第8章、プレゼンティーイズムへの対応策 体調不良時の出勤を減らすための対策とプレゼンティーイズムによる生産性低下への対策に加えて、慢性疾患がコントロールされていて体調不良がない労働者が出勤して働けるためのポジティブな対策についても検討する必要がある。
2019-06-25 21:38:211.体調不良時の出勤を減らす対策 (1)休みやすい制度 米国で呼吸器系または胃腸系の感染症が1年間に2回以上蔓延した57か所の老人ホーム(ケース)と629か所の老人ホームから無作為に選ばれた114か所の老人ホーム(コホート)を対象として、ケースコホートデザインを用い、感染症が蔓延した原因を調査した。
2019-06-25 21:44:59ベッド数、スタッフ1人当たりの収容者数、個室の割合、公的施設かそれ以外の施設か、スタッフの有給病気休暇制度の有無、検査結果の毎日チェックの有無などを考慮した多変量解析の結果、有給病気休暇制度を有する施設の感染症蔓延の発生率が有意に少なかった。 (p.90)
2019-06-25 21:53:00米国の職場で、全従業員に対して有給の病気休暇制度がある場合、インフルエンザの時に1日追加して有給で休める場合、2日追加して有給で休める場合について、職場でのインフルエンザ感染がどの位減るかについて推計した結果、減少率はそれぞれ6%、25%、39%であった。
2019-06-26 19:11:22このような結果は病気休暇制度があると休みやすいためにもたらされたと考えられるため、📌有給の病気休暇制度をつくることが重要と考えられた。 (p.91) (2)代替要員の確保 欠勤した後で出勤した時に自分がすることになっていた業務が残っていて、それをやらざるを得ないような人では体調不良でも
2019-06-26 19:17:21出勤することが示されている。また、体調が悪い状態でも出勤する理由として最も多かったのは、休んだ時に代わりにやってくれる人がいないという理由であった。従って、📌休んだ時の業務を行ってくれる代替要員を確保することが体調不良時の出勤を減らすことにつながると考えられた。
2019-06-26 19:22:44(3)安定した雇用形態 📌非正規労働者は正規労働者に比べて体調不良でも出勤する割合が高いことが示されている。(→5) 正規労働者でも失業する恐れがあると感じている労働者はプレゼンティーイズムの状態になる人が多いという研究がある。(→6) 雇用が不安定なために、欠勤が多いと契約更新がされない pic.twitter.com/fgLZhjv05W
2019-06-26 19:35:11あるいは解雇されるのではないかという恐れを抱いているためと考えられる。従って、安定した雇用形態のもとで就業することができれば、体調不良時の出勤が減ると考えられた。 (4)適切なマネジメント カナダで237人を対象として、プレゼンティーイズムと上司のサポートとの関係についての断面研究が
2019-06-26 19:41:15上司のサポートはプレゼンティーイズムと負の相関関係を示し、サポートのある群でプレゼンティーイズムが小さいことが示された。この結果から、適切なマネジメントが行われることによって、体調不良時の出勤が減ることが予想された。 2.生産性低下対策 (1)職域ヘルスプロモーション 2000年代に入ると、
2019-06-28 19:21:31米国で以下のような理由から職域ヘルスプロモーションとプレゼンティーイズムとの関係が検討されるようになった。 ﹅今後益々中高年労働者の増加が予想されること ﹅プレゼンティーイズムによる生産性損失の大きさが企業に認識されるようになったこと ﹅製薬企業がプレゼンティーイズムの改善に関心を
2019-06-28 19:28:26抱くようになったこと ﹅職域ヘルスプロモーションの評価が行われるようになったこと このような状況の中で、職域でのヘルスプロモーション活動がプレゼンティーイズムによる生産性低下を改善するためにどのようなことをすべきかについて、以下のような提言がなされている。
2019-06-28 19:33:18﹅ヘルスリスクアセスメント(health risk assessment : HRA)を行う際にプレゼンティーイズムに関する質問を加える ﹅各人にHRAで指摘された慢性疾患に対するセルフケアガイドを配る ﹅HARで得られたプレゼンティーイズム関連のデータを介入プログラムの企画に用いる
