毎朝8時から放送をしております。お休みしていましたが最近再開しました。
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楠羽毛 @kusunoki_umou

家が独占している状態である。  それでは、公正ではないのではないか、ということになった。  ラナは明言しなかったが、言い出したのは皇帝であるらしい。指南役にふさわしい実力を、はっきりと示せと。  そこで、全国から、ふさわしい実力を持つ武術家を集めることになった。  デミギア家のものた

2020-07-16 08:00:06
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月17日】 ちが、帝国じゅうを廻って、優秀な武術家をさがし、ひとところに集めて武術を競わせる。しかるのち、もっとも強いと認められたものが、皇帝の前で現職の武術指南役と戦う。そういうことになった。  指南役と戦うといっても、結局は、デミ

2020-07-17 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

ギア家が主催する試合であり、真剣勝負というよりは、ほどよく戦って負けることが求められるのではないか。そうも思われる。  だとしても、御前試合に出られるのは名誉である。多額の褒美も出る。指南役に取って代われるわけではないにしても、皇帝に技を見せることができれば、出世の足がかりになる

2020-07-17 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月18日】 。  よい話、であった。  けれども、メイはすぐ返事をしなかった。いったん保留して、二日後にふたたびやってきたラナに、ゆくと告げた。  実のところ、ゆくかどうかで迷っていたわけではない。  迷っていたのは、だれが出場するかだ

2020-07-18 08:00:02
楠羽毛 @kusunoki_umou

。  いや、迷っていたというよりも、待っていた。  結局、モリスは何も言わなかった。だから、メイが出るしかなかった。 *  一ヶ月後──  馬車がゆれている。  客車は白い幌で覆われていて、外はほとんど見えない。御者台とのあいだにも薄い白布が垂らしてある。都の入り口にあたる宿場町で

2020-07-18 08:00:02
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月20日】 。  いや、迷っていたというよりも、待っていた。  結局、モリスは何も言わなかった。だから、メイが出るしかなかった。 *  一ヶ月後──  馬車がゆれている。  客車は白い幌で覆われていて、外はほとんど見えない。御者台とのあ

2020-07-20 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

いだにも薄い白布が垂らしてある。都の入り口にあたる宿場町で、迎えの馬車に乗ってから、そろそろ半日。  二人には、広すぎる馬車だ。  メイは、ぼんやりと膝をかかえて、進行方向右側の隅に座っていた。モリスは、反対側の隅に。馬車に乗ってからこのかた、ほとんど会話はない。  メイは、脇に置

2020-07-20 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月21日】 いてある革の肩掛け鞄から、紙でつつんだ堅焼き餅をとりした。帝都に入るまえに遅い朝飯を食べたが、そろそろ昼すぎになる。いつ着くのか、説明は何もない。  堅焼き餅は、モリスの好物だ。宿にきていた物売りから買った、草色の。ちらり

2020-07-21 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

と見る。目は合わない。なにを考えているのか、あぐらをかいてじっと前を見ているようだ。  眉をぎゅっと寄せて、ため息。餅をかじる。甘い。  前は、こんなふうではなかった。  おかしくなったのは、1年前。  思い出したくもないが、忘れるはずもない。あの道場破りが、やって来たときからだ。

2020-07-21 08:00:13
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月22日】 *  モリスの剣は、まるで舞うようだ。  メイは、モリスが稽古をするのを見るのが好きだった。型稽古をしているとき、わきに座ってじっと眺めていることもあった。技を盗むのだ、といいわけをして。当時は、モリスがサラン家の武術を継

2020-07-22 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

ぐことになっていた。そうなれば、自分はきっとモリスと結婚するのだ。誰に言われたわけでもないが、そう思っていた。  オツペルはもう半ば引退していて、モリスの稽古はもっぱらメイが相手をしていた。メイが打ち込むと、モリスはことさらゆっくり動いているように見えるのに、剣先は空を切っていた

2020-07-22 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月23日】 。一見、隙だらけに見えるゆったりとした動きで打ち込みを誘っておいて、こちらの意識が剣先にむいた瞬間に、モリスの剣が身体にそっと触れてくる。それを何度か繰り返して、実戦稽古は終わる。いつも、そんなふうだった。  道場破りは、

