中国・明代の江南の街を絵巻の中に復興させるという設定のまちづくりゲーム「水都百景録」。登場人物や街を調べていくうち、どんどん面白さが増して深みにはまったので、参考になった本をまとめてみました。
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muye @muye_sanyue

kyuko.asia/book/b9769.html 土木の変で生き残って捕虜となった英宗に従ってモンゴルに行った二人の人物、太監の喜寧と錦衣衛校尉の袁彬の対比が全体の軸になっている。前者はモンゴル連行後程なく明を裏切り、オイラト軍の手引きをしたりして、最後は英宗の罠にかかって捕らえられ処刑されてしまう。→

2023-02-05 13:02:45
muye @muye_sanyue

→明側からは奸臣扱いだが、元々はモンゴルの戦争捕虜だったっぽいので、本人からしたら故郷に帰還したということなのかもしれず。後者は喜寧に殺されかけたりしながらも、冬は皇帝の足を自分の脇腹で温めたりして英宗に忠義を尽くし、帰国後&英宗の重祚後は英宗にものすごく報いてもらっている。→

2023-02-05 13:03:25
muye @muye_sanyue

→袁彬は母一人子一人の家で、人質返還交渉が決裂して英宗がモンゴルに連れ去られる時、「母を誰が世話するのか」とワアワア泣いちゃったり。著者の前書きに「本書は、万里の長城にカメラの三脚を据えて、名も無き人々を定点観測した、その分析記録のごときもの」とある、無名の人の代表みたいな。→

2023-02-05 13:04:13
muye @muye_sanyue

→それにしても、明側もモンゴル側も戦争捕虜をスパイに仕立てて相手方に送り込むし、明ではそういうスパイには極刑で臨んだので(悪い奴は、捕虜になったけど自力で必死に逃げ帰って来た人を報奨金目当てで密告したりも)、戦闘以外の部分のシビアさがひしひしと。やはり平和が一番だよ。

2023-02-05 13:04:47
muye @muye_sanyue

なお、この袁彬さんのお母さんは長生き(90歳超え)したので、皇帝とともに帰国した袁彬さんは無事にお母さんに再会できて、その後親孝行を尽くせた筈。良かったね。 twitter.com/muye_sanyue/st…

2023-02-05 13:07:20

【特集】鄭和さんスペシャル:

muye @muye_sanyue

(高校の時、普段は淡々と授業を進める世界史の先生が、鄭和の時だけ彼がいかにイケメンで超絶スーパーなかっこいい人だったかを熱弁したのが印象に残っていたので、水都百景録で鄭和に嵌ったところはある。S々木先生、あなたの撒いた種はついに芽吹きましたよ…推しを推してくれてありがとう…!)

2022-09-22 18:13:20

…ということなので、鄭和さんは特集します。異論は認めません。

muye @muye_sanyue

上田信『シナ海域蜃気楼王国の興亡』中の一章が鄭和についてで、ムスリム家系出身の宦官である彼の人生の謎に迫って面白いです。同じ著者の『海と帝国』も。中公新書の『鄭和の南海大遠征』と合わせると見える世界が全然違う… #水都百景参考書 amazon.co.jp/dp/B00G1ZUNQ4/…

2022-06-21 21:00:38
muye @muye_sanyue

鄭和の南海遠征に同行した馬歓の「瀛涯勝覧」を読んでいたら、インドのカリカットでの交易で、値段が決まると相手方の頭目と中国側の鄭和や船頭らが手を打ってしめるという記述があり、明代インド洋の手締めの作法が気になって仕方がない。よおーっシャシャシャン〜みたいなことをする鄭和さん…

2022-10-11 23:32:28
余談:鄭和さんと応天府
muye @muye_sanyue

ところで鄭和さんは永楽帝の死後、一時干されて(?)南京守備の司令官をやっており、その間に瑠璃宝塔建てたりしているらしいのですが、その辺詳しく!と思っても普通の鄭和本ではスルーされているところ、参考文献辿って水都百景録の街づくりに役立つ情報をゲットしたのでご参考に(?)→

