その時代は違法タイムトラベラーから見れば、あまりにもムカシすぎる場所だが、タイムトラベラーにはそんなことはどうでもいい事で、自身が狙っている物さえゲット出来ればそれでいいという気しかないのであった。#事務所物語
2018-12-21 19:17:20狙い物が何処にあるというのは解っているが、いざ来てみると薄暗い場所で、一体何処にあるんだと思いながら辺りを見渡した時、視界に映ったのは一つの金庫であった。 見つけた――、そう思うも、金庫の暗唱番号なんぞ知る由もなく、履いている靴の踵にあるスイッチを押せば瞬く間に鋼鉄と化した。
2018-12-21 19:21:16ガンガンと何度も何度もタイムトラベラーはお得意の足蹴りをお見舞いし、ついにガチャンと音が鳴り、その戸を開け、狙い物を手にした時であった。 「そこを動くな、違法タイムトラベラー、リリア・ノーランス」 背後に銃を構える男が一人、リリア・ノーランスと呼ばれた者は背を向けたままでいる。
2018-12-21 19:25:06「おやおや、もう来ちゃったか?」 「お前のしている事は既に解っているからな」 「ほぅ、それはご苦労様なこっただね。未来刑事の道長清次郎さん?」 リリアはようやく正面を向き、道長清次郎は言う。 「今すぐそれを元の場所へ戻せ、そうしたら、お前の罪は多少なりとも軽くなるぞ」
2018-12-21 19:28:08「でも、アタシの罪は何時までも問われるわけだ?」 「あぁ、その通りだ」 「ならば、アタシは逃げるまでさ!」 薄暗い室内とはいえ、足早くリリアは道長に近づき、足の脛を蹴りつけ怯ませるも、道長はリリアの顔に銃口を向け、一時的に足を止めさせた。
2018-12-21 19:30:25「お前は最重要罪人だからな、捕まえるにもなるべく傷つけさせぬというのが上の命令だが――」 「この場合はやむを得ないって?」リリアは銃口を右手で掴み、自らの額に近づかせながら「ならば撃ってみろよ、未来刑事さん」と聞く。
2018-12-21 19:34:13道長がロックを解除し引き金を引こうとしたが、リリアは更に蹴りを入れ道長を怯ませ距離をとり、去り際に言い放つ。 「そこで時代が変わるのをハンカチ噛みしめながら見てろよ、未来刑事!」
2018-12-21 19:36:46違法タイムトラベラーこと、リリア・ノーランスが向かったのは、先ほどよりも少し先の時代の街外れにある、一軒の屋敷であった。 「ここが、奴の住んでいる所か」 扉に向かってノックをすれば、誰かがこちらにやってくる足音が聞こえ、その場で立ち止まり「だれ?」と幼い声が聞く。#事務所物語
2018-12-22 19:39:17「坊やだけなのかい」 「うん、そうだけど…。父さんと母さんに用なら、今は出かけてていないよ」 「残念ながら、君の両親に用はないんだよな」 「そうなの?」 「君に用があって来たんだ、中に入れさせておくれよ」 「でも、知らない人は入れちゃいけないって、母さんに言われてるし」
2018-12-22 19:41:54親の言う事は守るタイプの子供か、とリリアは思いつつも「じゃあ、こうしよう。アタシが名前を言えば、君にとってはもう知らない人じゃない。だろ?」と返す。 「そういうものなの?」 「そういうもんだよ、世の中ってのはね」 「ふぅ~ん…」
2018-12-22 19:44:25「アタシの名前は、リリア・ノーランスだ」 「へぇ」 完全に納得はしていないが、次に進める手筈は出来たハズだ。 それに、こちらのペースに巻き込めば、後の事はどうにかなるだろう。
2018-12-22 19:47:47扉越しで、男の子も自分の名前を言おうとしている声が聞こえ「いや、君の名前はもう知ってるよ。キサラギ君」とリリアは返す。 「なんで知ってるの?」 「アタシが知ってたからだよ」 「そうなんだ」 「じゃあ、入ってもいいよな?」 「う、うん…」