2019-06-28 19:39:53﹅健康に関する研修の際にプレゼンティーイズム対策を加える ﹅プレゼンティーイズム対策に関する企業の文化的規範を確立する ﹅プログラム評価の際にプレゼンティーイズム測定用具を用いて生産性を測定する 2010年までに発表された論文のシステマティックレビューによると、評価方法に関して下記の
2019-06-28 20:08:06諸点を満たさない論文が多いことが指摘されている。 📌選択バイアス : 目的集団の80%以上の参加率があること 📌研究デザイン : 無作為化比較試験(randomized controlled trial : RCT)を用いていること 📌交絡 : 80%以上の交絡要因が整備されていること
2019-06-28 20:14:02📌ブラインディング : 評価者及び対象者が研究の目的を知らされていないこと 📌データ収集方法 : データ測定用具に妥当性と信頼性があること 📌ドロップアウト : 対象者の追跡率が80%以上あること
2019-06-28 20:18:15特にデータ収集方法に関して、妥当性と信頼性が確保されているプレゼンティーイズム測定用具を用いていない研究が多かったことから、この点に関する注意が必要であるとしている。 (p.93)
2019-06-28 20:21:01(2)適切なマネジメント 適切なマネジメントによってプレゼンティーイズムによる生産性損失の低下がもたらされたという介入研究は少なく、多くは断面研究である。そのため因果関係については断定できないが、適切なマネジメントによりプレゼンティーイズムによる生産性損失の低下がもたらされる可能性が
2019-06-28 20:27:47ある。 (3)薬物療法 アレルギー、うつ病、片頭痛、気管支喘息、インフルエンザに対する薬物療法については、生産性低下効果が認められた。 3.病気でも働ける対策 労働者を雇用する事業所側に、労働者を受け入れる制度・体制が求められる。さらに病気で長期休業した労働者がスムーズに復帰できるための
2019-06-28 20:34:56制度・体制も必要になる。わが国では、2016年に厚生労働省から「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が出された。 第9章、疾患ごとのプレゼンティーイズム対策 プレゼンティーイズム対策としては、疾患を有しながらも勤務できるようにする対策と、介入プログラムによって
2019-06-28 20:39:37プレゼンティーイズムによる生産性損失の減少を図る対策がある。 2.うつ病 (1)クリニックで行う介入 米国でうつ病と診断された326人の社員を対象とした介入プログラムの効果についてRCTを用いて検討された。対象者は介入を実施する6つのクリニックと介入を実施しないクリニックに無作為に割り付け
2019-06-30 17:13:15られた。介入プログラムはまず訓練を受けた医師とケアマネジャーが患者に電話あるいは直接面談して治療開始と治療継続の必要性を説明した。ケアマネジャーは患者の症状に応じて毎月あるいは3か月ごとに患者に10~15分間の指導を2年間行った。生産性は6、12、18、24月にそれぞれの過去2週間について、
2019-06-30 17:23:55患者が0(全く達成できなかった)から10(最高に達成できた)で判定した。介入群は対照群に比べて、生産性が6.1%多かった。 (2)電話での認知行動療法 米国でうつ病と診断された380人の社員を対象とし、電話を用いて業務に焦点を合わせた認知行動療法を主体とした介入プログラムの効果についてRCTを用いて
2019-06-30 17:32:40検討された。介入プログラムでは修士レベルのカウンセラーが2週間毎に50分間の電話によるカウンセリングを4か月行った。対照群は内科医、精神科医、保健行動専門家、EAP(Employee Assistant Program : 従業員支援プログラム)などに連絡するように勧められたが、直接的な介入は受けなかった。
2019-06-30 17:44:37WLQを用いて測定した生産性損失の改善率は対照群では13%であったが、介入群では44%で有意差が見られた。 9.がん オランダで乳がんと女性性器がんの患者123人を対象としてRCTにより介入の効果が調べられた。介入内容は患者教育、病院での支援、主治医と産業医とのコミュニケーションの改善、
