要望がありましたので纏めました。尻切れトンボもいいところなんですがこれ凄く長い話になるので。正直、長田龍太氏の本はあんまり良いものではないと思うのですが日本だと(この分野の本では間違いなく)ベストセラーになっているのがこの界隈の問題や流動性の拙さを表しているなぁと思ったりします。 Twitterからの緊急避難。
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この接着型リノソラックスの性能は「The Knight and the Blast Furnace」等におけるA・R・Williamsの計算と数値によれば、同質量の中世期の硬化鋼を上回ってしまう。(例えば900グラムの鋼は0.8cmの厚さであるがそれを貫通するには60ジュール必要である)

2018-10-08 17:46:00
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そして、ギリシャ圏~ペルシャ圏の弓の威力は概ね30J~40Jとなる。

2018-10-08 17:46:00
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つまり、これをそのまま受け取ると当時のホプリタイが接着型リネンを着用していたとした場合、弓をほぼその鎧だけで無効化できることになる。これは、超性能過ぎるし、数々の史料の記述と矛盾するものが多い。

2018-10-08 17:46:00
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そもそも、Aldrete氏のチームはいくら低威力と言われるとはいえ古代地中海世界の弓を過小評価しすぎではないかという声もあったりする。

2018-10-08 18:28:42
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また、実験に使用された弓と矢の不一致や厳密性の欠如も挙げられる。チームは実験に"現代の"コンポジットボウを使用している。これは"鎧の耐久性を検証する再現実験"として再現性を目指すならば当時の物に近い"歴史的に正確な弓"を使用して行うべきである。

2018-10-08 18:39:38
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ただ、これはまだ良い。問題はこれを使用して放った矢の"鏃"の方である。チームは「接着型リノソラックス」と「青銅の一枚板」それぞれに「青銅の鏃」「鉄製の鏃」「現代の狩猟用鏃」等を放っている。

2018-10-08 18:39:38
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しかし、全ての鏃が均等に使用されたわけではなく、一部は「接着型リノソラックス」のみに使用されただけで「青銅製の一枚板」には使用していない。これでは正確な比較実験になっていないという指摘がある。

2018-10-08 18:39:38
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更に致命的と言えるのが実験に使用された「青銅製の一枚板」の稚拙さと劣悪さである。チームはこの実験に厚さ1.8mm、重さ2.49kg、サイズ約45x45cmの「青銅製の一枚板」を使用したと報告している。

2018-10-08 23:09:16
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正直、物理は苦手なので何か間違ってるかもしれないけどとりあえず進める。

2018-10-08 23:17:44
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過去に述べたP・H・Blythらを初め長年の数々の実験や調査により古代地中海世界の青銅の妥当性のある比重、質量等は判明してきており、約8.5-8.8g/cm2とされる。

2018-10-08 23:17:44
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そして、研究チームの記した青銅板は約8.7g/cm2と記録されている。これによると実験に使用された「青銅製の一枚板」は本来、厚さ1.8mmでサイズ約45x45cmでは重さ"3.14kg"でなければならない。

2018-10-08 23:17:44
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しかし、実験で使用された「青銅製の一枚板」は重さ2.49kgである。とするとこの重さに基づく"本来の"青銅は厚さ1.4mm~1.5mmのはずである。当然、その薄くなった分だけ射られた矢に対する耐久性は落ちる。

2018-10-08 23:17:45
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つまり、研究チームは実験に際して深刻なミスをしていたか、実験中に「青銅製の一枚板」の厚さが変化したといえる。

2018-10-08 23:20:54
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更にチームはこの青銅板に対して焼鈍している。これは金属を劣化させ、強度を落とす行いである可能性が高い。 (アニールに関しては適切な処理をすれば青銅の強度を高めることも可能なのでミスの可能性も勿論ある)

2018-10-08 23:33:00
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こういった事情によりこの実験に使用された青銅板は本来の望ましい値と性能よりも最低でも10%~18%は劣化していたのではないかという疑問が出てしまうのだ。これは実験の不手際、もしくは不正と疑われても仕方ない点がある。