2018-12-22 19:49:09男の子は取っ手を掴み扉を開けようとした時である『開けるな』という声をが耳元で聞こえ、辺りを見渡すものの、自分以外の人間なんて居ないのに――と思う。 「どうした、キサラギ君?」 「うん、なんでもない」 『開けるな!アイツはヤバい存在だ!!』
2018-12-22 19:52:29今度こそ、取っ手を掴んで扉を開けた時であった。 目の前に立っていたのは、自分よりもはるかに身長が大きい人間がそこに居て「会えて嬉しいよ」というものの、その声は決して喜びが含まれておらず、男の子は思わず後退りするも、その者はあっという間に男の子を捕まえたのだ。
2018-12-22 19:55:11「離してよ!!」 ギャアギャアわめくものの、リリアは片耳を塞ぎつつも「君に用はないんだよなぁ…」と言い捨てたのと同時に、男の子を掴んでいた手を離せば、床に落とされ、今にも泣きそうな声を出すが、一切として泣かない姿を見て関心していた時。
2018-12-22 20:00:01『それ以上、その子に手を出すな』 何処からともなく、先ほどの男の子と似たような声が聞こえたのと同時に、瞼の瞬きを数回ほどしただけで、自分達が居た場所がいつの間にか変わっていたのだ。 リリアは一瞬だけ驚くものの、目の前にもう一人の男の子が現れ、直ぐに現状把握をする。
2018-12-22 20:02:41リリアの傍に倒れている男の子の所まで行き『大丈夫?』と聞けば「うん、大丈夫だよ」と返す、近くで見れば違いは解るが、遠くに居れば見間違ってしまうほど似ている子供達だなとリリアは思う。 「アタシはね、眼鏡をかけているお前に用がある」#事務所物語
2018-12-23 19:46:14『僕のこと?』 「他に誰がいる?」 『じゃあ何故、この子をヒドい目に合わせたのさ』 「こうでもしないと、お前が出てこないっていう話を事前に聞いてたからだよ」 『誰から聞いたの?』 さっきから質問が多い、これだから子供と相手するのは苦手なんだ。
2018-12-23 19:49:42リリアはそう思いつつも「アタシが住んでいる時代のある人間だよ」と答える。 眼鏡をかけた男の子は地べたに倒れていた子に手を差し出し、その子を立たせる。 「回りくどいことは面倒だから、単刀直入に聞くが…」ポケットから例の時代で盗んできた懐中時計を取り出し二人に見せたのだ。
2018-12-23 19:54:09「この時計、綺麗だろう?」 まるで、拳銃を出されて脅されるのかと思ったかのように二人は驚いた表情を見せるが、リリアが出してきた物と言動に対してのギャップがあり、別の意味で驚いてしまった。
2018-12-23 19:58:07だが、リリアが最初に会った方の男の子の表情は曇る一方で、眼鏡をかけている方の男の子は目を光らせながらその時計を眺めている。 「きれいだね、この時計」 一瞬だけニヤリと口角を少し上げるリリアだが、直ぐに元の表情に戻り「この時計はな【人の記憶を奪い・操る】力があるんだ」と言った。
2018-12-23 20:02:09「【人の記憶を奪い・操る】力…」 「君にはこの世界を作る力がある上に、コレを使えば能力は二つ持つことになるんだ」 「本当に?」 「あぁ、そうだとも」 リリアは懐中時計を眼鏡をかけている方の男の子に渡そうとするが、隣に居た男の子は「それに触るな!!」と言い叫ぶ。#事務所物語
2018-12-24 19:49:22「なんで?すごく綺麗だよ、君の目にも見えるでしょ」 「そんな危ない物をタダであげるなんて、ヘンだと思わないの?」 眼鏡をかけていない方は妙な勘が働いているものと来たもんだ――、リリアは思うのとホボ同時に、足が既に出ており、気づけば地面にへばっている。
