寺院社会の若年構成員である兒(稚児、侍童)について、主に中世寺院における位置付けなどのまとめです。Twitterモーメントより移行(2023/9/9)
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そういえばこの『山吹着たる童』の話、昨日山吹の挿頭花に添えた『山吹の花色衣ぬしや誰と問へども答へずくちなしの花にして』にもちょっと重なるんですよね。素性法師も山吹着たる童に名を訊ねて袖にされたのかな、とか。 twitter.com/sakana6634/sta…

2020-04-29 03:26:50
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古今著聞集 巻第五和歌・二一一 仁和寺の佐法印、山吹着たる童と和歌の唱和の事(1) 仁和寺の佐(すけ)の法印[成海法印の師なり]、わかくて醍醐の桜会見物のついでに、寺中巡礼しけるにや、山吹の衣きたる童二人、おなじすがたにて花見て侍りける、

2020-04-29 03:02:07
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アイコンの挿頭花を山吹に。舞楽『胡蝶』の装いです。 【山吹の花色衣ぬしや誰と問へども答へずくちなしの花にして】 (古今集/雑体/1012/素性法師) …山吹の花の色のような黄金の衣の主に、誰かと訊ねたが返事がない。梔子(口なし)の花だから。(※山吹色の衣は梔子で染めたので) pic.twitter.com/Z8z0cLXqXh

2020-04-27 23:38:25
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参考:宇治拾遺物語より、空寝の稚児

[巻一・一二]児のかいもちするに空寝したる事

【訳】
 これも今となっては昔の話だが、比叡山に稚児がいた。日が暮れて手持ち無沙汰になった僧達が、
「餅
(※焼き餅か、蕎麦掻きのようなものか)でも食おうか」
 と言いだしたので、稚児は期待に心弾ませた。しかし《子供は寝る時間なのに、出来上がるのを待っているのも物欲しげでみっともないな》とも思い、部屋の隅へ行って寝た振りをして、餅を待っていると、すぐに出て来て僧達が群がり騒がしくなった。
 稚児が《きっと呼んでくれるだろう》と待っていると、
「もしもし、お起きなされ」
 と声が掛かり、《やった!》とは思ったものの、《一回で返事をしたら待ち構えていたみたいだな。もう一回呼んでくれるまで待とう》と我慢して寝たふりを続けると、
「やあ、お起しすることはない、お小さい方は寝入ってしまわれたよ」
 という声が聞こえ、《うわあ、困ったぞ。頼むからもう一度起こして……》と念じつつ、耳を澄ませば、皆がむしゃむしゃと餅を食べる音が聞こえて来て、もう居た堪れなくなり、しばらくして
「……はーい!!」
 と返事をした。僧達は大笑いした。

【原文】
 これも今は昔、比叡(ひえ)の山に児(ちご)ありけり。僧たち宵(よひ)のつれづれに、「いざ掻餅(かいもちひ)せん」といひけるを、この児心寄せに聞きけり。「さりとて、し出(いだ)さんを待ちて寝ざらんもわろかりなん」と思ひて、片方(かたかた)に寄りて、寝たる由(よし)にて出(い)で来(く)るを待ちけるに、すでにし出(いだ)したるさまにて、ひしめき合ひたり。
 この児、「定めて驚かさんずらん」と待ちゐたるに、僧の、「物申し候(さぶら)はん。驚かせ給へ」といふを、うれしとは思へども、「ただ一度にいらへんも、待ちけるかともぞ思ふ」とて、「今一声(ひとこゑ)呼ばれていらん」と念じて寝たる程に、「や、な起し奉りそ。幼き人は寝入り給ひにけり」といふ声のしければ、あなわびしと思ひて、「今一度起せかし」と思ひ寝に聞けば、ひしひしとただ食ひに食ふ音のしければ、すべなくて、無期(むご)の後(のち)に、「えい」といらへたりければ、僧たち笑ふ事限りなし。

【原文底本:「新日本古典文学大系(42) 宇治拾遺物語 古本説話集」岩波書店】


参考:宇治拾遺物語より、桜を見て泣いた稚児

[巻一・一三]田舎児桜散みて泣事

【訳】
 これも今となっては昔の話だが、田舎から出て来て比叡山へ上った稚児がいた。桜が見事に咲き誇る時季に、風が激しく吹くのを見て、さめざめと泣き出したので、僧達が慌てて傍へ行き、
「なぜそうも泣かれるのでしょう、花が散るのを惜しくお思いですか。桜の花も儚いものですから、こんなに早く散ってしまいますが、そういうものなのですよ」
 と、慰めると、
「桜が散ることを無理にどうこうしようとは思いませぬ。こんなに風が強く吹いたら、里の父の作る麦の穂に実が入らないだろうと、それを考えるとつらいのです」
 そう言ってしゃくり上げ、泣き続けたのだった。傷ましいことである。