2018-10-08 23:33:00
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更に。Aldrete氏の研究チームは「接着型リネン生地」との比較実験に「キルティングされた布地」も使用している。そして、この「キルト生地」のサンプルも古代地中海世界の事情に即していない稚拙な作りであることが指摘されている。

2018-10-08 23:50:08
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キルティングされた布鎧、縫い合わせ型の鎧はそれこそ地球規模で一般的な鎧であり、そのサンプルも記録も豊富である。しかし、チームが使用した物はどれもまともにそれを参照していないのではないかと疑われる程の物であるといわれる。

2018-10-08 23:50:08
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その悲惨なサンプルとの比較検証によりチームは「接着型リネン生地」は「キルト生地」やそれらを使用した縫い合わせ鎧よりも優れているという結論を出してしまっている。このキルト生地のサンプルが数々の史実的に正確で実験に相応しいものであったならば別の結果が出た可能性があるとされる。

2018-10-08 23:53:01
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更にもう一つ(まだある)。前述したとおり「接着剤を使用した布鎧」というのは研究者の推論から始まったものであり、一切の記録も証拠もないモノであり、接着剤も不明、更にその鎧としての現実性と実用性にも大きな疑問符が付く物である。

2018-10-09 00:38:22
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Aldrete氏らは著書内でその「接着剤を使用した布鎧の根拠」としていくつかの記述を引用している。それらはWolfgang Helbig氏の「"Oggetti Trovati nella Tomba Cornetana detta del Guerriero" Annali dell’Instituto di Corrispondenza Archaeologica 46」と

2018-10-09 00:38:22
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Franz Studniczka氏の「"Zur Herkunft der Mykenischen Cultur" Mittheilungen des Kaiserlich Deutschen Archaeologischen Instituts, Athenische Abteilung 12」である。どちらも著書の参考文献に載っている。

2018-10-09 00:38:23
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W・Helbig氏のはエトルリアのタルクィニアにおける墳墓の、F・Studniczka氏のは青銅器時代のミケーネにおけるシャフト墓についての記述である。しかし、これらの記述を当たってみると「接着された布」「それらを使用した鎧」については一言も記されていないのである。

2018-10-09 00:38:23
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(この部分、すごく長い話になるのでちょっと省略したい)

2018-10-09 00:38:23
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これらだけでなくこのような虚偽は複数あり、Aldrete氏らはミスリードを誘う書き方と共に"接着型リネンの実在性を創造している"。Aldrete氏らのこの行いは明確に研究者として不誠実であり、これだけを取ってもAldrete氏らのチームの実験とそこからの論説は信憑性に欠けるものになる。

2018-10-12 22:58:37
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他に、Aldrete氏らは「お手製接着型リノソラックス」を着用した人間に向けて現代のコンポジットボウで矢を放つという映像と写真を実験中に撮影している。そして、近距離で矢を放たれてもピンピンしている着用者を見せ、「お手製接着型リノソラックス」の高性能さをアピールするというものである。

2018-10-12 22:58:37
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こういった代物は甲冑趣味人や甲冑スポーツマン、在野の甲冑研究者&武術研究者、武術家等が自説を主張する際によくやる"ショー"でYoutube等で横行しているものの一種である。(淡々とした研究記録や検証映像とは違うもの)

2018-10-13 01:13:55
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どんなに不安定な説も強いインパクトや体験を見せつけることで説得力を補強し、よく知らない一般人や体系的な訓練や教育を受けていない趣味人の支持を集めやすいというもので悪しき体験主義やテレビ的手法として批判を受けることが度々あり、これもまた良識的な行いではないといえる。

2018-10-13 01:13:55
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(更にこの"ショー"の為に彼らはアッリアノスやパウサニアス、プルタルコスらの記述から伺える"布の鎧"よりも遥かに頑丈な接着型リノソラックスを作った疑いも持たれている。実験の20層構造の接着型リノソラックスは必要なリネンの量とコストも莫大なものになり、現実性がない)

