サントワ・マ・ミー

ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「百さん、ご飯作ったの。……一緒に食べよう」リビングを覗くと、テーブルのノートPCを閉じ、スマホの画面を凝視していたogtが青い顔でこちらを向いた。明日、大事な会議があるということは夢主も知っていた。彼がメインで主導するものだとも。ここから出られなければ会議には出られないし、外部に

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連絡も取れないのだから、間に合わないどころか、無断欠勤だ。それでなくとも上司が仲人をした相手と離婚するのだ。下手をすると会社での進退にも影響しかねないということぐらいは容易に想像がついた。これから子供が生まれる男が、簡単に仕事を失う訳にはいかないだろう。

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「この、文面……。考えたんだが」ogtが、ゆっくりと立ち上がった。「どう考えても、そういう事だよな？…神か悪魔か知らんが、何の冗談なんだろうな」低くて、思い声がなんだか怖かった。「ご飯、食べて。お腹減ったでしょう……？」思わず後ずさりしかける夢主の右手首を掴んだ。

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骨が軋むような強い力だった。痛い、と思わず口に出した夢主をそのまま彼は寝室へ引きずっていった。

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「お前とやらなきゃならんとはね」ベッドの上に放り投げられて、夢主は慌てた。「ご飯が冷め…」「心配するな。後で自分で作る」ああ、やっぱり。夢主は諦めて引越し作業のために来ていたTシャツに手をかけた。「脱ぐのは下だけでいい。さっさと済ませるぞ」

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「嘘……」「なんでもいい。さっさと出たいんだよ、俺は」　目の前の男が、もう知らない人間にしか思えない。あの優しい人は何処に行った？宝物のように大切に扱ってくれたあの人は？すぅっと体温が下がるのがわかった。死んでしまった。死んでしまったんだ。私だけを見てくれた、あの人は。

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ろくに手を掛けて貰えず、突き込まれただけの交|わりが終わるのを、痛みを堪えながらまった。背中に腕をまわすことは許されず、ただじっとしていることを強いられた。さすがにゴ|ムを使ってはくれたが、それは彼女を思いやると言うよりも、これ以上の厄介を避けるためのもの。……辛い時間だった。

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……扉は、開かなかった。

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結局、何度試したところで無駄だった。堪えに堪え続けた夢主が激しく泣き出したところで、気が削がれたのか、風呂に入ると言ってogtは彼女を解放した。抱きしめられることも無く、肌を合わせることも無い、ただのオ|ナ|ホにされた気分だった。簡単に後始末し、下着とデニムパンツを元通り引きずりあげ

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ドアを確かめに行ったが、変わらず固く閉じられたままだった。初めての時みたいにあそこが痛い。血も少し出ていた。確かにまた抱かれたい、そう思っていたけれど、夢主が望んでいたのはもちろん、こんな形ではなかった。リビングのソファに横たわると急に眠気が襲いかかった。

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“あいあたう交歓のみに解かるるべし”

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……夢の中では彼女は幸せだった。その中には彼女の望むすべてがあり、すべての願いが叶えられた。目が覚めれば失われ、幸せだったという余韻のみが残る、そんな夢が続いた。 ……三日目にして、夢主は我慢できなくなった。多分ogtだってそうだろう。どうせ彼一人では打つ手がないのだから、試しても

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いいはずだ。「もう、オ〇ホ扱いはたくさん」疲れた顔で寝床に上がるogtに提案した。「交歓がセッスス、それは合ってると思う。でも、よく考えてみて。いいえ、目を背けないで。“交歓”だよ？“交わり、歓ぶ”だよ？」 ｢……あ゛？」結局、会議も仕事も失った（だろう）ogtが目の下に隈を滲ませて

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珍しく黙って夢主の言うことを聞いていた。「マグロ脱却させて。私にもちゃんと参加させてってこと」「……好きにしろ」「話は、まだ終わってない」開き直ってしまえば、もう怖いものなど何も無い。どうせ、最初から何もかも失っている。これ以上失うものなんてない。もう、取り戻せないなら、

