世界中に冬を運ぶという『冬の女王』の到来で、ヴォストニアは本格的な冬に。 それによりフロログが冬眠してしまうと聞いたリュウは冬の女王に一言文句を言ってやろうと単身女王が降り立つという冬の神殿を目指す。 その頃女王の護衛に当たることとなったファルコは或る熱い思いを胸に冬の神殿へと向かっていた。 女王の護衛にかけるファルコの思いとは?そして冬の女王とは何者なのか?ヴォストニアの冬の物語が今、始まる。
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いばらの壁の向こうから~双子の王子の物語~ 【Episode8】初雪の便り pic.twitter.com/sSID8vs6yV

2021-12-12 21:52:07
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【Ⅰ】 その日はこの秋一番の冷え込みで、ヴォストニア王宮の門前を守るオーガ達の吐く息も朝の陽の中で白く煙っていた。 その門を黒い外套をはためかせ、風のように颯爽と歩く黒い鎧の男が通り抜けていく。 「将軍閣下、お早う御座います、随分早いお着きで」 オーガは横を通った男の背に声をかけた。

2021-12-12 21:54:55
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普段ならばここで「お早う」と、低くよく通る声が返ってくるところだが、今朝はオーガの声に答えることもなく、男は急ぎ足で門を通り抜けて行ってしまった。 「…やけに急いでらしたな、ルディガー将軍」 ポツリとオーガが呟くと、 「ああ、お前は知らないんだもんな」 隣のオーガが声をかけてきた。

2021-12-12 21:55:50
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「もうこの時期だ、きっとあれが届いたことを陛下にお伝えしに来られたのだろうな」 声をかけてきながら要領を得ないオーガの言葉に最初に呟いたオーガは、 「届いた?なにが?」 訝しげに問うた。 すると声をかけたオーガは白い息を吐いて空を仰いだ。 「冬の便りさ」

2021-12-12 21:56:37
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今朝は早くから謁見の間には番兵が集い観音開きの大扉を守っている。これは国王が謁見の間にいる証拠だ。 黒い鎧の男…ファルコは二言三言番兵と話すと番兵が開ける大扉を通り謁見の間の赤絨毯の向こう、殿上のエリック王の元へと向かう。 エリックは既に玉座に腰掛けファルコの到着を待っていた。

2021-12-12 21:57:41
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「陛下、ご機嫌麗しゅう御座います。早朝から陛下のお手を煩わせましたこと、お詫び申し上げます」 エリックの前に跪き淡々と述べるファルコへ、 「朝っぱらからご苦労だなファルコ。で、要件てなぁアレか?」 エリックは既にわかっているという風に口元を釣り上げ問うた。 「は、ご明察に御座います」

2021-12-12 21:58:26
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「2、3日中に初雪が降るかと思われます。 家内から便りがありました。2、3日のうちに西大陸に到着すると…」 ファルコは珍しく少し急いたような素振りでそう伝えた。 「いよいよ冬の到来か…」 …エリックが顎髭を扱き目を細める。 「おい」 エリックは側に控えた内務省長官に目配せした。

2021-12-12 21:59:20
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「初雪だ、城下に周知のビラぁ撒く準備しとけ」 「承知致しました」 エリックの言葉に応答すると長官は直ぐ様謁見の間を後にした。 「しっかし…嬉しそうだな、ええおい」 少しからかうような口調でエリックがファルコに言うのへ、 「…ご容赦を」 俯いたファルコが小さく返す。

2021-12-12 21:59:57
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顔を俯かせ神妙な表情をしたファルコであったが、その実エリックの言うとおり彼は険しい顔をしているのではない。…むしろ笑みを噛み殺しているのだ。 「なんせ年に一度の愛しの恋女房のお出ましだ、今年ァお前ェにはうちの餓鬼共がえらく世話ンなったからな、ちぃと長めの休暇だが、よろしくやれや」

