平田明のお見合い話

伍条 月斗（創作ｱｶ） @5jyouTsukito

明にトモヨと呼ばれた女性は「やぁ、明。久し振りだね」と、声をかける。 「トモヨさん、お元気そうで何よりです」 「なぁに、杖ついて歩く以外は元気印そのものだよ」 トモヨの隣を歩く金髪の男は『トモヨさん、このお方は？』と聞いてくる。

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「教えただろう、平田 明だよ。ココの牧場の長男坊さ」 『成程、アナタがヒラタ・アキラですか』 納得しつつも、金髪の男は手を伸ばしながらに自己紹介を言う。 『初めまして、私は対カゲ滅し用アンドロイドです』 「アタシらは《ノッポ》って呼んでいるのさ」

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対カゲ滅し用アンドロイド、父から話は聞いた事がある。 なんでも、自らの意思で「カゲの殺し屋」に志願したというアンドロイドが居たと…。 そして、今、何気なく会話はしているとはいえ、目の前に居る麻下トモヨは「カゲの殺し屋」の長の一人でもあるのだと――。

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話を聞かなければどこにでも居そうな者達なのに、話を聞いているから余計に警戒してしまう。 『大丈夫ですか、ヒラタ・アキラ？』 「えっ？」 『今、アナタの心拍数が急に上昇したと探知したので――』 「あ、だ…大丈夫です」

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改めて握手しようとした所で、下の弟に「兄貴ー！」と呼ばれた明は「では、挨拶は後程に…、ゆっくり進んでくださいね。商品はまだありますから」と言いながら頭を下げ、その場を去って行った。

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平田家印の牛乳やバターを無事に購入出来たトモヨは、満足気な表情を浮かべながら車を運転している。 一方、助手席に座っているノッポは、購入した商品が入っている袋を膝の上に置き、トモヨの様子を見ながらに呟く。 #平田明のお見合い話

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『トモヨさん、ご機嫌ですね？』 「当り前さ。なんせ、平田家印の搾りたて牛乳とバターを購入出来たんだからね」 『本当に、それだけですか？』 信号で止まった時、トモヨはノッポの顔を見ながら返答する。

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「それもあるけど…、やっぱ、あの明がノッポと似た存在だって話を聞いたうえで姿を見るっていうのもコレまた、新しい発見がありそうだな～とか、思っただけさ」 『ヒラタ・アキラは私と異なり、全てが機械で出来ている訳ではないですらね。何とも言えませんが…』

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色々と考え込むノッポの姿を見たトモヨは、やれやれ、と思いつつ「細かい事は気にするんじゃあないよ、ノッポ。明は明さ、平田家の長男坊でもあり、朝日地区自警団長なんだから」と返しつつ、青になった信号を見て、ゆっくりとアクセルを踏むのだった。

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昼になる頃、客足も大人しくなった所に「よう、明！」と、威勢のいい声で挨拶する赤髪の男が一人でやって来た。 「江東くん！久し振り、元気にしてたかい？」 江東と呼ばれた男はニカっと笑いつつ「勿論、そういう明こそ、元気してっか？」と返してくる。 #平田明のお見合い話

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「うん、今日は朝の仕事終えた後に販売会だから、ちょっと慌ただしい所はあるけどね」 「成程、成程」 奥の方に居た明の母親が江東の姿を見るや「あら、江東くん！久し振りじゃない！」と声をかける。 「やあ、おばさん！」 「今日は一人で来たの？」 「大体そんな所ですね」

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販売の時間を終えると、休憩に入り始め、明たちや江東をも囲って、外で昼食をとった。 「いやぁ、すみません。俺の分まで昼食用意してもらって」 「いいのよ、一人や二人くらい増えても問題ナッシングだから！」 「えとーにいちゃん、また来てね！」 「来てね！」 #平田明のお見合い話

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一番下の妹たちに言われた江東は「おう、また来るぜ！」と、二人の目線に合わせて返答した。 「じゃあな、明。また夕方に」 「はい、ではまた」

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夕方になり、一足先に仕事に上がった明は、着替えてから夕食を頂いた後にはカゲの自警団長として月に一度開かれる報告会の会場へ向かって行く。 ――緊張するなぁ…。 #平田明のお見合い話

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会場はほぼ決まって管崎家の屋敷にある大広間で、各地区の自警団長や一部の団員と、カゲ法師が【カゲ】の生息や滅し報告を交わすというもになっている。 軽トラックを運転して数十分、近くの駐車場に停めたのと同時位だろう、昼間牧場に来た江東が駐輪スペースにバイクを停め「よう」と声をかける。

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「江東くん」 「丁度いい時間帯って所だな」 「そうだね」 「まぁ、俺は自警団所属はしてるが、何処にも所属していない……野良団員に声をかけるなんて、どうかしてると俺は思うがな」

