抜粋『〈和解〉のリアルポリティクス――ドイツ人とユダヤ人』武井彩佳, 20171.24, みすず書房

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

1/19🧵武井彩佳(2017)の結部(pp.251-7)の引用 　「ホロコースト公共圏」は、SYNODOSインタビューまとめ(min.togetter.com/JPCjlXF)を御参照下さい。 　複数の移民集団の中でシチズンシップの階層化が生じてしまった問題は、今後ドイツ社会を不安定化させかねない要素だと指摘したい。(←2017/1/13) pic.twitter.com/0FmAhrEMt6 twitter.com/sayakafc/statu…

舩田クラーセンさやか Sayaka Funada-Classen @sayakafc

「ドイツが歴史から学んでいない」と言う気持ちは理解できますが、実際は「被害者との和解・歴史から学ぶ」については、最も熱心な国の一つであることは事実。ツイも政府、ビデオも公共放送ので、国を挙げて過去と向き合う姿勢。だから「日本も向き合わなくていい」ではない。でも・・以下は連ツイを。 twitter.com/sayakafc/statu…

2024-01-15 19:07:11

拡大

拡大

拡大

拡大

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

2/ 最初に両者に和解への方向を指し示したのは冷戦であり、謝罪と補償は手段の一つであった。具体的に誰を補償するのか、しないのかを決めたのは冷戦の対立構図であり、ドイツは政治的に緊急性の高い相手、もしくは政治的に「近い」相手から補償し、和解してきた。

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

3/ したがって、最初にユダヤ人との和解のための補償を打ち出した。次にフランスやベルギーを始めとする近隣の西欧諸国への補償が続いた。政治的に「遠い」国のナチ犠牲者は補償から取り残された。東欧のナチ犠牲者に対する補償が本格化するのは冷戦終結後であり、元ソ連兵捕虜に対する補償は2015年。

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

4/ これに対しアラブ諸国の中の孤島であったイスラエルは、西欧へのつながりを確保することが生命線となった。安全保障においてドイツから特別な配慮がなされることは当然と考えた。ドイツによる補償・支援がイスラエルの軍事大国化につながるという批判があったが、支援の意図はまさにアラブ諸国側が

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

5/ 危惧するその状態、つまり国家の強化によるユダヤ人の安全の確保にあったのである。両者の関係構築はアメリカを中心とした西側戦後体制の構築という、より大きな文脈の中で理解する必要がある。西側陣営はドイツによるイスラエルへの軍事支援をある程度容認してきたが、それは最終的には自分たちの

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

6/ 利益となることが理解されていたためだ。 　こうした関係性においては、互いの関係構築が政治経済や安全保障上の利益をもたらすゆえに、それ自体が和解を前進させる力学を生む。📌互酬関係の維持という自己保存が生まれる。利害関係のみから導かれる政治は道義的権威を欠く。しかし冷戦が両者を

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

7/ 和解の方向へ押し出したのは明らかだ。ドイツ人とユダヤ人が実践してきたのは、こうしたリアルポリティクスであった。ドイツは常にナチズムの犯罪を悔い償うという大原則から出発した。ドイツの「和解政策」が安全保障と連動していたのは事実だが、ドイツが時間をかけて補償対象を拡大し、

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

8/ その時代のモラルが求めるものに応えようとしたのもまた事実である。こうした過程で重要だったのは、和解が最終的にはナチズムにより失われたドイツの国家的名誉を回復するものと考えられた点である。一定の道義を自らに課した政策を取ることでのみ、ドイツの名誉は回復されると考えた。

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

9/ 政治家は「ドイツの名誉」という言葉で反対派を牽制した。国家的名誉というナショナリスティックな感情に訴えることで、過去への反省に乏しい政治的右派までを、和解の政治的プロジェクトに取り込むことが可能となった。 　イスラエルが1967年の６日間戦争に勝利した時には、建国期はすでに終わって

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

10/ いたと言え、以降は「生き残ること」は「優位を保ち続けること」へと変容していった。 　イスラエルやアメリカのユダヤ人社会の姿勢が軟化することは、「殺人者の国」に居残ったとして同胞から白眼視されていたドイツのユダヤ人に対する姿勢の軟化も意味し、ドイツ国内のユダヤ人社会の安定化を

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

11/ もたらした。政府により保護され、ドイツのユダヤ人共同体は消滅することなく冷戦の終結と統一を迎えることができた。 　両者の和解は、国際的・国内的な状況が変化する中で、何が最も望ましいかより、何が実現可能かを問い、全体としての利益を優先してきた結果として和解がついてきたと言った

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

12/ ほうが実像に近い。 📌時には明らかに道義が後回しにされる状況も発生した。それがパレスチナ問題と、ドイツ国内の労働移民の統合問題に見られる矛盾であった。前者においては、イスラエルへの物的・軍事的支援がパレスチナ問題の長期化へつながる可能性が認識されていたが、和解のプロジェクトが

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

13/ 優先され、これがドイツにとっての道義であると解された。後者においては、ユダヤ人マイノリティを特別な集団として位置づけ、彼らに対する配慮を基本合意として政治を行ってきたことにより、複数の移民集団の中でシチズンシップの階層化が生じてしまった。

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

14/ 近年、中東からの難民流入によって噴出したイスラム教徒の移民・難民に対する拒否の源流をたどると、📌長期にわたるムスリム労働移民の構造的な周縁化が見えてくる。これは、ユダヤ人集団が対照的に社会の中枢に統合されてきた事実と重ねて考える必要がある。

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

15/ 📌マジョリティ社会・ユダヤ人マイノリティ・ムスリム労働移民という三層構造は、ドイツに限らず、欧州全体に存在する。 　ユダヤ人が移民社会の上位に位置する構図は、ドイツ以外にもむしろフランスのような国で、より先鋭化して現出している。

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

16/ 戦後の西欧社会におけるユダヤ人の地位の根拠を問うと、ひとつにはホロコーストへの罪悪感であり、ふたつには冷戦の力学であり、またユダヤ人社会が民主主義の写し鏡として機能してきた点にある。先の大戦でヨーロッパに悲劇をもたらした人種主義や排外主義を否定し、民主主義的な社会を作ろうと

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

17/ 思えば、まずユダヤ人への対応が問われた。ユダヤ人は民主主義のバロメーターとされ、その物差しは標準化した。尺度は過去に対する解釈においても適用された。記憶の伝達においては、1980年代以降、ますますホロコーストが中心に据えられるようになり、これがヨーロッパ的アイデンティティの中核に

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

18/ 位置づけられるに至った。ユダヤ人社会の再生は戦後西欧社会の勝利のしるしと見なされた。 　このため、この頃すでに顕在化していた労働移民の社会統合における問題は、ムスリム労働移民と、社会の中枢に成功裏に統合されたユダヤ人集団との違いを際立たせる結果となった。

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

ユダヤ人社会の復活を通じて見えてくる移民のシチズンシップの階層化の問題は、ドイツだけでなく欧州全体の今後を読み解く上でも、重要な鍵となるだろう。 (END) 『<和解>のリアルポリティクス』武井彩佳. 2017.1.23, みすず書房, pp.251-7