秋も深まる夜会の日の昼下がり、ベアンハートの使いで街に出たアンジェロはカラスに襲われ恐怖で動けなくなっていた真っ黒な仔猫を保護する。 このまま街に逃がしても他の生き物に襲われかねないと踏んだアンジェロは、ベアンハートに内緒で仔猫を連れ帰り、オスカーと名付けて育てることに。 しかしその晩は夜会で家を空けねばならず…
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

実はベアンハートは「過去の仕事の都合上」猫との暮らしは慣れたもので、猫に対して好感を持っておりオスカーに対する抵抗感は皆無だったのだ。 「寒かったろう、今からうまいものを食わせてやるからな」 早くも腕の中でゴロゴロと喉を鳴らす人懐っこいオスカーを抱いてベアンハートは居間に戻った。

2021-11-28 16:47:44
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

ベアンハートは台所に向かうと水で戻した干した鶏肉とタラ、押し麦を鍋に入れ、そこにミルクを注ぎ火にかけた。 とろみがついてきたところで火から下ろして薄い皿に盛り、冷ませば猫用の食事の完成だ。 「ほら、できたぞ」 ベアンハートが皿をオスカーの足元に置くとオスカーは恐る恐る口をつけた。

2021-11-28 16:49:44
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「みゅーん!」 どうやらよほど美味だったのか最初の一口のあとはがっつくようにして食事を平らげるオスカー。 餌皿の横においた小鉢の水をがぶ飲みしているところを見ると、どうやら喉も乾いていたのだろう。 乾燥する季節なのでなおさらだとベアンハートは思った。

2021-11-28 16:50:07
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オスカーが食事をしている間、ベアンハートは大きめの空の木箱に鍛冶場の外に盛ってある消火用の砂を敷き詰めゴミ拾い用の火ばさみでアンジェロの部屋のチェストに残されたオスカーの汚物を入れると砂を被せた。これでトイレの完成だ。 オスカーは自分の汚物の臭いでトイレを識別できるという訳だ。

2021-11-28 22:35:34
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トイレを持って帰って来た頃には食事を終えたオスカーが毛づくろいをしていたのでそのまま抱き上げて部屋の隅に設置したトイレにオスカーを入れる。 「今日からここが便所だぞ」 ベアンハートの言葉を知ってか知らずかオスカーは砂を掻き始め、早速用を足した。 「お利口さんだな」 とベアンハート。

2021-11-28 22:36:15
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どうやら鈍そうな見た目と違い賢いらしいオスカーを見て、ベアンハートは少し安堵した。 あとは使い古した毛布をもう一つ空の木箱に敷き詰めてやれば寝床の完成だ。 暖炉から少し離した位置に寝床を設置してやると、思ったとおりオスカーは箱に入ると丸くなった。 目論見は成功したようだ。

2021-11-28 22:36:50
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これもなにかの縁だろうと、ベアンハートは既に心の中でオスカーを受け入れることに決めていた。 明日の朝オスカーに食べさせるために干し肉とタラの塩漬けを水に漬けるとベアンハートは暖炉の赤々と燃える火と、その横で静かに眠る「新しい家族」を眺めながら椅子の上で静かに目を閉じた。

2021-11-28 22:37:37
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【Ⅵ】 「今日は随分早えじゃねぇか。 ま、来月も面ァ見せろや。聖夜祭の集まりもあるしよ」 朝食が終わるとすぐに「街場の」服に着替え、帰り支度を始めたアンジェロにエリックは声をかけた。 「ありがとうございます、もちろん参加させていただきます。 今日は野暮用がありますので私はこれで…」

2021-11-28 22:46:03
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すわ町娘とデートでも?と思いエリックは口元を釣り上げながら、 「これェ持ってけや、なんかの足しにゃあなンだろ」 手の平に収まるほどの小さな袋をアンジェロに手渡した。 中には金貨5枚が入っている。 大体5000キフカ程だ。 「こんなに…ありがとうございます!」 深々と頭を垂れるアンジェロ。