2021-12-12 22:01:10
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エリックまでもが何やらニヤニヤと愉快そうに笑うのへ、 「身に余る御厚恩に御座います」 珍しく謁見の間だというのにファルコは小さく笑みを浮かべた。

2021-12-12 22:01:37
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【Ⅱ】 「号外、号外!いよいよ西大陸にも冬の到来だ!」 街角で新聞社のものらしき若者が刷り立ての号外を配りながら声を張り上げている。 「いよいよか…」 それを見てリチャードはぽつりと独り言ちた。 「え、雪降るだけじゃん。なんかあんの?」 隣にいたリュウが訝しげに問う。

2021-12-15 01:02:36
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「あー、どうりでここんとこやたら眠いと思ったんだよ…そっか、明日辺りからいよいよ冬眠か…」 眠そうに目をこすりながら更にフロログが続けた。 「え?冬眠?!」 それを聞いたリュウがフロログの話に食いついた。 「うん、オイラたち蛙人は寒さに弱いから春まで休まなきゃいけないんだよ」

2021-12-15 01:03:07
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「そうか…確か蛙人は低温だと活動できないから温かい春になるまで地中で冬眠するんだっけ。本で読んだよ」 フロログの言葉に補足するようにリチャードが言う。 「や、え、い、いきなり過ぎるだろそれ!え、ってことはもうお前と遊べなくなんのかよ!?」 途端にリュウが慌てたように聞き返す。

2021-12-15 01:03:52
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「んだ。いうて来年の春にはまた起きてくるからサヨナラってんではないぞ」 結構な剣幕でまくし立てるリュウをなだめるようにフロログが返す。 「ってかなんなん、毎年初雪位でこんなでかい国が大騒ぎになるのかよ?」 雪深い島国の山育ちであるリュウからすると合点がいかないらしい。

2021-12-15 01:04:55
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「うん、うちの国は初雪が一つの指標になって冬季の制度に入るんだよ」 「冬期の制度?」 要領を得ずリュウがリチャードに詰め寄る。 「フロログみたいに冬場活動しない人たちは冬場の住民税が免除になったり、逆に初雪と共に大陸に来る住民もいるんだよ。行政施設の営業時間も変わるしね」

2021-12-15 01:05:31
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「なんだそれ、そんなのうちの国にはなかったぞ」 なぜだか怒り気味にリュウが反論?する。 「多分国の規模と冬の女王の力の影響範囲の違いじゃないかな」 リチャードが考え込むようにしながら答えた。 「冬の女王…?」 聞き慣れぬ言葉にリュウが首を傾げる。 「あ、リュウは知らないんだな」

2021-12-15 01:06:12
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「冬の女王は世界中に冬を運ぶ精霊の女王なんだ。 冬の女王は『雪の灯火』を持って世界中を回っていて、世界に冬をもたらすんだよ。 この灯火が『冬の神殿』に灯されるとその地方を中心に冬が始まる、その神殿がこの大陸では王都の裏のエノク山にあるんだ」 リチャードの言葉にリュウは顔をしかめた。

2021-12-15 01:07:01
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「…そいつが来なけりゃ冬は来ないんだな?」 何やら神妙な面持ちでリュウが言うのへ、 「や、そういう問題じゃないんだよ、冬の女王は世界中の冬の精霊達にとって生命線なんだ。 冬の精霊たちは渡り鳥と一緒で常に冬を求めて移動してるから、女王が動かないと溶けて死んでしまうんだよ」

2021-12-15 01:08:15
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「ついでに言うとオイラたちも冬の間休まないと寿命が今の半分になっちゃうから冬に来てもらわないと困るんだよ。リュウもオイラが死んじゃったらやだろ?」 「うん、やだ」 フロログが言うとようやくリュウは首を縦に振った。 「今日あたり父ちゃん閉店セールやると思うから手伝わないとなあ」

