世界中に冬を運ぶという『冬の女王』の到来で、ヴォストニアは本格的な冬に。 それによりフロログが冬眠してしまうと聞いたリュウは冬の女王に一言文句を言ってやろうと単身女王が降り立つという冬の神殿を目指す。 その頃女王の護衛に当たることとなったファルコは或る熱い思いを胸に冬の神殿へと向かっていた。 女王の護衛にかけるファルコの思いとは?そして冬の女王とは何者なのか?ヴォストニアの冬の物語が今、始まる。
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

が、次の瞬間、踊場に足をかけた黒い影を見て、危うくリュウは声を上げそうになった。 黒い影は彼女の想像していた「冬の女王」のそれではなかった。 いや、それどころかその姿に見覚えすらある。 月明かりに照らされた黒い影は女のそれではなく、黒い鎧を身に纏った壮年の男であった。

2022-01-15 00:38:59
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

(ちょ、あの偉い人、なんでこんなとこに…!) リチャードが将軍閣下と呼んでいたあの髭面の男に、リュウは心の中で呼びかけた。 しかしそんなこととはつゆ知らず、男は真っ直ぐ神殿の方に向かっていく。 …当然その先にあるのはリュウが女王を捕らえるために仕掛けた落とし穴だ。

2022-01-15 00:39:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

(いやいやいや!だめだって!そっち行ったら落ちるから穴に!) さしものリュウも顔面蒼白、冷汗を浮かべてその様子を見つめる。 当然のことだが穴に落ちれば大量のトリモチが待っており、穴から這い出るのは至難の業だ。 国の要人がそんなことになれば騒ぎが起きること必至である。

2022-01-15 00:40:40
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

ここへ来ての予想外の出来事にリュウの思考はぐるぐると頭の中をとめどなく駆け巡る。 (わああああ!踏むなーーー!!) 心の中で叫んだ瞬間。 「…っ?」 リュウの祈りが天に届いたのか、鎧の男はすんでのところで足を止めた。 (ふー、あっぶねー!) 冷汗を手の甲で拭い、心の裏で呟く。

2022-01-15 00:41:22
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黒い鎧の男は腰に差した剣を抜くとその切っ先を罠の上に突き立てる。 人が乗れば簡単に壊れるように設置された床はいとも簡単に崩れ、人の腰くらいまでの深さの大きな穴がポッカリと口を開けた。 「…罠か」 ポツリと男が呟く。 しかしその声はリュウの想像していた「なーんだ」の声色とは違った。

2022-01-15 00:41:51
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男は鋭い目つきで周囲の闇を睨めつける。先程抜いた剣はその手に握られたままだ。どう見てもいたずらがわかって胸を撫で下ろす人間の表情ではない。 ここへ来てリュウは初めて自分がしでかしたことの重大さに気がついた。 否、なぜこの男がここまで怒りを顕にしているのかまでは理解が及ぼなかったが。

2022-01-15 00:42:20
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しかし別に男が罠にはまったわけでもないし、リュウが犯人だとバレたわけでもない。 そして「偉い人」とは言え相手は人間だ、半羊のリュウが足音を忍ばせて逃げれば山道なら楽に逃げ切れるだろう。 男がこちらに背を向けた隙にリュウは身を屈めてこっそりと森の奥に逃げ込もうとした。

2022-01-15 00:42:58
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が、 「うわっ!」 なんとリュウはチュニックの裾を誤って踏んづけてしまい前につんのめって茂みの中に突っ込んだ。 寝入っている者でも起こせるだろう轟音が静かな神殿前に響き渡る。 「!」 刹那、振り向いた男と起き上がって振り返ったリュウの目が合った。

2022-01-15 00:43:33
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「やっべ!」 反射的に呟きリュウは男に背を向けて一目散に駆け出した。 まだ男とは距離があるし、今ならまだ逃げ切れるはずだ。 が。 「待て!」 背後から男の怒声が響く。 後ろを直接見たわけではないが声の距離感はリュウが想像していたよりだいぶ近い。 男の足音が見る見るうちに近づいてくる。

