結婚1年半程で離婚することになったogt夫妻。共に暮らしたマンションから引っ越す準備、最後の共同作業の日に、不思議な事件は起きて……。別れる二人が、○○しないと出られない部屋に閉じ込められる話。
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ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

人間でなく、ダミーを使うの。ほら、練習相手に人間の異性は問題あるから」「いや、そういうことを言ってるんじゃねぇよ。…もういい。わかった。……アホなことしてんじゃねぇよ」夢主が、むっと唇を尖らせた。「アホとは何よ。百さんに喜んでもらいたくて通ってたのに。でも、上手くいかなかった」

2020-05-27 18:32:49
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

夢主は怪しいその他をトランクに元通り押し込み、テーブルの離婚届を引き寄せた。「あの人、すっごく綺麗な人。セッススもきっと相性が良いんだろうね。敵わない。何もかも。おまけに……」……赤ちゃんまで。夢主はボールペンを手に取り、自分の名前を書いた。「おめでとう。貴方は自由よ」

2020-05-27 18:34:20
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「夢主……」「最後は、最後くらいは優しい旦那様でいてね。百さん……。これでもう、仲直りしましょう?もう私たち、元にはには戻れないけど、とにかく、条件を合わせて、神様か悪魔だかわからない誰かを満足させて、この部屋から一緒に出ていきましょう」…そして、あとは別々の道に。…それでいい。

2020-05-27 18:46:10
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

あの写真や書類が事実でないと証明するのは、この部屋を出てからやろうと思えばできるだろう。でも、二人は終わってしまった。生まれてくる子供をなかったことにはできない。夢主は、空っぽの自分の下腹を撫でた。「お腹減ったね」夢主は頬についた涙の跡を拭った。「仲の良い二人を演じよう?

2020-05-27 18:59:25
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

頭の中に、またあの言葉がよぎる。わかってる。わかってるわ。もう時間切れだってこと。心の中で、二人を閉じ込めた何者かに夢主は心で語りかける。欲しいものをあげる。それでいいでしょう?

2020-05-27 19:03:03
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

次の日の朝(とはいえ、時間の感覚は麻痺していたので、時計だけが頼りだったが)、夢主は眠っているogtを寝室に残し、朝食の用意をした。この数日の辛い気持ちは、今は穏やかに凪いでいる。外は未だに闇に包まれ、窓から差し込む明るい光はなかったけども、爽やかな朝だと彼女は思った。

2020-05-27 19:46:35
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

まな板でベーコンを切りながら、中学生の時に亡くなった祖母の好きだった歌を思い出し、|口ずさんだ。“サ|ント|ワ・マ・|ミー”幼い頃から、なんという意味だろうと思っていた。時々泪を拭いながら玉ねぎを刻む。オムレツを作るのだ。“悲|し|くて……目|の前が……暗|く|なる……”……本当だった。

2020-05-27 19:46:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

本当に悲しい時、目の前が真っ暗になるという気持ち……。「……おはよう」振り向くと、久しぶりに身なりを整えてきたogtが、ぎこちない様子で朝食の席に着くところだった。「…おはよう。百さん」久々のオールバックの頭を見て微笑む。しばらく前髪を下ろしていた彼を見慣れていたので新鮮だった。

2020-05-27 19:46:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

最近では下世話な話、面倒だからといつでも“できるよう”お互いガウンだけで過ごしていたのが、今朝はポロシャツとデニムパンツ。休日によく見ていた姿だった。夢主も、今日は普段着姿だ。ベーコンオムレツとサラダ、トーストの、絵に描いたような平凡な朝食だ。 二人で向かい合って食事を摂った。

2020-05-27 19:46:37
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

夕食から、ogtは彼女の手料理を口にするようになっている。泣きたいような、幸せな気持ちだった。もうすぐ終わるものではあったけれど。「今日は何する?」「……何か、映画見るか。テレビのHDDに録画して観てないのが溜まってるだろ」二人で一緒に見ようと思っていて、仕事の忙しいogtの都合で