2020-07-23 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

たまにやってくる。こんな辺鄙なところでも、武術家を名乗っていれば。そういうときはただでは帰すなと、オツペルにきつく言われている。もっとも、最初から道場破りだと名乗ってくる者は、そうはいない。稽古をつけてくれとか、高名な武術家と聞いてご挨拶をとか、そういう言い方をしてくる。だから、

2020-07-23 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月24日】 最初はこちらも丁寧に応対し、稽古を見学させたり、型をなぞるだけの打ち込み稽古に参加させたりして、様子をみる。それで、おとなしく帰るようなら、別に問題はない。三人に二人くらいは、それで終わる。  あのときの男は、そうではなか

2020-07-24 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

った。  打ち込み稽古の最中、何度も、型をくずして、喉や頭を狙ってきた。モリスは、涼しい顔をして受け流していたが、しまいに、いらだった男は、 「ここまでされて本意気で打ち込んで来ないとは。この家は腰抜けの集まりか。」  と、暴言を吐いた。  こうなると、もう、きちんと相手をするしかな

2020-07-24 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月25日】 い。 「ならば、あらためてお相手つかまつりましょう。」  モリスがそう言って、立ち会うことになった。  立ち会うといっても、木剣である。相手が真剣でと言えば、モリスは躊躇なく応じただろうが、そうはならなかった。しかし、木剣だ

2020-07-25 08:00:03
楠羽毛 @kusunoki_umou

から安全というわけではない。  立ち会いは、一方的に終わった。男が打ち込んだ剣は、一度もモリスの体に触れなかった。モリスは、何度か様子を見るように木剣を男の肩や胴に当てておいて、あいてが無理な打ち込みに出た瞬間に、右肘にむけて、外側から思い切り打ち込んだ。  男の剣が床に落ち、右手

2020-07-25 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月27日】 がだらりと下がった。  骨が折れたか、痛めただけかはともかく、もう剣は握れない。  立ち会いが終わり、片手で帰り支度をすませた後、男はまた余計なことを言った。 「立ち会いに負けて、こうして無事に帰してもらえるとは、ありがたい

2020-07-27 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

ことです」  おそらく、他意はないであろう。  しかし、この言葉が、オツベルの逆鱗に触れた。  もう一度、今度は真剣で立ち会えと、オツベルは男に強いた。モリスも、オツペルの命令に従って、抜いた。こうなると、どちらも逃げるわけにゆかない。  立ち会いは、やはり一方的であった。モリスは、

2020-07-27 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月28日】 刃を立てこそしなかったが、容赦なく男の体を打ちすえた。左手で剣を持っていた男は、その剣が手から離れる前に両足を打たれ、喉を叩かれ、唇から血を流して前のめりに倒れた。 「これで、理解なされましたでしょう。」  モリスは、男に

2020-07-28 08:00:04
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というよりはオツペルにむけて、そう言った。しかし、オツペルは納得しなかった。 「殺せ。」  そう、命じた。 「できません。」 「やれ。」  モリスは、倒れた男の頭を、もう一度、剣の腹で強く打ちすえた。 「これで、ごかんべんを。」  男は、動かない。今は生きていても、放置すれば死んでもお

2020-07-28 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月29日】 かしくない状態である。それでも、オツベルは納得しなかった。 「殺せ。流れ者に舐められて、道場がたちゆくか」  モリスは、土下座をした。「どうか、これで。」「ふざけるな。」オツペルはモリスの頭を踏みつけた。  しばらく押し問答

2020-07-29 08:00:03
楠羽毛 @kusunoki_umou

を繰り返したが、モリスはどうしても、男を殺すことができなかった。  そして、ついに、 「ならば、お前がやるのだ」  オツペルは、メイのほうを見て、そう言ったのだ。 *  それ以来、モリスは笑わなくなった。 *  馬車が止まった。  御者席の白布がぺらりと上がった。御者はもう席を降り

