抜粋) 『悪い言語哲学入門』和泉悠著、ちくま新書、2022.02.10. p.46 あなたのシャツとクラスメートのシャツはある意味「同じ」です。これは、同じ「タイプ」のシャツだからそうだと考えることができます。また同時に、二つのシャツはそれぞれ「違う」ものです。 pic.twitter.com/3YHfDXy5iX
2022-02-26 21:51:50この状況を、二つのシャツは同じタイプのシャツの二つの別の「トークン」だ、と述べることができます。二つのシャツはタイプとしては同一ですが、トークンとしてはまったく別のものなのです。
2022-02-26 21:51:51言語について語るとき、表現のタイプについて語っているのか、表現の具体的な現れである個別のトークンについて語っているのか、区別することが必要になります。 たとえば、「わたしあの人嫌い」と誰かがつぶやいたとして、その意味は何でしょうか。読者の誰もがその意味を理解できますが、
2022-02-26 21:51:51同時にある意味、意味は分かりません。「わたし」や「あの人」が誰を指しているのか分からないため、具体的に誰が誰を嫌いなのか分からないからです。 意味が分かるが意味が分からないとは一体どういう意味でしょうか。これは、表現のタイプとしての「わたしあの人嫌い」の一般的意味を
2022-02-26 21:51:52日本語話者として理解しているが、実際に使われた個別のトークンの具体的内容は、トークンが出てきた場面についての情報が与えられていないため、よく分からない、ということです。タイプの意味は分かるがトークンの意味は分からない、という状況で、ここに矛盾はありません。
2022-02-26 21:51:52今後私が「文」や「語句」と言わずに、わざわざ「発話」ということばを使うならば、それは表現のタイプではなくトークンについて語りたいということです。それぞれのトークンが現れる具体的場面のことを、「文脈」と呼ぶことにします。
2022-02-26 21:51:52自然言語の数多くの表現は文脈依存的、すなわちその内容が文脈に応じて変化します。「わたし」や「あなた」は同じ表現タイプでも誰が誰に向けてそのトークンを発話したかに応じて、内容が変化します。ことばの評価は、タイプ単位ではなく、トークン単位で行うべきものです。
2022-02-26 21:51:53一律に、例外なく、単にことば尻がこうだから使用禁止である(その逆にいくら言っても許される)、というのは通りません。ことばの評価にも具体的トークンが必要です。 ところで、文脈によって評価が変わり、目的や意図、そしてその帰結が問題となるようなものは何でしょうか。
2022-02-26 21:51:53それは私たちがすること、「行為」です。悪口は私たちのことば、言語の一部であると同時に、私たちがする行為の一種でもあるのです。「言語行為」(speech act)という概念です。 ジョン・オースティン(J. L. Austin 1911-60)は、言語を話すということは何かをすることだ、と延べました。
2022-02-26 21:51:54「お前の母ちゃんデベソ」と子ども同士が言ったとして、それはどういう意味でしょうか。「お前の母ちゃんデベソ」と言うこと(speech)そのものが「からかう」とか「おちょくる」という行為(act)です。子どもは「からかう」という言語行為(speech act)を行ったのです。
2022-02-26 21:55:19叱られた子どもが、「え、何ですか? 確かに「お前の母ちゃんデベソ」と言いましたが、からかってはいませんよ。心外ですね」と抗弁しても、不誠実な言い訳となるでしょう。ここで想定されているような文脈で、「お前の母ちゃんデベソ」と言うことそのものがからかうことなので、前者が成立するという
2022-02-26 21:58:44ことが、後者が成立するということだからです。「車に乗ってエンジンをかけてアクセルとブレーキを踏んでハンドルを操作して目的地に向かいましたが車の運転はしていません」と抗弁するのが、無免許運転の言い訳にならないのと同じことです。
2022-02-26 22:01:35(p.59) 「意味とは何か」という問いには、複数の解釈を与えることが可能です。「~とは何か」という形式の問いに対する答え方は、それはそもそも何なのか、どういう仕方で存在しているのか、触ったりできる物体なのか、といったことを説明する答え方を「存在論的な答え」、
2022-02-28 13:02:39それはどんな役割を果たすのか、どういう仕組みで働くのか、といったことを説明する答え方を「機能的な答え」と呼ぶことにします。もちろん、どういう機能を持っているかが、どういう存在かに依存するときもあるので、これら二つの答え方は密接に関連していますが、
