抜粋)⑤『アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)第２版～マインドフルネスな変化のためのプロセスと実践～』星和書店 2014.9.9

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どれだけ常習化した中毒患者の瞳の奥にさえ、自分の人生の中で何か建設的なことを起こそうとする人間としての精神が必ずや息づいている。人生とは主体的に選択していくことに他ならない。(前掲書p.244)　画はLes Miserablesから。 pic.twitter.com/DwznddlVEo

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意見を求められた時のご参考に、以下に、ACTにおけるセラピー関係について引用します。(前掲書、第５章) ACTのそれはクライエント中心(client-centered)で、一つ前のつぶやきのように、徹底的に信頼する姿勢(posture of radical respect)です。

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あなたが人生の中で実際に築いている人間関係で、力強いものについて考えてみます。それは、いったいどんな関係だろうか？　 その関係において・・・(以下、「その人」を担当医に置き換えて読んで下さい。)

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その関係において、あなたは、モノ扱いや価値判断されているのだろうか？ それともありのままにアクセプトされているという深い手応えがあるだろうか？ 相手はいつも自分が正しいという姿勢で、あなたがいかに間違っているかを示そうとしているだろうか？

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それともあなたのアイデアや思考はオープンな関心とともにアクセプトされているだろうか？ その人は、物理的にも心理的にもあなたと一緒に「そこ」にいるだろうか？ それともその人だけの世界に閉じこもって接触できないでいるだろうか？

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その人は、あなたの目から見た世界を一緒に感じてくれていて、あなたには深く理解されている感じがするだろうか？ それともあなたの視点は無視され、理解されない感じがするだろうか？ その人から、あなたにとって最も大切な価値は認められ、支持されているだろうか？

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その人との関係性は、あなたが本当に大切にする何かからあなたを切り離しているように感じられるだろうか？その関係性は、大小さまざまな意味深い行為に満ちているか、それともお決まりのパターンの繰り返しや自動的な感じ、慢性的な停滞感、または絶え間ない衝動性などで特徴づけられているだろうか？

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セラピストがマインドレスに、回避的に、フュージョンして、心理的に非柔軟な仕方で反応したら、問題を生じさせる可能性が高い。結果として、クライエントに見捨てられ感や喪失感を味わわせてしまう。そのときセラピストがモデルとして示してしまっている振る舞いはACTでは禁忌とされるものである。

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こうした相互作用を通してクライエントは、非柔軟な振る舞いを学習してしまう。場合によっては、自分にとってのトリートメントが失敗するリスクを負ってでも、自分が持ち出した問題からセラピストを救出しなければとクライエントが動機づけられてしまう可能性すらある。

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仮にセッションの途中でセラピスト側が混乱してしまった場合を考えてみよう。セラピストが「とらわれる(hooked)」ような何かをクライエントが言って、セラピストがそれを字義通りに受け取り、また、自身のマインドが語る自己評価(例 : 「私はへまをしでかそうとしている」)も字義通りに

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受け取ってしまうと、結果的にそうしたセラピストの振る舞いはセッションの方向性と流れを逆転させてしまう。セラピストは、自分を有能なセラピストであるように見せようと、クライエントの前で演技をしている状態になってしまう。そうなってしまうと、もはや両者は同じ目線で土俵にいるとは言えない。

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とらわれることは誰もがする体験で、「クライエント」も「セラピスト」も例外はない。それは必ず起きる。問題は、その次にセラピストが何を起こすかなのである。もし、何かにとらわれたのならば、その時、セラピストは、しばらくの間黙って座り、自分自身がおこなっている価値判断を観察するとよい。

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心理的な柔軟性を実現する最善の方法は、専門家としてではなく、同じ人間として、それを具体的に振る舞ってみせることであり、それを体現した人間関係を築き上げることだといえる。よきセラピー関係はセッションの中に人中心のディメンション(humanizing dimension)をもたらす。

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↓ 訳注　「人を人として適切に扱う」ということ。

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選択や価値といった言葉を使うセラピストの多くが、クライエントのためになるとセラピスト自身が信じる結果へと向けて、クライエントを微妙に誘導している。家庭内暴力、慢性の酒浸りといったたぐいの社会的に受け入れられない行動をクライエントが行っている場合、そうした誘導は顕在化しやすい。