2022-01-15 00:44:02
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リュウは振り返って男との距離を確認した。 もう少し頑張れば引き離せる、そんな距離だ。 しかし次の瞬間、男の手が自らの懐に潜り込んだかと思うと、鋭く水平に宙を薙いだ。 刹那、 「うわっ!」 リュウの足首は後方に向けてぐんと引っ張られ、体はそのまま地面に叩きつけられた。

2022-01-15 00:46:10
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「痛って〜…」 起き上がろうとしたリュウの鼻先で何かがギラリと光った。 それが鋭い銀の刃だと気がついた瞬間、今度はほっかむりを頭からむしり取られる。 慌ててリュウは首だけ巡らせて背後を見た。 月を背にした大きな黒い影が視界いっぱいに広がっている…あの黒い鎧の男だ。 pic.twitter.com/b1tFovleTc

2022-01-15 00:46:47
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「…お前は」 リュウの顔を検めるや、男は怪訝そうな顔をして呟いた。 「あ、や、ど、どーも…」 絶対絶命の状況下、さしものリュウも最早愛想笑いをするより他に術がない。白々しく言葉を継ぐ。 「あの罠を仕掛けたのは貴様か?」 しかし男は険しい表情のまま地を這うように低い声で問うてくる。

2022-01-15 22:55:33
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なんとか悪あがきしようと、 「え、わ、罠?なんの…」 しらを切るリュウであったが、 「嘘をつけば罪が重くなるぞ」 それすら遮って男は容赦なく追撃してきた。 「…ごめんなさい」 こうなっては謝る他になく、リュウは渋々罪を認めた。 「何故あのような罠を仕掛けた? まさか女王に不埒な真似を?」

2022-01-15 22:56:06
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「や、ふ、不埒って!あたしはただ…」 「さしづめ女王に危害を加えれば冬を遅らせることができると踏んでのことだろうが冬の到来は国の運営の根幹に関わる重大事。 さらに冬の女王は世界の気候を司る要人の中の要人だ、大事とあらば国際問題であり、我が国の責任問題にもなりかねない」

2022-01-15 22:56:53
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リュウの言葉を遮り、尚も男は続ける。 「それ以前に要人へ危害を加える事は重大な犯罪行為。 罪が立証されれば良くて終身刑…悪くすれば死罪だ」 それを聞いてさしものリュウも気が気ではない。 「待ってよ!そんな大事なことなんてあたし知らなくて…」 「知ろうが知るまいが罪は罪だ」

2022-01-15 22:57:56
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国の体制を維持するレイヴンの総帥として、男は…ファルコは容赦なくリュウに告げる。 と、 「やめろ!」 何処からともなく聞き覚えのある声がして、ファルコもリュウもあたりを見回した。 続いて駆けてくる蹄の音と茂みが揺れる音がして、二人の目の前に大きな影が飛び出してきた。 「リュウ!」

2022-01-15 22:58:27
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誰かに呼ばれ、リュウが声の方を向いた瞬間、何者かがリュウに覆いかぶさって来る。 何事かと顔を上げたリュウの目に飛び込んできたのは見覚えのある金の髪に青い瞳の白い横顔。 そして。 「ちょっと待てよ、俺の友達に何すんだよ!」 二人の前に立ちはだかり、ファルコに猛然と食って掛かる後ろ姿。

2022-01-18 01:08:32
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「…珍しい所で会ったものだな」 一瞬ファルコは驚いたように目を見開いたが自らの本分を弁えた彼の事、すぐに険しい目つきで影を…リチャードとアンジェロを睨めつけた。 アンジェロの隣で唸り声を上げていたビリーが一瞬ビクリと身をすくめ、アンジェロも殺気を湛えるファルコに僅かに怯む。

2022-01-18 01:09:08
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「閣下、何故このような所に?そして何故このようなことを…」 身を挺しリュウを庇うリチャードは僅かに震える声でファルコに問うた。 「此度は女王の護衛任務にてこの地を訪れた。 その不届き者のように女王に危害を加えようと目論む者を排除する為にな」 その答えにリチャードは思わずリュウを見た。

