#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「どういう話だっけ。」 「説明したろ!」 「覚えてない!」 叫び返して、くっくと笑う。 「……あたし、もの覚えが悪いの」 「だからさ、この階段を、夜中にふたりで降りると……、」 ふっ、と、会話が途切れる。 懐中電灯が、じんわりと暗くなる。 電 pic.twitter.com/nm4NXer8xY
2022-10-24 08:00:33池が少なくなったのか。予備は持ってきていない。しばらく、かちかちと動かしてから、少年はあきらめて懐中電灯をおろした。 「くらーい」 「……だいじょうぶ。手すりもあるし」 「うん、……ねえ」 「え?」 少女が、すわりこむ気配がした。少年も、ちょっと息をついて腰をおろす。
2022-10-24 08:00:34#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「……どうして、そんなに怪談があるの? この学校の生徒は、とくべつ噂好きだってこと?」 「そうじゃない。……と、思う」 「思う?」 「だって、……噂じゃないんだ」 「見たの?」 「……いま、見てるよ」 少女は、へぇ!? とすっとんきょうな声をあげ pic.twitter.com/pJX7TpCrY2
2022-10-25 08:00:11て、……くっくと笑う。 「見えるの? このくらやみで?」 「……茶化すなよ、」 「べっつに。……で、どうして、この学校に、そういうのが多いのかな?」 「さァ……、」 少年はもう一度、立ち上がった。その気配を察して、少女も。 また、ふたりで階段を降りはじめる。同じ歩調で。
2022-10-25 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「……なにか、磁場みたいなものがあるんだと思うんだ。そういう……ものが、浮かび上がってくるような。」 「あるいは、集まってくるような?」 「そう……、どこか、から」 「どこから?」 「さァ、……きみは、知ってるんじゃないの」 「覚えてない!」 少 pic.twitter.com/njdAUcsKLl
2022-10-26 08:00:11女は、また、くっくと笑った。 「あんたは、覚えてるの」 「……なにが?」 「自分が、どこから来たか。」 「そりゃ、……、」 それっきり、少年──篠田崇は、黙ってしまった。 こつ、こつ、こつ、とふたりはまだ階段を降りていく。 もう、1時間ばかり経った。
2022-10-26 08:00:12#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち * 「……ここ、地下迷宮かなんかなの?」 「ちがうよ。」 「知ってるけどさ、非常灯も──、」 「……話しただろ。昇降口から30歩かぞえながら目をつむって歩いて、北校舎の階段をくだりながら目をあけると、東側に夕日が、……」 「で、どこに続いてるの? pic.twitter.com/KONkhPZL1c
2022-10-27 08:00:15」 「……むかしの教室、」 と、それだけ、ちいさな声で。 * 「ねえ、その制服。」 「え?」 「なんだか、……私のと、ちぐはぐな気がするんだけど」 「……そうだね、」 だんだん、声がくぐもって来る。 闇のなか、消え入るような声で。 「……ずっと、探してたんだ。」 「なにを?」
2022-10-27 08:00:16#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「この学校、この場所、この時代に……ある、磁場みたいなものが、ぼくらを……、」 あとの声は、小さくなってそのまま消えてしまった。 * 「たかし!」 だれかの声がする。 「なにしてんの。授業始まるよ!」 女の子の声だ。すこし舌ったらずで、幼い pic.twitter.com/sWq7aeCJSz
2022-10-28 08:00:12感じがする、……紺のセーラー服をきた、背の低い少女。足元には、ルーズソックス。 「あ、……すぐ、」 口ごもりながら、崇は声のほうに歩きだした。 いつのまにか、明かりがついていた。いや、外が明るいのだ。昼間だ。儀式をはじめたときは、夜中だったはずなのに。
2022-10-28 08:00:13#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 崇は、ちょっと振り返った。 赤い髪留めをした少女は、……遠くで、ちいさく微笑んで、手を振っていた。 「ありがとう。……さよなら。」 そういって、崇は、 ──帰っていった。 エアコンのない、古い時代の教室に。 * 「……あーあ、」 残され pic.twitter.com/ZCgdi5L889
2022-10-29 08:01:11た少女は、かるく首を振って、目をふせた。 「いいなぁ、帰るところがあって。」 そう、つぶやいて。 まっくらな階段を、また、のぼっていった。 (学校の怪談 了)
