女子大生と女子中学生が怪異と対峙する怪奇幻想青春物語「ともだちの魔法使い」、毎朝8時にツイートしています。なお、後日「小説家になろう」にも掲載いたします。
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楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月22日】 とともに身体をおしつつんで、こちらに向かってきた。熱気と、ぴりぴりした電圧と、なにもかも萎えてしまうような強い意思のかたまりが。 「……菜月! ぼくを使って」  ダースが早口でささやく。 「どうすればいいの?」 「ただ、言葉

2021-08-22 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

にすればいい。ぼくはきみが作り出した怪異なんだから。命じてくれ!」  菜月は、こくんと頷いた。ぎりりと魔女をにらみつけて、叫ぶ。 「ダース! 魔女の攻撃を防いで!」  きくや、ダースは菜月の肩からとびだして、両手をひろげて路面におりたった。魔女からはなたれた怒気を、受け止めるように

2021-08-22 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月23日】 。  ふわりと、空気が変わった。  あたたかい、清浄な空気が、すぐにあたりを包んだ。魔女のはなったものは、きれいに消え去っていた。 「そう、……それが、あなたの安全基地ってわけね」 「どういう意味?」 「さあ?……こうするっ

2021-08-23 08:00:50
楠羽毛 @kusunoki_umou

てだけ」  魔女が片手をあげた。魔女の前に立ちはだかっていたダースが、警戒するように身じろぎをした。  次の瞬間、路面をつきやぶって、黒い、蔓のようなものが、ダースの周りに何本もあらわれた! 「ダース!」  そう、叫び終える間もなく。  ふたりのあいだを隔てるように、やはり地中から、

2021-08-23 08:00:53
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#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月24日】 アスファルトを割って、まっすぐに並んだ黒い柱が、槍のように飛び出してきた。 (鉄格子──、)  とじこめる気か。  そう、口のなかでつぶやいているあいだにも、ダースの身体は蔦に覆われ、見えなくなっていく。 「ダース!」  も

2021-08-24 08:00:20
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う一度、さけぶ。気がつくと、菜月の足元にも、ぞろりと動く蔦のかたまりが。  一瞬後には、口まで蔦がつめこまれて、叫ぶことすらできなくなっていた。膝をつく。つぎの瞬間には、額が地につく。 「……また、会いましょう。あなたに、その気があれば。」  しずかな、つめたい声で。 *  目覚め

2021-08-24 08:00:21
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月25日】 ると、菜月は住宅街の一角で、ダースを抱いてうずくまっていた。  ぬいぐるみの身体は、涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。 *  翌日──  菜月は、午前中まるまるを、部屋からでずに過ごした。ダースは喋らなかった。まるで、あたり

2021-08-25 08:00:17
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まえのぬいぐるみのように、動かずにいた。  午後になって、菜月は家族に聞いてまわった。『ダース』がいつから家にいたのか、自分ではどうしても思いだせない。  昼食を食べながら、母にきく。 「知らない。ゲームセンターかなんかで取ってきたんじゃない?」  大学へゆく電車のなかで、メッセンジ

2021-08-25 08:00:18
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#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月26日】 ャーアプリを使って、妹に。 『あれ、プライズでしょ』 『気がついたら家にあったような。自分でとったんじゃないの?』 『それか、美羽ちゃんかハル姉か』  もうずっと会ってない叔母の名前がでるに至って、出どころの追求はいったん諦

2021-08-26 08:00:23
楠羽毛 @kusunoki_umou

めた。そのかわり、大学のコンピュータ室で、タグの文字から検索をかけてみる。  あった。  メーカーのウェブサイトに、写真入りで。 ”まるポン。ちょっとお茶目な、たぬきの女の子です。” 「……あらいぐまじゃないんだ」  菜月は、おもわず声をあげて呟いた。 (ていうか、女の子だったんだ。)

2021-08-26 08:00:23
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#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月27日】  そっちのほうが、幾分かショックかもしれない。 *  スマートフォンの通知音。  このあいだ登録しておいたSNSだ。  写真をアップしてすぐ、何件もくだらないメッセージが来ていたが、放置していた。なんとなくメッセージボックス

2021-08-27 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

を開いてみてすぐ、いま来たばかりの通知が目にとまる。  ──○○市の大学生です。友達になりませんか?  それから、長文の自己紹介。さらさらっと目を通して、プロフィール欄に飛んでみる。アイコンはアニメの美少女キャラクター。SNSの投稿欄は、日ごろの愚痴や、バイト先のお店のこと、読んだ