2022-01-18 01:10:04
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「はぁ?!危害だぁ?!」 アンジェロは怪訝そうな顔をしてリュウを見やった。 「その者は神殿の前に罠を仕掛け、女王を足止めしようとした。 要人への脅迫及び攻撃行為は断じて容認されるべきでないことはそなた達にも理解できよう」 冷たい声でファルコが返すと、 「ちょ、そんなことしたのかよ!」

2022-01-18 01:10:27
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さしものアンジェロも二の句も接げない。 「お前…そりゃ流石にマズいだろ…」 アンジェロに言われ、 「だって…」 リュウは涙目になりながら返した。 「ともかくその者からは事情を聞かねばならぬ、この後法務機関で詳しく取り調べをすることになるだろう」 ファルコが冷たい声で続ける。

2022-01-18 01:11:04
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「え、そ、そこまで重大な罪かよコレ?流石にやりすぎじゃ…」 「控えよ、私は国王陛下の勅命によりこの護衛任務に就いている。 即ちここでその者の罪を有耶無耶にする事は国王陛下の御心に反するも同じ」 手厳しい言葉に思わず後ずさるアンジェロ。 便宜上今はファルコの方が彼らより立場が上なのだ。

2022-01-18 01:12:59
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おまけに伯父からの勅命とあってはさしもの双子の王子も迂闊な物言いはできない。 と、 「アンジー!」 リチャードは強い口調でアンジェロを窘めた。…便宜上とは言え、上流階級に於いて階級というのは絶対なのだ。 やがて今度はリチャードがアンジェロの前に出て、ファルコに対峙すると帽子を取った。

2022-01-18 01:13:59
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「閣下、弟と友人が大変なご無礼を。 この者達に代わり私からお詫び申し上げます」 深々と頭を下げるリチャードを前にしても尚、ファルコは厳しい表情を崩さない。 「確かにこの者のしでかしたことは許されることでは御座いません。 しかしながら閣下、この者は誓って賊や反乱分子等では御座いません」

2022-01-18 01:16:21
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「この者はこの国に来てまだ日も浅く、この国の文化や仕組みを知らぬだけなのです。 此度の事も大それた事を企てたとはいえ、重罪に処すのは些か行き過ぎかと存じます。 ここはどうぞ、この田舎貴族の小倅の顔に免じて平にご容赦下さいませ」 言ったが早いか、なんとリチャードは地に額づいた。

2022-01-18 01:17:24
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「あ、や、その…!俺、あ、いや、私からもお願い致します!」 リチャードの様子を見ていたアンジェロも慌てて額づいた。 と。 「口を挟むつもりはなかったが、いい加減ここらで聞き分けちゃくれないか。 この子達も恥を忍んで頭を下げたんだぞ」 3人の子供たちの背後から、低く野太い声がした。

2022-01-18 01:18:01
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「お、親方!」 振り返りアンジェロが声を上げた。 アンジェロの言うとおり、影で見ていたベアンハートが大鎚を片手に双子とファルコの間に割って入ると、ファルコの険しい表情は更に険しさを増した。 「極悪人をごまんと見てきたあんたにゃ、この娘が悪人の手先にでも見えるのかい。将軍さんよ」

2022-01-18 01:18:47
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ベアンハートもファルコ相手に一歩も引かぬ鋭い視線を向けつつ低い声で言った。 「ここは法により治められた国だ、法と秩序の前には私情など塵も同じ。 国を、民を、王を背負うというのはそういうことなのだ。 貴様の如き下郎にはわかるまい」 ファルコの銀の剣の切っ先がベアンハートに向く。

2022-01-18 01:19:34
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「そうかい。だが、あんたが敬愛する国王は果たしてそう思っておいでかな」 ベアンハートも大鎚の柄を強く握る。 「下郎が。貴様如きが陛下を語るな」 ベアンハートの言葉を受け珍しくファルコが声を荒らげた。 ファルコの殺気とベアンハートの殺気。二つの鬼気迫る殺気に気圧され縮み上がる子供達。

