#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月16日】 てあった黒いキャリーバッグをじゃこんと開けた。着替えやノートの束をおしのけるようにして、奥から、レコードショップの白いビニール袋に包まれた何かを取り出す。 「これ。……覚えてない?」 受け取った菜月が、袋を開けると、なか
2021-09-16 08:00:29から、古い画用紙の束が出てきた。 いや。 リボンを穴に通して製本されている。これは、手製の本だ。 『ダースのだいぼうけん』 子どもらしい、読みにくい字で、そう書いてあった。 * ダースは つよいあらいぐまです どこへいっても なにをしても つよい すごくつよい あらいぐま
2021-09-16 08:00:30#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月17日】 です あるとき ダースのいるところに おおきなおとをたてて ほしがおちてきました ごう ごうと おとをたてて かぜがふきました みんなは こわがって にげました だれでも みんな にげました ダースだけが にげ
2021-09-17 08:00:14ずに ほしのおちたところまで いこうときめました ずんずん ずんずん すすんでいくと にほんのてが すんすんと ないていました どうしたんだ ダースがきくと にほんのては なきながらいいました ぼくが ほしをおとしてしまったから みんな にげてしまった それなら おれにま
2021-09-17 08:00:16#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月18日】 かせろ ついてこい ダースは つよいので そういいました ダースと にほんのては ずんずんすすみました やまも たにも もりも うみもこえて ずんずん ずんずん そうして やっと ほしのおちたところに たどりつくと
2021-09-18 08:00:05ダースは ほしをもちあげて そっと そらにかえしました にほんのては ほしのせかいに かえって ダースに ありがとうと いいました * 「これ、……」 「おぼえてない?」 菜月は、ぎゅっと眉根をよせて考えこんだ。なにかが、頭のなかにひっかかっている。 つたない文字は、色鉛
2021-09-18 08:00:06#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月19日】 筆かなにか。節操なく、赤と思えば青、黄色、桃色、黒に橙。ダースという単語は特にお気に入りらしく、一文字ごとに色をかえたり、ふちどりをして目立たせている。 子どもらしい、ばたばたとはねまわるような文字。 いっぽうで、あら
2021-09-19 08:00:06いぐまや『にほんのて』の絵は、輪郭がしっかりしていて、同じ人間が描いたとは思えない。 「……もしかして、わたしが書いたの?」 「そう、挿絵はわたし」 遥は、ちいさな目をにいっとつりあげて、自慢げにいった。 「ぜんぜん覚えてない? まだ小さかったからね」 菜月は、目を閉じて考えこん
2021-09-19 08:00:09#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月20日】 だ。 ぱちんと、パズルのピースがはまったように、とはいかない。 それでも、思い当たるものがあった。 「……これ、『ダース』で書いたんだ」 小さく、拾い上げるようにそうつぶやくと、遥はうれしそうに手を打った。 「そう!
2021-09-20 08:00:19思い出した?」 「うん、……すこし。」 「ね、これ。持ってきたの。見てくれる?」 そういって、ふたたびキャリーバッグの奥から、ごそごそと何かを取り出す。こんどは、きれいにテープどめされた、書店の紙袋。 促されて、菜月が開封する。ふわりと街のにおいが鼻をさす。 新品の、色鉛筆の箱
2021-09-20 08:00:22#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月21日】 であった。十二色の。 ダース。箱に、大きくそう書いてある。商品名らしい。 「同じやつ、たまたま見つけてね。ナツちゃんにあげようと思って買ったんだ。前のは、使い切っちゃったでしょう?」 * 幼かった菜月は、ただ、ダース
2021-09-21 08:00:15という『ことば』が好きだったのだ。 それが、始まりだった。 * 「ナツちゃんが6歳くらいのころかなあ。誕生日にそれ買ってもらってからさ、流行語みたいに、だーす、だーすって。そんなふうだったから……、」 そのさきは、覚えている。いま、思い出した。 「……はるねえが、とってくれた
2021-09-21 08:00:16#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月22日】 んだよね。クレーンゲームで。」 「そう。なんて名前にしよう? って言ったら、すぐ、ダースって。」 遥はなつかしげに目線をさまわせた。 「うん、……」 細かく覚えているわけではない。ただ、その瞬間のうれしい気持ちは、胸に蘇
2021-09-22 08:00:18ってきた。 「これを描いたのは、そのすぐ後だっけ。ぬいぐるみのダースで、毎日遊んでるうちに、お話ができてさ。……『にほんのて』って、わたしの手だよ。こうやって、ほら。」 遥は、五本の指をまるで生き物のように動かして、獣が首をもたげるように、人差し指を持ちあげてみせた。 「がおー!