2021-08-27 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月28日】 漫画のことなんかで埋まっている。 『あ~彼女ほしい。卒業したい!』  三日前の投稿に、そうあった。  菜月はため息をついて、コンピュータ室をでた。今日はもう授業はない。ぐるぐると悩みながら歩いて、電車にのり、自宅の最寄り駅

2021-08-28 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

につくところで、ようやく、  菜月は決心して、返信した。  ──いいですよ。一度会いませんか? *  その日の夜は、ずっとSNSのメッセージをやりとりして過ごした。 *  翌日。  一限目の必修授業、なんとか間に合ってほっとしていると、つかつかと、同じグループの女が歩みよってきた。

2021-08-28 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月29日】  ただでさえ背の高いところへ黒いパンプス、茶髪をきれいに巻いて、肩と首もとを露出したワンピース。アイメイクをばっちり決めたきつい目つきに、ちょっと高めの、投げつけるような声。苦手なタイプだ。 「高橋さん。……きょうの発表

2021-08-29 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

の準備、やってきた?」 「え、……。」  発表。先週のこの授業は、出席していたはずだが。何も覚えていない。 「まさか、やってないの!?」  早口の大声、同じグループの3人が、こっちをむく。 「……ごめん、でも、……忘れてたっていうか、」 「うそでしょ、先週、やるって言ってたじゃん!」

2021-08-29 08:00:11
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#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月30日】  そういえば、そんなことがあったような気もする。先週の授業の記憶は、もう忘却の彼方だ。  わざとではない、などと言ったところでどうにもならない。ただ、黙っているしかなかった。連帯責任。そんな言葉がぐるぐるまわる。 「もうい

2021-08-30 08:00:39
楠羽毛 @kusunoki_umou

い。……私たちが、なんとかするから。」  叩きつけるようにそういって、女は席にもどり、ほかのメンバーと早口で相談をはじめた。  菜月は、ただ膝に手をかたくして、目を伏せて黙っているしかなかった。 *  会おう、といいだしたのは菜月だが、場所と時間を指定したのは男のほうだった。菜月が

2021-08-30 08:00:41
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#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年8月31日】 通学に使っている路線の、乗り換え駅のロータリー。待ち合わせスポットとして有名な時計塔がある。それが目印だった。  夕方。まずは会って、お茶でも。それから、よければ近くの映画館へ。  正直いって、あまり浮き立った気分ではなか

2021-08-31 08:00:23
楠羽毛 @kusunoki_umou

った。ちょっとでも気を抜くと、考えなくてよいことが頭に入り込んできそうだ。  ハンドバッグを膝にのせて、人の多い車両の端の座席。目をつむって、こめかみを、とんとんと叩く。集中、集中。  もうすぐ、降りる駅だ。  目をあけた瞬間、知り合いの顔が目にとびこんできた。  黒いボブカットで、

2021-08-31 08:00:23
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#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月1日】 いつも目を細めたような、やさしげな顔をした同級生。  けさの必修授業で、同じグループだったメンバーのひとりだ。彼女にも迷惑をかけてしまっている。謝らなければと思ったつぎの瞬間、もうひとりの顔が目に入って、思わず目をそらす。

2021-09-01 08:00:19
楠羽毛 @kusunoki_umou

今朝、文句を言ってきた女だ。そればかりではない。よく見ると、グループの全員が、連れ立って同じ車両にいる。  どこか浮き立ったような様子で、談笑しながら。  たまたま一緒になったというふうではない。菜月は考えるのをやめようと思ったが、できなかった。  ドアがひらく。むこうは、ドアのち

2021-09-01 08:00:20
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月2日】 かく。こっちに気づいてはいないようだ。  菜月は降りようとする人の動きにまぎれて、となりの車両につづくドアをくぐった。そのまま降りようと思ったが、足が震えて動かなかった。ドアに背中をもたせて、大きく息をつく。  ぐるぐると

2021-09-02 08:00:28
楠羽毛 @kusunoki_umou

、いろんな思いが頭をかけめぐった。  ふいに、頭から血の気がなくなったような感じがして、座りこんでしまう。ぼろぼろと涙がこぼれる。貧血か。それとも。  ドアが閉まった。  涙をふきながらスマートフォンをつけて、SNSのアカウントを消した。なぜだか、そうしなければいけないような気がした。

2021-09-02 08:00:29
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月3日】 * 「なあんだろ、ねえ」  菜月は、喋らないぬいぐるみを両手で抱きあげて、かすれる声で。 「何やってんだろねー、わたし。」  ダースの、うごかない手を、ぎゅっと握りしめて。 「待ち合わせすっぽかしてサ。あやまりもしないで……

2021-09-03 08:00:26
楠羽毛 @kusunoki_umou

もう、連絡もつかないんだけどさ。消しちゃったもん、ぜーんぶ」  よそいきの、少し派手なワンピース。勢いでベッドに倒れ込んだので、皺でぐちゃぐちゃになっている。構うもんか。 「会ってみればさ、たぶんいい人でさ。うまくいくんだよね、きっと。でもさァ…….。やっぱ、だめだよ、わたし」  ぱ

2021-09-03 08:00:26
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月4日】 ち、ぱち、とまばたき。涙がこぼれる。何度目をとじても、ダースの表情は変わらない。 「……ねえ、やっぱり、喋らないんだ。あんた……、」    前は、ちゃんと頷いてくれたのに。  そう、思いかけて、ふと気づく。 前っていつだ?