2021-11-28 22:54:41
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「何にしても体に気ィつけてよろしくやれ。 何かあったらいつでも言ってこいや」 伯父の温かい言葉にアンジェロはもう一度深々と頭を下げると荷物を担いで城門へと急いだ。 「お早う御座います、殿下。 今朝はまた随分とお早い出立で…」 タキシードに身を包んだチェーザレが馬車の前で待っていた。

2021-11-28 22:55:46
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「悪ぃチェーザレ、仕事始まっちまうから飛ばしてくれ!」 急いで馬車に乗り込むと、アンジェロは運転席のチェーザレを急かす。 「ほ、本日はお休みを頂いていないので?」 「いいから早く出せってんだよ、急げ!」 有無を言わさぬアンジェロの勢いに押され、チェーザレは戸惑いつつ鞭を振るった。

2021-12-02 00:59:01
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休日の朝ということもあり交通量はさほど多くなかったのでチェーザレが飛ばした馬車はあっという間に王宮を離れ山道まで辿り着いた。 「王子、到着で御座います」 「サンキュー!お前も王宮まで気をつけて帰れよ!」 振り向きもしないで山道を駆けていくアンジェロの背を眺めチェーザレは首を傾げた。

2021-12-02 01:00:01
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チェーザレの言うとおり今日は休みをもらっていたのだが、オスカーのことが気がかりだったアンジェロは結局一睡もできなかったのだ。 ルディガー親子からもらった粉ガツオの袋を握りしめ、アンジェロは岩を飛び越え木を掻い潜って一足飛びで山道を登っていく。 やがて眼前に鍛冶場の煙突が見えてきた。

2021-12-02 01:00:38
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「ただいまぁーーーーっ!!」 ベアンハートの家のドアを開けた瞬間、アンジェロは叫んだ。 「ただいま」の「ま」と驚きの「あっ!」の声が出たのは同時だった。 「おお、随分早かったな」 事も無げに言い放つベアンハートの足元に動く小さな黒いものが見える。 …アンジェロの不安の種がそこにいた。 pic.twitter.com/MvNUZghxjQ

2021-12-02 01:02:08
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「悪いがあんまりこいつがみゅーみゅー鳴くもんだから勝手に部屋に入らせてもらったぞ」 腕組みして低い声で言うベアンハートにアンジェロの寝起きの心臓がドクンと跳ね上がる。 「も、申し訳ありません…こいつについてお話したくて早く帰ってきたんですが…」 アンジェロは気まずそうに目を伏せた。

2021-12-02 01:02:50
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ここまで来たら隠し立てもなにもない。アンジェロはこれまでの経緯を洗いざらい全てベアンハートに白状した。 オスカーがカラスに襲われていたこと、放っておけば食われてしまいかねないこと、グルニールの店で処置してもらったこと等々… それを聞いてベアンハートは深い溜息をついた。

2021-12-02 14:55:16
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「どうして最初に俺に一言言わなかったんだ」 怒ると言うよりも呆れたようにベアンハートは言った。 「それは…居候の身でいきなりわがままを言うことはできないから…」 心底申し訳無さそうに肩を落とすアンジェロ。 もう一度ベアンハートが溜息を吐く。

2021-12-02 14:56:04
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「アンジー、うちは確かに小さな店構えだが、猫の子一匹増えたくらいで生活が傾くようなボロい商売はしていないぞ」 ベアンハートの意外な言葉でアンジェロは顔を上げた。 「それに俺は今お前の伯父さんからお前の身を預かってる。 当然お前の行動の責任は俺にもある、一人で抱え込むな」

2021-12-02 14:56:38
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「あの親方、それじゃ…」 アンジェロは居を正しベアンハートの目を見つめた。 「お手数をおかけしますが、どうか一緒にこいつも鍛冶場に置いてください。 もちろん面倒はきちんと俺が見ます、ですからどうか…」 深々と頭を垂れるアンジェロを見て、 「ならこのチビクロに名前をつけてやらんとな」