2019-06-30 17:56:13具体的な復職プランを作成するための産業医主催の患者と上司との打ち合わせとした。評価指標は12か月後の復帰率、復帰までの期間、作業能力、生産性損失とした。復帰率は介入群86%、対照群83%で差がなかった。復帰までの平均日数も194日と192日で差がなかった。作業能力、生産性損失にも差がなかった。
2019-06-30 18:02:08介入の効果がなかったことから、効果的な介入プログラムに関する研究の必要性が示された。 カナダでがんに罹患した労働者に対する会社の支援について人事部に所属する社員に対してアンケート調査が実施された。支援内容は📌医療機関受診時間に対して賃金を支払うこと、職場復帰に関する会議への参加
2019-06-30 18:06:56要請、勤務時間削減であった。公共機関は私企業よりも5倍多く支援をしており、大企業は中小企業よりも7倍多く支援をしていた。会社の支援とプレゼンティーイズムとの関係については直接的には検討されていないが、このような支援によりがんに罹患した労働者が勤務しやすくなることが期待される。
2019-06-30 18:11:55がん患者で失業している労働者1573人に対して米国州政府が行う各種の職業訓練の効果が調べられた。対象者の57%が就職に成功したが、43%は就職できなかった。女性、教育レベルの低い者、生活保護を受けている者は就職しにくかった。就職に役立ったと考えられる職業訓練の内容はカウンセリング、各種の
2019-06-30 18:16:52トレーニング、技術的なサービス、就職先探しの支援などであった。この研究でも職業訓練とプレゼンティーイズムとの関係については直接的には検討されていないが、このような支援によりがんに罹患して失業している労働者の再就職に役立つことが期待される。(p.104)
2019-06-30 18:20:30第10章、プレゼンティーイズム研究の課題 プレゼンティーイズムに関する本格的な研究が開始されたのは2000年頃からであり、研究の歴史は浅い。そのため、研究が進むにつれて、様々な課題が出されている。
2019-06-30 18:25:001.プレゼンティーイズムに関する理論の構築 ①プレゼンティーイズムに関する理論は健康の主観性を認識すべきである 人々が自分自身の健康状態をどのように評価するかは本質的に主観的であるという認識が必要である。会社に対して自分が慢性疾患を持っていることを開示するかどうか、従事している仕事
2019-06-30 18:28:06が健康にどのような影響を及ぼすと思っているのかについては個人差があることを考慮すべきである。また、📌病気役割認識にも個人差があり、それが強い人は自分の行動を病気と結びつけ、体調が悪いときには無理をして出勤するよりも欠勤しやすい傾向があることなどを考慮すべきである。
2019-06-30 18:32:08②プレゼンティーイズムに関する理論は欠勤とプレゼンティーイズムの関係を説明すべきである プレゼンティーイズムに関する研究では、これまでによく研究されている欠勤に関する理論を利用していない。プレゼンティーイズムの研究者の中には、プレゼンティーイズムと欠勤との関係について、
2019-06-30 18:36:45欠勤を減らす要因はプレゼンティーイズムを増やすと考える研究者がいる。しかし、デンマークにおける約13000人の大規模な調査により、📌欠勤を取る回数の多い労働者ほどプレゼンティーイズムになる労働者が多いことが明らかにされた。これは、この📌2つの現象が同一人の中で起こる同じ意思決定プロセス
2019-06-30 18:44:26の結果であり、欠勤が多い労働者は体調が悪い時でも出勤してプレゼンティーイズムの状態になるであろうことを意味している。また、欠勤とプレゼンティーイズムの関係は労働者個人レベルだけでなく、会社レベルでもどのような関係になっているのかを研究すべきとしている。
2019-06-30 18:49:33③プレゼンティーイズムに関する理論は📌雇用不安定理論を精緻化すべきである 雇用が不安定だと欠勤が少なくなり、病気でも仕事に行くようになるという考えは分かりやすい。しかし、雇用の不安定性が増すと考えられる会社規模縮小や有期雇用では欠勤が増えるという研究がある。
2019-06-30 18:54:26欠勤の多寡からプレゼンティーイズムの多寡が推測されているが、雇用の不安定とプレゼンティーイズムとの関係の研究では、プレゼンティーイズムを推測するのではなく、欠勤と出勤及び雇用の安定性を直接測定すべきである。また、これまではQOL向上のために自ら不安定な有期雇用契約を選ぶことに関する
