに事が進んでいます。』
『湯治客排除につながりかねません。』
『観光人気があって観光客さえ来れば良いと考えているとしたら、大きな誤りです。このままでは草津人気も砂上の楼閣になるのではと危惧します。』

　今までずっと仲良くやってきた温泉関係者だからこその、伝統文化の廃止に対する強い意見は、かなり厳しいものだと思いました。

　ですが、この意見書に対する返事は、2022年8月末現在まで、草津町からは出ていません。
　それどころか、草津町は翌年2020年10月に脱会届を提出し、学会から抜けていることが明らかになりました…。

2020年10月

『草津町議会議員新井祥子解職投票のお知らせ』

≪参考≫
草津町広報いでゆ　2020年11月号

広報誌引用：
地方自治法の規定に基づき、草津町において選挙権を有する３分の１以上の署名をもって、草津町議会議員新井祥子氏の解職請求が令和２年10月19日に受理され、新井祥子町議会議員の解職投票を行うことになりました。

2020年11月24日～、地蔵地区周辺再整備工事

2020年11月24日～2021年3月31日の予定で、地蔵地区周辺の再整備工事が始まったそうです。

≪参考≫
地蔵区周辺　「裏草津」再整備中の様子
2021年1月8日付、草津スカイランドホテルブログより

2020年12月6～10日、草津町議会12月定例会

≪参考≫
草津町議会だより　harmony　155号
2021年1月29日発行

議会だより引用：
P.4
『9月定例会で、「時間湯」を有料貸切り風呂として利用する陳情があり、その後の経過報告がありました。』
『調査結果を踏まえ、利用率の低い地蔵の湯「時間湯」は今年度限りで、千代の湯へ統合。地蔵の湯は、誰もが利用できる「有料浴場施設」としてリニューアルをし、地蔵地区の整備計画中である体験施設と併せ令和3年(2021年)９月を目途に営業したいとのことです。』
『また「時間湯」を「伝統湯」に名称を変え温泉文化を継承したいとの報告を受けました。』

2021年1月

　年末年始の繁忙期が終わり、リコール騒動もひと段落付いた草津町は、観光客の集客に躍起になっていました。

　2021年1月13日からは1か月のまん延防止措置期間が適用され、2021年1月18日にはスキー場が無期限休止（1月28日には営業再開）になるなど、まだまだ人流が回復する見込みがありませんでした。

　2021年2月18日には、群馬大学の教授と黒岩町長は、温泉水の測定結果について記者会見を行いました。
　その中で、温泉がウイルスの感染力を大幅に減らす効果があるという結果を受けて、温泉で手を洗うことのできる『手洗乃湯』という設備を町の中心地に設置したということを発表しました。
　以降順次『手洗乃湯』を観光客向けに設置することと、地蔵地区に『顔湯』という装置を設置することも発表されました。

　町の姿が着々と変わっていくこのとき、『時間湯派』との話し合いの場については、全く設けられることが無いままだったようです。

2021年3月15日、地蔵の湯時間湯閉鎖のお知らせ

≪参考≫
地蔵の湯時間湯閉鎖について　お知らせ　｜草津町

引用：
皆様にご愛顧頂いておりました地蔵の湯時間湯は下記日にて閉鎖いたします。

閉鎖日　　令和3年3月30日（火）

2021年3月30日付のとあるブログ記事

このブログサイトは、草津町で起きたことを内情も交えて発信してくださっているので時折参考にしています。

今回の時間湯の件はこのブログでは『黒岩町長の失政』という形で記事にされていました。

　このブログによると、2020年4月つまり湯長制度が廃止された後の時間湯は、無料開放という形で自由に時間湯を利用できるようになっていたようです。
　しかし、『湯長』が不在となった『時間湯』は、利用する人が少なく、施設を持て余してしまう状態だったようですね。

ブログ記事引用：
『町長がやったことは病院を無料で解放します。
でも医者はいません。薬は使って結構ですが悪くなってもそれは自己責任ですよ。

さて、そんな病院に行きますかという話である。

答えは明白、それは人が集まらなかったことで証明されている。

もちろん、医療行為云々の話があるというが、今までうまくいってきたシステムを結果、壊してしまったことには変わりない。失敗である。』

2021年4月～８月

2021年9月～12月

2021年9月10日、町議会で時間湯→伝統湯名称変更の条例が可決

≪参考≫
草津町議会だより　harmony　158号
10月29日発行

議会だより引用：
P.6
『草津町時間湯浴場の設置及び管理に関する条例の全部改正』
『地蔵の湯・千代の湯の「時間湯」の名称を「伝統湯地蔵」、「伝統湯千代」に改め、「伝統湯地蔵」を貸切風呂に変更し、「伝統湯千代」を無料とする条例の改正を行いました。』
P.10
【『時間湯』をそれぞれ『伝統湯千代（従来と同じくアドバイザーを常駐させて、湯もみをして入浴。無料）』、『伝統湯地蔵（有料の貸切風呂とする）』に改める。】
『（温度設定について）最高44度とするが、運用を入浴者に任せる。』
P.12
『サイエンスや法令に基づかない時間湯関係者の善がりの中で進めさせるわけにはいかない。それを断ち切る意味で呼称を「伝統湯」に変えていきたい。』
（注：善がり→独り善がり？）