2022-10-29 08:01:12#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 霊感少女(1月24日 加藤心美) 「……なーんか、見えるんだってぇ。加藤サン」 うしろから飛んできた声に、心美はびくんと肩をふるわせた。 声の主は、……見なくてもわかる。塚本舞。こわい目つきをした同級生。友達が多くて、いつも明るく笑っている pic.twitter.com/4ne7igHZkI
2022-10-30 08:00:11。 ……ちょっと高めの、いやあな、笑い方で。 「えー、そうなんだ」 と、他の声。確か、岡野さん。やさしげに見えるが、いつも塚本さんのとなりで、愛想笑いして、……腰巾着みたい。 「だから、サ。見てもらおうよ。」 また、塚本さんの声。
2022-10-30 08:00:12#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 心美は、いっそう身をかたくする。どろりと濁った汗が、首すじから落ちる。 無視してくれればいいのに。……いつも、そう思っているのに。 ずいっと、塚本さんが、視界に押し入ってくる。 心美の前の席、いまは誰も座っていないところに、乱暴にがたん pic.twitter.com/1D32qOVnfy
2022-10-31 08:00:10とかけて、 「ねえねえ、加藤さん」 「え、」 「見て、ほしいんだけど。」 にやにやと、唇をつりあげて。 ──やめなよ、と誰かがいった。岡野さんの声ではない。 誰だかは、わからない。 「……なに、を?」 「あのさ、あたし」
2022-10-31 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 舞は、にやにや笑いをやめない。ますます、顔をずいと近づけて、 「……お兄ちゃんが、死んだの」 「え?」 「むかーし、ね。交通事故で。……でも、いるような気がするんだなぁ」 「いるって、……」 「わたしの、後ろに。……見えない?」 心美は、また、 pic.twitter.com/IHrIvnfgbx
2022-11-01 08:00:10びくんと震えた。舞は大きく口をあけて、笑い声を、──あげかけて、すこし、青ざめた。 心美の顔をみて。 「……え、うそ、」 ちいさく、つぶやいて、それから気をとりなおしたように、また笑う。 「見えるの?」 くすくす、と聞こえよがしに。なにかを噛み殺すように歯をむいて。
2022-11-01 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「ええと、……小学校4年生で死んだから、さ。たぶん、そのくらいの──、」 「見える、」 心美が、しぼりだすような声でつぶやくと、舞はきゅっと頬をくぼめた。 「へええ、」 目を細めて、まわりの女の子と見交わす。 「でも、……この話さ、」 「頭が、 pic.twitter.com/qymRdPhGHP
2022-11-02 08:00:10半分ないの」 ぞわりと、影のなかから染み出すような声で、 「……白い、……半袖のシャツ、半ズボンで、……あの、右の目玉が」 「ちょっと、」 舞は声を低くする。とげのある口調にかわって、 「やめてよ。あのさ、……」 「……肩、に」
2022-11-02 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち ぼそりと、ちいさく続けたとたん、黒板をひっかくような高い声が、教室にひびきわたった。 ──舞の悲鳴だった。 舞の右肩に、べっとりと、赤黒い血のあとがついていた。 にじんで、……形はよくわからないが、手形のようでもある。 たぶん、小さな、 pic.twitter.com/nsHyoq0DAf
2022-11-03 08:00:10子供の。 舞は、がたがたと震えて、机に手をついた。 右肩の血は、ずるりと、広がっている。 手が、……動いた、ようだ。出血したまま。 「マイちゃん、」 かすかな声で、だれかがつぶやく。 がしゃん。 心美の机のうえにあった筆箱が、おちた。
2022-11-03 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 同時に、べたりと濃い血のあとが、筆箱のあった場所につく。 舞の肩の手形と、同じような形にみえた。 肩の手形は、少しずつ、広がるように動いて。 ……ぎゅっ、と、締め付ける。 しぼりだすような、痛烈な悲鳴が、また、舞の喉から漏れだしてき pic.twitter.com/xHSX7FjkdU
2022-11-04 08:00:10た。 続いて、べちゃり、と湿った音。 舞の背中ぜんぶに、血のあとが広がる。 濡れた布かなにかを、べったりと押し付けられたように。 いや、 おぶさっているのだ。見えない、何かが。 「……お兄さん、」 かすれた声で、心美がつぶやく。
2022-11-04 08:00:10#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 舞は、おしつぶされそうになりながら、ちいさな声で、 うそ、とつぶやいた。 かふっ、と声とともに、くるしげな吐息がもれる。重い。なにかの、体重が。 「嘘、なのに、」 「……だって、そこに、いるよ」 心美は、しんそこ怯えた顔で。 「あなたの、 pic.twitter.com/86Bv4W2Jzq