2021-12-02 14:57:21
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ベアンハートの一言で、アンジェロは飛び上がらんばかりに喜んだ。 「やったなオスカー!今日からここで暮らせるぞ!」 オスカーをギュッと抱きしめ頬擦りするアンジェロ。 オスカーもみゅん!と短く鳴いた。 「なんだ、もう名前はあるのか」 ベアンハートは目を丸くしてアンジェロに問うた。

2021-12-02 14:58:11
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「ああ、こないだ勉強した特区の言葉、Oscuro…闇から取ってオスカーなんだ。ちょっとハクがついたろ?」 得意げにベアンハートにオスカーを見せながらアンジェロは言った。 「まあ、名は体を表すと言うし、少しくらい勇ましい名前のほうがいいんだろうな、オスの場合は」 頷くベアンハート。

2021-12-02 15:00:02
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「だがアンジー、一つ約束しろ。オスカーを絶対に鍛冶場には入れるなよ。 鍛冶場は火を扱う炉もあるし武器なんかの危ないものもある。 売り物に粗相されちゃあたまらんしな」 ベアンハートに言われ、アンジェロは大きく頷いた。 「わかった、そこはしっかりやるよ」 言ってオスカーの目を覗き込む。

2021-12-02 15:00:44
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「さて、俺はそろそろ鍛冶場に行く。お前は今日は休みだって話だったからオスカーの面倒でも見ててくれ、まだ完全に家に慣れてもいないだろうからお前がついていてやったほうがいいだろう」 ベアンハートが言うのへ、 「俺も…」と言いかけたアンジェロであったが確かにオスカーが心配だ。

2021-12-02 15:01:23
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「わかった、昼には上がってくるんだろ。メシでも作って待ってるよ」 「そりゃぁいい、じゃあ、よろしく頼むぞ」 アンジェロの提案に答えると、ベアンハートはもう一度オスカーの方を振り返り、小さく笑うと朝の勤めのために鍛冶場に向かった。

2021-12-02 15:03:13
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【Ⅶ】 それはほんの少し目を離した隙の出来事だった。 「おーい、オスカー!どこいったー?」 先程まで暖炉の横のベッドで眠っていたオスカーの姿が見えないのだ。 棚の裏やテーブルの下、チェストの中にもいない。 アンジェロは眉毛をハの字にして部屋中を探し回ったがオスカーの姿は見えない。

2021-12-03 15:24:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

やがてアンジェロはあることに気がついた。 閉じていたはずの出窓が少しだけ開いていたのだ。 まさか外に逃げ出したのでは…そう思った瞬間、嫌な予感がアンジェロの頭の中を猛スピードで駆け巡る。 山にはカラスなど比べ物にならない危険な生き物がたくさんいるのだ。

2021-12-03 15:26:35
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鷲や鷹などの猛禽類はもちろんのこと、狼や中には子猫など丸呑みにしてしまえるほど大きな蛇もいる。 「オスカー!」 アンジェロはオスカーの名を叫びながら慌てて家を飛び出した。 鍛冶場の前、井戸の横と見回り、最後に鍛冶屋の門構えの前まで来たその時… 「あっ!」 アンジェロは短く叫んだ。

2021-12-03 15:29:06
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「まぁ、かわいい猫ちゃんね。ここで飼われてるの?」 看板前でオスカーは若い女性に抱かれ、「みゅ〜ん!」と甘えた声を出している。 「こんなところに鍛冶屋があるんだなあ…。武具、金物販売、調理器具のお直し承ります、か…」 女性の隣にいた若い男が呟く。 見たところどうやら若い夫婦のようだ。

2021-12-03 15:32:31
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「あら?」 慌てて飛び出してきたアンジェロに気がついたようで女性が声を上げた。と、「みゅーん!」と一鳴きしてオスカーは女性の腕から飛び出してアンジェロの元に寄ってきた。 「馬鹿、どこいってたんだよ!」 安堵半分、怒り半分、オスカーを抱き上げるアンジェロ。

2021-12-03 15:34:47
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と、 「すみません、こちらのお店の方ですか?」 若い男がアンジェロに語りかけてきた。 「あ、はい。そうですが…」 アンジェロが答えると男と女性はまってましたとばかりに顔を見合わせた。 「私達、最近ふもとの村に越してきたんです。でもまだ家財道具が揃っていなくて…」 女性が困り顔で言う。