2021-12-15 01:08:51
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「え!おっちゃんの店閉店すんの?!冬来ただけで?!」 目を大きく見開いて動揺するリュウに、 「閉店て言っても冬季休業に入るだけだって!冬の間メンテナンスできない製品を売り切っちゃうんだよ」 フロログはケラケラ笑って答えた。 「ったく!ホントロクなもんじゃねーな、冬なんか大ッ嫌いだ!」

2021-12-15 01:09:33
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言ってリュウが一歩後ろに下がったその時。 「うおっ」 どん、と後ろからやってきた通行人にぶつかったようでリュウは前につんのめった。 「あっ」 リュウにぶつかったその通行人を一目見てリチャードは思わず声を上げた。 「あ!こないだのリックの知り合いの偉い人!」 リュウも振り返り声を上げる。

2021-12-15 01:10:07
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リュウがぶつかったのは黒い鎧…ではなく、仕立ての良い平服を纏ったファルコであった。 「これはルディガー将軍閣下。連れが大変なご無礼を…」 やはり形式上目上の人間に接する態度でリチャードがファルコに頭を下げた。 尤もリチャードは城にいた頃からどんな相手にでも礼儀正しい少年であったが。

2021-12-18 02:34:22
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「いや、気にしないでくれ給え、ペンドラゴン君。 お嬢さん、お怪我は?」 当然ではあるがそんなことくらいで目くじらを立てることもなく、ファルコは自らを見上げるリュウに問うた。 「ううん、大丈夫。ごめんね、あたしの足、蹄だから踏まれて痛くなかった?」 リュウも素直にファルコに頭を下げる。

2021-12-18 02:35:09
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元来国王の右腕たるファルコに対してこのような口の聞き方をする者は王族を置いて他にないのだが、それもファルコは気にも留めていないようである。かすかに表情を緩めると、 「私のことは気にしないでくれ給え、ただ往来ではあまり無茶をしないように」 静かに諭すようにリュウに言った。

2021-12-18 02:36:06
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それにしても珍しいこともあったものだとリチャードは内心首を傾げていた。 普段平服でファルコが街を歩くことなどまずないのだ。…平服で臨む任務にでもついているのだろうか。 「しかし平服でお出かけとは珍しくていらっしゃいますね、閣下。 此度は平服で臨む任務が?」 思わずリチャードは問うた。

2021-12-18 02:37:14
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「いや、此度は陛下のご厚意で少し早めの休暇を取ったのだ…家内が大陸に帰ってくるものでな」 これまた珍しく、日頃しかめっ面で鉄面皮のファルコが表情を緩める。 リチャードはハッとした。 …聞いたことがある、ファルコの妻は冬の精霊で、彼は任務の為同行できず妻と離れて暮らしていると。

2021-12-18 02:37:52
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日頃自身のことは決して必要以上に口にしないファルコがここまで饒舌ということは余程浮かれ気分で誰かに聞いてほしかったのだろう。 「今日の閣下は饒舌でいらっしゃいますね」 思わずリチャードが顔をほころばせるのへ、 「そ、そうか…」 少し赤面して顔を背けるファルコであった。

2021-12-18 02:38:44
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「あ、それ今リックが言ってた冬にだけ帰ってくる人のこと? おっちゃんの奥さんも、冬にだけ帰ってくるの?」 言うに事欠いて国のナンバー2をおっちゃん呼ばわりするリュウにひやひやするリチャードだったが、 「その通り、おそらく明日の晩になるかな。 …お嬢さんは冬が嫌いだと…?」 pic.twitter.com/JWquZjFlfw

2021-12-18 02:40:00
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ファルコに話を聞かれていてリュウはギクリとしたが、 「んー、喜ぶ人もいるのはわかったけど…あたしは嫌い」 少しだけ唇を尖らせ答えた。

2021-12-18 02:40:21
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【Ⅲ】 「御免くださいませ」 陽が高く登り少しだけ空気が温んできた頃、鍛冶場の外から聞き慣れたダミ声が聞こえベアンハートとアンジェロは作業を止めた。 「みゅーん」 同時に二人を呼ぶように甲高いオスカーの鳴き声も聞こえる。 「はい、只今」 腹から出るよく響く声で答えるベアンハート。