2022-11-05 08:01:11……うえに」 どうして、とまた声が、舞の喉からもれた。 こんどは、ちがう声。 たぶん、小さな男の子の声。 ──どうして、……あのとき、ぼくだけ。 それから、もう一度、絞り出すような悲鳴が漏れだして、 舞のからだから、一気に力が抜けた。 「……だから、」
2022-11-05 08:01:12#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち だれかが、小さな声でいった。 「やめなよ、って言ったのに。」 ちいさな目に涙をためて、かたかたと震えている心美を、だれかが、肩をかして連れ出していった。 あとには、……倒れて動かなくなった舞と、そのわきにこわごわと立つ、幾人かの女子が、残さ pic.twitter.com/HpD4MxlExz
2022-11-06 08:00:09#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 未来視(2月9日 及川綾音) ぱちんと、目がさめた。 夢を見ていたような気がする。 どういう夢だか、思い出せない。いつも。夢を覚えていられたためしがない。そういう体質なのだと思う。 けれども、きょうは、 ……なんだか、悲しい夢、だったよ pic.twitter.com/hT799UpvPg
2022-11-07 08:00:10うな。 * 綾音は、小さくのびをした。なるべく口をすぼめて、息をつく。それでも、ふあぁ、とだらしない声が喉からもれる。眉をしかめて、首をふる。 眠い。 いつも寝起きはいいのに。昨夜は、眠りが浅かったらしい。暖房が強すぎたのかもしれない。 「おはよ、」
2022-11-07 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち かたんと、となりの席の子が椅子にかける。まんなかで髪を分けておさげにした、そばかす顔の少女。……木田保美。 ぼんやりと、名前を思いだす。30秒ほど、かかった。 「久しぶり、」 なにげなく言うと、ぎゅっと眉をしかめて、 「……なにが?」 と聞 pic.twitter.com/mmRu7mK0W7
2022-11-08 08:00:11き返される。 「え、」 ちょっと沈黙してから、気づく。あたりまえだ。昨日も会っている。 「ごめんごめん、ちょっと夢で」 「夢で?」 「夢で……なんだっけ」 思いだせない。……そもそも、夢なんか見ただろうか。 「知らん知らん」
2022-11-08 08:00:12#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち あきれ顔で言われて、首をふる。とにかく、夢で。なにかあったのだ。 「ねえ、なんだか……」 そう、続けて言うと、保美はきょとんとして唇をむすんだ。 「……若く。なった?」 「えー……、」 眉をぎゅっと寄せた、けわしい顔になって、 「それ、褒めて pic.twitter.com/QY8NyfuJJt
2022-11-09 08:00:14んの? ありがと」 「いやあ……、」 わけがわからない。 綾音はちょっと首をかしげて、──それから、忘れた。 * 夢を見ていた。 そうして、 * 窓の外では、つよい風が吹いていた。ざわざわと中庭のブナがゆれて、わずかに残った枯れ葉が、頼りなげに踊っている。
2022-11-09 08:00:15#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 綾音は、教室の窓際にたって、外を見ている。ちらりと横に顔をむける。ロッカーのあたりに、藤井くんが立っている。 色白で小さな鼻をした、細おもての、まじめそうな顔の少年。 それほど小柄ではないが、綾音と並ぶと、目の位置はだいぶ低くなる。顎の下 pic.twitter.com/yCwohsBa9k
2022-11-10 08:00:11。首のあたり。いや、ちょっと目を伏せぎみにすると、ちょうど胸元へ。 ──ああ、この体が嫌いだったのだ。わたしは。 そう、思う。うっすらとした記憶のなかで。 「藤井くん!」 綾音は、ちょいちょいと左手を振って、声をかける。
2022-11-10 08:00:12#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 大悟は、まぶしそうに目を細めて、こちらを見た。逆光で、かれの顔はよく見えない。それでも、やさしげな目だけは、ちゃんと、わかる。 「こっち来ない?」 綾音は、衝動的にそういって……自分で、驚いた。 こんなふうに、私から声をかけたことなんて、あ pic.twitter.com/bzJxQwSlno
2022-11-11 08:00:12っただろうか? 「え、……うん、」 大悟は、なにかを気にするように、足元をみる。窓からの西日で、長い影が、足先から、廊下側のはじまで伸びている。 「おれ、……」 「だいじょうぶ。……きみは、ちゃんと、うまくやってるから」 「え?」 「いや……、」