2019-06-30 18:59:53研究はない。さらに、パートタイマーあるいは契約社員が替わりに仕事をするようになると、正社員であっても雇用が不安定化するような状況を無視している。 ④プレゼンティーイズムに関する理論は仕事に対する態度と経験を組み入れるべきである プレゼンティーイズムは仕事に対する態度や経験との
2019-06-30 19:11:12関連があると考えられる。📌プレゼンティーイズムは欠勤することに対する保守的な態度と正の相関があること、仕事上のストレスや燃え尽きとも正の相関があること、仕事満足度と負の相関があることが示されている。仕事に対する態度は体調不良と関連して生産性低下につながり、仕事に不満足感を持つと
2019-06-30 19:18:21病気の重さや欠勤との関連が強まると考えられる。 ⑤プレゼンティーイズムに関する理論は個性を組み入れるべきである 📌真面目な人、仕事に対する倫理観が強い人、内的なヘルス・ローカス・オブ・コントロールの持ち主、仕事中毒の人、頼まれてもNOと言えない人などは体調が悪い時でも出勤する傾向が
2019-06-30 19:23:51ある。これまでの研究ではプレゼンティーイズムに対するネガティブな見方が多いが、こうした個性と仕事に対する態度を組み合わせてプレゼンティーイズムの研究を行なえば、真面目な人や仕事に満足している人による「良いプレゼンティーイズム」という概念に繋がると考えられる。
2019-06-30 19:29:00⑥プレゼンティーイズムに関する理論は📌社会力学(social dynamics)に対応すべきである これまでのプレゼンティーイズムに関する研究は個人の病気との関連が強調され過ぎている。欠勤に関する多くの研究成果から言えることは、こうした見方は良くないと考えられる。特に研究が少ない分野が性別と
2019-06-30 19:34:11プレゼンティーイズムとの関連で、📌女性と男性とではプレゼンティーイズムに関して色々な点で異なる研究結果が得られている。プレゼンティーイズムの行動は上司に自分がそこにいることをアピールする時間(face time)であるとし、典型的に男の行動とする考え方がある。風邪を引くと女性は欠勤する傾向
2019-06-30 19:39:01があるが、男性は出勤する傾向がある。各種疾患の中でプレゼンティーイズムとの関連が強いのはうつ病と片頭痛であるが、こうした病気は男性よりも女性に多い。理論化に当たってはこのようなプレゼンティーイズムにおける性差について検討すべきである。
2019-06-30 19:43:48体調不良あるいは病気の時に出勤した場合の同僚や顧客の反応についても検討する必要がある。チームワーク制などの相互依存的な仕事の仕方や対応の難しい顧客はプレゼンティーイズムを起こしやすいことが示されている。反対に、感染性のある病気に罹った同僚は出勤が歓迎されず、プレゼンティーイズムが
2019-06-30 19:50:20起こりにくい。(p.109) 2.プレゼンティーイズムの良い点に関する研究 これまでのほとんどの研究はプレゼンティーイズムに対して否定的な見方を取っており、労働者個人あるいは会社に悪影響を与えているというものであった。こうした見方に対して、たとえ生産性が落ちても、多少の体調不良や病気で
2019-07-01 08:52:04欠勤するよりも出勤した方が労働者にとっても会社にとっても良い結果が得られるのではないかという考え方がある。 プレゼンティーイズムと欠勤の両者にポジティブとネガティブという考え方を導入して、両者の関係が動的であり、単純なものではないという考え方が出ている。
2019-07-01 08:56:36﹅Positive Presenteeism 業務量やスケジュールなどの調整により、病気で出勤しても十分に貢献できる状態 ﹅Negative Presenteeism 病気がありながら出勤していても、業務量やスケジュールなどの調整が不十分で能力を発揮できなかったり、病気が悪化したりするような状態
2019-07-01 09:05:17﹅Positive Absenteeism 病気を治すために必要な期間の休業を取る状態 ﹅Negative Absenteeism 病気だが不必要に長い休業を取る状態 Negative Presrnteeismの状態は、業務量やスケジュールの調整によりPositive Presenteeismの状態に移すようにするか、病気の悪化が心配されるような状態であれば
2019-07-01 09:11:45