2022-02-28 13:02:40「意味とは何か」という問いを議論する際には、存在論的な答えを出したいのか、機能的な答えを出したいのか、どちらかはっきりさせた方が議論がスムーズに進みます。 「意味とは~です」と、意味がそもそもどういう存在なのか特徴づける立場は、外在主義と内在主義に分けることができます。
2022-02-28 13:02:40ここでの「外」と「内」は、人間の心/頭の外と内を指します。意味の外在主義者は心の外に意味が存在すると考え、内在主義者は心の中に意味が存在すると考えます。外在主義者は、意味を具体的あるいは抽象的な事物の一種とみなし、内在主義者は、意味を心の働きの一環とみなします。
2022-02-28 13:10:03伝統的に、哲学者の間では前者の考え方が優勢で、言語学者の間では後者の考え方が優勢であるように見受けられます。 まず外在主義的な意味のとらえ方を見てみます。 外在主義における意味とは「指示」あるいは「指示対象」だと考えることができます。
2022-02-28 13:16:15「てめえぶん殴ってやる」 外在主義によると、「てめえ」の意味とはその発話の聞き手となっている人物そのものとなります。外在主義における意味とは「指示」「指示対象」だと考えることができます。「てめえ」によって、話者は人物を指し示しています。
2022-02-28 15:20:32指し示された人やものを「指示」(あるいは「指示対象」)と呼ぶとすると、「てめえ」といった語の意味はその指示となります。意味についての外在主義は「指示主義」(referentialism) と呼ばれることもあります。 外在主義は文のレベルへも拡張することができます。
2022-02-28 15:20:32「橋下は卑怯者だ」と誰かが吐き捨てたとき、その発話全体の意味は何でしょうか。 「橋下」の意味/指示は橋下その人でしょう。「卑怯者だ」の部分は、世の卑怯者たちが共通して持つ性質を指示すると考えることができます。twitter.com/akasakaromante…
2022-02-28 17:23:22トレンドに #橋下徹 記念ツイート 「軽症者は自宅で寝てろ」と言ってた彼が安住アナに検査の経緯を問われた途端、「それね、安住さん生放送でやめて。みんな思ってることなんです。腹の中でみんな思ってることなんです」と必死の言い訳。彼はそういう男なんですよ pic.twitter.com/CQDcb0LXqe
2022-02-28 07:00:33外在主義的な立場のひとつは、こうした人物や性質を組み合わせた「ラッセル的命題」(Russellian proposition) が文の意味だというものです。文の部分である「橋下」と「卑怯者」の意味、つまり橋下その人と卑怯者であるという性質によって作られる特殊なものが、「橋下」と「卑怯者だ」によって
2022-02-28 17:23:55成される文の意味となります。「命題」という用語は、伝統的に、推論を研究する論理学におけるひとつの単位として使われてきました。推論とは「みんな卑怯者だ。橋下もみんなの一人だ。だから、橋下は卑怯者だ」といったものを想定してもらえれば結構です。
2022-02-28 17:24:13この推論に登場する文のような平叙文それぞれを命題とみなすこともできますし、平叙文が表す意味を命題とみなすこともできます。ところで、推論は、正しい/真である前提から、正しい/真である結論を導くためのものです。そのため、推論に登場する命題の基本的な性質のひとつとして、
2022-02-28 17:24:28命題は真偽の評価が可能だ、というものがあります。命題は正しかったり間違っていたりする、あるいは、平叙文が与えられたとして、私たちは実際の状況を踏まえてそれを真だと思ったり、偽だと思ったりする、ということです。ラッセル的命題も、真偽の評価が可能です。
2022-02-28 17:24:42文が表す命題は、橋下が実際に卑怯者の性質を発揮していれば、真であるし、そうでなければ偽となる、というわけです。ということは、命題の構成要素の多くは具体的な人やものですが、命題そのものは具体的な事実や出来事ではないことに注意してください。
2022-02-28 17:24:58文が表す命題が事実そのものなら、命題が表された時点で、それを否定することなどできなくなってしまいます。 単語は具体的な人物や性質などを意味として表し、文は、そうした人物や性質などによって作られる、抽象的命題を意味として表します。
