0
前へ 1 ・・ 10 11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  いつもの通学路。いつもの坂道。  となりには、いつもの友達。岡くるみ。まつげの長い、おさげ髪の少女。  ふたりで、歩調をあわせて歩く。昨日より少しゆっくり、小幅に。  ──退屈だなぁ、と思う。それに、体じゅうが痛い。きのう、歩きすぎた。 「め pic.twitter.com/dEAK7AHj5b

2022-12-13 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

ちゃくちゃ怒られたよ。犬の散歩サボったし」 「そこ、怒るの?」 「いやまァ、帰ったらもう夜中だったし、……そのあと、親と一緒にカバンをとりに行って」 「かばん?」 「道ばたにおいてきちゃったの。……で、警察に」 「うっわ。おおごとじゃん」 「そうなの! いやーしんどかった」

2022-12-13 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  唇をぎゅうっと歪めて、ため息と一緒に吐き捨てる。くるみは、目を細めて、心配そうにこっちを覗き込んできた。 「大変ねえ」    いいかけて、ふと首をかしげるようにして、 「それで、……誰と行ったの?」 「え、……忘れた」 「はあ?」 「忘れたもん」 pic.twitter.com/RjzBgsW0PO

2022-12-14 08:01:18
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

あおいは、少しむきになって唇をとがらせた。  ……本当に、覚えていないのだ。  帰りのきっぷを持ってホームに降りたときには、もう一人だった。 「ふーん……」  くるみは、疑わしげにこっちを見て、それからまた前をむいた。

2022-12-14 08:01:18
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  ふたりで並んで、信号のない横断歩道をわたる。あおいが渡りおえた直後に、青い軽自動車が、アクセルをふかして通りすぎていく。  至近距離をかすめたドアミラーにちょっと眉をしかめて、制服の裾をおさえる。それから、また歩きだそうとして、ふと違和感をお pic.twitter.com/eMUUmXwFRu

2022-12-15 08:01:20
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

ぼえる。  坂道の先に、見えるはずのものが、ない。 「……ねえ、」  ちょっと先を歩いているくるみの背中に、低い声を投げつける。 「ちょっと!」 「ん?」  くるみは立ち止まって、こちらをむいた。なんのことはない、普通の顔で。 「ねえ、校舎は?」 「え?」 「校舎、……」

2022-12-15 08:01:21
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  尻すぼみに、声が消えていく。いいながら自信をなくして、目をこらして坂の上をもう一度見る。たくさんの生徒たち。校門。そのむこうに、ぶなの木。  それだけ。 「なに言ってんの?」  くるみは、丸い目を大きく見開いて、かるく首をかしげた。 「きのう、 pic.twitter.com/50UYyMSHSD

2022-12-16 08:00:52
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

無くなったじゃん」 「え?」 「きょうは、外で授業でしょ。知ってるくせに」  あおいは、小さく、  え、  とつぶやいて立ちつくした。    走りだす。  筋肉痛できしむ手足を、けんめいに動かす。十歩ほど走ったところで、心臓が悲鳴をあげる。鞄を歩道に落として、また走る。

2022-12-16 08:00:53
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  男子生徒にぶつかりそうになって、ごめん、と小さくつぶやく。また走る。脇腹が痛い。とにかく、足を動かす。  校門の柱に手をついて、息をととのえる。  汗でびたびたになった手を膝について、なんとか顔を、上に。  見上げる。何もないところを。 「どう pic.twitter.com/ozpFPGHCJY

2022-12-17 08:01:11
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

したの?」  ゆっくり歩いて追いついてきたくるみの、間延びした声。  あおいは、過呼吸になりそうな胸をぎゅっと左手でおさえて、……コンクリートの地面に膝をついた。しゃがみこんだまま、くるみの顔を見上げる。 「……ねえ、くるみ」 「なに?」

2022-12-17 08:01:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「流れ星、見えるとこ知らない?」  真っ青な顔で、そう、言った。 (流星 了) pic.twitter.com/xN3B9eU2Px

2022-12-18 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

私の娘(3月19日     )  夢を見た。  4歳の娘が、行方不明になる夢だ。  本当は、わたしに娘はいない。だから、ただの夢だ。けれども、……あまりにも鮮明で、真に迫っていて、……まるで、本当にあったことみたいだった。  夢の中で、……娘には、突然、きょとんとしてまわりを見回 pic.twitter.com/FNsNpHXDA7