2020-05-27 19:46:37
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

観られなかったものがあったのを、夢主は思い出す。「買いためたやつも、まだ見てないし」「うんうん。観よう。楽しみ」

2020-05-27 19:46:37
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

牢獄の看守に、仲の良い姿を見せつけ、互いに歓びを分かち合う演技を見せてみよう、というのが彼女の提案だった。「今まで不仲な様子ばかり見せつけていたんだもの。ちょっと驚かせてやりましょうよ。百さんだって、早くここから出たいでしょう?私もそう。さっさとここを出て、私も今度こそいい男を

2020-05-27 19:58:16
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

見つけるわ」……百さんときたら、ポカンとしてたなぁ。オムレツを口に運ぶ夫を見ながら、夢主は吹き出した。「…なんだ?」「ううん、なんでもない」夢主は笑った。

2020-05-27 19:58:16
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「なぁ、さっきの歌…」「ん?」「俺のばあちゃんも好きで歌ってた。サ|ン|ト|ワ|マ|ミー。…前から思ってたけど、なんて意味なんだろうな」「……さあ。それより、どれから観る?」…教えたら変な顔されそう。こんな時だもの。夢主は、話題を変えた。

2020-05-27 20:18:26
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

そのあとは、リビングでいつの間にか用意された茶菓子や飲み物を口にしながら撮りためた映画やDVDを仲良く観た。雨の日の休日、いつもそうしていたように。夕飯は、腕によりをかけて豪勢にするつもりだった。もしかしたら、これが二人の、最後の晩餐になるのだから。今日は最高の夜にする。

2020-05-27 20:18:27
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

以前のように、二人で映画の内容にツッコミを入れたり、感想を挟んだりして楽しい時間を過ごした。結婚するまでの約半年近い交際では、映画の好みが重なっていたこともあり、デートの度にいろんな映画を見た。ミステリーや冒険物、アクション…ただ、男の人の多くがそうであるように、恋愛ものだけは

2020-05-28 01:24:25
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

ogtは苦手だった。ひとつだけ夢主が一人で見ようと思って忘れていた恋愛映画がHDDに残っていて、別のものにしようとリモコンを手にしようとしたとき、ogtがそれを見てみたいと言い出した。「貴方の苦手な恋愛ものだよ」「たまにはいいさ。お前がどんなのが好きなのか見たい」「でも」「いいから」

2020-05-28 01:24:25
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

映画は、恋愛が絡むけれど、ミステリー要素があった。無実の罪で逮捕され、死刑が決まった恋人。彼の無実を晴らすために、女は自らが彼の無実を晴らそうと奔走するのだ。調べれば調べるほど、彼の仕業としか思えない証言と証拠ばかり。でも、最後に真実にたどり着き、女は恋人を取り戻すのだった。

2020-05-28 01:24:25
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

男は言う。「どうして、そんなに僕を信じてくれたんだい?」女が返す。「貴方のことならなんでも知ってる。貴方は、そんなこと絶対にしないってわかってるもの。…もし、私が同じ目に遭ったら」「ああ、絶対に君を取り戻すよ。どんなことがあっても」明るい未来を思わせるED 。

2020-05-28 01:24:26
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

やっぱり、面白かった。上映された時には結婚の準備や、新しく住む家探しや何やで、結局、映画館では観られなかったものだ。ogtと夢主は寄り添い、感想を楽しく語り合った。それが演技だとしても、夢主は嬉しかった。ここだけ時が巻き戻り、彼の心が夢主に戻った、そんな錯覚さえ覚えるほどに。

2020-05-28 01:24:26
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

(いいえ、今はそうなの)彼女は自分に言い聞かせた。(私は幸せなの。愛されてる)だから、だから黙っててよ。 少し前から、この部屋の“看守”から、夢主は激しく要求を受けていた。“かなわじはかたえを奉じよ”と何度も頭の中に、性別も分からぬような不思議な声が響いた。

2020-05-28 01:24:27
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

あげる。あげるわ。だから、今だけは。

2020-05-28 01:24:28
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

楽しい一日は過ぎる。夕食も、夢主は腕を振るった。望めばどんなご馳走も出たけれど、最後の晩餐は、どうしても自分が作ったものを夫に食べて欲しかった。かつて結婚式に出席した友人たちは、大人しかった夢主が驚くような素敵な夫を得たと羨ましがった。お見合い?でも、どうやって射止めたの?

