「あぁ、それは俺が受け持とう。取り敢えずは三割、でいいんだろう?」 さらりと鶯丸が言うと、鶴丸は少しばかり驚いたように瞬きした。 「きみが?」 「自分で言うのもなんだが、俺も観察は得意な方だ。適任だろう」 「いやまぁ、それはそうだけどな。というかきみの観察は大包平専門じゃないのか」
2018-10-05 00:01:18「大包平が来るまで俺がここでただ虚空を眺めていただけだとでも?」 「…」 その沈黙から鶴丸のきみならあり得る、という声なき声を感じ取りながら鶯丸は言葉を続けた。 「何、お前ほど厳しくとはいかないが俺も顕現してからこっちずっとこの本丸を見てきたつもりだ。違和は見抜けるとも」
2018-10-05 00:14:15「…いや、だがなぁ」 鶴丸の顔に複雑な表情が浮かぶ。実力を疑ってかかっていると言うより、理由が浅いのだろう。 鶴丸はことこの本丸の護りに関しては冷徹な程だが、それでも旧知に対する親しみの情のようなものは持ち合わせているらしく、負担のある作業を気安く押し付ける事は出来ない様子だった。
2018-10-05 23:45:07髭切には今回の件で貸しもあり、序列としてもこれから組み込まれる。まだ渡せる理由がある、という事なのだろう。 つまりは。「友人」に気を使っているのだ、結局。 「…鶴丸。今回の件では俺もお前には詫びねばと思っているんだ。加州の頼みもあったとはいえ、俺が髭切を見逃したのには私情もあった」
2018-10-05 23:49:25「私情?」 「大包平に関わる事だったからな。あいつの色恋沙汰が悲惨なものになるような可能性は出来れば避けたいと思ったんだ」 愉快がっていたとはいえ、鶯丸も三振りには幸せにはなって欲しい。 髭切の警戒の理由を察した後、加州からの頼みを思い出さなかったとしても鶴丸に報告したかは五分だ。
2018-10-06 23:59:55「…だから?」 「『だから、』俺に『借り』を返させろ、鶴丸。お前の負担を少しこちらに寄越せ」 ほら、と手のひらを上に向けて差し出せば、鶴丸は渋い顔のまま鶯丸を見た。 「…きみ、最初から『ここ』までが織り込み済みか」 「はは、まぁ思ったよりは上手く転がったが。お前の目を盗むのは難儀だ」
2018-10-07 15:26:07お前は隠し事に聡く気付くから、自然体を保って見抜かれない様にするのが精一杯だった、と鶯丸は笑う。 そう、加州から相談された段階で鶯丸は防衛機構の負担を何割か請け負うなら自身が適しているだろう事、そして適しているというだけでは鶴丸が『目』の権限を渡しはしないだろう事まで思い至った。
2018-10-08 06:51:05そして起こったのが髭切の起こした騒動だ。 鶯丸はこの件について沈黙を貫く事によって、大包平を含む彼らの恋路を護り、その過程で鶴丸に防衛機構の穴を指摘し、更にその為にこの本丸の定め事に私情を含んで抵触したという理由をもって『貸し』を作って返すという形に持ち込んだ。
2018-10-08 06:59:07勿論最初に持ち出したように加州の願いを聞いたという側面もあるが、この形を取った理由には、先程鶯丸自身が言ったように私情も多く含まれている。加州の意図を完全に汲んだのなら、例えば知った時点で髭切が監視を潜っている事を指摘する、などのもう少し鶴丸の神経に障らない方法も選べたのだ。
2018-10-08 07:08:16それだけでは弱い、と踏んだのは鶯丸の独断だ。 強い衝撃と危機感を与えて鶴丸の方向転換を促す為には最後まで事を運んで貰った方が良い。 だから、今回の騒動の起点に位置してしまった髭切にも謝らないと、と鶯丸は空になった湯呑を見た。 結果的には彼の必死さを利用したようなものなのだから。