2021-09-22 08:00:21#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月23日】 ……ほら、こんなふうにね。」 年のわりにかさついた、皺の多い手を。長袖を、きたままの。 とたん、遥の脳裏になつかしい記憶が鮮明によみがえってきた。 わたしは、 「……この手が、好きだったんだ。」 そっと、掌をつかむ
2021-09-23 08:00:13。遥はびくんと震えて、手をひこうとした。菜月は放さなかった。 長袖が、はらりとずり落ちた。幾重もの傷がある手首があらわになった。 菜月はかまわず、遥の体に身をあずけた。ベッドの上にいる遥の胸に頭をのせて、ちょうど抱きしめられるようなかたちになった。 「どうしたの?」 緊張をにじ
2021-09-23 08:00:14#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月24日】 ませながらもやさしい声で、遥はきいた。 「……なんでもないよ。」 * それから、午後は妹もまじえて、3人で街へくりだした。電車の中では妹がいちばんはしゃいで、遥はずっと笑っていた。 ショッピングモールにはいり、3軒目
2021-09-24 08:00:16の服屋を出たとき、遥の顔がちょっと青いのに気がついて、菜月は「だいじょうぶ?」とささやいた。 「うん、」と遥はつぶやいた。菜月は衝動的に、遥の手をとって引いた。遥はちょっと目をみひらいて、それから微笑んだ。 「ありがとう、」と、手を握り返しながら。 そのとき、菜月は決めたのだ。
2021-09-24 08:00:17#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月25日】 * 東京へ帰る日、遥は、『ダースのだいぼうけん』の入った袋をそっと菜月にわたして、囁いた。 「……これ、わたしのお守りだったの。でも、返す。大事にしてね」 「いいの?」 「うん、……東京も大変だけど、なんとかやってくから
2021-09-25 08:00:05。わたし、……まんがを描いてるの。そのうち、持ってくるから、読んでね」 それから、長袖をひらひらさせながら大きく手を振って、遥は帰っていった。 第24話 相棒 遥がかえってきた、という話をきいても、美羽はたいして喜ばなかった。 『学校でね、……暴れたらしいの。もう、……』 よ
2021-09-25 08:00:06#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月26日】 りこさんが、玄関でつぶやいた言葉が耳にちらつく。 ただ、美羽は、 「わたしね、いよいよ、魔女になるの。」 他になにをおいても、とばかりに、二人きりになるやいなや。 「莉子が迎えにくるの。わたしが魔女になったら、まっさきに
2021-09-26 08:00:07ナツちゃんを迎えにいくね!」 はつらつと、大きなこえで、ささやいてきた。 * 夜── 二十三時。ぴいんと高い音、スマートフォンのアラーム。 菜月は、ばたんとはね起きて、アラームを止めた。それから、手早くボタンをはずす。脱いだパジャマを放り捨てたまま、クローゼットから青いワン
2021-09-26 08:00:08#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月27日】 ピース、それからカーディガン。たんすを開けて、靴下とブラジャー、アンダーシャツ。 ぜんぶ身につけてから、長い髪を後ろでくくって、眼鏡をかけ直す。 腕組みをして、……ベッドの上に転がっているダースにむかって、強い声で。
2021-09-27 08:00:22「ダース。起きなさい。行くよ」 睨むように待つこと、5秒あまり。 ダースは、むくりと起き上がって、くるんと首をうごかして言った。 「……ようやく、呼んでくれたね」 「やっぱり。ずっと起きてたんだ。」 「ちがうよ。今きみが起こしたんだ。」 「でも、……」 「さあ、ゆこう。今夜しかない
2021-09-27 08:00:24#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月28日】 んだろう?」 はつらつとそういって、ダースはベッドから飛び降りた。 * 前回とはうってかわって、夜は静かだった。 街灯はちゃんとついていたし、家々の窓からはあかりがもれていた。風が笑うことも、手が歩くことも、星が落ち
2021-09-28 08:00:10てくることもなかった。 それでも、今夜は特別な夜なのだと、菜月は知っていた。 大通りをしばらく下って、それから両脇に塀のせまる生活道路へ。宵っぱりの声がひびく居酒屋の前をぬけて、住宅街。高橋の本家は、すぐそこだ。 すたすたと無造作に足を進める菜月にたいし、ダースのほうは少し
