世界中に冬を運ぶという『冬の女王』の到来で、ヴォストニアは本格的な冬に。 それによりフロログが冬眠してしまうと聞いたリュウは冬の女王に一言文句を言ってやろうと単身女王が降り立つという冬の神殿を目指す。 その頃女王の護衛に当たることとなったファルコは或る熱い思いを胸に冬の神殿へと向かっていた。 女王の護衛にかけるファルコの思いとは?そして冬の女王とは何者なのか?ヴォストニアの冬の物語が今、始まる。
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「でも…なんかやだなぁ…」 いつの間にか側にいたオスカーを抱き上げながらしょんぼりとリュウが目を伏せる。 「だってフロログ、まだオスカーのことも見てないじゃん。キノコ採りだってまだ2回しか行ってないし…」 落ち込むリュウを慰めるように「みゅーん」とオスカーがか細い声で鳴いた。

2021-12-22 14:15:21
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

いくら分かっていることとはいえ、リュウはやはり納得行かないようだった。 リチャードやアンジェロ同様、今年初めてこの大陸に渡ってきたリュウにとってもフロログは数少ない友達なので無理もない。 実は当のフロログはここに来る前に冬支度のためにと一足先に帰ってしまっていたのだ。

2021-12-22 14:17:59
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「しょーがねぇだろ、だから明日きっちり挨拶して来ようぜ。 なんなら明日はオスカーも連れてくし…」 「そうだよリュウ。二度と会えないわけじゃないんだし…」 アンジェロがなだめるもののリュウはやはり浮かない顔をしていて、双子の王子はどうしたものかと顔を見合わせるばかりだった。

2021-12-22 14:20:11
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅳ】 「そいじゃ行ってくる!」 普段着に着替えてオスカーを肩掛けカバンに入れるとアンジェロは見送りに来てくれたベアンハートに告げた。 「ああ、フロログによろしく伝えてくれ。沼地は泥に嵌ると面倒だから気をつけてな」 ベアンハートも頷いて答える。

2022-01-03 16:01:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

いよいよフロログ冬眠の当日、昼下がりに迎えに来たリチャードとリュウと共にアンジェロはフロログとグルニールの家がある沼地へと向かった。 沼地は山の麓にあり、グルニールの店がある町の外れに位置する。 沼には他のフロゴイドや水辺の住人たちも多数おり、皆冬に備えているようだった。

2022-01-03 16:02:31
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

泥に潜って冬を越す者、フロログ同様家で冬を越す者、陸に上がって森で冬を越す者たちもいる。 ともかく既に皆冬籠りの支度は済んでいるようで、沼の周りは人気がなく閑散としていた。 冷たい初冬の風に吹かれ、枯れた芦がカサカサと乾いた声で囁くのが聞こえる。 「このへんだっけ、フロログん家」

2022-01-03 16:03:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

言ってリュウが辺りを見回すと、 「おーい!」 側にあった奇妙な形の石の家の窓から見慣れた姿が見えた。 フロログが3人に向かって声をかけ、手を振っている。 「フロログ!」 リチャードがそれに気がついて手を振り返すとフロログの姿が窓際から消え、すぐに玄関からフロログが3人の許へ駆けてきた。

2022-01-03 16:04:00
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「やー、わざわざありがとな!父ちゃんから聞いたよ、冬眠前に顔見せに来てくれたんだって?」 珍しく少しはにかんだように笑いながらフロログは頭を掻いた。 「一冬とはいえ春まで結構あるからな。…もう冬眠の準備は終わった感じかな?」 リチャードが問う。 「んだ、後は地下室のムロで寝るだけだ」

2022-01-03 16:04:45
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フロログが頷く。 「…ほんとに冬眠しちゃうんだな」 しょんぼりしながらリュウが言うとフロログは少し気まずそうに愛想笑いを浮かべ、 「いやー、女の子に寂しがられるなんてオイラも初めてだよ。 ま、でも春なんてすぐだぞ、冬眠明けたら真っ先にみんなに会いにいくからさ!」 慰めるように言った。