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会場でもある管崎家の門前には、使用人たちが中に入る者達に「ようこそ、お待ちしておりました」と挨拶しながら頭を下げている。 無論、明や江東がその前を通っても同じことをするのだから、明は「あ、ありがとう、ございます…」と、ついつい頭を下げてしまう。 #平田明のお見合い話

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一方の江東は軽く会釈する程度、その場を通りすぎると「明、緊張しすぎだっての」と小さく声をかける。 「いやぁ、あぁいう事にはあんまり慣れてなくて…」 「そりゃあ、俺だってそうだよ。あぁいう出迎え、されるの、ココ来るまで殆ど無かったんだからさ」

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（そう言う割には、堂々としてるよなぁ…）と、明は内心思いつつ見ている時だった。 「こんばんわ、平田明くんに江東幹尚くん」 挨拶された方を見ると、そこには帽子を深く被り、口元はマフラーで隠れ、二人よりも一回り以上背が小さい老人が居たのだ。

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「平井さん、お疲れ様です！」 「猪太郎さん、こんばんわです！」 威勢のいい反応を見た猪太郎は、こんばんわ、と言った後に「いやぁ、若いというのはいいですねぇ、勢いがあって」と、穏やかに返すのだった。

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管崎家の屋敷に入って数分、会場でもある大広間には既に他地区の自警団長や他の団員達も来ており、色々と話し込んでいたり、報告会が始まるのをじっと待つ者達など、様々だ。 #平田明のお見合い話

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（なるべくならば目立たない席に座っていよう）と思った明だったが、横に居た江東が「明はあっちだろ？」と言いながら指さした。 その方を見ると『朝日地区自警団長　平田 明』と書かれた札が机の淵に貼ってあるのを見て「教えてくれて、ありがとう」と小さな声で礼を言い、互いの席に向かうのだった。

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自分の席に座ると「お疲れ様です、明さん」と声をかけてくる男子高校生がいた。 「お疲れ様、ソウジくん」 深緑色の制服を着て、白髪で目元に二つ黒子がある男子高校生こと、枚方ソウジ。 #平田明のお見合い話

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彼の高校では「カゲの自警団部」という部活動がある、内容としては明たちと同じくカゲ法師の手助けをしたり、【カゲ】を滅する為の武器の所持を許可された者達のことで、ソウジは自警団部の部長を務めている関係で、報告会に呼ばれているという訳だ。

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予定の時刻になると、家長の管崎 篠丞（カンザキ シノスケ）をはじめとする、正真正銘、純血のカゲ法師達が続々と部屋に入ってくる。 それまで賑やかだった会場は一気に静まり返り、皆、そちらの方に視線を移す。 #平田明のお見合い話

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中央の席に来た篠丞は、一息ついてからに申す。 「本日は報告会にお集まりいただき、ありがとうございます。なお、私の母……管崎 蝶華は体調がよろしくないという事で、本日の報告会は欠席に致す次第であります」

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淡々と報告が進んで行く中で、明は緊張しつつも自分が見回る朝日地区の報告し終え、ようやく席に座った。 「ご苦労様です」 隣に座る枚方ソウジが小さな声でかけてくると「ありがとう」と、明も同じ声量で返答する。 #平田明のお見合い話

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「それでは、今月の報告会はこれにて閉会します。皆さま、お疲れ様でした」 カゲ法師達が会場を出るや、再び賑やかさを取り戻す中で、明が席から立ち上がった時だった。 「平田さん」

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聞き覚えのある声に反応して振り向いて見ると、そこに居たのは、先程までカゲ法師側の席に座っていた管崎響子だったのだ。 「は、はい！」 「この後、お時間は大丈夫ですか？」

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明は腕時計の時刻を見て「少しならば、大丈夫です」と返答する。 「ありがとうございます、では、ご案内します」 そう言いながら、明を手引き案内したのは、人通りが少ない通路で、目の前には荘厳そうな扉がある。 「ここは？」 #平田明のお見合い話

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「私の大おばあ様……、管崎蝶華の部屋です」 「蝶華さんの？！」 明が驚く表情を横目に見つつ、響子は扉をノックすると「いいですよ」と、扉の向こうから声を聞きとった。 「失礼します」 響子がゆっくりと扉を開けると、そこには安楽椅子に座る管崎蝶華の姿がそこにいた。

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安楽椅子から立ち上がろうとした蝶華だったが、力が入らず、響子が直ぐ様に傍へ寄り「無理はなさらずに」と声をかける。 「このような格好で、申し訳ございません。何分、以前よりも身体の調子が――」 「だ、大丈夫です！なので、無理はなさらずに…！」 #平田明のお見合い話