2021-09-28 08:00:11#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月29日】 緊張しているように見える。もちろん、ぬいぐるみが汗をかくわけもないが。 そうして、 ほどなく、魔女の姿がみえた。 本家の大きな平屋の、いかめしい門の前に、黒い、ゆがんだ柱が立っている。すこしずつ近くに寄っていくと、
2021-09-29 08:00:15それが、女の姿にかわっていった。 顔のない魔女。 門のむこうからもれる窓のあかりは、明るい。誰かが、まだ起きているのだろう。あたりに人の気配はない。 「待っていてくれたの?」 菜月は傲然といった。肩のふるえをこらえながら。 魔女は顔のない顔で微笑した。ふしぎと、それはたしかに
2021-09-29 08:00:18#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年9月30日】 微笑であった。 「ええ。あなたを。」 「ありがとう。でも、……」 とんとん、とこめかみを指で叩いて、菜月はこたえた。 「わたしは、行かない。」 「本当に?」 意外そうに首をかしげて。 「ほんとうに。」 「なら……、」 すっ
2021-09-30 08:00:21と、魔女は手をかざした。ぎんいろに輝く月を背負って。 ダースが硬い声で、ささやく。 「菜月、ぼくに命じてくれ。戦えるように……、」 「いいえ。」 菜月は、もう知っていた。 「それから、魔女、あなたも。」 この魔女は、自分が生み出した怪異なのだから、 「もう、消えなさい」 ただ、命
2021-09-30 08:00:23#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月1日】 じればいいのだと。 「もういいの。私は、ここでまだ頑張るから。だから、今は消えなさい。大丈夫だから。」 「菜月!」 ダースが悲鳴をあげた。菜月は、すっと両手を広げて、二歩、あゆみ寄った。 魔女の影は、ほろりと黒い涙をこぼ
2021-10-01 08:00:04して、 菜月の胸のなかに、消えていった。 * 「ナツちゃん」 ふと気がつくと、門のそばに、美羽が立っていた。 めずらしく、のりのきいたプリーツスカートと、黒い靴下をはいて、半袖のブラウスに赤い帽子をかぶっている。樟脳のにおいが、ぷんと鼻につく。 肩をいからせて、ぎろりと、は
2021-10-01 08:00:05#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月2日】 げしい目でこちらを睨む。 「どうしてくれるの。……莉子を、どうしたの」 「あれは、莉子ちゃんじゃない。」 菜月は首をふった。高橋家の窓をちょっと確認する。明かりは消えている。 「だって、……」 叫びかける美羽に歩み寄り、
2021-10-02 08:00:07耳許に唇を近づけて、そっと、ささやく。 「……あなたの莉子ちゃんは、ほら、むこうにいるでしょう?」 いいながら、指をさす。 ダースが、え、と小さくつぶやいた。美羽が目をあげると、そこには、魔女がいた。少し離れたところで、ぽつねんと立って、こちらを見ている。 「どうして、……」 「
2021-10-02 08:00:08#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月3日】 …ねえ、あなたには、あの魔女の顔がどう見えるの?」 「どうって……、」 美羽は、不安げに首をふった。質問の意味がわからない。 「莉子の顔。でしょ? どういうこと?」 「そう……」 菜月はちょっと暗い顔をして、目を細めた。
2021-10-03 08:00:05やはり、そうだ。 魔女に顔がなかったのは、羽島莉子の顔を知らなかったからなのだ。 私の目にうつる魔女は、私が生み出した怪異。 美羽が見るそれは、美羽が、── 「ねえ、ナツちゃん、一緒にいこうよ」 「いいえ。」 菜月はふたたび、きっぱりといった。にべもなく。 「わたしは、行か
2021-10-03 08:00:06#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月4日】 ない。」 「それじゃ……わたしは、どうなるの」 美羽の瞳に、ふたたび怒りがともった。ちいさく、手をふるわせて、 「行くなっていうの。私にふつうでいろっていうの。私はふつうじゃいられないの、わかってるくせに。……ナツちゃん