2022-01-18 01:20:07
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ファルコの口調から察するに、恐らくファルコとベアンハートの間には何らかの確執があることは火を見るより明らかだった。 アンジェロは改めてそれを確信し、二人の睨み合いを固唾を呑んで見守るばかりだ。 冷え切った空気と針を落とした音すら聞こえそうな沈黙があたりを包む。 と…

2022-01-18 01:20:57
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その中に微かに小さな金属音が響き渡った。 針を落とした音…ではない。それは最初は極小さく、耳を澄まさねば聞こえない程の大きさだった。 しかしやがてその音は少しずつ大きくなりやがてはそこにいる全員にはっきりと聞こえる程になっていた。 …シャンシャンと空気を震わせる、涼し気な鈴の音だ。

2022-01-18 01:21:55
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その音を耳にしたファルコは一気に殺気を緩め星の瞬く空を見上げた。 「な、なんだよ、あれ!」 次いでリュウが北の空を指差し声を上げる。 リュウが指さした北の空は青く明るく輝き、それに合わせて丸で星の光のような白い光が音もなくこちら目掛けて降ってくる。 「…初雪だ」 リチャードが呟いた。

2022-01-18 01:22:59
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リチャードが呟いた次の瞬間、青く眩く輝く彗星のような光が彼らの頭上を飛んでいくのが見えた。 …彗星や流れ星ではない。あれは馬車だ。 青い光を纏って輝く、氷の馬が引く一人乗りの馬車である。その後に尾を引くように澄んだ鈴の音が響き、やがて馬車は神殿の方へと飛び去っていった。

2022-01-18 01:23:45
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それを見るや、ファルコは剣を鞘に収め、ちらりとベアンハートを睨むと神殿に向かって走り去っていった。 「た、助かった…」 リュウが全身の力が抜けたような気の抜けた声で零す。 「や、な、なんか知らねぇけど、どこいったんだよファルコの野郎は…?」 アンジェロも釣られて気の抜けた声を上げる。

2022-01-18 01:24:16
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「あ、あれってもしかして、冬の女王が到着したんじゃ…?」 ハッとしてリチャードが呟くと残された四人はファルコが走り去っていった背後の神殿の方を見やった。 青い光が木々の隙間から溢れている。 見たこともない神秘的な光景に、まるで光につられた虫のように子供達は神殿に向かって歩き出した。

2022-01-18 01:24:47
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神殿の前には青く輝く馬車が停り、その傍らにファルコが居を正して立っている。 馬車に乗っていたのは… 「…キレイ!」 降りてきた馬車の主を見るや、リュウはこれまでの事などすっかり忘れたかのように大きな声で口走った。 双子の王子もベアンハートも何も言えずただその馬車の主を眺めるばかりだ。

2022-01-18 01:25:36
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馬車から降りてきたのはまるで雪のように白い肌に銀の絹糸のような艶やかな髪をした背の高い女性だった。 手には青く光る燭台を持ち、まるで滑るようにしずしずとファルコの元へと歩いてくる。 その美しさと言ったら… 「…」 子供達はただあんぐりと口を開けて呆然と女性を見る事しかできなかった。 pic.twitter.com/WA9d3SxdWO

2022-01-18 01:27:15
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「女王、遠路より遥々我が国にお越しいただきましたこと、厚く御礼申し上げます」 先程までの苛烈さはどこへやら、恭しく、そして威厳に満ちた軍人らしい立ち振舞でファルコが女性に敬礼する。 …どうやらこの女性こそが冬の女王その人のようだ。 冬の女王は人形を思わせる美しい顔に笑みを湛えた。

2022-01-19 14:56:55
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「なにか騒ぎがあったようだけど、声を荒げるなんて貴方らしくないわね、ファルコ」 女王の意外な一言にすわ騒ぎがぶり返すのではと子供達が震え上がって身を寄せ合う。 「女王の行く道を阻もうという不届き千万の輩を、国王陛下の勅命にて排除する手筈でありました。 何卒ご容赦を…」

2022-01-19 14:57:24
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「あら、そんなことが?」 透き通った冬の夜空のような深い碧の瞳で女王はファルコを見つめ、問うた。 その言葉を受け、ファルコが子供たちの方を振り返る。 刹那、息を呑んで身を寄せ合い警戒する子供達。 女王は深遠な瞳で青褪める子供達を見据えた。