2022-01-03 16:05:29
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リュウは肩を落としながら力なく頷くばかりだ。 「リュウ…」 そんなリュウの肩をリチャードが小さく叩く。 と、 「みゅーん!」 アンジェロの肩掛けカバンから甲高い鳴き声が響いた。 全員の視線がアンジェロの鞄に集中する。 …オスカーが狭いカバンの隙間からすっぽり頭だけ出しているではないか。

2022-01-03 16:06:01
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「あ!コイツが父ちゃんの言ってた新しい鍛冶屋の店番だな?」 興味津々でフロログはアンジェロの側に寄ってくると、アンジェロは鞄の留め具を外してオスカーを抱き上げフロログに見せた。 「オスカーだ。 うちの自慢の『マネキネコ』なんだぜ」 オスカーはまんまるな金の瞳でフロログを見上げる。

2022-01-03 16:06:37
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「おわー!かっわいいなこりゃ!…春になったらいっぱい遊ぼうな」 アンジェロから受け取ったオスカーを抱きしめフロログが言う。オスカーは大人しくフロログに抱かれ初対面だというのにゴロゴロと喉を鳴らしている。 「そうだぜー?だから寝坊しねぇで春ンなったらさっさと起きてこいよ」

2022-01-03 16:07:30
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

強がった口調ではあるものの、やはりアンジェロも寂しさを隠しきれず無理矢理笑っているのが誰の目にも明らかだった。 「それじゃフロログ、どうか春まで無事で。冬眠中に半覚醒してしまってそのまま寒さと飢えで死んでしまう蛙人もいるって言うから…」 リチャードがそう言った瞬間…

2022-01-03 16:08:02
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ほらー!やっぱあぶねーんじゃん、飲まず食わずで春までなんか無理なんだよ!!」 それを聞いたリュウが大声を張り上げ、フロログの腕の中で安心しきっていたオスカーの体がびくりと震え、尻尾の毛が大きく逆立った。 「フロログ、もう春までリックんとこ置いてもらえ!死んだら意味ないんだぞ!」

2022-01-03 20:39:31
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「や、そ、そんなの何十年に一回の確率だって!父ちゃんもオイラよりずっと年上だけど、この年まで冬眠中起きたことなんて一回もないって言うし…」 ヒステリーを起こすリュウをなんとか宥めようとフロログが慌てて言葉を次ぐ。 が、 「いーや!絶対は絶対にないって昔の偉い人が言ってたぞ!」

2022-01-03 20:42:09
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ご、ごめんリュウ、俺も本で読んだだけだからほんとにそんなことが起こるかどうかも…」 リチャードも咄嗟に続くが導火線に火がついたリュウは止まらない。 「やっぱその冬のなんとかが来るのがダメなんだ、冬今すぐ中止にしてもらうぞ!」 「バカ言ってんじゃねーよ、ンなこと出来る訳ねーだろ!」

2022-01-03 20:45:45
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

見兼ねたアンジェロもリュウを嗜めるがそんなことで引き下がるリュウでは無い。 「来ても帰れって言ってやるんだ、お前ら、止めたって無駄だからな!」 「や、だからそれじゃ…」 止めるアンジェロの腕を振り払ってリュウは一人で元来た道を走っていってしまった。 pic.twitter.com/UuFJDUHkrz

2022-01-03 20:48:48
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「悪ィなフロログ、せっかく挨拶に来たのに」 アンジェロが頭を下げるのへ、 「いんや、気にすんなよ。 女の子にこんなに気にかけてもらえるのは嬉しいよ…でもちょっと心配だよな」 フロログが頭をかきながら返した。 「ごめん、俺が余計なこと言っちゃったから…」 リチャードも頭を下げる。

2022-01-05 14:47:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「でも本当に気をつけて。春になったらまた元気な顔を見せに来てくれ」 リチャードがフロログの手を握る。 「おうよ、お前らも元気でな!約束だぜ!」 言うとフロログはアンジェロにオスカーを返すと二人に手を振り自宅に帰って行った。 「カエルが鳴いたら帰ろ、か…」 アンジェロは寂しげに呟いた。