2022-09-21 12:38:23
muye @muye_sanyue

馬府街:鄭和は甥を養子にした後、南京三山街に住んだ。太平東路の東側の馬府街がその跡で、代々子孫が暮らしてかなり広かったらしい。今は鄭和公園もある。 浄覚寺:三山街にある南京最古のイスラム寺院。火災で消失した時、鄭和が再建を奏上したらしい。 天妃宮:鄭和の航海に前後して南京に建設。→ pic.twitter.com/s0DE4R3N63

2022-09-21 12:39:22
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muye @muye_sanyue

歴史上の鄭和が三山街付近に住んでいたらしいことが明らかになったので、水都百景録で建文帝が三山里に潜伏している設定にますますガクブルですよ。鄭和の南海遠征は建文帝の行方捜索説もあるのに… どんな顔で鴨血料理食べてたんだ。そして鄭和さん、船は作る建物立てるで、実は厳さまと仲良しでは?

2022-09-21 12:39:47
muye @muye_sanyue

がんばりました。(日本語の本で深掘りしたい記述を発見→邦訳では出典注が省かれていることが判明→原著がKindleで出ていたので注を確認→「日本の古本屋」サイトでそれらしいタイトルの本発見→外食何回かやめようポチリ→さすがの地元情報充実…)日本の古本屋ほんと役に立つ。謝謝ですわ。 pic.twitter.com/G4CHZa9V73

2022-09-21 12:50:15
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中国の書画と明代の文人たち

書画の話:

muye @muye_sanyue

クレイグ・クルナスの『図像だらけの中国』『明代中国の庭園文化』には文徴明や仇英、沈周等の書画の掲載に加えて、文徴明はじめ文氏一族への言及が結構あります。時代の雰囲気が掴める。 #水都百景参考書 図像だらけの中国> amazon.co.jp/dp/4336061912/… 明代中国の庭園文化> amazon.co.jp/dp/4791764269/…

2022-06-21 20:26:13
muye @muye_sanyue

しばらく歴史方面からアプローチしてきたが、そろそろ詩と書と画に真面目に取り組みたいぞと思って、内山書店や東方書店のオススメなど参考にしつつ、入門書から読んでみることにした。まずはいずれも岩波新書の矢代幸雄『水墨画』と島尾新『水墨画入門』から。→ #水都百景参考書

2023-07-13 23:11:29
muye @muye_sanyue

矢代幸雄『水墨画』は初版が半世紀以上前で、戦後すぐに書かれた論文もあり、正直いささか高尚すぎて教養が追いつかなかったし、古めかしい印象も受けた。理論的に再構成された美的規範の側から説明するのは参考になるが、油断すると東洋の神秘的精神論に傾きがちなのは困る。 amzn.asia/d/1lXSx3O

2023-07-13 23:13:11
muye @muye_sanyue

→内容は、水墨が直感的に官能に訴える色彩を捨て、線と明暗の調子の構成で勝負するに至ったこと、特に日本美術で効果的に利用されるに至った滲みの技法について、禅宗との関係、荊浩『筆法記』の紹介など。私は色彩は得意だが線はからきしなタイプなので、忸怩たる思いで読んでいた。

2023-07-13 23:15:05
muye @muye_sanyue

一方、島尾新『水墨画入門』は物理的な存在としての紙や墨が水墨においてどういう状態になるか具体的に説明したり、現代アートとしての書画も紹介したり、長期にわたる交友関係の中で作品が言わばインタラクティブに作られていく面に焦点を当てたりして、私には刺激的だった。 amzn.asia/d/cVoStDa

2023-07-13 23:16:36
muye @muye_sanyue

半世紀を隔てた二冊の入門書を併読することで、現代における水墨画へのアプローチの振れ幅というのも感じとることができて良かった。それにしても董其昌、私は歴史側から先に知ったので「とんでもないろくでなし」の印象が拭えないのだが、書画の世界では超絶偉大な山みたいでギャップに風邪引きそう。

2023-07-13 23:18:17

文徴明:

muye @muye_sanyue

一番下の『文徴明とその時代』は数年前に東京国立博物館と台東区立書道博物館で開催された展覧会の図録です。多分これが水都百景録の主要文人関係が一番まとまっているかと。ゆるキャラ文徴明くんもいて、割と読みやすい。まだ東博で売ってると思います。 #水都百景参考書 tnm.jp/modules/r_free…