2022-12-19 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

す癖があった。例えば、保育園にむかう道を一緒に歩いていて、突然、立ち止まってぱちぱちと瞬きをして、不思議そうに目線をさまよわせるのだ。  ここはどこだろう、というふうに。  そのあと、声をかけると、娘は小さく首をかしげて、わたしのところにまた戻ってくるのだった。

2022-12-19 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  こんなこともあった。  娘が3歳のとき、スーパーからの帰り道で、娘が隣にいないのに気がついた。……いつから居なかったのかは、わからない。とにかく、必死になって名前を呼びながら、来た道を戻っていった。  スーパーで館内放送をかけてもらって、駐車 pic.twitter.com/dzL8mYjy1l

2022-12-20 08:00:11
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

場をもう一度探して、それから、また館内に戻ろうとしたとき、娘と目が合った。  知らない女の人と手をつないで、歩いていた。

2022-12-20 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  わたしが声をかけると、娘はしばらく黙ってから、はっと目を見開いて駆け寄ってきた。女は、ふしんげにこちらを見て、それから、同じくはっとしたような顔をして、「あの、」と言った。  誘拐、だと思った。……それとも、単に迷子を保護してくれたのか。 pic.twitter.com/M0yU1crvqj

2022-12-21 08:00:11
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

けれども、女の人は、首をかしげて、わからないと言うばかりだった。何がわからないのか、わたしもわからなかった。  警察に通報すべきだったかもしれない。だが、何となくうやむやにしてしまい、そのままになった。  ぜんぶ、夢の話だ。

2022-12-21 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  ある朝。起きると、娘はとなりにいなかった。夫に聞いても、まるで何のことかわからないといった様子で、まったく話が噛み合わなかった。  友人にも、実家の母にも、娘が通っているはずの保育園にまで電話をしたが、うちに娘がいることを知っている人は、誰も pic.twitter.com/lSGrT3Bbjr

2022-12-22 08:00:11
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

いなかった。  そのうち、わたしも、娘のことを忘れてしまい、  トーストを2枚焼いて、夫と朝食をすませ、パンプスを履いて家を出た。  ひとりで。  玄関に、ベビーカーが置いてあるのを、気にとめることもなく。  そういう、夢だ。 * 「おっはよ」

2022-12-22 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  ぱん、と突然、強く肩をたたかれて、吉岡愛梨はびくんと震えた。反射的に鞄に手をかけて、動きをとめる。  ふりむくと、……どこかで見たような、小柄な少女。  釣り眼ぎみの目をぎゅっと細めて、にんまりと笑っている。ふんわりと跳ねるような癖っ毛のうえ pic.twitter.com/0JEIwxdwCQ

2022-12-23 08:00:11
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

に、赤い髪留めをのせて。きれいな爪をした小さな手を、ひらひらと動かして。 「もう、痛いよ」 「いいじゃん、スキンシップ!」 「なにがよ、」  いいかけて、愛梨は眉をしかめた。あいての名前を思い出せない。よく知っている相手なのに。 「……アノ、」

2022-12-23 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  ど忘れしてしまったらしい。口ごもっていると、 「気にしないで、」  少女は先まわりして、笑ったまま手をふった。 「わたしの名前は、誰も思い出せないの」 「……そうなの?」  愛梨は眉をしかめて、……通学かばんの中にしまってある赤い本を、ちらりと手 pic.twitter.com/53SldlC4SH

2022-12-24 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

でたしかめた。 「ほんとうに、誰も?」 「そう。誰も!」 「……あなたも?」  少女は、くるりと首をふって、 「……ね、わたし、引っ越すの」  そう、いった。 「そうなの?」 「うん。もういいかなって」 「どういうこと?」 「そろそろ、ほかへ行こうかなって」 「ええ?」

2022-12-24 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  少女は、足を止めて、にっこりと笑った。 *  また、記憶が混濁している。  娘なんか、私にはいなかった。  わたしと夫には、結局、子供はできなかった。そのことを二人ともずっと気に病んでいて……そろそろ更年期。少し、おかしくなっているのだ。  ベ pic.twitter.com/y3o5Aq9Ufm

2022-12-25 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

ビーカーが家にあるのも、きっと、そのせいだ。  多分、おかしくなった私をなぐさめるために、夫が買ったのだ。それとも、私が。覚えていないが。  がたん……、がたん……、と電車がゆれる。