2022-01-05 14:51:53
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【Ⅴ】 すっかり陽も短くなり紅葉色の夕陽が暮れ泥む頃、 「父上、どうぞお気をつけて」 王都郊外にそびえ立つ一際大きな屋敷の門前で平服姿のドラコはこれから出発する父・ファルコにそう告げた。 「ああ、まだ雪も積もらぬ山だ、迷うこともあるまい」 毛並みの良い黒馬に跨がりファルコが答える。

2022-01-05 23:01:40
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「今年最後の任務、これが終われば本当の休暇だ。 ドラコ、お前とリュカは旅支度をしておけ。母上が戻ったら明日の朝には出発するぞ」 これから『任務』だと言うのに、厳しい口調とは裏腹にファルコは穏やかな笑みを浮かべドラコに告げると馬の腹を蹴り暮れ泥む街を駆け出した。

2022-01-05 23:05:15
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まだ雪こそ降らないものの初冬の夜風の冷たさは正に身を切るが如くである。 が、単身馬を駆るファルコにとってそんなことはどこ吹く風だ。手のかじかむのも気にもせずファルコは黒馬を走らせ王宮の向こう…これから冬の始まる白き神の座・霊山エノク山へとひた走る。国王からの今年最後の任務の為に。

2022-01-05 23:10:19
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夜の帳が降りる頃、鍛冶場の煙突の煙は炉の煙から炊事の湯気へと変わる。すっかり暗闇に包まれた森の中でも長い尾を引く煙突の煙はよく目に付いた。 「それで結局お前達二人で帰ってきたのか…」 食卓を囲むベアンハートが声を上げる。 今晩は食卓を囲むアンジェロの隣にはリチャードもいた。

2022-01-10 04:06:34
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「はい、リュウはフロログと遊べなくなるのが本当に気に入らなかったらしくて…」 食後のホットミルクを片手にリチャードは困惑気味に返した。 「そんなこと言ったってしょうがねえんだよな、土地柄冬が来ることなんか最初っから決まってることなんだし」 アンジェロも仏頂面で頷く。

2022-01-10 04:07:49
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「東と西ではそもそも常識が違うから受け入れられないこともあるんだろう。 それにサロペツクは世界有数の豪雪地帯だ、雪に慣れている分この土地に住む奴が考えるより冬を深刻に捉えていないのかもしれんな」 呟くベアンハート。 「言うて東でも蛙人は冬眠するだろ?単にワガママなんだよ、アイツ」

2022-01-10 04:09:02
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ベアンハートが言うのへアンジェロは呆れたと言うふうに大袈裟に溜息を吐く。 「まぁ、聞き分けないのはいい勝負じゃないか?」 そんなアンジェロをからかうようにリチャードが続けると、 「違い無い」 ベアンハートがさも可笑しそうに笑った。 「ちょ、なんでそこで意見が一致してんだよ!」

2022-01-10 04:09:33
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アンジェロが赤面しながら立ち上がる。 と、 「みゅーん!」 突然ドアの方に向けてオスカーが一声鳴いた。談笑していた三人の視線が一斉にオスカーに向く。 オスカーがこのように鳴くときは大抵は来客の時なのだが… 「…閉店時間はとっくに過ぎてるんだがな」 ベアンハートが訝しげに呟いた。

2022-01-10 04:10:10
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やがてオスカーの見立て通りドアをノックする音が聞こえてくる。 「すみません、御免くださいまし」 それと同時に聞こえてきたのは品のある低い婦人の声だった。 「え、これって…」 その声を聞いたリチャードが顔を上げた。 更に、 「夜分遅く失礼致します!」 嗄れた中年男性の声まで聞こえてくる。

2022-01-10 04:10:58
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「はぁ?!今のチェーザレじゃねぇか?!」 リチャードと顔を見合わせアンジェロが素っ頓狂な声を上げた。 「それに…アンナさんだよな今の?」 リチャードも上ずった声で返す。 「はい、只今」 何やら尋常ならざる事態にベアンハートは緊張した面持ちで席を立つと玄関ドアを開けた。