2022-02-28 17:25:11ことばの意味をその指示対象と同一視する、外在主義的な立場を採用するひとつの大きな利点は、それにより言語の公共性を直接的に担保できる、というところです。 意味の外在主義とは、言語の公共性を説明するために、言語の意味そのものが公共的そして客観的なものだとする発想なのです。
2022-02-28 17:25:27意味の外在主義からただちに導かれるひとつの帰結は、ことばの意味の詳細について、話者がコントロールできるわけではない、ということです。 「そのような意味で申し上げたつもりはない」「そのような意味でとられたとするならば、ご迷惑をおかけして申し訳ない」などといった言い訳がどうして
2022-02-28 17:25:44謝罪になっていないかというと、ことばの意味…どの語句が何を指示しているのかということ…は公共的で客観的な事実であり、個人がコントロールできる出来事の範囲を超えているからです。 誰かがもし「不適切」な発言をしたならば、そこで表現された公共的内容が不適切だったということであり、
2022-02-28 17:26:02発言者の深層心理や生い立ちなどが出る幕はほとんどありません。 「可能世界」(possible world)(世界がそうでありうるようなあり方)という概念を使って意味を理解しようとする外在主義に戻りましょう。
2022-02-28 17:26:24「橋下が欠席裁判をしている」 日本の刑法において、名誉毀損と侮辱は区別されています。前者は事実に関わる中傷で、後者は「バーカ」といった単なる罵りも含まれます。twitter.com/oishiakiko/sta…
2022-02-28 17:26:48へぇ、11月にこんな番組あったんだ☺️ 橋下徹サン、欠席裁判のフリートークにもかかわらず、自分で言っててむちゃくちや追い込まれてるやん。笑 法的遵守考えたら、そら、追い込まれるわなぁ。 こんな弁護士コメンテーターうけるわ。 twitter.com/donchanten1234…
2022-02-28 11:00:51この文で中傷する話者は何をしているのでしょうか。話者は橋下の名誉を毀損、評判を下げようとしていますが、そのために事実を報告しているわけです。ある事実が成立している、橋下のせいで世界がちょっと嫌な感じになっている、と伝えることにより、橋下の評判を下げようとしています。
2022-02-28 17:27:15世界がどうなっているか(と考えるか)に応じて、私たちは行動や態度を変化させます。文は、橋下についての非常にローカルな話ですが、広く考えれば、世界がどうなっているのかということを伝えています。これを「可能世界」の言葉で言い換えると、
2022-02-28 17:31:04話者は、橋下が欠席裁判をしている可能世界が成立している、それが現実なのだ、と伝えているということになります。橋下が欠席裁判をしている世界すべての集まりを、文が表す命題とするのが、可能世界の集合を文の意味とする、ということです。
2022-02-28 17:33:29橋下が欠席裁判をしている世界すべての集合は、文の意味をうまく表しています。というのも、その集合に含まれる世界のたったひとつの共通点が、橋下が欠席裁判をしているという事実に他ならないからです。他のことはさておき、橋下が欠席裁判をしていることは確かだ、私たちの住む世界はそうなっている
2022-02-28 17:36:45と伝えるのが、この文なわけです。 可能世界の集合を言語の意味とする立場も外在主義的な立場の一つです。外在主義・内在主義の論争と関係なく、可能世界の道具立てが、意味のモデルを与えるために、哲学者・言語学者だけでなくコンピューター・サイエンティスト等によりずっと用いられてきました。
2022-02-28 17:41:48可能世界の集合そのものが意味だ、と言わなくても、可能世界の集合が文の意味に「対応している」、意味を「表している」などと言い換えることもできます。集合自体は数学的な抽象物です。 意味の内在主義について。 意味の内在主義を説明するのは簡単で、これまで述べてきたことを、すべて心の中の
2022-02-28 17:46:01何かで置き換えればよいだけです。具体的人物が「てめえ」の意味ではなく、その人物に対応する心の何かが「てめえ」の意味となり、可能世界の集合に対応する心の中の何かが文の意味となります。「概念」そのものを意味とみなす発想と、そうした概念を合成する指令こそが意味だとみなす発想があります。