2022-12-25 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  帰宅する勤めびとでごったがえしている。私は、外まわりでふくれあがった脚をかすかに動かしながら、立っている。この時間は座れたためしがない。  すみの座席で、制服をきた女子学生がふたり、肩をよせあうようにして眠りこけているのが、目にはいる。  中 pic.twitter.com/4hg6v43B4b

2022-12-26 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

学生だろうか。……よく見ると、うちの近くの学校の制服のようだ。部活動の帰りか何かだろうか。  娘がいたら、あのくらいの年齢だろうか、と思う。  いないのだから、年齢もくそもないのだけれど。  がたん……、がたん……、  電車がゆれる。ため息をつく。もうすぐ、降りる駅だ。

2022-12-26 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  なにか、頭にひっかかっている。  わからない。  わからない。 * 「ほかへ行く、って?」  愛梨がききかえすと、少女は、くるくると指をまわして、首をふった。 「いやあ、……なんて言ったらいいかな。その、」 「引っ越すの?」 「まあ、そう」 「ふ pic.twitter.com/dd3vHO3Kjk

2022-12-27 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

うん……、どこに?」 「知らない! きめてない」  まるで面白い冗談みたいに、くつくつとまた笑って。 「そんなことあるの?」 「いいの、わたしは。」  すたすたと、歩みをとめずに。  愛梨は、ついに我慢できなくなって、少女の前にたちふさがるように、 「……あなた、どこから来たの?」

2022-12-27 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  ぐいと立ちどまって、そうたずねた。 「覚えてない」 「冗談じゃなくて」 「ほんとうに!」  赤い髪留めをした少女は、きょとんと首をかしげて、  真剣な目をして、またわらった。 「わたし、覚えてないの。なんにも」 *  また、べつの日。  わたしは pic.twitter.com/mp1Ondl5s5

2022-12-28 08:00:10
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

、スマートフォンに保存された写真を整理していた。  ……どうしてか、子供の写真が多い。  赤ちゃんの写真も、ある。親戚の子だろうか。よく思い出せない。  ……以前は、もっと沢山あったような、気もする。ごみ箱フォルダをあさってみる。ない。当たり前だ。保存期間は一ヶ月。

2022-12-28 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  何年も前に消した画像なんか、残っているわけがない。  ……いや、何年も前にもなにも、撮った覚えも、消した覚えもないのだが。  わたしは、なにを探しているんだろう? * 「……生まれつき、そういうものなの。きっと」 「生まれつき?」 「そう。そ pic.twitter.com/RKCl9rmDh2

2022-12-29 08:00:11
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

ういうのって、あるでしょう」 「生まれつき、ヘンなものが見えたり、影がヘンだったり?」 「そう。それに……、」 「ある日とつぜん、ヘンなものを産んでしまったり。」 「そう、ある日とつぜん」 「覚えてないの?」 「ぜんぜん! 覚えられないみたい。わたし」 「そう……、」

2022-12-29 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち  愛梨はきょとんと眉をしかめて、 「……なんだかよくわからないけど、大変なのね」 「おたがいさま!」  ふたりは、くっくと笑った。 *  ため息をつく。  多少、おかしな記憶があったところで、なんだというのか。  いまは、いまだ。  夫とふたりで生 pic.twitter.com/m9rUFCJhtx

2022-12-30 08:00:16
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

きていくのに、不満があるわけではない。  ……さあ、仕事にいかなくては。  玄関をでる。朝だ。中学生たちの一団が、家のまえを通りすぎようとしている。  ふと、目にとまる。  やせた、小柄な少女。  目つきはちょっと鋭くて、ぎゅっと口もとをまげて笑う。  その、目元が──、

2022-12-30 08:00:17
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち 「真帆!」  思わず、口から叫び声が出ていた。  なぜだかはわからない。  赤い髪留めをつけた小柄な少女は、立ち止まらなかった。  ふりむきすらしないで、そのまま角のむこうに消えて、  その連れの、背筋のぴんと立った女の子が、しばらくこっちを見て pic.twitter.com/SETaX3XHSk

2022-12-31 08:01:13
拡大
楠羽毛 @kusunoki_umou

いたが、すぐに、いってしまった。  涙がとまらなかった。  けれども、その理由は、どうしても思いだせなかった。 (へんな子たち 了)

2022-12-31 08:01:14
前へ 1 ・・ 10 11