2022-01-10 04:11:37
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

双子の王子の読み通り、玄関先に立っていたのはアンナとチェーザレであった。 普段落ち着き払っているアンナが憔悴した様子でいることからも事態の深刻さが見て取れる。 「奥さん!…と、アンタは?」 アンナの隣に並ぶチェーザレを見て訝しげにベアンハートが問う。 「は、申し遅れました、私…」

2022-01-12 22:06:57
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「あー、そいつはチェーザレ。実家の執事だよ」 と、チェーザレの言葉を遮ってさっさと詳細を話してしまうアンジェロ。 「それにしても…どうしてチェーザレとアンナさんが?」 普段は見られない珍しい二人組の登場に、リチャードが当然といえば当然の質問を投げかける。

2022-01-12 22:07:37
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そんな言葉などまるで耳に入っていないかのようにアンナは室内を見回し、 「夜分遅くにごめんなさい、リュウちゃんはこちらにお邪魔していないかしら?」 心底困惑しきったふうな声色で訪ねてきた。 それを聞いた双子が顔を見合わせる。 「えっ、リュウ、まだ帰っていないんですか?」

2022-01-12 22:08:07
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リチャードが問うと、アンナは「…ええ」と消え入るような声で答えた。 「それで奥様はお嬢さんが来ていないかとペンドラゴン邸に訪ねて来られたのです。 しかしながらそのようなことはありませんでしたから、坊ちゃま方ならばご存知ないかと馬車でお送りした次第で御座います」 続けるチェーザレ。

2022-01-12 22:08:59
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と、 「ぷむー!」 アンナの足もとから聞き慣れた声がして、一同の視線がアンナの足元に向かう。 「え、ちょ、パチコ?」 そこにいたのはもこもこの温かな毛糸の衣服を纏ったパチコであった。 「そういえばしばらく見ないと思ったら…」 リチャードがしげしげとパチコを見つめて零す。

2022-01-12 22:09:29
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「このところ寒がって外に出たがらなかったのよ。 それでお出かけできるように私が編んであげたんだけど…最近はパチコともお出かけできないってリュウちゃんはガッカリしていたの。 帰ってきたら見せてあげるつもりでいたのに…」 その言葉を聞いて、リチャードははっとして顔を上げた。

2022-01-12 22:10:05
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「なあ、ひょっとしてリュウ、冬の女王を探しにエノク山に行ったんじゃ…」 リチャードの言葉を聞いてアンジェロも息を呑む。 「あのバカ、女王に文句言いに行くとか言ってたけどまさかマジで行ったのかよ?!」 それを聞いてアンナもチェーザレも驚きに目を見開いた。 「ちょっと、どういうこと?」

2022-01-12 22:10:59
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てっきりリュウはあのままアンナの元に帰ったと思い込んでいた二人だったが、考えられるのはそれしかない。 二人は昼間フロログの家の前であったことをアンナに説明した。 「いくらリュウちゃんが山に慣れていたって夜の山は危険だわ! あの子にもしものことがあったら…」 震える声でアンナが言う。 pic.twitter.com/01sQ6RcbTk

2022-01-12 22:11:45
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「アンジー、今ならまだ間に合うかもしれない。リュウを探しに行こう」 「おうよ!」 すぐさま席を立つ双子。 が、 「待てお前達、子供だけで行くのは危険だ」 ベアンハートが二人を静止した。 「じゃあどうすんだよ、このままじゃリュウが!」 アンジェロが珍しくベアンハートに食って掛かる。

2022-01-13 15:06:32
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「子供が丸腰のまま行ったところで被害が拡大するのがオチだ。 アンジー、俺は馬を出してくるからお前は蔵から型落ち品の剣なり弓なり使えるものを出してこい、俺もついていく。 奥さんとお手伝いさんはここで待っててくれ。 ひょっとしたらあの子が訪ねてくるかもしれないから」

2022-01-13 15:07:35
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「マジかよ、親方がいれば百人力だぜ!」 ぱっと明るい顔をするアンジェロに、 「はしゃいでないで早くリックの分の弓も出してやれ。支度でき次第すぐに山に向かうぞ」 言ってベアンハートは壁に立てかけてあったハンマーをふん掴んだ。 「待って」 と、支度する双子にアンナが声をかける。