2018-10-08 07:08:33鶴丸に露見しないように、という髭切の警戒は最もだ。 だがここまで隠さずとも先回りして鶴丸を説得するなど、事態を穏便に済ませる事が。…恐らく唯一、鶯丸には出来たのだ。 だが鶯丸は、鶴丸の担っている物を自分が一部分でも引き受ける素地を作る為に、事が大きくなるのを承知で沈黙した。
2018-10-09 01:53:56ある程度「驚かせないと」響かないのだ、この男は。 「実は今回の件、俺としては本当に私情ばかりでな。加州や皆の心痛も気にはなったし、大包平の恋路が眺めて楽しめないようなものになるのは嫌だ。それに、…」 それに、と一度言葉を飲み込む。首を振って鶴丸の方に顔を向ければ、視線が合わさった。
2018-10-09 01:59:47「これでも俺だって、お前のことも心配してるつもりだ」 そんな、正直素面で言うのは難しい事を勢いに任せて口走る。 しかし、上げてみれば本当に私情ばかりだ、と鶯丸は苦笑した。挙げ句この理由が全てではないというのだからどうしようもない。 …鶯丸自身には、こうしたいいくつかの理由があった。
2018-10-09 02:11:33だから、鶯丸はそんな混在した様々な事情を解決し、一番自分に都合がいい結果が出る方法を選択しただけだ。 奇しくも、髭切と同じく。 そんな言葉を受けた鶴丸は一度目を見開くと、盛大に呆れたように顔を顰めて大きくため息をついた。 「全く…。今回は本当に、ほとほと驚かされてばかりだ」
2018-10-09 02:17:53刃生に驚きは必要だが、過剰過ぎるのはどうかと思うぜ?と心底複雑そうな笑みを浮かべると、鶴丸は大きく首を振って、息を深くついた。 はあ、と息が地面に落ちる。 「まったく。そこまで言われて断るんじゃ、俺が意地はってる餓鬼になっちまうな。解った解った、今回はきみ達の…いや、きみの勝ちだ」
2018-10-09 02:18:20「ふむ。いやいや、この本丸でお前に勝てた、というのは中々の気分だな。…まぁ結局はお前が俺に向けた警戒が薄かったから出来た事だが」 「きみなぁ、だからひとに追い打ちを掛けるのは趣味か?」 結果的に近い相手への甘さを指摘される形になっている鶴丸は、楽しげに笑う鶯丸をじとりと睨めつけた。
2018-10-10 07:14:58「なに、別段お前は冷徹であっても無情ではない、と言ってるんだ」 「…。そいつは過分な評価だと思うがね」 鶴丸の金色の瞳がほんの僅かに和らいで、苦笑に滲む。 鶯丸にとっての鶴丸は親しい友人と呼べる相手だ。 …結局の所、逆も然りという事が明確にされるのは気恥ずかしいのかも知れない。
2018-10-10 07:25:25「…いいだろう、『目』の管理権限を三割きみに譲渡する。加えて彼らの視た物を処理する術も一括で渡そう」 鶴丸国永の優美な指先が、空を緩やかに辿った。 「一応言っておくが、ひとに引き継ぐ想定では造ってない術式だ。移行の際にはそれなりの負荷が掛かるぞ?一つ一つは大したものじゃないがな」
2018-10-10 07:30:06「まぁ、仕方ないさ。負担は承知の上だ」 「そうかい、じゃあ…」 白く細い、骨ばった指が目の前の空間をなぞる。 明確な意図を持って描かれる軌跡を薄い金色の燐光が追っていく。 りん、と鈴のような音が響いた。 「早々に、始めるとするか」 精々驚いてくれよ?そう言った鶴丸の唇に笑みが浮かぶ。
2018-10-11 03:30:42パン、と小気味良い音を立てて手が合わせられる。 打って変わって楽しげな笑みの浮かぶ唇から流れ出るのは、平安の時代から在る鶯丸にはそれなりに馴染みのある真言だ。神通力等の備わった術ではなく下位の擬人式神を使役する為の、一般的な術を構築する音の羅列。そこまでは特筆するような事はなく、