2021-12-03 15:37:47
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「もしよろしければお店のお品物を見せていただけますか? 鍋釜なんかの調理器具がちょうど欲しかったもので…」 若い男が続ける。なんと間の良いことか。 「わかりました、鍛冶場はこちらになります。どうぞ」 オスカーを抱きかかえたままアンジェロは鍛冶場へ若夫婦を招き入れた。

2021-12-03 15:40:31
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「いらっしゃい!…なるほど、そりゃぁ難儀するね、うちは武具を買うお客が多いが鍋釜にも自信があるんだ。どうぞ見ていってくれ」 厳つい顔をほころばせながらベアンハートは棚に並べられた調理器具の元に夫婦を案内した。 その後の夫婦の楽しそうなことと言ったら見ている二人が恥ずかしくなる程だ。

2021-12-03 15:48:24
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「ねえあなた、このスキレット、とってもいいわ。分厚くてしっかりしてるのに軽くて持ちやすいのよ」 「こっちの鍋もいいね、これなら子供が生まれても家族分のシチューが一度に作れるよ」 嬉しそうに調理器具を物色する夫婦は目当ての品を次々と取り分けていった。

2021-12-03 15:50:27
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

やがて山と積まれた調理器具をベアンハートの前に持ってきた若夫婦。 どうやら調理器具と呼べるものは全てここで揃えて行くつもりらしい。 「ええと、スキレット、フライパン、手鍋、シチュー鍋、包丁3点セットか。〆て1200キフカでどうだ?」 ベアンハートが言うと若夫婦は顔を見合わせた。

2021-12-04 13:25:47
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「え、そんな値段でいいんですか?!」 「倍値はすると思ってたよ!」 若夫婦が声を揃える。 「あんたら、多分都会から出てきたんだろう。 うちは田舎の鍛冶屋だし武器屋が本分だ。 鍋釜買ってくお客は寂しいことだが滅多にいないから、お安くしとくよ」 ベアンハートは気前よく笑って言った。

2021-12-04 13:27:26
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「ありがとうございました、もしよろしければ今後ともぜひお世話に…」 男が頭を下げるのへ、 「ああ、こちらこそ毎度ありがとうさん。そうだ、もし荷物が重いようならそこに置いてある荷車に乗せていくといい、後日返しに来てくれればいいから」 ベアンハートは家の脇に停めてあった荷車を指した。

2021-12-04 13:28:44
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その後代金を払った若夫婦は何度もベアンハートに頭を下げて荷車を引いて山を下っていった。 「…まさかオスカーに釣られてこんな上客がくるなんてな…」 普段アンジェロは武具を買い求める強面の屈強な戦士か壊れた調理器具を無料で直しに来る村人くらいしか見ていない。 此度の事は驚きの出来事だ。

2021-12-04 13:30:10
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

当のオスカーはといえば、窓際でうとうしている。 「鍋釜も武具も丹精込めてる事に変わりはないから、売れると嬉しいもんだな」 ベアンハートは上機嫌に言うと再び鍛冶場へ戻って行った。 と、 「みゅん!」 不意にオスカーが目を丸くして飛び起き、窓の隙間に体を滑り込ませて再び駆け出す。

2021-12-08 01:12:33
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「おい待てオスカー、どこ行くんだよ!」 今度こそ獣に襲われやしないかとアンジェロは急いでオスカーを追いかける。 すると、 「御免下さいまし」 品のいい女性の声が看板の方から聞こえてきた。 「あっ…」 思わず声を上げるアンジェロ。 聞き覚えがあったのだ、その品のある低めの女性の声に。

2021-12-08 01:13:25
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

と同時に、 「わ、にゃんこだ!」 「ぷむー!」 聞き慣れた2つの声が続く。 アンジェロはすぐさま看板前まで走った。 「あらアンジー、こんにちは」 「いらっしゃい、アンナさん」 先の夜会の夜に出会った女狩人の姿がそこにあった。 そして、 「にゃんこふわふわだー、目もまんまる!かわいいな!」