2022-06-21 20:01:11

董其昌:

muye @muye_sanyue

東博には文徴明や董其昌の書画が所蔵されているので、時々常設展にふらりと出ていたりします(東博のホームページで現在の展示品を確認できます)。董其昌も昔、特集展示をやっていたらしいです。 #水都百景参考書 tnm.jp/modules/r_free…

2022-06-21 20:04:07
muye @muye_sanyue

福本雅一『明末清初』の冒頭には、「まず董其昌を殺せ」というショッキングな題の章があり、董其昌についてろくでもないことが色々わかります。著者に「なんと気持ちの悪い爺さんではないか」とまで書かれる有様…水都百景録の中ではあんな美形なのに… #水都百景参考書 amazon.co.jp/dp/4810404137/…

2022-06-21 20:41:17
muye @muye_sanyue

ところで、水都百景録世界の大火の原因と思われる万暦44年の董其昌邸焼き討ち事件、小説やら講釈やら歌やらビラやらで煽動されて大炎上に至ったので、本人的には「民抄(民衆による打ちこわし)」と言われるのを嫌がり、「士抄(士人による打ちこわし)」だと言っていたらしい。そこは気にするんだ…

2023-03-21 22:28:59
muye @muye_sanyue

出典は大木康『明末江南の出版文化』より。なお、あちこちに言われている通りなら、炎上の過程はどうあれ、発端はどう頑張っても逆立ちしても、董其昌が極悪です。

2023-03-21 22:29:33

薛素素:

muye @muye_sanyue

以前に紹介した大木康『蘇州花街散歩』は史実を参考に蘇州府開発したい全知府必携の書ですが、薛素素について触れている点でも貴重。なお、本書で紹介されている薛素素についての英語論文はぐぐるとPDFで全文読めます。(続きます) #水都百景参考書 twitter.com/muye_sanyue/st…

2022-06-30 22:36:35
muye @muye_sanyue

水都百景録、蘇州開発にあたり、参考になりそうな本を見つけた。前に紹介した『中国遊里空間:明清秦淮妓女の世界』の続編だが、花街以外の話題も多そう。何より写真と図や絵が豊富で思った以上に街づくりの役に立つ。>大木康『蘇州花街散歩:山塘街の物語』 #水都百景参考書 amazon.co.jp/dp/4762965936/…

2022-06-23 21:50:55
muye @muye_sanyue

薛素素についての英語の論文>Daria Berg,Cultural Discourse on Xue Susu, a Courtesan in Late Ming China(2009) ※Daria Berg Xue Susuあたりのキーワードでぐぐると該当論文のPDFに行き当たるかと。詳細未読ですが、彼女は馮夢龍とガチ同世代(生没年もほぼ同じ)なんですね。 #水都百景参考書

2022-06-30 22:43:34
muye @muye_sanyue

(正直、外国語の文献まで広げるつもりは無いのですが、水都百景録の登場人物、あまり日本語の情報がない人も結構いるので…)

2022-06-30 22:44:41

【特集】馮夢龍パック:

muye @muye_sanyue

水都百景録、馮夢龍パック(違)。一体全体私は読みきれるのか。とりあえず『笑府』から始めていますが、日本の落語の元にもなっただけあり、笑いのツボに「わかるわかるー」と親近感を覚えつつ、思った以上に色々キレッキレだし下ネタしょーもないし、面白いです。爛熟してるなー。 #水都百景参考書 pic.twitter.com/P0vtAienvZ

2022-07-12 21:01:57
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muye @muye_sanyue

右のでかい本2冊の著者大木康先生は、馮夢龍推しが嵩じて研究者になったような方らしいので、こちらもついつい御著書を推してしまう。>東京大学|UTokyo BiblioPlaza - 大木 康『馮夢龍と明末俗文学』 u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja…

2022-07-12 21:08:32

↓大木康『明末のはぐれ知識人:馮夢龍と蘇州文化』

muye @muye_sanyue

同じく大木康『明末のはぐれ知識人:馮夢龍と蘇州文化』は馮夢龍の生涯を題材に、明末の知識人の生活や印刷文化の興隆などを描いた本。これを読んで馮夢龍に興味が湧いて、水都百景録は馮夢龍メインで進行中です。 #水都百景参考書 amazon.co.jp/dp/4062580454/…