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「感謝、致します」 頭を深々と下げる姿を見て、明は益々と慌てふためくものの、蝶華が顔を上げ、改めて明の方を見た瞬時、その眼差しは鋭いものに変わっており、思わず緊張が走ってしまう。

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「平田さん、アナタは自警団長になって間もない時に、カゲに喰われたカゲ法師を救ってくれましたね」 「はい、ですが、あれは一人でやった訳じゃありません。自警団や……、あの方たちが協力してくれたお陰で救えたも同然です」 #平田明のお見合い話

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「ですが、その時にアナタは無理を通してしまい、身体を壊してしまった――」 蝶華の喋り方は、ゆっくりだが言葉はハッキリとしていた。無論、報告会で何度も聞いた喋りではあるものの、遠くで聞くのと、間近で聞くのとでは印象はかなり異なるように感じてしまう。

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しかし、明もまた、彼女の目を見ながらに、自分の言葉を持ちながらに返答する。 「あの時は、あぁするしかなかったと思って、動いただけの事です」

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「確かに、あの時はそうするしか方法がなかったかもしれない……ですが、これだけは言わせてください」 歳を取ったせいだろう、以前よりも相手に一言二言多く申すようになったとは、蝶華自身も解っている。 しかし、今、ここで言わなければいけないという決意の下に申す。 #平田明のお見合い話

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「例え、アナタの身体の一部が機械で出来ているからと言って、その身体を過信したり、無理を通してはいけませんよ。平田、明さん」 蝶華の言葉を飲み込む様に聞いた明はゆっくりと「はい」と、返答するのだった。

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蝶華の部屋を出て、明を玄関まで送った響子は、改めてふと、西の方角に沈む空を見ながらに思う。 ――そろそろ、あの者達が動き出す…。 かつて、カゲ法師という事を隠したうえで変装しながら、カゲの殺し屋として活動していた時の事を思い出す。 #平田明のお見合い話

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【カゲ】を滅するという意味では、カゲ法師や自警団も同じことをしているだけなのに、滅し方の違いだけでそう呼ばれるようになってしまった者達――。 殺し屋の長の一人でもある麻下トモヨに聞いた事がある「何故、殺し屋として活動しているのか」と。

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すると、長は響子の目を見ながらに返答した。 「カゲ法師や自警団っていうのは、所詮、日の下しか歩けない。ようは、ビビりなのさ。けどね、中には【カゲ】をひたすらに滅したいっていうヤツらも居るんだよ、アタシらみたいにね」

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家につく頃にはすっかりと空は夕暮れを通り過ぎ、夜の空が広がっていた。 軽トラックを車庫に仕舞い、急ぎ足で牛舎に向かった平田 明は目の前に居た父と母に「ただいま」と声をかける。 「おかえりなさい」 「帰ったか、明」 「今、着替えてそっちへ手伝いに行くよ」 #平田明のお見合い話

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「分かった」 「焦らんでも大丈夫だからね！ご飯、食べて来てからで大丈夫だから」 「ありがとう、父さん、母さん！」 少々急ぎ気味になりながらも、明は返答して直ぐに家に向かって行くのだった。

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家に入るや、既に祖母が待ってましたと言わんばかりに夕食をテーブルの上に用意しているのだから、明は呆気にとられそうになるものの、椅子に座り「頂きます」と両手を合わせながらに言うや、夕食を食べ始める。 #平田明のお見合い話

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その間に高校や中学校から帰ったきた弟たちや、既に帰って来ていた妹たちも空いている席に座り始めていた。 「明おにーちゃんだー！」 「ホントだー！」 ごくりとご飯を飲み込んだ後、明は皆に「おかえり」と言い、麦茶を飲む。 「明兄さん、珍しいねこんな時間に夕食を食べてるなんて」

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「おいおい、今日は兄貴、自警団の報告会で帰りが遅くなるーって言ってたじゃんか」 「あれ、そうだったかー」 「ったぁく、お前はよー」 今日の夕食はカレーライス、大きな鍋に中辛を、小さな鍋には妹たちが食べる甘口を。

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祖母は各々の皿に分けて配膳するや、明と同じくきょうだい達は手を合わせてから「いただきます」と言い、食事を始めるのだった。

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夕食を食べ終えた明は、自分の部屋で作業着に着替えるや、裏口から出て牛舎の方へ向かって行った。 ――搾乳機の音が聞こえてる、急がないと…！ 平田家の牛舎は他の所よりも大きい上に、牛の頭数も多い方なので、父や母、明や弟たち、そして、従業員を雇っている程でもある。 #平田明のお見合い話

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「お待たせ！」 「おぉ、明、来たか！」 「急がなくても大丈夫だったのよー」 母にそういう事を言われるも、明は「いや、そういう訳にはいかないよ」と言い返しながら、掃除道具を取り出していた。