2018-10-13 01:13:55
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ちなみにチームが使用した接着剤は「兎膠」だが、これふっつーにチームが美術品用カタログで購入したのを再加工した奴だったりする。ついでにいうと兎膠は水に非常に弱い。

2018-10-13 01:13:56
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実在性の根拠のない物をあるとする恣意的な情報の選択にミスリードを誘う文体と虚偽の記述、そして、整っていない方法論と杜撰な実験。Aldrete氏らの論説は少なくとも鵜呑みにはできないところがある。ただ、研究チームのこのプロジェクトの労力は称賛には値する。

2018-10-14 18:22:33
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例えば「接着型リノソラックス」を製作する際、事前に膨大な数のCPA(Corpus Vasorum Antiquorum)に当たっていたのは事実であるし。

2018-10-14 18:22:33
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また、当時のような手織りのリネンを用意しようとしたが今は採取、加工、織物どれにも必ず工業式プロセスが入ってしまい、サンプルとしては不適格なので個人的に麻を栽培しているご家庭に連絡をとって麻を採取し全て手織りでリネン生地を作っている。この部分は徹底していて素直に凄い。

2018-10-14 18:22:33
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またその論説の組み方も慎重であるし、表面的な実験結果とそこからの主張にだけ目を向ければ説得力があるように見える。だから当初は高い評価を受けていたのだ。

2018-10-14 18:22:34
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しかし、大前提としての「接着型リネンを使用した鎧」の証拠や記述が見つからない限り、これらの労力は残念ながら疑問が常に付きまとうし、更に不備や不正とみられる内容もあってただ空回りしているともいえる。

2018-10-14 18:22:34
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更にこの良識的でない実験と論説によりまったく根拠がない仮説でしかなかった「接着型リノソラックス」が肉を帯びてしまった。「実在したかわからないものを実在した」と主張し証明するよりも「実在したか分からないものを実在していない」と主張し証明する方が遥かに困難である。

2018-10-14 18:22:34
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この点においてAldrete氏らチームは軽率なことをしたという批判も受けざるを得ない立場になっている。実際、この内容を真に受けて「リノソラックスの作り方」として流布する趣味人や団体は少なくないのだから。

2018-10-14 18:22:34
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何か最近、ひたすらにAldrete氏らをひたすらディスってるおじさんと勘違いされそうなんですけど別に悪意があるわけではないです。

2018-10-14 18:26:29
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ただ、まあ、これらの実験内容の不備や虚偽的な点について指摘を受けたり、疑問を持たれた際の共著者であり実験責任者の一人であるS・M・Bartell氏の主張と態度には眉を顰めたけど。

2018-10-14 18:26:30
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ここら辺はまーあんまり気分が良い話ではないので別の機会に。

2018-10-14 18:28:36
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どうしてこういった内容になってしまったかについてはプロジェクトメンバーが非常に身内主義的だったのが挙げられるんですよね。プロジェクトの発端と実験の中心になったS・Bartell氏はG・Aldrete教授の当時の教え子であり、共著者のAlicia Aldrete氏は教授の奥さん。

2018-10-14 18:34:14
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さらにプロジェクトメンバーの誰もが当時、甲冑研究や実験考古学の専門とは言えなかったり、非常に閉鎖的な環境で実験を行っていたりと。

2018-10-14 18:37:17
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で、ようやく(実に一年と少しぶり)で話が長田龍太氏に戻るのですが長田龍太氏はこのように少なくとも多少は慎重になるべきG・Aldrete氏らの「Reconstructing Ancient Linen Body Armor(以下略」を「古代ギリシア 重装歩兵の戦術」で無批判に参考にして取り上げてしまっているのですね。

2018-10-14 18:45:26
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Aldrete氏の著作内容についてはまだまだ疑問点や指摘されてる点があるのだけれどいい加減長すぎるのでいったん終わりにしたい。

2018-10-14 19:12:44