【原文】
 これも今は昔、田舎の児(ちご)比叡(ひえ)の山へ登りたりけるが、桜のめでたく咲きたりけるに、風のはげしく吹きけるを見て、この児さめざめと泣きけるを見て、僧のやはら寄りて、「などかうは泣かせ給ふぞ。この花の散るを惜(お)しう覚えさせ給ふか。桜ははかなきものにて、かく程なくうつろひ候(さぶら)ふなり。されどもさのみぞ候ふ」と慰めければ、「桜の散らんはあながちにいかがせん、苦しからず。我(わ)が父(てて)の作りたる麦の花散りて実(み)の入らざらん思ふがわびしき」といひて、さくりあげて、よよと泣きければ、うたてしやな。

【原文底本:「新日本古典文学大系(42) 宇治拾遺物語 古本説話集」岩波書店】


参考:稚児観音縁起絵巻詞書の紹介

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稚児物語の好きなところはオチが「実は観音の化身でした」だったりするところで、昔はそれが稚児が大事にされて崇められてたからだと思ってた(小さい人が尊重される構図が萌えなので)けど、結局稚児に観音のごとき慈悲を持てと説いてたりするの、よく考えるとすごい負荷かけてんなと思って…。

2022-07-02 00:50:09
逆名🌈🕊️🏳️‍🌈🏳️‍⚧️ @sakana6634

今はそういうのも全部ひっくるめて好きなんだけど、小さい子(や女性)が、生活面で大事にされるって、本当はどういうことなのかなっていうのは考えるようになったので、性奴隷ではなく鄭重な扱いを受けていたとしても、がっちり組織構造に組み込まれて逃げられない状況で→

2022-07-02 00:55:37
逆名🌈🕊️🏳️‍🌈🏳️‍⚧️ @sakana6634

→観音のごとき慈悲で師僧を受け入れろ、大衆の懸想も無下にするななどと教えられるのは、やっぱり現代人かである自分から見たら暴力だというワンクッションは置かなきゃならないと思う。調べて論ずるにせよ、萌えるにせよ、自分で何か表現に落とし込むにせよ。出力としては変わらないかもしれないが…

2022-07-02 01:00:22
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功罪含めて仏教文化が好きなんだよ。信仰まで辿り着けているかはわからないけど。

2022-07-02 01:04:17
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という、まだ単純に稚児に萌え萌えしてた頃に訳した稚児観音縁起絵巻詞書のページがまだ生きてたのでリンク貼っときます…。 isariya.michikusa.jp/text/chigokann…

2022-07-02 01:14:21

参考:秋の夜長物語の紹介

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フィクションですが『秋の夜長物語』という稚児物語があり、前略しますが聖護院門主(三井寺長吏も兼ねる)に庇護されてた左大臣家の令息である兒が三井寺のアイドルのようになっていて、それが叡山の僧との逢瀬の為出奔、道中で天狗に攫われ行方知れずになったものだから、父大臣と叡山が逆恨みされ

2018-04-21 02:19:28
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→京は三条の御殿を焼き討ち、更に叡山襲撃という事になって比叡の方でも報復に全山蜂起し、三井寺へ押し寄せて焼け野原にしてしまう…というロマンスと怪奇物と戦記物が一度に味わえるしっちゃかめっちゃかな筋立てです そんなに長くないのに…

2018-04-21 02:20:52
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現代語訳はちくま文庫の「お伽草子」で読めるので、ぜひ何とも言えない気分になってみてください

2018-04-21 02:23:24

参考:稚児の置き眉の例

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こちらを参考に童子の置き眉を描いてみました。 室町頃の寺院の兒(稚児)眉、天正頃の寺院の兒眉(蹇驢嘶余による)、享保頃の公家の童子の八の字眉(高倉流眉之圖による)、同図に併記された鬢副(びんぷく)を添えて。 twitter.com/sakana6634/sta… pic.twitter.com/Lvhu8kbxIr

2018-08-18 22:49:23
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稚児の眉もこうだったらしい。げに史実とはかくも無情なり。  ちなみに絵の出典「稚児観音縁起絵巻」からですが、拙宅で詞書を現代語訳してますのでよろしければ。(※醍醐寺秘蔵のとは別物です)isariya.michikusa.jp/text/chigokann… pic.twitter.com/9Yvgmnlza3

2013-05-16 02:03:48
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参考:北(喜多)院御室「右記」より『お肉食べたらお勤めは一日お休みしなさい』の話(メモ)