2018-12-24 19:53:55「やれやれ、子供ってのは偶に妙に勘が良いんだよな。…本当、大嫌いだ」 「お姉さん、悪い人なの」 「端から見ればそう見える、けど、アタシはそう思ってない。最も、今やった事は癖みたいなもんだよ。君にだってあるだろう?気づかぬうちにやっている事とか…。そういうことだよ」
2018-12-24 19:56:43「本題に戻ろう、この時計が欲しいか?」と男の子に聞く、当の本人は、この状況と違法タイムトラベラーの提案に対し迷うものの「…うん!」と答えたが次、リリアは男の子に気を失う程度に一発お見舞いした後、白の世界は元の場所へ戻り、床で倒れている男の子を放って、屋敷を出た。
2018-12-24 20:02:20とある時代で、ある建物を見下ろす女が居た、アンバランスな長髪で若葉色に目の色は青で、藤色のマフラーを巻いている。 「とんでもない事が起きそうだな、でも……」 ニヤリとする口元になりつつも「これからが楽しみだよ」と言い、あっという間にその場から姿を消す。 #事務所物語
2018-12-25 18:44:19東の荒れ地、そこに一件の屋敷が建っており、住んでいる人間は二人居る。 そのうちの一人で、青緑色で独特的な前髪に、体には所々傷が絶えぬ少女は、屋敷中央にある天窓から昼空を眺めていた時、この屋敷の主は外からの帰り、少女を見る。
2018-12-25 18:48:45「居たのか」 「主の帰りを待っていましたから」 「そう、か――」 「本当ならば、私も主と共に行動をした方が良いのですが…」 「あの者から、一歩も出るな、と言われているらしいな」
2018-12-25 18:52:25「はい、私は所詮、主を監視する為に呼ばれました。例え、外へ出なくても、私自身の能力があるからこそこうして居られますが――」 「何処へ居ても【一度定めた相手を最後まで監視する能力】か…」
2018-12-25 18:55:31少女は黙って頷いた後「いくら力があるとは言え、自身の目で監視しないのであれば、私が呼ばれる必要はない。——姉の、リリア・ノーランスの思考は、私には解りません」と返したのであった。
2018-12-25 18:58:02早朝、人の気配を感じた秋山愁治はベッドから起き上がり、急いで外に出たが、辺りには人っ子一人も居なかった。 「気のせい、か…?」 しかし、自身が感じた気配は確かに、この時代の人間ではないような気がしてならないと考え、頭を掻くが意味不明な言葉を飛ばした後、再び中へ入る愁治。 #事務所物語
2018-12-26 18:50:17そこから更に数時間経ち、朝松紗南が事務所へやって来てたのも知らず、愁治はソファの上でまだ寝ており、紗南は一息つくも、何時ものようにキッチンでコーヒーを淹れる用意をし、お湯を沸かし始めた頃、愁治はムクリと起き上がり、紗南の方を見て「何故、人が居る?」と思った時だ。
2018-12-26 18:56:02「おはようございます、秋山所長」 何時ものように挨拶をした紗南の姿を見て、自身の中で何かが流れたような感覚に襲われそうになるも、自身の頭を掻いた途端にその感覚が治まり「あぁ、はよさん」と、返事をしたのである。
2018-12-26 18:58:47「仕事でもしてたんですか?」 「なぜそう思った?」 「だって、秋山所長が応接室で寝てるなんて。滅多にないですから」 『自分の部屋で寝る』のが普通ならば、ココで寝るのは『滅多な事でなければ』という風に考えるのが妥当かもしれんな。
2018-12-26 19:02:07そんな事を考えていると「秋山所長、コーヒー飲みますか?」と聞いてくるものだから、愁治は「あぁ、一杯貰おうとするかな」と返し、ようやくソファから立ち上がった。
