話者の言っていることが意味不明になるときがあります。 「赤字隠しをしたのは誰だ…黙っといてやるから手を挙げろ」 誰かはわからなくとも、「誰かが赤字隠しをした」ということはすでに前提とされています。共有基盤に「誰かが赤字隠しをした」という情報が含まれていなければ、
2022-02-28 20:09:30発話することが適切にはできなくなるわけです。 「赤字隠しが行われたかどうかなんて俺は知らないけど、# 赤字隠しをしたのは誰だ?」 「#」を、文法的におかしいわけではないが、その言語のネイティブ話者が文脈を踏まえておかしいと判断する、という意味で使用します。
2022-02-28 20:13:026b 「私の邪魔をするのをやめてくれ!」 6c 「よかれと思ったんだけどね。お手伝いしてごめんなさいね」 (6b) のように話者が述べるということは、少なくとも話者の想定の中では、「この人が私の邪魔をしている」ということは事実なのでしょう。
2022-03-07 14:58:45「~をやめる」という句そのものに、そうした情報を共有基盤に前提として組み込む効果がありそうです。 (6C) の「~してごめんなさい」も、「~して」という部分が正しいという前提がなければ、理解できないように思えます。
2022-03-07 14:58:46(6b) も(6c) も、もし聞き手がその前提の正しさを認めていないとすると、相当押しつけがましい発言として聞こえると思います。「いや、邪魔してないし!」「いや、お手伝いなんていいもんじゃないから!」と言い返したくなるかもしれません。
2022-03-07 14:58:46相手の言っていることに対して、このような形でしか言い返すことができないのも、前提的内容の特徴です。「話者が真摯に謝罪した」といった文ならば、直接的にその真偽が問えるでしょうが、「~してごめんなさい」という発言に対して、「いいえ、発言は偽です」とだけ返すのはとても変な気がします。
2022-03-07 14:58:47一方、「~してごめんなさい」を直接否定するのではなく、その前提を取り上げてチャレンジすることは可能です。(6c) に対して、「いやいや、アンタはお手伝いなんてしてないから」と返すことはできるわけです。 真理条件的内容の提示は、共有基盤をアップデートするやり方の一つに過ぎません。
2022-03-07 14:58:47悪口を言う方法は、「橋下はクソだ」などとはっきり述べることだけに尽くされません。そんな言い方をしなくても、周囲の人々の認識や印象を操作することは可能です。共有基盤を別のやり方でアップデートすることができるわけです。
2022-03-07 14:58:47たとえば、「やめる」という単語の使用は、言及された行為が少なくとも以前は行われていたことを前提とします。非喫煙者の高校生に、「あれ、タバコをもうやめたの?」などと尋ねる意地悪をするのはどうでしょうか?話者は何も主張していません。
2022-03-07 14:58:48しかし、この問いに「はい」と答えても、「いいえ」と答えても、高校生は困った立場に陥ってしまいます。この質問自体に「その高校生は喫煙の習慣が少なくとも過去にあった」という前提が含まれているので、この質問をされてしまった時点で、共有基盤にその内容が組み込まれてしまうのです。
2022-03-07 14:58:48