2018-10-11 03:50:11「…『―管理者〈マスター〉権限を行使。各種霊子機構〈システム〉の再構築構想開始。並行にて情報処理端末の追加、及び監視用端末三七〇から六五〇までの使用者変更登録を順次開始する』。」 真言とは異なる異質な言葉が鶴丸の喉を震わせた。 それは展開していた術に、まるで網目のように走っていく。
2018-10-11 04:07:01鶴丸を起点にして本丸中に走った霊力と「何か」の網はほんの一瞬で消え、数呼吸の後。 ざ、…と微かな音が応えた。空に点がぽつりと浮かび、増えていく。音は更に大きさを増して、聴覚を打つ。 それは百を超える羽音。鳥の群れだ。 螺旋を描くように「それ」等は鶯丸達がいる縁側に降りてきた。
2018-10-12 07:49:52一羽一羽は小さくても数が揃えばかなりの羽音になる。騒がしさに鶯丸が顔を顰めるが鶴丸は慣れた様子で腕を掲げた。 群れの数羽は鶴丸の差し出した手に留まり、その手に擦り寄ると緩やかな光を放って輪郭を滲ませていく。 ぱさぱさと音を立てて、鶴丸の周りに降り注いだのは幾つもの折り鶴だった。
2018-10-13 06:25:00庇に留まっていた小鳥達が降りながら姿を折り鶴に変じていく。足元から気配を感じて見やればそこには鼠や蛙が数匹。これも瞬く間に姿を変え、どこからともなく現れた蝶達も同じ過程を辿って鶴丸や鶯丸の周りに降り積もっていく。 ぱさり、という音が止まった時には足元は折り紙で埋まっていた。
2018-10-13 06:36:47折り紙を使った簡素な式神。これ自体は特殊ではない。だが、数が尋常ではない。 暫く絶句した鶯丸を見やって、鶴丸は驚いたか?と笑う。 鶯丸はしみじみと、本当にしみじみと溜息を息をついた。 「いや、お前も大概馬鹿だな」 「お前も、ってのはなんだ。もしかしなくても大包平と比較してるのか?」
2018-10-13 06:43:52それは大分嫌だなと言いながら、鶴丸はゆるりと目を細めた。 「まぁ、基本的に半数は予備だけどな。録画容量も然程多くない」 懐から徐に取り出したのは折られていない白い折り紙だった。 それを光に透かして見れば、紙の繊維に隠れるように、無数の金色の線がその中に走っているのが見て取れる。
2018-10-13 06:44:04「…ただの紙じゃないのか」 「主が以前作った絡繰だな。なんて言っていたか…『霊力が動力源の超薄型有機コンピューター』だったか?これ一枚で携帯端末程度の事は出来る。最低限の知能もこの時点である。ま、主の作ったものの常というか、人間の霊力じゃ長くは動かなくてお蔵入りしたらしいが」
2018-10-13 07:30:19「こんなもので式を作って…あぁ、それでこの量産が出来たのか」 「こういうのは込める霊力を落とせば機能は落ちるし、機能を上げたら俺一人じゃ多くを常時は維持できないからな。元からそういう機能がある奴を式にすりゃ、効率が良いだろう」 鶴丸の言葉に成程、と鶯丸は頷いた。
2018-10-13 07:31:47撮影、録画、再生機能があり自律する絡繰をそのまま式神にしてしまえば、その機能を術で式神に持たせる必要はなくなる。 そして式神になってさえいれば、術者はその集めた情報を、絡繰越しではなく直接受け取れる。まぁ、恐らく機械の情報を理解できる形にする為に何かを噛ませているのだろうが。
2018-10-13 07:36:01…数百年程前までは、人の作る機械…科学という技術は霊や妖、神との相性が悪く、人や神、妖が神秘の通う術を通す事も、観測する事も難しかった。だがそれは昔の話だ。鉄を打ち出した刀が神となった様に今では仮にも神をその技術を以て時間遡行させられる程度には、科学は神秘に寄り添える物となった。