2022-02-28 17:49:57「卑怯者」概念は卑怯者とそうでないものを区別してくれるわけです。単語「卑怯者」も当然卑怯者に当てはまり、虹とか投票所とか、卑怯者ではないものに対しては当てはまりません。単語「卑怯者」の意味は、心の中にある、心的概念「卑怯者」だ、とする発想が導かれます。
2022-02-28 17:55:21単語の意味として概念が存在し、それらの概念を組み合わせて、文の意味としての概念が作られる、というわけです。 より複雑な立場として、言語の意味とは概念を呼び出して、それらを組み合わせて新しい概念を作る指令のことだ、という内在主義も存在します。
2022-02-28 17:58:04意味の内在主義を採用したとしても、言語の公共性が無くなってしまうわけではありません。言語の意味が指示でなくとも、人間は指示を行い、頭の外の事物について公共的に情報交換を行います。私たちは、内在的な意味から出発して、真偽の問える命題を認知するような動物なのかもしれません。
2022-02-28 18:01:50(p.75) 意味の機能的問いへの答えとして、意味には少なくとも4つの区別可能な機能的側面がある、という考えを説明していきます。 フレーゲも、「指示対象(Bedeutung)」、「意義(Sinn)」、「力(Kraft)」、「色合い(Färbung)」を区別しています。
2022-02-28 18:06:52a. 真理条件的内容 (truth-conditional content) b. 前提的内容 (presuppositional content) c. 使用条件的内容 (use-conditional content) d. 会話の含み (conversational implicature)
2022-02-28 18:12:44真理条件的内容は、可能世界の集合に対応する意味の側面で、事実関係を伝えるような内容のことです。「真理」とは、単に文とか発話が「あっている」「正しい」「真だ」といったことを指しています。私たちが使用する多くの文や発話は、真偽の評価が可能です。
2022-02-28 18:20:06「橋下のコタツ記事を載せる新聞社がある」 この文の真理条件とは、文が真になるそして偽になる条件のことです。日本語の初学者で、文の意味がいまいちよく分からない人にとっては、「この文は正しいですか?」という質問が理解できても、文が正しいかどうか答えられません。twitter.com/tako_ashi/stat…
2022-02-28 19:30:07「スポーツ報知」は28日だけで、15:26 15:42 16:19 と3つのコタツ記事(いずれも「ミヤネ屋」での橋下徹氏のコメントを書き起こしただけ)を配信。それを橋下氏のアカウントがすべてRTしてる。橋下速報かよ。 news.yahoo.co.jp/articles/894e7… news.yahoo.co.jp/articles/aa348… news.yahoo.co.jp/articles/4f65b…
2022-02-28 17:49:32文が正しいことを確かめるために、何をチェックしたらいいのか分からないのです。つまり、文の意味が分からないということです。文の意味と真理条件は密接に関連しています。
2022-02-28 19:35:12(p.78) 会話の参加者それぞれが、会話のためにお互い受け入れているだろうと思える背景的な情報の集まりを「共有基盤」(common ground)と呼ぶことにします。 この文の発話前の二人の共有基盤には、文の真理条件的内容は含まれていません。文を真にするような事実が成立している、とは共有基盤に
2022-02-28 19:39:13含まれていないわけです。発話前、共有基盤には、コタツ記事を書く新聞社があるのかないのかの情報は含まれていません。発話は、文の真理条件的内容を共有基盤に組み込もうという提案だ、ととらえることができます。異論がなければ、真理条件的内容が共有基盤に組み込まれて、会話が進展していきます。
2022-02-28 19:44:56純粋に情報交換が会話の目的ならば、会話の参加者がお互い真理条件的内容を提示し、それを共有基盤にどんどん付け加え、豊かにしていく、という作業が会話になります。しかし、そのような単純な会話は現実にはほとんど存在しないと思われます。
2022-02-28 19:48:10前提的内容も、可能世界の集合として表すことのできる、事実に関する内容です。真理条件的内容と異なるのは、共有基盤にその情報がもともと含まれている、という点です。情報が「前提」されているわけです。話者が何か新しい情報を提供する際、しばしば別の情報の正しさを前提としないと、
2022-02-28 19:52:45