2018-12-26 19:03:30愁治がコーヒー、紗南がココアを飲み始めた頃であった。 ピンポーンと呼び鈴が鳴り「まだ営業時間じゃ無いんですけどね……、どうしますか?」と紗南は聞き、愁治は時計を見た。 時刻は午前9時35分。 「どうせ、酔っ払いの類だろ追っ払っとけ」#事務所物語
2018-12-27 22:14:37事務所の営業時間は午前10時から、最も、その時間で開けたとしても依頼人が来るとは限らない為、秋山事務所は人が来ない限りは開店休業状態が日常茶飯事だが、それでもなんとか事務所の営業が成り立っているのだから、驚きである。
2018-12-27 22:16:52「でも、外は寒いですし…」 天気が良いとは言え、秋から冬へと季節が変わる頃の北風は寒いも同然で、紗南は既にマフラーと帽子、そして冬用のダウンコートを着て事務所まで通勤している為、外に居る人の事を心配もする。
2018-12-27 22:22:24愁治は頭を少し掻きながらも「…まぁ、ヘンなヤツじゃなかったら中に入れて、コーヒーくらいは出しとけよ」と言い、紗南は「はい!」と威勢よく返事をし、玄関へ向かった。
2018-12-27 22:23:55朝松紗南は駆け足で玄関へ向かい、何時ものように「どちら様ですか?」と聞いた。 「竜誠、愁治の友人だ」 声から察するに男であることはすぐに解り、紗南は「少々お待ち下さい」と言い、一旦応接室まで戻り「秋山所長、竜誠さんっていう方はご存知ですか?」と聞く。#事務所物語
2018-12-28 19:33:47「りゅう、せい…」 愁治はまた、その手で髪の毛を掻きまくったかと思えば、唐突にその手を止め「あぁ、アイツか…。解った、中に通しておけ」と返したのである。 「わ、わかりました」 紗南は再び玄関へ戻り、今度こそ扉を開け、竜誠を招き入れたのであった。
2018-12-28 19:37:39朝松紗南は言われた通り竜誠と言う男を事務所へ招き入れれば「お前、久々だな」竜誠の姿を見た愁治が言う。 「久々?この間、会ったばかりだろう」 「何いってんだよ、俺はお前と最後に会ったのは、確か……」 紗南は愁治の様子を見て「また、髪の毛を掻いてる――」と気づく。 #事務所物語
2018-12-29 18:42:21無論その様子は竜誠にも見えており、何か思いつめたような表情になるものの、当の愁治は「まぁ、細かいことは気にしないでおこう。それで竜誠、お前は何の用でここに来たんだ?」と聞く。 「話があって来た」 「そうか」
2018-12-29 18:45:30二人が話し始めるのを見計らい、紗南は愁治のコーヒーを淹れ直し、新たにやって来た竜誠にも差し出す分も用意し始めた。
2018-12-29 18:46:35街道を歩く一人の男、杖代わりに傘を手にしているのは「急に降ってこなくても良いように」との事だが、そういう日に限って降らない方が多かったりするのが、なんとも言えがたいものである。 向かう場所は一軒の時計屋で、男は当たり前のように道を歩ていた時であった。 #事務所物語
2018-12-30 18:51:14偶々通りに居た者が、その男を二度見て驚いたような表情でコチラを見た次第「ユッ、ユーレイだぁ!!」と大声を上げ、慌てながらもその場を去って行った。 男は「そんなにおかしいか、両あしが見えない事が?」と独り言を呟き、改めて自身の姿を見る。
2018-12-30 18:54:11自分の目からは両あしは見えているが、先ほどのように、他人からは一切として見えない。言ってしまえば、上半身が浮いているような存在して男は見られたということになる。 「あの男は、狭い世界しか知らなかっただけか」 そう言い捨て、男は再び歩き始めた。
2018-12-30 18:55:59カサッ カササッ 確かに【あし】はある。 しかし、相手には見えていない。 それが、男にとって現実でもあり、現在の姿である。
2018-12-30 18:57:15