2018-10-13 07:38:22神秘と科学の融和運用。かつてその術を研究していたのがこの本丸の審神者であり、その刀剣男士である鶴丸がそういう類の細工に長じるのは必然だったとも言えるだろう。 鶴丸はこうして機械で出来た防衛の網そのものを霊的に支配下に置くことで、一振りで本丸全体の防衛機構を運用していたという訳だ。
2018-10-13 07:44:42そこに単純に霊力やらで編まれた結界や、時空に作用する元から配置されていた絡繰もある。 そんなものを幾多も折り重ねるようにして、この本丸の護りは堅牢な物になっていった。 この式は主に内側の警戒用。異常を発見し、綻びを警戒し、些事であれ委細を記録する、最初の護りだ。
2018-10-13 07:49:40「…解らないものだな」 膝の上に落ちてきた式は一見して普通の式に見える。 折り紙に神気やら霊力を吹き込んで式にする術は珍しくない。拾い上げた折り鶴には白地に墨で何か書き込んであるが、恐らく墨には血が混じっている。 術者の血を用いた式の強化。これも、鶯丸から見て珍しい技術ではない。
2018-10-13 07:51:10よく出来た式は外から見る分には、尋常の動物で無い事を看破するのも心得がない者には難しい。 だが、式であると見抜けたものも、素材とその機能までは見抜けないだろう。 鶯丸もこんな簡易な式を作る『素材』が既にそれ自体で自律する絡繰である、という概念は持ち合わせていなかった。
2018-10-13 12:22:10素材自体がある程度の機械敵な自律思考を持っているなら、術でそれを後付に持たせる必要がなくなる。式神としての外装は、移動と目を使っての記録、術者との交信程度だ。 「仕込みは上々、ってな。ひとが作った機構〈システム〉とはいえ、監視・観察に関しては物だった俺たちよりも得手だ」
2018-10-13 12:23:04基本的に。式というのは丁寧に作れば作るほど性能が上がる。術を洗練させ、込める霊力を上げれば細かな自律行動をし、簡単な思考すらする。 移動して記録し、術者に流すという機能は式の使役術だけでも成立はするのだ。鶯丸もその程度なら出来る。 …ただし、それをこの数となると厳しいところだろう。
2018-10-14 08:40:15十は出来る。五十なら?…それだけに集中すれば可能だろう。では百を越えたら? 鶯丸としてみればやったことは無いが、自信は然程無い、というのが正直な所だ。 まず刀剣男士は神とはいえ、己から引き出せる霊力などは別段無制限ではない。そもそもが剣士であり、術者として調整されている訳でもない。
2018-10-14 08:51:05本来の役割がある以上、この様な術に割ける霊力には限りがある。 更に、観察・監視用の式などというのは直接の防衛機構に比べれば優先順位が下がる訳で、攻性防壁や結界、障壁、四方の番、これらを全て一括に運用する為に数を絞る必要がある所を、鶴丸は素材自体の自力の高さで補っていたという事だ。
2018-10-15 07:11:24攻性防壁にしろ、他の防衛機構にしろ、何割かをこの応用で賄うことにより、質を下げず霊力の消費を抑えて…その分で数を増やした。 「しかし、こんな数は必要だったのか?」 「見る必要があるのは本丸の御殿だけじゃないからな。畑やらそれ以外の土地を入れればこの『本丸』の土地はそれなりに広大だ」
2018-10-15 10:17:29つまみ上げた折り鶴を鶯丸の膝に落とし、鶴丸は肩をすくめた。 「というか他の連中の行動監視もしてはいるが、正直男士が常にいる御殿の方より畑の端や林部分の方が監視としては重要度が高いからな。…外からの侵入警戒が主なんだから」 謀反や他の異常も見てはいるが、主要目的は勿論そうなのだろう。