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先に進むしかないのだ。とにかく、この牢獄から出て、互いに未来を手にするのだ。彼の言うとおり、新しい人を見つけよう。辛いけども、人生はきっと、足踏みしている間に過ぎてしまう。ここでぐずぐずしてはいられなかった。それに、よかわからないけども

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タイムリミットが迫っている、そんな気がした。

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夢主が彼から主導権を譲られたのは初めてのこと。優しく指先で、唇で触れれば、女以上に快楽を得やすい異性の身体は簡単に反応したし、そこも正常に機能した。ちゃんと吐|精さえもした。だが、それだけだった。微かに息を漏らし、眉根を寄せはしても、行為に何の要求も、そして自ら与えることもなく、

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きつく抱き締めてくる相手を抱き返すこともなく……やがて交歓とはとても呼べない虚しい交|わ|りが終わった。夢主自身にも、それはまるで人の形が付いた張|形を相手にしただけの行為に等しく、彼の上で生理的に果てたあとも虚しさに涙を零した。それでも諦めきれない、と身体の奥から欲求が囁く。

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一度くらい、あの完璧な人に勝ちたい。一瞬でも取り返したい。もう取り返しがつかない。このままでは、本当に二人とも、この閉じた世界で狂うか、いつか朽ち果てるかしかない。でなければ……。スマホに浮かんだ文字が脳裏に浮かぶ。“ pic.twitter.com/xqcse41WEm

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お願いだから、ほんの少しの間でもいい、私への気持ちを思い出してよ。疲労に力が抜けて、崩れ落ちた夢主の身体を、ogtがうるさそうに隣に引きずり下ろすと、そのままベッドから降りて、寝室を出て行った。シャワーを浴びるつもりらしい。前は良かった。身体が溶けそうなくらい心地よかったし、

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愛される実感だってあった。強くて暖かな肯定感があった。私は、もう彼にとって黒歴史でしかないのか……。何が“前に進もう”なの私。成功するどころか、大失敗。おまけに状況が思いっきり悪化したじゃないの。

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自己嫌悪に我が身を罵りながら夢主は起き上がり、キッチンかの冷蔵庫から麦茶のボトルとコップを手にリビングへ向かった。どうして、あんなに私は嫌われたの？わからない。セッススが下手だとか、他に心が移ったからって、あんなに嫌悪されるなんておかしい。ああ、離婚届、勢いに任せて破るんじゃ

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なかった。潔く最後の意地を見せて名前を書くんだったな……。コップに麦茶を注いで一気に飲み干して、テーブルに置こうとして、手が止まる。そこにはogtの名前の書かれた、折り目も破れ目も、皺ひとつない離婚届の用紙が広げられていた。そして、その横に、A4サイズの、厚みのある茶紙でできた

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書類用の封筒が置かれている。 「あ……」夢主はふと思い立った。ここは、必要だと思ったものが現れたことを。今までは食材や飲み物や、生活必需品だったから、こんなものは予想外だった。よほど想いが強かったということかもしれないが。離婚届はともかく、封書はなんだろう？

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封書は既に開封済みだった。「調査内容在中　○○興信所」とある。ぼぅっと表書きを見ていた夢主が封書から書類を取り出しかけると、その隙間からいくつか写真がフローリングの上にこぼれ落ちた。いけない、と拾い上げた写真を確認し……次の瞬間、目尻が裂けんばかりに目を見開いていた。

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「嘘、嘘、何よ、これ……」見覚えのあるカフェの店内、楽しげに若い男と語らう夢主の姿。そばにいるのは、習い事のOB会で知り合ったsgmtという男だった。それはいい、ただの歓談の一場面に過ぎない。けれども、他の写真のおぞましさに鳥肌を立てながら確認する手が止まらない。ホテルの一室で行われる