2022-06-21 20:52:21

↓馮夢龍(撰)『笑府』

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馮夢龍撰『全訳笑府:中国笑話集』は岩波文庫から上下巻で。「饅頭怖い」の元ネタなど落語にも通じる笑話集。油断しなくても下ネタに流れがちだが、撰者(馮夢龍?)が「蘇州の風習では」と突然解説を始めたりするので、特に二次創作を嗜む知府には必見かも。#水都百景参考書 amazon.co.jp/dp/4003203216/…

2022-07-31 21:11:57
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「笑府」個人的に一番勉強になったのは「当時の人は男女とも足が臭い(常に布を巻いて滅多に洗わないから)」ということで、というのもどこで読んだか忘れてしまったが「文徴明は物凄く足が臭かった」という話があるらしく、ええ…と思っていたので。みんな臭いなら、特に臭くても、まあ仕方ない。

2022-07-31 21:22:33

↓馮夢龍『三遂北宋平妖伝』

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TOHOシネマズ日本橋で開催中の中国映画週間で上映されている「天書奇譚:4K記念版」(上海美術電影)を見たら、江南百景図で見たことのあるキャラがいてびっくりしたのだけど、天書奇譚と江南百景図がコラボしたのね。渋いな。全然違和感のない世界観…日本にも来て欲しい… share.api.weibo.cn/share/34295099…

2022-10-21 23:47:11
muye @muye_sanyue

「天書奇譚」の原作は「平妖伝」らしいので読み始めたら、則天武后が男に生まれ変わって再び世界を支配するぞ的なことを言っているのだけど、水都百景録に武則天が天の人でいる理由って、ひょっとして、これ…?(平妖伝は羅貫中作とされているが実質馮夢竜が補作している…) youtu.be/2XwQf8uOcf8

2022-10-21 23:52:02
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muye @muye_sanyue

「平妖伝」は天の秘法を盗んだ蛋子和尚、道を修めた老狐の精・聖姑姑と子供たち、その他妖人が則天武后の生まれ変わりの王則に加勢して荒唐無稽の活躍を繰り広げる伝奇小説。佐藤春夫訳では著者は羅貫中とあるが、実際は馮夢竜による増補改訂版の翻訳です。 #水都百景参考書 amazon.co.jp/dp/4480027424/…

2022-10-27 20:38:59
muye @muye_sanyue

「平妖伝」、江南百景図とコラボした中国アニメの古典「天書奇譚」の原作というので読んでみたら、「笑府」を彷彿とさせる馮夢竜のキレキレの人物描写・社会風刺が出色だし、実は包拯も登場するし、中国史の色々な時代を包摂する水都百景録の世界観の肝なのではと思った。あと妖術合戦が単純に面白い。

2022-10-27 20:46:39
muye @muye_sanyue

「平妖伝」だと、北宋の時代に反乱を起こした王則は多欲魔王が五百年ごとに転生した姿でその前世(五百年前)は武則天という設定、「平妖伝」の世界で敗れたので五百年後の明代に再び武則天の姿で転生したのが水都百景録の設定なのかなと。入居時の発言がとにかく不穏なのはそのためでは…

2022-10-27 21:00:22

↓大木康『馮夢龍『山歌』の研究:中国明代の通俗歌謡』※分厚い研究書

muye @muye_sanyue

鈍器だし枕なので正直なところ読了するつもりはさらさらなかった『馮夢龍『山歌』の研究:中国明代の通俗歌謡』を何の因果か読み終えてしまった。面白かったので感想はまた。笑府、平妖伝と読んで来て今回確信したけど、私、馮夢龍のユーモアのセンスというか美意識というか着眼点というか、好きだわ。 twitter.com/muye_sanyue/st…

2022-11-25 23:49:42
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まとめたひと
muye @muye_sanyue

水都百景録:町活と読書案内と二次小説。鄭和さんと馮夢龍推し。ゆるくおつきあいのほどを。ただし、無邪気な差別含めあなたからヘイト発言は聞きたくないです。📘読書案内まとめ→ min.togetter.com/7iXYgVx 📗二次小説まとめ→ min.togetter.com/go6Z0Gn