2021-12-19 15:54:34
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アンジェロを連れてベアンハートが表に出ると、重そうな薬箱を背負い、オスカーを抱いたグルニールが立っていた。…店を空けてこんなところまで出張って来るとは珍しい。 「あれ、おっさん今日はどうしちゃったんだよ。店の方はいいのかい?」 鍛冶場から出てきたアンジェロが問う。

2021-12-19 15:55:23
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「お忙しい中失礼致します。 実は本日は急遽閉店セールをと思いまして、お得意様の元にこうして製品を持って回っているのです。」 背負っていた薬箱を下ろしてグルニールが答えるのへ、 「へ、閉店?!嘘だろ、おっさんとこ、あんなに良い品揃えなのに…」 アンジェロが慌てたように声を上げる。

2021-12-19 15:55:55
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「あ、いえいえ、何も完全閉店ということでは御座いません。 2、3日後に初雪が降るそうで、当方も冬眠しなければなりませんので、冬季休業につき一部の使用期限のある製品をお安くご提供しようと思った次第であります」 片手を振って笑いながらグルニールが否定するのでアンジェロは胸を撫で下ろした。

2021-12-19 15:56:34
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「なんだ、もうそんな季節か…」 無精髭の生えた顎をしごきながらしみじみとベアンハートが呟く。 「ペンドラゴン殿、先は猫ちゃんのケアグッズをお買い上げいただきありがとうございました。 つきましては本日は前回お買い上げを断念されたハンドクリームと香水の方もお持ち致しましたよ」

2021-12-19 15:57:04
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「マジかよ!やったぜ、おっさんわかってんじゃん!」 グルニールの言葉で一気に有頂天になるアンジェロ。 「その他にも前回はご覧になれなかった猫ちゃんのケアグッズも用意して御座います。 また、先にペンドラゴン殿のご提案でお作りした紳士用の香りのハンドクリームもお持ち致しました」

2021-12-19 15:57:57
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「お!こないだ親方にって頼んでたやつか」 アンジェロが言うとグルニールは微笑みながら頷いた。 「俺に?」 キョトンとしてベアンハートが問うのへ、 「ほら、こないだ香りが若すぎるって言ってたじゃねーか。だから俺が代わりにおっさんに頼んで作ってもらったんだよ」 笑って答えるアンジェロ。

2021-12-19 15:58:32
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「実は現在当店でも取り扱っておりますが、働き盛りの職人さん達に大ウケの大人気商品になりまして。 これからの時期は手が荒れますから香りを楽しみながらケアできるとご好評頂いております。 これもペンドラゴン殿の御提案のおかげですな」 カカカ、と嬉しそうにグルニールが笑った。

2021-12-19 15:59:24
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と、 「みゅーん!」 グルニールに向かってまるで声をかけるようにオスカーが一声鳴いた。 「おお、猫ちゃんは無事こちらの子になられたみたいですね。良かったですね〜」 文字通り猫撫で声でグルニールが言うと、オスカーはグルニールの腕に体を擦り付けた。 どうやら先の恩を覚えているらしい。

2021-12-19 16:00:00
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「オスカーってんだ、最近はコイツが店番してくれるんだぜ」 自慢げに胸を張ってアンジェロが言う。 「おお、オスカーちゃんですか。 ノミもダニも落ちてきれいになりましたね。 今日はお風呂のためのジャンプーやノミ取り櫛もお持ちしましたからどうぞご覧下さい」 グルニールが言って製品を広げた。 pic.twitter.com/xo9iFA1o6b

2021-12-19 16:00:40
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グルニールが持ってきた製品は相変わらずどれも素晴らしいものばかりであれもこれも欲しくなる。 風邪薬や胃腸薬、鎮痛剤はもちろん、喉を労るハーブと薬液の入った蜂蜜のドロップや全身に使える乾燥予防のオイル、そして秋冬用のハンドクリーム等アンジェロは小遣いをほとんどつぎ込んでしまった。