2021-10-04 08:00:18、責任とれるの?」 すこしずつ、声が小さくなっていく。 菜月は、美羽の肩ごしに、さきほど指さしたほうを見た。魔女がいるはずのところだ。 そこには、何もいなかった。いや、菜月には、見えなかった。 答え合わせをするように唇をかんで、菜月は、そっと美羽の頭に手をあてた。 「……とれ
2021-10-04 08:00:18#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月5日】 ないよ」 かるく膝をおって目線をあわせる。 じっと、美羽の瞳を、いや、美羽の瞳にうつる自分の姿をみつめて。 「責任なんか、とれない。わたしは、わたしのことを決めたんだから。行くか、行かないかは、あなたしか決められないの
2021-10-05 08:00:11。」 それから、しばらくの沈黙。 菜月の頬から、涙がほろりと落ちた。 「ずるいな、ナツちゃん。」 美羽は、小さくつぶやいた。それから、 「莉子、ごめん。わたしは行かない。」 そう、きっぱりと言った。 魔女は、かなしげにゆらいで、消えた。 * それから、3日後── 「……ね
2021-10-05 08:00:13#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月6日】 ーえ、ナツちゃん」 甘えたような声で。 美羽は、菜月の部屋のベッドで、ぬいぐるみに囲まれて寝そべっていた。胸の下に、大きなうさぎのぬいぐるみを敷いて、うつぶせに。 少年のような、袖のないTシャツと半ズボンで。 「これ、
2021-10-06 08:00:27続きないのー? 4巻は?」 ぺらぺらと、読み終えたまんがの単行本をめくりながら、足を動かす。あいかわらず、ひとときもじっとしていない。生まれたての猫のようだ。 「知らない。はるねえの家に行けばあるんじゃない?」 菜月はベッドの下で、クッションに肘をついて、美羽と似たような姿勢で
2021-10-06 08:00:28#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月7日】 寝そべっていた。だらけきった、サイズのあわないスウェットの上下、まんが本のかわりに、小説の文庫本。もう何十回と読み返した、古いお気に入りの。 「えー、」 不満げに頬をふくらして、乱暴にマンガ本を伏せる。借り物だよ、といい
2021-10-07 08:00:06かけて、菜月は面倒になって口をつぐんだ。遥はこのくらいでは怒るまい。どうせ、もらったようなものだし。そう、自分にいいわけをして。 「あ、そういえばさ」 ふいに、美羽は話題をかえた。 「ん?」 「……莉子、見つかったって」 「え?」 菜月はびくんと顔をあげて、美羽の目をじっと見た。何
2021-10-07 08:00:07#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月8日】 を考えているのかわからない。めずらしく表情のない、澄んだ目。 「ニュース見てない? もうみんな噂してるし。……下流のさ、どこだっけかの支流のとこで。骨が、出たんだって。」 「へえ……、」 それから、また、話題がかわる。 「
2021-10-08 08:00:21……あと、さ。ナツちゃん、あたし、病院に行くことになった。」 言いながら、美羽は、ちょっと目をそらした。これは言いにくいらしい。 「え、」 「相談に行くんだって。来週の土曜日。まだ、よくわかんないけど……」 「……そう、」 菜月は、美羽の両親の顔を思い浮かべた。よりこさん。それか
2021-10-08 08:00:21#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月9日】 ら、いつも無表情な、美羽の父親。 ボンヤリと、白い壁の建物を思いうかべる。病院。現実感のない単語だ。よいことなのか、悪いことなのか、よくわからない。 ちょっと首をかしげて、うなずく。 「そういや、わたしも報告があるの。
2021-10-09 08:00:05……留年、決まっちゃった。こないだ親にも言った」 「おぉ」 美羽は一瞬きょとんとして、軽く手を打ち合わせた。 「りゅーねんって、どうなるの? 卒業できないってこと?」 「とりあえず、一年生をもう一回。必修ぜんぶ落としちゃったからさー。まあ、仕方ないよね」 眉をしかめて、思い切るよ
2021-10-09 08:00:07#朝の連続ツイート小説 #ともだちの魔法使い【2021年10月10日】 うに首を振りながら。 「あと5回留年したら、あたしと同級生になれるね」 「……やめてよー、洒落になんない!」 ふたりは目を見合わせて、ぷっと吹き出した。 笑い声。それから、 部屋のすみで、あらいぐまのぬいぐるみと、…
2021-10-10 08:00:06