違法タイムトラベラーこと、リリア・ノーランスが盗んだのは過去の発明品でもある「ヒトの記憶を奪い、操る懐中時計」だった。リリアはとある過去の時代へ向かい、一人の少年が居る屋敷へ行ったが、空気以外何もない白の世界へ誘われたと思えば、そこに現れたのは最初に出会った少年に似た者で、リリアはその子に懐中時計を埋め込ませたのだった――。 (※連載当時のまま掲載しているので、誤字脱字があります)
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伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

主が守り、そのようなことを言っていたなんて――。 マリヤはその目に涙を浮かべそうになるも、直ぐに首を振った。 「でもな、アイツはもう限界を迎えるんだよなぁ」 「限界?」 「そう、記憶の死に神として、キサラギとしてもな」

2019-01-30 18:54:44
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

姉の言う言葉は理解できているからこそ、その事を否定したい自分と、肯定せねばならぬ現実が彼女自身に突き刺さり、その目に涙が流れ「主は、さいごを……迎えるのですね」と、声を震わせながら聞いた。 「奴はもう、アタシらでも、あの目隠れ事務所長さんの力でも救えないも同然だ」

2019-01-30 19:00:12
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

竜誠は、一人の男の傍にいた。 その人は最早、人間としての形は残っていても、人間としての存在が徐々に薄れかかっているのは、竜誠も同じことだった。 「兄さん、やっと見つけたよ」 「……」#事務所物語

2019-01-30 21:09:12
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

男は竜誠の声を聞いて反応をしているが、その動きは、ただ、反応している風にしか見えない。 「兄さんが作り出したこの世界、他の人たちもだけど、僕の場合は長く居ちゃあダメだってこと、すっかり忘れてたよ」 「…」

2019-01-30 21:13:04
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

地べたに座り、その男を起こさせ、自身の膝の上に頭を乗せ、帽子を脱ぎ、濃い灰色と薄い灰色のツートンヘアーが見えるように言った。 「僕たちは、兄弟でもあり、二人で一人。小さい時、僕が作った黒の世界で君に出会った時、君は僕に向かって言ったか覚えてる?」 「――」

2019-01-30 21:20:43
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「『同じだ、いいや、この場合はそっくりだ!君は黒、僕は白!これで君も僕も寂しくない、でしょ!?』…あの時は驚いたよ、僕にしか作れないあの世界で、似たような姿の子が目の前に現れたんだから。それ以来、僕たちは会える限り会って遊んでいた。…けど、そんな時にあの女が家にやって来た…」

2019-01-30 21:23:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「そして、僕たちは別れてしまった。年月が経ち、君があの家に戻って来た時はすっかり成長してた。見違える程、そして、新たな力を得てしまった姿で、僕は、君、いいや、兄さんが居たあの日々を奪われ、世界中を探し回ったんだよ。信じられないとは思うけどね、長い旅路だったんだから――」

2019-01-30 21:26:48
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

竜誠は徐々にその男を奪い始めている、花が水を吸うように、蜜を頂く虫のように…。 そしてやがて、自分とも目の前に居る男にも似たような姿になり、立ち上がり、その場を離れ、歩き始めた。

2019-01-30 21:33:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

紗南は先ほど抜き取った記事を読んでいたが、次第にその手が震えていた。 「これじゃあまるで……、記憶の死に神が昔から存在していたって事になるんじゃあ…」 ――早く、この事を秋山所長に知らせなくては! そう思い、紗南は記事をポケットに仕舞い、顔を上げた時である。#事務所物語

2019-01-30 21:36:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

背後から足音と「そんなに急いで、どうかしたのか?」という声が聞こえ、紗南は振り向いた。 「あ、あなたは…」 新聞の記事には写真や誰かが描いた、記憶の死に神の特徴を描いた似顔絵載っていたのを思い出す。

2019-01-30 21:39:15
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「記憶のし……」 いいや、自分が聞いた声は知っている声なのに、何故、いま居る者はあの姿ではない? 「竜誠、さん…??」

2019-01-30 21:42:08
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

人の死を誘い、さらには寿命を貰う者を【死に神】という。 ならば、人の記憶を奪い、さらには操りも出来る者はなんと呼ぶのか…。 「君か、秋山愁治の記憶の中に居るのは』 基本的な声は竜誠だが、時折誰か別の声も混ざって聞こえる上に、見た目は手に持つ新聞の切り抜きの写真と同じ者。#事務所物語

2019-01-31 18:39:25
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

紗南は少しずつ後退りしながら「なんの、ことですか?」と聞く。 『どれだけ、愁治の記憶を奪い操ったとしても……君の記憶だけは、手に届かない訳だ」 たった一回瞬きをしただけだというのに、如月竜誠は朝松紗南の近くまで来て、耳元で囁いた。

2019-01-31 18:43:58
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「もしも、君という【存在】を消せば、愁治はどうなるかな?愁治の事だ、怒りに身を任せて何かをするかもしれない、…が、今の姿ならば、君も、愁治も全て消すことが出来る』 ――この人はこうやって、自分を知った者は全てこうしてやってきたんだ。 「所長が、私の為にそんな事…」