2021-09-04 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

前、ずっと前……、ダースがここにくる前?  だれと? *  次の日から、菜月は大学へ行けなくなった。 *  中学校の近くに、町立の図書館がある。館のまわりをぐるり、囲むように遊歩道があって、南側にあずまやがひとつ。  あずまやの、切り株を模した椅子のひとつに、菜月がぼうっと座ってい

2021-09-04 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月5日】 る。  丈の長い紺色のスカートに、シャツ。いつもなら上着をはおるところだが、さすがに暑い。丸めて、鞄のなかに突っ込んである。  カバーつきの文庫本を手にしているが、中途半端に広げたまんま、ぺらぺらとページが風にめくられるが

2021-09-05 08:00:03
楠羽毛 @kusunoki_umou

ままに任せて。  手に、力が入らない。  そういえば、大学の図書館で調べた新聞記事に載っていた。羽島莉子も、読書が好きで、ここによく来ていたとか。  そんなことを、ぼんやりと、思い出す。  頭がまわらない。  このまま、夕方まで過ごして、また家に帰る。そんな生活を、しばらく続けている

2021-09-05 08:00:06
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月6日】 。家族にはなにも話していない。  ため息。  さいわい、ここなら、大学の知り合いに会うことはまずない。お金もかからず、安心して過ごせる。 (……ダース。)  だれにともなく、つぶやく。あれ以来、ダースは動かない。  ふと、人の

2021-09-06 08:00:27
楠羽毛 @kusunoki_umou

声を感じて、図書館の入り口のほうに目をやる。オーバーオールに白い上着、ふたつに分けて縛った髪の、背の低い女。  中学の同級生だ。このあいだ、三人でカラオケに行って以来の。  声をかけようか、すこし迷う。しばらくぶりに話したくはあったが、大学のことを聞かれたらごまかさなくてはならない

2021-09-06 08:00:28
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月7日】 。  それから、連れがいることに気づく。  男だった。  短髪で、半袖のTシャツにサンダルばきの、日焼けした男。名前を思い出すのにしばらく時間がかかった。覚えていなかったのではなく、ずいぶん体格が変わっていたからだ。やはり中

2021-09-07 08:01:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

学の同級生で、バスケ部にいた、俊。  ふたりは、笑いあいながら歩いているように見える。  菜月は、ばたんと本をとじて、立ち上がった。  鞄を、ひったくるようにつかんで、足早にあるき出す。  二人に、見られないように。 *  図書館の北、じめじめした植え込みの裏まできて、ようやく息を

2021-09-07 08:01:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月8日】 つく。  また、涙がにじむ。情緒不安定だ。ぬぐおうとして、眼鏡をひっかけてしまう。拾おうとかがんだところで、高い音にびくんと震える。  スマートフォンの通知だ。しばらく迷ってからバッグから出す。メッセンジャーアプリではなく

2021-09-08 08:00:30
楠羽毛 @kusunoki_umou

、ショートメールだった。 『こんど、実家に帰ります。会えるかな? 遥』  涙をこぼしかけた菜月の目が、きらりと輝いた。 *  金森遥は、菜月の父方の叔母だ。  とはいっても、5歳しか離れていないから、おばというよりは、姉妹か従姉妹のように付き合っていた。4年前、遥が東京の大学に進

2021-09-08 08:00:33
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月9日】 学して引っ越してから、会っていない。今年、大学は出たはずだが。 「はる姉、帰ってくるの? まじで?」  帰ってから伝えると、妹はうれしそうに顔をあげてそういった。母は首をかしげて、へえ、そうなの、とだけ。 * 「ナツちゃん

2021-09-09 08:00:19
楠羽毛 @kusunoki_umou

!」  メールで呼び出された橋のうえ、笑顔で大きく手を振っている、小柄で細身の、短髪の女。ショートパンツに、白に英語のロゴが入ったTシャツ。その上に、夏だというのに長袖の上着をはおって。 「はるねえ」  菜月は、めずらしく甘えたような声をだして、かけよっていく。今日はさすがに、半袖。