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社会的に容認されない行動を排除することがセラピストのゴールになっているのである。セラピストが「あなたが今回も飲みに出かけることを選ぶのなら、その結果についてもあなたは甘んじて引き受けるおつもりなのでしょうね」と言う時、「あなたの選択は間違っています。飲酒をやめる方を選ぶべきです」

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と言っているのと同じである。このような形でセラピストが「選択」という言葉を使うことで、クライエントの恥の感覚が引き出され、一時的にクライエントを節酒というゴールへと動かすかもしれない。しかし、そうしたクライエントの行動は、実態としては威圧的な社会的支配に従ったに過ぎず、

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自らの価値に基づいた「選択」として自然に発生したものではない。どのような理由であれ、クライエントを強制する目的で「選択」という言葉を用いることは、ACTで目指されるセラピー関係とは根本的に食い違っているといえる。

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セラピストは。自分があらかじめ持っている信念を重視するのではなく、むしろ、ウィリングにクライエントの実際の体験を当然のこととして重視する立ち位置に立つ必要がある。「潔白な」状態でトリートメント的相互作用に臨まなければならない。でなければ、両者の間は、不平等で不誠実な関係になる。

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ACTセラピストは、クライエントと言語を戦わせるマインド・ゲームをしたいわけではない。家に閉じこもるのを禁止する法など存在しない。むしろ、そこでの重要な問いは、閉じこもることがクライエントの人生のゴールと価値にとって最も役に立つかどうか、である。

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万が一、セラピスト自身が同意しがたいような人生の結果にクライエントが価値を置いているなら、セラピストはトリートメントから手を引き、どこか他のセラピストにクライエントをリファーすべきである。しかし、そうしたことは滅多に起こらないと思ってもらっていい。

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なぜなら、たとえクライエントによって初めに選ばれたゴールが受け入れ難く逸脱したものであったとしても、ほとんどの場合、それは真にクライエントによって選ばれたものではまったくもってないからである。ときにクライエントは「私はただ酔っぱらいたいだけだ」などと口では言うかもしれない。

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しかし、その言葉の持つ意味を深く吟味していくと、多くの場合、それは単に何らかの手段に過ぎず、最終目標などではなかったことが明らかになる。価値を提供するのはセラピストの役割ではないが、専門的科学的知識とスキルに基づいて価値と何らかの手段を選り分けること自体はセラピストの役割である。

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当初、価値の葛藤だと考えられていたものの９９％は、実は手段の葛藤でしかなかったことが判明する。 (『ACT第２版』星和書店2014 , 第５章「ACTにおけるセラピー関係」pp.221-45 )

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他者の痛みは拒否しながら自分自身の痛みだけを受け容れることは不可能である。私たちの意識の根底には直示的フレーミングがあるため、「今」は「そのとき」と不可分に関連しているし、「ここ」は「そこ」と関連している。

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今の世界を大切にしながら、子どもたちに残す未来の世界を大切にしないということはできない。また、私たち自身のコミュニティを大切にしながら、どこか遠くで苦しんでいる人々と心理的につながらずにいることもできない。

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人間の基本的なプロセスである心理的柔軟性には、多様性と向社会性を尊重することが含まれている。　性差別、人種差別、環境破壊、経済的・社会的不均衡、こうした問題はいつも人間のコミュニティを取り巻いていて、何かしらの微妙な仕方で、私たちと共に毎回のセッションの場に漂っている。

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クライエントの視点を通して世界を眺めようとするときには、多様性とコミュニティの問題に対するどれほど小さな配慮さえ、セラピーでの取り組みに影響する。

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前掲書、第５章では、最後に、セラピー関係が持つネガティブな力、ACT方略の間違った使い方へとつながる最も陥りやすいトラップを意識しておくべきだとして、４つ挙げています。

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ACTは単に知的なエクササイズではない。セラピーは言語的なコントロールによる非生産性を弱めようと試みられるけれども、クライエントとの知的なエクササイズとみなす方向へと変換されないように十分注意しなければならない。

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セラピストが言語的な内容を強調し過ぎると、言語的な説得に力を注ぐことになってしまい、正しいのはセラピストでありクライエントはこれまでずっと「わかっていなかった」のだ、との合意をクライエントに強要するような結果に陥ってしまう。