2019-01-31 18:50:00
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

『君が思っている以上に、愁治は君の事を想っているからこそ、アイツの記憶はすべて奪えないも同然だ」 「だから、私を餌にするんですか?」 「まぁ、受け取り方は自由だが、そういう意味になるだろうな』

2019-01-31 18:54:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

右目の懐中時計の時針と分針と秒針が動き出し、紗南の視線をこちらに向かせてしまうのと同時に意識が徐々に遠のいていく。 これが、記憶の死に神の存在意義であると言わんばかりに居た時であった。 「テメェ、長身から離れろ!!」 その声に反応し、そちらの方を向く。

2019-01-31 19:00:53
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その男、身なりも見た目もボロボロだが、確かにその場に居て、こちらにやってくる。 『まさか、俺が作り出した黒の世界で生き残るとは思わなかったぞ、秋山愁治」 「お前、散々と人の記憶をゴッチャにしてくれたじゃねーか」 「それが存在意義だからな』

2019-01-31 19:03:53
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

カッと短い笑い方をするものの「存在意義、人々の記憶を奪って操るのがか?そんなの、最早人間のすることじゃねぇよ」と近づいて怒鳴るに似た声で言い、紗南の身に何かを貼った途端、竜誠の元に居た紗南は瞬間移動され、いつの間にか二人だけになった。

2019-01-31 19:08:11
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「これで、邪魔者は居なくなったな」 『病み上がりの身体で、対等に戦えるのか?」 「まだ、本調子って訳じゃねぇから自信ねーけど、【やれるとこまでやる】のが俺の信条だ」 「おもしろい、最初から行かせてもらうぞ秋山愁治』 「望むところだ、記憶の……いいや、如月竜誠さん?」

2019-01-31 19:12:40
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

朝松紗南が次に目を覚ましたのは道路の真ん中で、幸いにも車は通っていなかった。しかし、何時来ても不思議じゃないため、すぐさま歩道の方へ行き、改めて見渡した。 ――ここはたしか、事務所近くの…。#事務所物語

2019-01-31 21:10:42
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そう思い、紗南は歩き始めた時である。 建物の窓に本来映らない物が見え、それに視線を向けると、何処から遠くで「お兄ちゃん、はやく!」という自身の兄を呼ぶ声の次に「愁治、マイコ、それにアナタも!」という声も聞こえ、紗南は思わず見入ってしまう。

2019-01-31 21:15:19
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

帽子を深くかぶり男の子が見えたと思えば、そこで時が止まり、次の建物の窓にシーンが続いて行く。 紗南は急いでそこへ向かえば、その窓に映されていたのは泣き虫な女の子と、その子を守るお兄さんの姿で、前髪で半分程目元が隠れている。

2019-01-31 21:22:05
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そのお兄さんは女の子と同じ身長までしゃがみ「大丈夫だ、俺がまた君に会えるように魔法をかけてやるよ」と言ったのだ。 女の子は「ほんと?」と聞けば「あぁ、といってもこの魔法は次何時会えるか解らないから細かい保証はつけないけどな」と、右手で髪を搔き照れつつ返したのだ。

2019-01-31 21:24:01
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――あの癖、まさか……。 紗南の中で少しずつ、何かが思い出してゆく。 しかし、肝心なところが思い出せずまま、消えてゆき、紗南は再び見える窓を捜し歩いたものの、結局それ以降見える窓はなく、さいごに辿り着いたのは、最も見覚えがある場所であった。

2019-01-31 21:26:18
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「秋山事務所…」 いつ風に飛ばされてもおかしくない、張り紙がついている玄関扉に、一切動かないのに、ずっと置かれている三色ポール。 何時もと変わらない風景が、そこにある。

2019-01-31 21:29:43
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

白い世界に綻びが出来た時、終わりが近づいている時を示す。 しかし、その中でなおも二人の男の戦いは続き、秋山愁治は如月竜誠におされていた。 ――んだよ、また俺はコイツに負けるのか…。#事務所物語

2019-01-31 22:05:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

そんな事を思って瞼を一瞬だけ閉じた時、自分の所で働いている事務員兼雑用係の顔が浮かび「負けるか、この野郎!」と思ったのと同時に声に出しながら言い叫び、一気に形勢を逆転し始める。 ――なんだ、この気は。今までに見た事が無い程だ…! 「そう来なくてはな、秋山愁治!!』

2019-01-31 22:08:04
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その様子を遠くで見ているリリアとマリヤがいる、リリアは面白そうに二人の戦いを見ているが、マリヤは心配そうな表情を浮かべながらその様子を見ている。 ふと、リリアが上の方を見て「おいおい、この世界は崩壊するぜ」と言ったのだ。

2019-01-31 22:10:22
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

その声に反応し、マリヤは「崩壊すると、どうなるですか」と姉に聞く。 「そうだな、まずアイツの存在は消えて、この時というのもなくなるって所かなぁ」 「そんな…」

2019-01-31 22:12:43
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「だってそうだろう、あの兄弟は…、いいや、元々は一人だったのが二人に別れたのまではいいが、アタシが来たから時が変わり、アイツが存在し始めたんだからな」 何処か穏やかそうに話す姉の姿を見て、マリヤは確信する。 「やはり、貴女は私の姉じゃない…」