2022-01-19 14:58:11
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まるで蛇に睨まれた蛙のようにすくみ上がる子供達を見つめていた女王はやがて小さく首をかしげ、 「…私にはあの子達がそんなことをするようには見えないけど」 もう一度ファルコに向き直った。 ファルコも静かに頷くと、 「要人を迎えるに当たりましてはどのような小事であれ気は抜けませぬ故」

2022-01-19 14:58:40
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涼しい顔で言ってのけたファルコに、 「さっきあんだけキレ散らかしてた癖によく言うぜ…」 アンジェロがムッとして独り言ちる。 「ともかく祭壇に灯を灯さないと…あら?」 女王は言って神殿を見やると当然のことながら祭壇の前には大きな穴が口を開けておりそれを見られてリュウは再び身をすくめた。

2022-01-19 14:59:42
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「これが…」 女王は先程リュウが掘った落とし穴の側まで行くと穴の中を覗き込んだ。…深い穴にはトリモチがびっしりと敷き詰められている。 「獣でも仕留めるつもりだったのかしらね」 そして小さく笑った。その様子に耐えきれず、リュウは一度大きく息を吸い込むと息を止め女王の前までやってきた。

2022-01-19 15:00:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あの…ごめんなさい、ソレあたしが…」 いつもの蓮っ葉さはどこへやら、しおらしく消え入りそうな声でリュウは女王にそう告げた。 女王はしばらくリュウを冬空色の目で見つめると、 「あら、どうして謝るのかしら」 小さく笑ってリュウの黒い瞳を覗き込んだ。 「え、だ、だって…これは重罪って…」

2022-01-19 15:00:45
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

完全に縮みあがってこわごわと答えるリュウ。 しかし女王は尚も微笑みながら、 「私は別にどこにも怪我をしていないし、ドレスが汚れたわけでも、冬の灯を奪われたわけでもないわ。 ただここに穴が空いていた、それだけよ」 まるで気にしないと言ったふうに言う。 …リュウは顔を上げた。

2022-01-19 15:01:13
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

それを受け、 「女王…」 ファルコが駆け寄ろうとしたのを女王が片手で制する。 「こんないたずら位で目くじらを立てるなんて、少し余裕がないわね将軍殿」 女王がいたずらっぽく笑うと、落とし穴に片手をかざす。 するとみるみるうちに穴の中から氷が湧き出し、完全に穴を塞いでしまった。

2022-01-19 15:03:42
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「え、す、すげぇ…」 そんな様子にさしもの双子の王子も呆然とするばかりだ。 「あまりおいたはしちゃだめよ」 微笑みながら言うと女王はまるでファルコに見せつけるようにスカートの裾をたくし上げ、やや芝居がかった素振りで氷の床を渡って神殿へと入っていった。

2022-01-19 15:12:35
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

その後ろ姿を見て、ファルコは頭を振ると無言でその後を追って神殿に入っていく。 「冬を呼ぶのかな?」 リチャードが言うと、リュウは何も答えず神殿に向かって走り出し…氷の床で転んで尻餅をついている。 「やっぱバカだ、あいつ」 冷めた口調でアンジェロが言うと双子もリュウを追って駆け出した。

2022-01-20 14:43:55
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅶ】 白い石造りの神殿の中はさほど広くなく、奥に続く青い別珍のカーペットの先に小さな祭壇があるのみだ。 女王が手にした冬の灯の青い光を反射した神殿は全体が青く美しく染まっており、カーペットの上を滑るように静かに静かに歩く女王とその後について祭壇に向かうファルコの姿があった。

2022-01-20 14:50:08
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

女王は祭壇の前まで来ると祭壇に据え付けられた聖火台に一礼し、手にした燭台の灯を聖火台に映した。 すると強烈な青い閃光が渦を巻いて走り抜け、光の渦は天井を突き抜け空高く登っていく。 「すげぇ…」 阻止しに来たはずの儀式が目の前で行われているのに、リュウはただ見ることしか出来なかった。

2022-01-20 14:53:21