2022-01-13 15:08:06
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「もしよけれなこの子も連れて行ってちょうだい。 きっと役に立つはずだわ」 アンナが言うと、その後ろから大きな黒い影がぬっと現れた。…ビリーだ。 「ビリー!お前もついてきてたのか」 リチャードがビリーの頭を撫でるとビリーは尻尾を振って答えた。 どうやら彼も既にやる気は十分らしい。

2022-01-13 15:08:40
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「リック、弓だ。矢はサービスしとくって親方が言ってた。行くぞ」 奥から弓と箙を引っ張り出してきたアンジェロがリチャードに弓を渡す。型落ち品とは言ったものの流石は名工の品、そこらの武器屋のものより余程しっかりした出来だ。 「それじゃあ俺達は行ってくる。 お手伝いさん、奥さんを頼むよ」

2022-01-13 15:09:23
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「は、はい、お任せくださいませ!」 ベアンハートの声にやや緊張気味に答えるチェーザレ。 「ま、多分チェーザレよかアンナさんのが腕が立つと思うぜ?」 「…そういう事は言わなくていいよ」 軽口を叩くアンジェロの腕を引っ張り、リチャードはビリーを連れて表に出た。

2022-01-13 15:09:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅵ】 「よーし、これで準備オッケーだ」 すっかり日も暮れたエノク山中、灯りの灯らぬ暗い神殿の前でその小さな影は満足げに独り言ちると傍らに置いた小型のランタンを手にした。 揺れるランタンの小さな火が照らし出したのは一箇所だけ薄っすらと色の変わった地面と泥だらけのリュウの姿だった。

2022-01-13 23:03:13
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ちょっと出費が痛かったけど、この罠なら多少暴れる奴でも大丈夫だろ」 独り言ちるリュウ。 先にリチャード達と別れたあと、リュウは街に降りてなけなしの小遣いでシャベルと縄、大量の狩猟用トリモチを購入した。 そして街の者に女王は日が暮れてから現れると聞いて罠を仕掛けて待っていたのだ。

2022-01-13 23:03:47
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

リュウの計画はこうだ。 街の者の話では、冬の女王がこの神殿に降り立ち、冬を呼ぶ「冬の灯」を神殿の中の祭壇に灯せば冬が来るらしい。 なので女王が必ず踏むであろう神殿の階段の前に落とし穴を作ったのだ。 中にはたっぷりとトリモチを敷き詰め、くっついて暴れられなくさせてある。

2022-01-13 23:04:33
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

女王がトリモチに絡まってもがいている隙に冬の灯を奪い、冬の灯を人質(?)に返してやる代わりに今年は冬を中止にするよう迫る。 さらに抵抗するなら眼の前で焚き火をして熱で揺さぶりをかける方針だ。 …中々にえげつない。 途方も無い計画である事は言うに及ばないがリュウ本人は至って本気だ。

2022-01-13 23:05:02
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「よし、薪も集めたし、あとは女王とか言うのが来るのを待つだけだな。 ほんとは着地した瞬間落とてやりたかったけど、どこに降りてくるかわかんねーし。いっか!」 ふんすと鼻を鳴らすとリュウは闇に身を隠すためにわざわざ買ってきた黒い頭巾まで被って縄で束ねた薪を背負って周りの茂みに隠れた。

2022-01-13 23:05:36
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

さて、すっかり日も暮れて寒さが増す森の中、リュウはひたすら女王の到来を待ったが中々女王は姿を表さない。 街の者の話では北の方から飛んでくるらしいのだが、それらしきものも見当たらない。 「…クッソ、寒ィな…」 白い息を煙らせ、リュウは北の空を睨み続けた。 と。

2022-01-13 23:06:05
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

(あっ) そんなリュウの目にあるものが飛び込んできた。 山の下方から神殿までの石段を登る影が見える。 (徒歩かよ…意外と地味だな) 影を睨み心の裏で独り言ちる。 だが、徒歩で来てくれたならかえって好都合だ。このまま真っ直ぐ落とし穴の方まで歩いて来てくれるからだ。 (よーし、そのまま行け!)

2022-01-13 23:06:37