2019-01-31 22:16:22
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「何度でも言えばいいさ、でも、アタシとアンタは同じ親から生まれた姉妹だ。上っ面だけは言い換えられても、事実は変わらない。だろう?」 リリアの言葉に何も言い返されない、マリヤは悔し涙を浮かべそうになるも、何とかばれぬよう、強く言い返した。 「どうして、そのようなことしたのですか?!」

2019-01-31 22:17:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「貴女が来なければ、主は…いいえ、あの方やあの懐中時計によって奪われた街の人々だってあんなに苦しまないで済んだというのに!!」 妹が泣いて訴えている、そんなこと、今まで何度だって見たのに、リリアは何時もと変わらずの声色で返答をする。 「興味本位、そういうことだ」

2019-01-31 22:20:41
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

遂に、愁治はキサラギの…いいや、今や如月竜誠の右目に埋め込まれている記憶を奪う懐中時計へ手を伸ばしながら外せる法を言い叫んだと同時に引き抜けば、時計から直接に奪われた人々の記憶が流れ出し、愁治はその場に立ちすくむ。 ――コイツ、俺に棲みつくつもりか?! #事務所物語

2019-01-31 22:27:50
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

それと同時に、如月竜誠は人という形を徐々に失いつつ懐中時計と共に新たな宿主を見つけたかのように愁治の目を見るが、当の本人は「お前らはな、どの時代に居ても無駄なんだよ!!」と言い叫びながら滅し法の能力を使い、この世界を壊す。人々の記憶を取り返し、自らの出口を作り、この世界を出た。

2019-01-31 22:35:43
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

--------------- 崩壊寸前、最早白とも黒とも言えぬこの世界に残るのは、未来人と過去と居てはならぬ者だけになってしまった。 リリアは足元にあった例の懐中時計を足で踏み壊し、マリヤは消えかかりそうな人間の下に居る。 「行くぞ、マリヤ」

2019-01-31 22:41:04
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

マリヤはその人の手を優しく握りながら「主…、いいや、キサラギ様。ありがとうございます…」と静かに例を言い、その場を離れようとしたが、その手が返され小さな声で「あ、りが、…とう」というのを聞き、また泣きそうになる自身の眼を拭き、マリヤは「こちらこそ、ありがとうございます」と返す。

2019-01-31 22:46:41
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

――私は、主と共に居た時が何よりも楽しかったです。この事は、決して忘れはしませんから…。 マリヤ自身の能力、何処へ居ても【一度定めた相手を最後まで監視する】力は、いまここで失効された。

2019-01-31 22:49:23
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

-------------------- 紗南は体育座りで俯いたまま、事務所の玄関に居た。キィッと、玄関扉の開く音が聞こえ、その顔を上げる。 「いま、帰った」 「……秋山所長……」 今にも泣きそうな顔だ、愁治はそんなことを思いつつ、紗南の事を見ている。

2019-01-31 22:52:27
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

「所長、大丈夫なんですか…?」 「何が」 「だって、あの場所で色々あって、その……」 言う端々でぐずる、まったくもって、長身はあの時とちっとも変りない。 そんなことを思いつつ、愁治は紗南の頭を撫でながら「もう、大丈夫だ。安心しろよな」と優しく言う。

2019-01-31 22:54:49
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

ぶわっと紗南の目から涙が溢れたと思えば、わぁんわぁんと泣き始め、愁治は紗南の背中をトントンと優しく叩きながら言った。 「心配かけさせたな、ホントにもう、大丈夫だからな」

2019-01-31 22:57:23
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

#事務所物語【次回予告的コーナー】 愁治「……長かったな、今回のお話」 紗南「まぁ、このお話のターニングポイントにもなるお話ですし、何よりもかなり重要な方々が登場しますからね」 愁治「ノープランで行くのも大概にしろよな、まったく…」 紗南「次回はどういうお話でしょうか?」

2019-01-31 23:00:39
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

慎呉「久々に俺の登場だぜ!どうも、お久しぶりですお嬢さん!」 紗南「慎呉さん」 愁治「鬱陶しいのが来たな、これは…」 紗南「まぁまぁ、それで慎呉さん、次のお話はどういう感じなんですか?」 慎呉「なんでも、我が街壱ノ笠にはヒーローがいるらしいっていうお話です!」

2019-01-31 23:03:11
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

愁治「なんだと?!それをもっと早く言え!!」 慎呉「首、首苦しいってぇ…」 紗南「秋山所長、落ち着いて下さい!」 愁治「これが落ち着いていられるかってーの!!」(お話は、つづく)

2019-01-31 23:04:40
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まとめたひと
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

基本は自分が考えた創作ッ子達の事を呟いたり、絵を上げたり、お話も書いたりします。偶に違う話等もしておりますが……ようは気まぐれだが基本は創作用アカウントです。(※食べても美味しくない鶏野郎で無言フォローをしたり、時として話すとアツくもなりますがそれでもよろしければです)御用の方はDMまで。