2018-10-15 10:24:53「まぁ、実際動いている奴の他に、不具合が出た時用に待機させてるのもいるが」 「群れの様になっているのはそういう事か…。そして、定期的に増やした結果がこの数と。三割でこれか…」 やはりお前、実は相当馬鹿なんじゃないか?と言いながら鶯丸は両手ですくい上げた式神の元達を見つめた。
2018-10-15 10:28:17「…正直、数があるのは解ってたくせに三割を引き継ぐなんて言い出したきみも相当だがな」 「…否定はしない。まぁ、『目』だけだからな」 『目』以外の防壁やら門番やらは幾ら鶴丸と同じ御物とはいえ、鶯丸の方の気性もあって然程得意ではない。 引き継がせる事があるなら他の刀の方が良いだろう。
2018-10-15 10:38:49「…さぁて、はじめるとするか。先に言っておくが、術式を転写してきみに各種機能が問題なく運用できるようになるまで、負担はかかるからな」 特に視覚は調律が済むまではかなりおかしくなると思う、と改めて念を押す鶴丸に鶯丸は笑う。 「なに、今更自分から言い出したことを飲み込みはしないさ」
2018-10-15 10:45:04「そうか、それじゃ」 そこで言葉を切ると鶴丸は、体ごと鶯丸に向き直った。徐に鶯丸の肩に手を起き、顔を寄せる。 金色の目が鶯丸の目を覗き込むようにして、 声が響いた。 「『監視機構、再起動。使用者の追加登録を開始。…対象、備前国第×××××号本丸所属刀剣男士、『鶯丸』。――術式転写開始』」
2018-10-15 13:54:24その瞬間、鶯丸が感じたのはこじ開けられるかの様に意識の端から、異質な何かが潜り込んでくる感覚で。 ――鶯丸の主観で言えば。 この直後に起こったことを婉曲的に嫌味のように言葉にして、「実は鶴丸国永は本気で大馬鹿なのではないだろうか」となるのは致し方ない事だったと思われる。
2018-10-15 14:02:38――閑話。 『なあきみ、もしかして最初から『それ』が一番の理由か?』 『はは、私情だと言っただろう?どこまでも、俺の個人的な私情だ』 『……まったくきみは。…あぁ、もう、君たちの事をすっかり失念してたな!結局俺がとことん文句を言われる訳か!』 『言われておけ。…随分と、心配していたぞ』
2018-10-15 14:07:06――。――――。 頭の中に流れ込んでくる情報が処理しきれない。変換術式を洩れてしまったものは、理解しがたい機械的な情報として思考に差し込まれてくる。 元の視界に、何重にも映像が重なって鶯丸は呻いた。 術に器が慣れて、普段の視界や聴覚を侵さなくなるまでにかかる時間は、個刃差があるという。
2018-10-15 14:13:39「ふ…。並の式神とは処理出来る情報量が違う、か。機械化されていれば集積できる量が桁外れになる。…、よく出来てはいるな」 細く息を吐きだす。 百を優に超える式との接続を順次行っている翻訳術式は、鶯丸の頭の中で常に更新を歌い続けている。少なくとも全ての接続が終わるまではこのままだろう。
2018-10-15 14:20:45鶴丸は既に立ち去って辺りは静けさを取り戻しているのに、鶯丸が感じているのは刃を鳴らす戦場の中のような騒がしさだった。 本来の式なら意識的に共有する時だけに起こる感覚共有が、偶発的に幾度となく起こる。…予測はしていたが凄まじい不快感だ。鶴丸は馬鹿なのだろう、と鶯丸はしみじみと思う。
2018-10-15 14:22:45ふいに。雑音に濁る世界に酷く真っ直ぐに透き通った気配が差し込まれた。 鶯丸の聴覚は大分おかしくなっているせいで足音こそ拾わないが、馴染んだ気配が迷いもなく近寄ってきて、傍らに立ったのは解った。 なんとなく検討をつけて見上げると、彼はざらついた視界の中、険しい表情で見下ろしてきた。
2018-10-15 15:08:17