2020-05-28 01:54:59
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

と訊かれ「胃袋で」と答えたことがある。その時は正直、それほど上手い方ではなかった。くちさがない人々が、そう言えば何故か納得したのだ。ogtはどうしてこんな人が今まで独りだったのかと思うような、優秀な上、印象的な目力のある美形だった。

2020-05-28 01:54:59
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

容姿は十人並、家はそこそこ裕福だったため、幼稚園から大学までエスカレーター式の学校に通ったもののも、そこでも成績もごくごく平凡なスペック。どんな美女を隣にしても見劣りしない彼が何故、というわけだ。今でも、なんで自分と結婚したのか聞けないでいる。今となっては、もちろん、

2020-05-28 01:54:59
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

訊けるわけもない。怖かった。「彼女に振られたから、誰でも良かった」と言われるのが。料理は、嘘を本当にするために頑張った。ogtが好きだった。外見だけでなく、あの控えめな優しさや、時折顔を見せる子供っぽさ。嫉妬深いところさえ。欠点も含めて、大切な人だった。

2020-05-28 01:55:00
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

もうじき、自分のものでなくなる人。いや、もう既に彼女のものなのだ。“かなわじはかたえを奉じよ”もうすぐ、のし付けてあげるから黙ってて。

2020-05-28 01:55:00
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

久しぶりに化粧をした。髪を整え、精一杯装ってからリビングで待つogtを呼んだ。夢主の姿をみて彼は少し驚きながらも、すぐに黙って夕食の席に着いた。「今日は楽しかったね」「ああ」二人で穏やかに摂る食事は美味しかった。彼も旺盛に食べた。「美味いな、やっぱり…」と言われた時には、

2020-05-28 02:42:37
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

泣きたいほど嬉しかった。ずっとずっと、このまま、この時間のまま二人でいられたら、という考えが頭を掠めたが、部屋の主はもう茶番に飽き、幕を下ろしたがっていた。ごめんね百さん。夢主は、何も知らずに食事を楽しむ彼に微笑みかける。もう離婚届に記入も済ませた安堵からか、

2020-05-28 02:42:38
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

彼もこちらに穏やかな笑顔を返してきた。夕食が終わり、また映画を見ていると、不死身のスーパーヒーローが、救った女性に不意にキスされた。「油断しちゃダメよ。ヒーロー」彼女は言う。格好いい、と独りごちた夢主の肩が引き寄せられたと思うと、ogtの唇が夢主のものと重ねられる。まるで、

2020-05-28 02:42:38
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

何年も会えなかった恋人のように抱き締められ、そのまま抱き抱えられて寝室へ運ばれた。

2020-05-28 02:42:39
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

愛する人と思って抱いて欲しい、という彼への願いは叶えられた。(無理なら、あの人を抱いていると思って)重ねた肌の温かさや、今までは拒まれたキスも何度となくした。優しく扱われ、抱き返せば、強い力で抱き返される。身も心も熔ける、そんな交歓が繰り返された。まやかしは、信じれば事実にもなる

2020-05-28 02:54:38
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

夢主は間中、自分は愛されている、彼にとって大切で、必要にされているのだと念じた。

2020-05-28 02:54:38
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

強い感情の波に攫われたあと、二人は寄り添って眠った。 眠るogtの顔は穏やかだった。 その顔を眺めながら、 「私、幸せだよ」と夢主は呟いた。 そして。 「さあ、約束を……“かたえ”を渡すわ。解放してちょうだい」

2020-05-28 02:54:38
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

“彼の、かたえの私を奉じます”

2020-05-28 02:58:28
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

カーテンの隙間から差す光が、眩しかった。「百さん、百さん起きて。もう朝よ。今日、大事な会議でしょう?」夢主の声にogtは目を覚ました。肩を揺らす手の感触に重い瞼を開けると、先に着替え、エプロンまで着けた夢主が…朝?「朝?!」飛び起きたogtに、夢主は笑う。「ええ。大成功。元通りよ」