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隠|し|撮|り、いわゆるハ|メ|撮||りと呼ばれる写真。見知らぬ男と楽しむあられもない姿の自分。もちろん、覚えなどなかった。なのに、似たような写真が場所を変え、相手を変えして写されている。今の状況だって十分に悪夢なのに、これは？これはどんな経緯でもたらされた悪夢なのか。

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「ははっ、よく見つけたな。とっくに箱に詰めたと思ってたのに」青い顔で振り返ると、バスタオルを腰に巻いたogtがリビングに入ってきた。まだ梱包していない長いソファに腰掛けて、乾いたタオルで濡れた髪を拭う。「まったく、よく撮れてるよなぁ。これなんて、凄い体|位だよな？。腰が捻れそうだ」

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今までの態度の理由、あの侮蔑の眼差し、冷たい言葉、バラけたパズルのピースが、綺麗に形になった気がした。「これ、これ、なんなの……？」「ああ…。少し前かなぁ？会社の俺の席に置いてあった」「…誰から？」「さあ？この中の男たちの誰かかもな？違うなら、お前に恨みでもあった誰かだろうよ」

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恨みなんて知らない。こんなことをされる謂れも、覚えだってない。でも、何よりも腹立たしく、悲しいのは…。「それで、これを…こんなのを、信じたの？百さん……？」「なぁ、夢主」彼は久しぶりに夢主に微笑んでみせた。「お前が大人しく離婚届に名前を書いてくれたら、俺はこいつを出さないつもり

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だったんだぜ？お前の親には良くしてもらったからな。娘の痴態を見せて「これが本当の離婚原因です」なんて言われたくないだろう？」喉の奥から毒が溜まるような感覚が押し寄せる。食いしばった歯の間からは、それでも嗚咽が漏れだし、もうこれまで何度流したかわからない涙が、また流れ始める。

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「今のうちに、大人しく別れてくれると楽なんだがね」…ここには少し前まで、完璧な幸せがあった、はずだった。はずだった、のに。「私じゃない。私は、こんなことしない。一番好きな人と結婚したの。愛してたのよ。こんなことするはずないじゃない……！」

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彼は大袈裟に目を丸くしてみせた。「そうかい。それは初耳だな。妙だと思ってたんだ。今まで大人しかったお前が、急に夜積極的になったからな。疑いたくなかったよ。悩んでるうちに、その怪文書だ。俺がどんなに驚いたかわかってくれるかなぁ？」馬鹿。ばか。バカバカバカバカ……！！夢主は感情が

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昂りすぎて語彙力を失っていた。キッチンに走り、ガチャガチャと台所用品を詰めたダンボールを開いているらしき音がした。沈黙とともに戻ってきた彼女の右手に、銀色に光る、長いものが握られていた。

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包丁……いや、 　 ………………フライ返しだった。

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「は？」雫の落ちる前髪もそのままに、ogtがぽかんと口を開けたままこちらを見た。「初めて見た？」夢主は、泣き笑いのまま首を傾げた。「これはね、“フライ返し”というの。用途は主に…浮気亭主の制裁に使います！！」「うっ？！」不意に真顔になって、ogtの右肩をそれで引っ張たく。本当に咄嗟の事で

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ogtは避ける間もない。裸の肩をまともに叩かれ、思わず声を上げた。「馬鹿ばか。本当にバカなんだから！！どうして、そんな正体もわからない相手を信じたの？！私に訊けば良いじゃないの。それで報復代わりに浮気して、挙句の果てに子供まで！！どうしてくれるの？！私の気持ちは、

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どうしてくれるのよ〜〜！！」ずっと、至らない自分が悪いのだと思っていた。最初から判っていた。自分には勿体ないほどの夫だと思っていたから、大切にしてくれる彼に応えたくて、喜んでもらいたくて、料理も家事も頑張って覚えた。それなりに形になって来たと思っていたのに、ある日から不審な電話が