2021-12-08 01:14:04
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アンジェロに目もくれずにオスカーを抱いて頬摺りするリュウ。 そのリュウの傍らで、 「ぶーぶー!」 ヤキモチ焼きのパチコが不満げに鳴いている。 それをアンナの隣で見つめる狼・ビリーも一緒だ。 「おいリュウ!」 アンジェロに声をかけられて、ようやくリュウはアンジェロの方を振り返った。

2021-12-08 01:14:54
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あ、アンジー。なあ、このにゃんこどうしたん?アンジーんとこの子?」 オスカーを抱いたまま興奮気味に捲し立てるリュウ。 「ああ、こいつは昨日からうちで面倒見てんだよ。オスカーってんだ」 リュウが抱いているオスカーの頭を撫でながらアンジェロが言った。

2021-12-08 01:15:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「へー!おすかーっていうのか、よろしくな!」 オスカーをギュッと抱きしめリュウが言うと、みゅーんとオスカーも鳴き声で返した。 「そうだ、そういえば今日はみんな揃ってどうしたんだ?こんなとこにアンナさんまで訪ねてくるなんて」 アンジェロの問いにアンナが頷く。

2021-12-08 01:15:56
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「リュウちゃんから聞いたの、こちらで武具を扱ってるって。 だから冬に備えて矢の補填をしようと思ってお邪魔したのよ。 こちらに弓矢は置いているかしら?」 アンナが言うとアンジェロは掌を打って、 「もちろんさ!付いてきてよ、親方が品物見せてくれるから」 アンジェロは一行を招き入れた。

2021-12-08 01:16:37
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「おっちゃーん!」 鍛冶場で作業していたベアンハートへリュウが手を振ると、 「おお、仔山羊のお嬢ちゃん。と…」 ベアンハートはリュウの後ろに控える大柄だが品の良い淑女へ目をやった。 「お連れさんはお嬢ちゃんがお世話になってるっていうおかみさんかい?」 「そうだよ、えっと…」

2021-12-08 01:17:13
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すると淑女はリュウの隣に並び、ベアンハートに会釈をした。 「紅の森から参りました、狩人のアンナと申します。 いつもうちのリュウちゃんがお世話になっているようで…。 今日はこちらで武具を扱ってると伺いまして、冬の狩りのための矢を新調しに来ましたの。 こちらで弓矢はお取り扱いかしら?」

2021-12-08 01:18:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ええ、もちろん。 当店の矢は鉄の矢尻の矢になりますが…」 山暮らしの野手あふれる出で立ちとは正反対の穏やかで上品な物腰のアンナに思わずベアンハートも畏まってしまう。 ベアンハートは鍛冶場の奥の武器ラックから何種類かの矢を持ってきた。 「奥さん、弓を見せてもらえるかい?」

2021-12-08 01:18:41
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

ベアンハートが言うのへ、アンナは肩から掛けていた大弓を下ろすとベアンハートに手渡した。 …それを構え弓を引き、弦の張りを確かめるベアンハート。 「…驚いたな、こんな強弓を引ける女性は武装船団(ヴァイキング)の女戦士でもそうそういないよ」 真剣な目で弓を見つめベアンハートが言う。 pic.twitter.com/RuoSY5CQo9

2021-12-08 01:19:34
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「そこらで売ってる矢じゃ撃ったときに壊れてしまうでしょう、ほぼ使い捨てになるんじゃないですかい?」 ベアンハートが問うと、アンナは少し恥じ入るように頷いた。 「ええ…、この弓は元は亡くなった主人が使っていたものですの。 仰る通り、矢は壊れてほぼ使い捨てになってしまいますわ」

2021-12-08 01:20:43
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「だってアンナさんすごいんだよ、矢一本でクマを仕留めちゃうって!」 リュウが鼻息荒く言う。 「ビリーなんか一人でシカやっつけちゃうもんな!」 隣に大人しく控えたビリーに抱きついてリュウが言うと、ビリーは人懐っこく尻尾を振った。 褒められたのがわかって嬉しいらしい。

2021-12-09 00:04:42