2021-09-09 08:00:20
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月10日】 スカートはいつもどおり長いが、薄い、やわらかい生地のもの。眼鏡のまわりに、じんわりと汗がにじんでいる。  古いかけ橋は細く、人がすれ違えば袖が触れるほど。しぜん、距離は近くなる。それなのに、立ち止まった菜月にさらに一歩、

2021-09-09 08:00:52
楠羽毛 @kusunoki_umou

近づいて、遥はわらった。  菜月は一瞬、気圧されたように目をしばたいてから、笑いかえした。 「おかえり!」 「ただいま」  遥がにいっと笑うと、奥歯まではっきり見える。鼻は低く、まつげがやけに長い。けして美人ではないが、菜月はその笑顔が好きだった。 「ずっといるの?」 「まさか。でも、

2021-09-09 08:00:54
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月11日】 一週間くらいは暇だから。」 「そうなの? じゃ、今週いっぱいはいられるんだ。やったあ」  へへ、と屈託なく笑って、菜月は錆びた欄干に手をかけた。なんとなく遥の顔から目をそらして、川のほうを見る。蝉の音。川の流れる音。一瞬だ

2021-09-11 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

け耳をかたむけて、それから、すっと息をこめて。 「……はるねえ、じつはあたしさあ、」  いいかける。 「ちょっと、下に降りてみようか。」  遥は遮るようにそういって、歩きだした。橋のたもとから、河原へ降りられるようになっている。  川は比較的浅く、夏になると、近所の子どもがよく水遊び

2021-09-11 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月12日】 をしに来る。今はまだ6月の初めなので、誰もいないが。7、8年ほど前は、年長の遥につれられて、菜月と妹、ときには幼い美羽も一緒に、よく川遊びにきていた。 「さっすが、こっちは涼しいねえ! 橋の上はもう、暑くって。」  そうい

2021-09-12 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

いながら、上着は脱ごうとしない。ふらふらと、河ぎしの岩のうえをわざわざ選ぶように歩いて、手で顔をあおいでいる。 「……はるねえ、ちょっと聞きたいんだけど。」 「ん、なあに?」  あのさ、とひと呼吸おいて、菜月は切り出した。 「あたしの持ってる、ダースっていうぬいぐるみ、覚えてる? あ

2021-09-12 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月13日】 れさ、」 「おぼえてる! 懐かしいなァ。……まだ、持ってるよ。」 「え?」  噛み合わない。菜月は眉をひそめて、遥の顔をじっと見た。遥は、川ぎしの岩に腰かけて、サンダルの足を水で濡らしながら、 「あとで、私の家にきなよ。ゆっ

2021-09-13 10:00:21
楠羽毛 @kusunoki_umou

くり話そう」 「うん……、」  菜月は釈然としないまま、遥のとなりに座った。灰色のスカートの裾をまくり、スニーカーと白い靴下を脱いで、同じように水につけてみる。冷たい。ひんやりと、心臓が冷えるようだ。  つまさきに、蟹の鋏が触れた。 「……ナツちゃん、ねえ、」  ふいに、遥がいった。

2021-09-13 10:00:22
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月14日】 菜月はおどろいて、顔をあげた。 「なにか、あったの?」  しずかな、やさしい声で。 「はるねえ、」  菜月は、ちいさくその名をよんで、  ぽろぽろと、涙をこぼして、泣いた。  嗚呼、ここにいたのだ。 * 「……都会はうるさい

2021-09-14 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

っていうけど、東京から帰ってくると、こっちのほうが夜はうるさいんだよね。かえるの鳴き声とかさあ」  金森家に入るのは、久しぶりだった。4年前、遥が東京に引っ越してからは、初めてかもしれない。  遥は、山積みになった雑誌をどかし、漫画本を横によせて、スペースを確保した。それから、自分

2021-09-14 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月15日】 はベッドの上にすわり、空いた床にピンク色のクッションをほうって、菜月を座らせた。 「……はるねえ、漫画いっぱい持ってる。」 「そうだよ。知らなかった?」  遥はくっくと声をあげて笑った。肉のない頬をぐいと窪ませて。 「欲しい

2021-09-15 08:00:23
楠羽毛 @kusunoki_umou

のあったら、持ってっていいよ。むこうの部屋狭いし、どうせここに置いといたって誰も読まないから」 「ほんとう?」  喜んではみたが、菜月はあまり漫画を読まない。妹は喜ぶかもしれないが。あるいは、美羽なら。 「それで、はるねえ……、」 「ちょっと待って」  遥は、ベッドの脇に無造作におい

2021-09-15 08:00:25