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かかってくるようになった。会社の同僚だと彼は言った。彼が前の彼女と密かに会っている、と。会社では夢主の事を、ほぼ不満はないが、夜が物足りないと言っているとも聞かされた。「彼の動向に気を付けて」電話はその一度きりだったが、夢主は彼の前の恋人とはきちんと別れているはずだし、

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それも夢主と知り合うずっと前の話だ。彼に限ってそんなことは無い。夢主は信じていた。でも、夫婦生活において自信がなかったのは確かなことで、これを機にどうにかできないかと雑誌やノウハウ本を漁っているうち、“ドクターiengのLoveセミナー”を見つけた。教書はバインダー式でわかりやすく、

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一日十分の練習で、見るまに技巧が上達するという。セミナーではダミーを相手を蕩かせるようなキスや、肌を騒がせるような愛|撫のやり方、それはもう、気絶するほど恥ずかしい講義もあったが、彼女は何とか乗り越えた。参加者が意外にたくさんいるのにも救われた。パートナーともっと愛し合いたいと

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思う人、上手くいかなくて悩んでいる人たちと交流するうち、友人と呼べる人もできて楽しかった。セミナーのobであるsgmtともその時知り合った。こちらは嫁と一緒に受講していた。ふたりとはセミナーで行動よく行動を共にする機会があったので、そこを盗み撮りされていたらしい。明日子は小柄なので、

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背の高いsgmtの影に隠れてしまっているのだろう。カフェのウインドー越しに撮られた例の写真では、まるで二人きりで話しているようにと見えた。一体、誰が、なんのためにこんなことを。ほんと馬鹿みたい。べちべちと背中やお腹を打って、「コラやめろ」「痛い痛い！」と逃げ出す彼を泣きながら追った。

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「愛って信頼なの。夫婦や恋人って、それで繋がるものと思ってた。貴方がもともと、やきもち焼きなのも知ってる。疑い深いところがあるのもわかってるつもりだった」「夢主…！待て…！」元々、女性不信なところもあるogt。前カノとも真剣な交際だったはずだった。向こうが他の男性と結婚を

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決めたために別れたのだ。大切な人に裏切られた人だから、きっと辛かったろう。自分は彼を裏切るまい、お互いを大切にして生きようと思っていたのに。だから、あの怪しい電話だって自分は信じなかった。名前だって名乗れない人間を、誰が信じるのだ。なのに、なのに……。

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「あんなものを信じた！！誰とも知らない人からの、こんないかがわしいものを信じたんだ！妻の私よりも！裏切り者！裏切り者！私が下手だから、性|の|不|一|致が理由とか思ってた私が、ただの馬鹿じゃないの！！馬鹿ばかバカーーーー！」

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なおも追撃を加えようとする、夢主の、緊張感に欠けた凶器ごと手首を掴んで阻んだogtが、猫騙しを食らった猫そのままの表情で固まった。「急に上手くなったアレはどう説明…」彼が言い終わる前に、夢主はogtの手を振りほどき、踵を返して寝室へ向かった。ベッド下の、鍵のかかる旅行用のトランクを

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リビングに持ってきて、引越し作業用に使っていた折りたたみテーブルの上に置き、数字合わせ式の鍵を開け、中を開く。沈黙。

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中から出てくる、“二人の愛のために♡　iengLoveセミナー”の頭が沸いたのではないかと思うような、バインダー式の教本とダミーを相手にした実践DVD、さらに怪しい、何が入ってるのかわからない黒いツールBOXには“秘技　傾国の愛技限定BOX」……「…な、なんだ、これは……」「愛の伝道師ドクターiengの

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セミナーで使ってたやつ。彼女は元、v|ip専門の高|級|コ|ー|ルガ|ー|ルをしていた人で……」「いや、どういう内容のセミナーかはわかった。お前、こんな怪しいところに通ってたのか…？」「ieng先生は、立派な人よ？ここはそういうテクニックを磨くセミナーだけど、トラブルを防ぐために、実践は