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先日稚児の日々の暮らしが云々と呟いてから、北院御室「右記」の稚児に向けて訓示を並べた部分を訳してたんだけど『鳥魚を食べたらその日のお勤めは休みなさい、肉五辛は匂いが甚だしいので仏菩薩や経典のある寺院内では控えなさい、療養の為に肉を食べるなら寺院の外に移りなさい』等とあった。

2019-03-04 22:14:55
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肉や五辛(大蒜、韮、葱、辣韮、野蒜)の、臭いも清浄な寺院には相応しくないと思われていたようだ。その後『最近古株の僧でも兒を甘やかしていると聞くが…』とお怒りのご様子だったので、建前としては戒められていても、結構あったのだろうな…。

2019-03-04 22:23:01
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右記原文(読み下し)「…兒童の鳥魚を食して以後、日の所作を勤むべからず。凡そ肉食等所用の時は、外に居るべきものかな。諸院家禪坊は、皆清淨聖跡なり。然るに酒肉五辛等、法服の間には無し。更に之の條憚り無きは、放埒飽漸の振舞なり。但し酒の一種に於いては、禁止すべからず。→

2021-01-28 02:06:06
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→大師既に病の為に、比丘へ之を免(ゆる)し給畢(たびおはん)ぬ。上古尚以て此の如し、末代何か之を放(ゆる)さざるや。五辛肉の類に於いては、此の式を堅守す。後侶も廢すこと勿かれ。肉五辛等、其の薰臭甚だ熾盛なり。佛菩薩并びに教經[イ經教]在る所の院内寺中にて、爭(いか)で彼の臭香五辛に觸れるは

2021-01-28 02:06:51
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→禪徒が病中に自服の事とて、當世見聞せし所なり。左樣の時節は、寺院の外屋を點じ、其にて療服有るべし。今當所の風儀を窺ひ聽くに、然るべき院家老[イ古]上耆年の中にて、此の禁制を破るの由、近年漏歌の説なり。」

2021-01-28 02:06:52

やや蛇足

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男色史については過去に、歴史というよりは民俗学的なアプローチでの取り組みがあって、稚児灌頂についても掘り起こされ、その特異性でかなり取り沙汰されることになって、その影響で、本来は秘儀中の秘儀であったものが現在は逆にそこだけにアクセスしやすくなってしまっているんだよね

2021-01-22 02:08:40
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却って、仏教や寺そのものが遠く、まして歴史上の寺院社会のことは分かりにくくなっていて、専門書か史料を直接あたるかしかない。やわらかい読み物には『坊主の変態性欲の証としての稚児灌頂』だけが使われる。だから稚児灌頂!稚児灌頂!ってそれだけをやたらと振り回す人も多いんだよね…。

2021-01-22 02:13:30
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「日本男色史」と銘打った読み物も散発的に出版されますが、大体武家の男色がメインで、そうなると武家は精神性が高くて坊主は変態みたいな扱いを、絶対古代中世寺院の知識まるでないだろうっていう人が雑にちょろっと書き捨ててるだけみたいなのが本当に多くてですね…。

2022-07-01 18:51:40
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日本男色史だけじゃなく、性愛の歴史をさわったことのある人ならお解りでしょうが、特に昭和の関連本(筆者殆ど男性)はエログロネタの色合いが濃いんですよね。ジェンダー視点で読み解かれるようになる前はそうでした。そして今もエログロネタとして興味を持つことが寛容さだと勘違いした人も存在してる

2022-07-01 18:57:52
逆名🌈🕊️🏳️‍🌈🏳️‍⚧️ @sakana6634

(エログロネタが悪いとは思わないけど、ひとつのトピックがその固定した視点でしか語られず、しかもそれが大衆に蔓延してしまうのはつらい。一度広まっちゃったら更新されないし)

2022-07-01 19:00:19
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なのでまず批判するにせよ娯楽消費するにせよ出来れば複数の視点で見て頂けたらと思います。いや、もうここらで止めないとキリが無いので無理にでもオチをつける。

2022-07-01 19:05:29
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まとめたひと
逆名🌈🕊️🏳️‍🌈🏳️‍⚧️ @sakana6634

無駄とムラの腐渣。調べ物と落描きが趣味の考証厨歴ヲタ。人物志より文化史寄り。時代装束、童子みづら、法衣袈裟が好物。アジアや他地域の文化も好き◆右寄りに非ず◆無断での転載・まとめお断り◆長めの自己紹介を御一読頂けましたら幸いです→ http://twpf.jp/sakana6634 絵置き場(※腐/二次創作):@funa6634