2022-11-11 08:00:13#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち いった後、不思議に思う。なんで、そんなことを。 「うまくやってるって……その、」 藤井くんは、影に目を落としている。窓の外の木の動きにあわせて、ざわざわと揺れる奇妙なかたちの影。まるで、生きているみたいに。 綾音は指をくるくると動かして、い pic.twitter.com/bTZxlKnvdo
2022-11-12 08:00:12いわけを探した。なんのいいわけかは、自分でもわからない。 今日は、なんだか、へんだ。 「……いや、ええと」 いいながら、ふと、思い浮かべる。 いや、思い出してしまう。 かれと、さいごに、……会った、あの日を。 「……さよなら、」 と思わず、喉から口をついて出る。
2022-11-12 08:00:12#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち それから、なんとも説明できずに。 綾音は、逃げ出した。 * 結局、告白する勇気もなかったのだ。この後も、ずっと。 * 中庭に出た。 夕日はもう沈もうとしていた。紅い陽が、ぶなの木を真横から染めて、足早にすすむ綾音の長い脚から、まっすぐ pic.twitter.com/vlQaGnVb6D
2022-11-13 08:00:10に影をのばしている。 「あやち!」 だれかが、後ろからさけんでいる。 ふりむく。昇降口を出たあたりに、女の子が立っている。 ちょっと釣り眼ぎみの、するどい目をした女子。たしか、同じクラス。くせっけで、赤い髪留めをふわりと乗せるように留めた。
2022-11-13 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 小柄で、痩せている。綾音とは対照的に。 誰だっただろうか。 思い出せないことに、ふと安心する。 目を閉じるたびに、未来のできごとが浮かんでくるような気がする。夢。ほんとうに夢だろうか。 「ねー、一緒にかえろう、」 いわれて、曖昧にうなずく pic.twitter.com/zkL6P13rZi
2022-11-14 08:00:10。 「うん、」 歩く。 この子の名前はなんだっただろうか、と、もう一度考える。わからない。 どうしても、思い出せない。 「どうしたの?」 「……なんでもない、」 「あっそう。」
2022-11-14 08:00:10#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち ふらりと、歩きながら、ふたりは目を見交わす。腕がふれるほど近いが、頭の高さが違う。少女は、ぐっと顎をかたむけて、こちらを見上げている。 「ねぇ」 「なーに?」 「……あたし、さ」 「うん、」 「……あんたのこと、思い出せないんだよね」 「そーお。 pic.twitter.com/jrv3oPb3gX
2022-11-15 08:00:10それで?」 少女は、くるくると目線にあわせて指をうごかした。 ふたりの歩調はあわない。たったったった、とちょっと早足にして、綾音の長い脚にあわせている。 「それでね、……思い出したんだけど」 「うん、」 「……いま、思い出してるんだわ。私」 「そうなの?」
2022-11-15 08:00:10#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「そう。ほんとうのあたしは、とっくのとうに卒業してて。今は、中学のときにあったことを、思い出してるだけなの」 「へーえ」 赤い髪留めの女の子は、にっこりと笑って。 「……あーあ、思いだしちゃったなァ」 「うん、」 「だから、もうおしまい」 「そう pic.twitter.com/KOekoTHu6J
2022-11-16 08:00:10なの? 忘れちゃえばいいんじゃない」 「無理だよ、」 「どうしても?」 「だって、思いだしちゃったんだもん。……だから、ね」 さよなら、と綾音はいった。 そうして、彼女が消えたあと、 赤い髪留めをした少女は、ちいさく溜息をついて、 ゆっくり、歩いていった。 (未来視 了)
2022-11-16 08:00:10人形の糸(2月21日 岡野ひなた) いつからか。 白い糸が、ぴんと、関節ごとに、きれいに張って。 天に伸びている。 * 「あ、」 と、高い声が出てしまう。通学路の、いつもの道で。長い信号待ちをおえて、ゆっくりと横断歩道を歩きだしながら。 「どうしたの?」 となりを歩く塚本舞が pic.twitter.com/b3Ku5ALili
2022-11-17 08:00:11、ふしんげな顔をして、こちらを見る。 「え、……」 ひなたは、ちょっと片腕をあげるようなしぐさをして、小さく笑ってみせた。 「なんでもないよ。」 いいながら、肩をひねる。ちょっと、関節の調子がヘンなのだ。
2022-11-17 08:00:11