2021-12-19 16:01:15
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「そういえば、冬眠はすぐなのかい?」 やがて買い物を終え、品物をズタ袋に詰めたベアンハートはグルニールに問うた。 「はい、もう明日の夕方にはと思っております。倅も新しいお友達が増えましたので残念がっておりましたが…」 グルニールも口惜しそうに呟く。

2021-12-22 01:21:35
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「ふ、フロログも冬眠しちまうのかよ!」 アンジェロがハッとしたように声を上げる。 「うーん、せっかく遊ぶようになったのになあ…」 街場で出来た貴重な友人の喪失はアンジェロにとっても残念な知らせである。 「アンジー、お前明日の夕方フロログに挨拶に行ってやれ、もうしばらく会えないからな」

2021-12-22 01:22:13
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ベアンハートが言うのへ、 「いいのかい?」 アンジェロは少し驚きながら答えた。 「ああ、挨拶もなしに春までさよならってのもなんだろう。もしあれなら…」 ベアンハートが言いさす。 と。 「みゅーん!」 オスカーが一声鳴くと入り口の方を見た。 オスカーにつられてアンジェロが入り口に目をやる。

2021-12-22 01:22:51
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「リック!」 アンジェロは思わず声を上げた。 アンジェロの言うとおり、敷地の門前にリチャードとリュウが立ってこちらに手を振っている。 「どうしたんだよお前ら、俺になんか用か?」 二人の元に駆けていき、アンジェロはリチャードに問うた。 「アンジー、ちょうどよかった。お前に用があって…」

2021-12-22 01:23:24
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「なあアンジー、明日仕事空けられないか?フロログが…」 少し落ち込んだ様子でリュウが二人の間に言葉を挟む。 なるほど、どうやら今し方の話を二人はフロログの方から聞いたらしい。 「ああ、俺もたった今おっさんから聞いたよ」 言ってアンジェロは親指でグルニールの方を指した。

2021-12-22 01:24:09
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「おお、これはこれはペンドラゴン殿、それに仔山羊のお嬢さん」 グルニールとベアンハートがやってきて二人に銘々挨拶を交わす。 「ねえおっちゃん、フロログ、明日冬眠しちゃうの?おっちゃんも?」 気分が顔に出やすいリュウは寂しそうにグルニールに問うと、グルニールも目を細めて頷いた。

2021-12-22 01:24:39
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「はい、残念なことに本年の活動は明日の夕方を以て終了となる予定です。 我々も寒さには勝てず、一定以下の気温になりますと自動的に体が冬眠の体制に入るのです。 その目安がだいたい初雪頃の気温でして…」 グルニールも申し訳無さそうに返す。 「そっか…」 目を伏せて零すリュウ。

2021-12-22 01:25:08
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ご主人、それでもしよろしければなんですけど…明日僕らはフロログに冬眠前に挨拶に行こうと思っていまして、つきましては弟も…」 リチャードが言うとベアンハートは大きく頷いた。 「さっきちょうどその話をしていたところでな、もしよければアンジーもお前さん達と一緒に連れてってやってくれ」

2021-12-22 01:25:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ちょうど親方がそう言ってくれてたとこだったんだよ、ってことで明日はお前らに合わせるからフロログんとこ行く前に俺んとこ寄ってくれ。一緒にあいつんとこ行こうぜ」 アンジェロも続ける。 「わかった。夕方だと遅いと思うから昼過ぎに迎えに行くよ」 リチャードは頷き答えた。

2021-12-22 01:27:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「グルニールさん、ご主人、それでよろしいでしょうか?」 改めてリチャードがベアンハートとグルニールに問うと、 「ああ、構わない」 「もちろんよろしゅう御座います、お越しの際はどうぞお気をつけて…」 二人も納得してくれた。 これで予定は決定だ。

2021-12-22 01:27:51
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