2020-05-28 03:17:49
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

それから、と夢主は付け加える。日付も、閉じ込められた日の翌日。つまり……「大事な会議でしょう?頑張ってね」慌てて支度をし、朝食を詰め込んでいると、テーブルに置いた鞄の隣に猫柄の弁当包みが置かれる。「私からの、最後のお弁当よ。ちゃんと食べてね」「…夢主、そのことだが」「ほら、早く」

2020-05-28 03:17:49
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

夢主はスーツの背中を玄関へ向けてぐいぐいと押した。「じゃあ、帰ってから話しましょう。業者さんには、明日まで待ってもらうように連絡するから」「…悪い。あと、夢主、俺は……」「遅刻しちゃう!!早く行って!!」その声に追い立てられるようにogtは駆け足でエレベーターへ向かった。

2020-05-28 03:17:50
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「私、幸せだよ」夢主の微かな声が聞こえ、振り返ったが、部屋に戻ったのか、もうドアの前に夢主の姿はなかった。

2020-05-28 03:17:50
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

……会議も無事に終え、昼食に持たされた弁当を、ogtは自分のデスクでゆっくりと食べた。不思議な経験をしたと思う。誰に話しても、きっと夢でも見たのだろうと一蹴されそうなできごとだが。しかも、一度夢主から離れたogtの心は、もう一度彼女とやり直したいと思うようになっていた。彼女の

2020-05-28 13:48:53
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

言う通り、正体も明かさない怪しい文書も写真も、信じるべきではなかったし、夢主は知らないが、外では性格がきついogtには正直、敵が多かった。嫌がらせが目的なら、夢主でなく、自分かもしれない。悔しいが、効果覿面だった。元恋人に裏切られている経験が、疑惑に拍車をかけた。冷静さを失ない、

2020-05-28 13:48:54
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

元恋人が離婚したと連絡してきた時も、望まれるまま会ってしまった。どうかしていた。まだ心が少しでも残っていたというのか。元配偶者の愚痴を聞かされるうち、つい夢主の怪文書の話をしてしまった。酒の進む彼に、女が相憐れんだのか寄り添ってきた。ひどく酔っていた。気が付いたら、女をホテルへ

2020-05-28 13:48:54
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

連れ込んでしまっていた。関係の再燃は、ここから。元々身体の相性もよく、続けてしまった。最低だ。思い出した途端、咀嚼したものを喉に詰まらせそうになり、むせた。女は間もなく夢主との離婚を勧めてくるようになった。別れるか。俺一人で満足できないのなら、仕方ないだろう。何も知らないと思って

2020-05-28 13:48:54
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

無邪気に笑う夢主が憎かった。こんなに清らかに笑いながら、同じ顔で知らぬ男に股を開いていると思ったら吐き気がした。次第に帰りを遅らせ、そのうち女のところで過ごすようになった。離婚を切り出したが、意外なことに夢主は抵抗した。経済的に実家に戻っても困ることも無く、自由になれば

2020-05-28 13:48:55
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

男遊びも存分にできるじゃないか。あの写真の男、顔に傷はあるが、大した美形だった。あれが本命かもな。よほどあの写真たちをぶつけようかと思ったが、彼女の両親には良くしてもらっていた。娘の醜態を見せる気にはなれなかった。とにかく、夢主の顔をもう見たくなかった。本当に可愛い、愛してる

2020-05-28 13:48:55
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

そう実感した女だったから、かえって憎しみが募った。元の恋人とよりが戻った。慰謝料も払うと告げても、夢主は悪い所があれば直す、別れたくないと泣いた。最後まで粘るならあの書類を出さなければならないが、本当に最後の手段にしたかった。

2020-05-28 13:48:55
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

じゃあ、子供ができたことにしたら?と女が言い出した。これは、効果があった。女を家に連れてきた時の夢主の驚いた顔。見る間に蒼白になったが、黙ってリビングに通した。女が、妊娠している。貴方には悪いことをしたと思っているけども、自分は生みたいし、子供には父親が必要だと思う、と告げると

2020-05-28 14:02:54
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まとめたひと
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

アホ夢書き。昭和の女で金カ夢の人。腐と夢のいろんなのを見たり書いたり用の垢。最近は本人よりよりほぜ尾が好きになってきた感。いや、今でも推しなのは変わらないんだ……。 まろ marshmallow-qa.com/yumejodego?utm…