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すなわち、自分は、これまでは間違った対処法を採用してきたが、人生には、やはり「正しい」言語的な方程式というものが存在していたのだ、というクライエントの考えを強化してしまう。

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セラピストがACTを過度に知性化(overintellectualizing)しはじめると、セラピストの発言が必要以上に増加し、クライエントは相対的に受け身になり、そして言語的巻き込まれを打破できたはずのノンバーバルな体験的エクササイズが欠落するようになってしまう。

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過度の知性化を行っているセラピストは「クライエントと〇〇について【話し合いました】【考察しました】【話題に出しました】【示そうと努力しました】」とよく口にする。【】で示した言葉は、知性化が起きていることを示唆している。ACTを実践することは、何らかの概念を採用することではない。

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それは「今、ここ」でおこなわれる作業なのである。たしかに、ACTは言語という問題そのものに関わっていて、言語を用いている。しかし、それは、クライエントが直接的また体験的に関連している何かと接触するための手段に過ぎないのである。

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もしも、豊かな人生というものが知的な方法で容易にたどり着けるようなものであれば、クライエントは間違いなく人生をとうの昔に「正しく」理解し、豊かな人生を歩んでいただろう。

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しかし皮肉にも、ACTを知性化すること、そして次にそれをセラピーの中で理想化することは、こともあろうに、クライエントが機能的な感性を発達させるのを妨げる最大のプロセスなのである。セラピストがACTの論理的な前提を説明したり、威圧的に振る舞ったりするのは無益で非生産的である。

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ひとたび知性化がセラピーの中で本格的にはじまってしまうと、そのプロセスを修正するのは難しくなる。なぜなら、クライエントはしばしば、ACT的に「正しい」答えを口にすることで、セラピストを喜ばせようとする役割を演じるようになってしまうからである。

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そうする間に、クライエントの中の活き活きとした感覚やセラピーとのつながりは薄れていく。問題の見極め方としては、適切なACTは直面化でありながら思いやりがあるのに対して、知性化されたACTは非難がましくて嘲笑的な傾向にある。

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２つ目の問題。セラピストが非柔軟性をモデルとして示してしまうことがよくある。

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セラピストが、クライエントを、現実を生きるからこそついてくる正当で敬意を払うべき葛藤を抱えた一人の人間としてアクセプトできないのだとしたら、そのクライエントは、いったいどのようにして自らの葛藤をアクセプトし、前進すればよいのだろうか？

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そうしたセラピストは、ポジティブな出来事はアクセプトし、ネガティブな出来事は拒否するような振る舞いをクライエントに対し、モデルとして示してしまっている。こうした振る舞いは、まさにクライエントがこれまでずっと繰り返してきた振る舞いそのものだろう。

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クライエントの特定の思考や感情一式がどこから来たのかを、まるでそれを除去する方法を見つけ出そうとするかのように、クライエントに対し尋ねることは、ほぼ確実に問題を引き起こす。臨床の場で、「なぜ」の語を使うのは、ほとんど常に間違いだといえる。

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それは、クライエントが何らかの理由づけ(reason giving)や物語をはじめる呼び水となってしまい、クライエントとセラピストの双方を袋小路へと導く。

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より生産的な働きかけは、クライエントにとっての困難なテーマに関連して浮かんでくる内的な事象(その人個人の履歴についての思考も含めて)を記述するよう伝えることである。

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取り組むべき課題は、その人の人生自体を問題とみなし、「解決」することではなく、その人の人生の中に何があるのかを「眺める」ことなのである。

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クライエントの中に起きる何らかの恐怖、嫌悪、苛立ちの感情は、それ自体として悪いものではない。同様に、セラピストの中に起きるそうした感情も、それが語る文字通りのことを意味しているわけではない。

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この種の困難の存在は、伝えられたことを実行に移すことがクライエントにとってどれだけ大変であるかを、セラピスト自身がより適切に理解するための機会になるという意味で大切である。謙虚さを面接室へと取り入れることで、目線を同じ高さに置いたセラピー関係が育まれるのである。

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第３の問題。感情のプロセスに対する過度の焦点化。ACTへの誤解で多いのが「中心的ゴールはクライエントを自分自身の感情と接触させることである」というものだ。この種の誤解は、人は鬱積した感情と過去の欲求不満を解放するべきとの、広く信じられている文化的な信念と結びついている。