2020-07-29 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月30日】 ており、見知った顔が、御者台のすぐわきに立ってこちらをのぞき込んできていた。  ラナ=デミギアであった。 「ごめんなさい。わたしがお迎えに伺えれば良かったんですが。」 「いえ……、」  逆光で日がまぶしい。手をかざしながら馬

2020-07-30 08:00:04
楠羽毛 @kusunoki_umou

車をおりる。  大きな邸宅の中庭。そのように見えた。漆喰で塗り固められた白い壁に、三方を囲まれ、残りの一方は手入れされた庭園、遠くに門が見える。  馬車のむこうには、小川のような人工の水路で囲まれた、円形の広場のようなものがある。そこに、数人の男女が立っている。 「さあさあ、」  ラ

2020-07-30 08:00:05
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#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年7月31日】 ナは太陽のようにわらって、メイとモリスをみちびいた。広場の周囲には、かがりびをたくための大きな燭台のようなものが8つ。それから、橋がむかいあって2つ。  広場に並んでいる男女は、メイとモリスをくわえて15人。ラナはぐるりと

2020-07-31 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

見渡して、 「みなさま、お集まりですね。ご承知のこととは思いますが、皆様には、これから試合をして頂きます。皇帝のおん前で技を見せるための、予選ということです。勝ち残ったおひとりだけが、名誉を得られます。……よしなに」  ふわり、ふわりと、頭をゆらしながら、ラナは戦士たちの前を歩いた

2020-07-31 08:00:06
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月1日】 。 「それでは、一組ずつ、名前をお呼びします。呼ばれたかたは、前に出てください。……まず、先程到着なさいました、魔剣術の継承者メイ=サラン様と、付添のモリス様。」  メイとモリスが、ゆっくりと進みでる。背中に視線が刺さるのを

2020-08-01 08:00:02
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感じる。 「螺旋闘術の達人、エマ=ナンラ様。付添のパナン様」  まっすぐに立つ、男のような服装をした若い女と、壮年の小柄な男。 「奇術師ケイ=バムン様、付添の……失礼、お名前は伺っておりません」  全身を黒い布で包んで、人相のわからぬふたり。一人は、車輪つきの椅子に座っている。 「用

2020-08-01 08:00:03
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#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月3日】 心棒、ザジ=ダーム様。付添はいらっしゃいません」  腰に大小の剣をさした、髭面の男。頬がこけて、きつい目つきで、ぎろりと一瞥。 「からくり使いのラモン=シリウス様。付添のギメイ様」  手袋をつけた、白髪で童顔の男。それから、

2020-08-03 08:00:06
楠羽毛 @kusunoki_umou

大きな鞄をもち、男装をした金髪の少女。 「獣化術の使い手、マテル=パナル様、付添のメナン様」  細おもての若い男。それから、対象的におとなしい顔立ちをした、泣きぼくろのある女。 「精霊使いのガル=デミウ様。付添のマード様」  選手のうちでは最年長か。彫りの深い顔をした中年の男と、もう

2020-08-03 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月4日】 少し年下の、痩せた男。 「拳闘士のキュナ=ナルパ様。付添のモス様」  モリスと同い年位の、おどおどした目つきの少年。対象的に、ねめつけるような目の女。  全員の名前をよんだあと、ラナは満足げに一礼して、 「皆様、それぞれに部屋

2020-08-04 08:00:09
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を用意してございます。……すでに荷物を運び込まれた方もいらっしゃいますが……。そのほかの方はこのあとご案内いたしますので、どうぞごゆっくりお休みください。よろしければ、食事もご用意いたします」  広場の外から、案内役がすっと進みでる。ひどく無表情な、同じ格好の女たち。 「予選は、月

2020-08-04 08:00:11
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#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月5日】 が高く昇ってからといたします。準備ができたら、お呼びいたします。どうぞ、よしなに。」  ラナの声は、どこかぶきみに聞こえた。 *  さて、夜半──  戦士たちは、ふたたび中庭に集まっていた。昼間と同じ格好をしているものもい

2020-08-05 08:00:04
楠羽毛 @kusunoki_umou

れば、着替えたものもいる。  中庭にはいくつか物が増えていた。いちばん気になるのは、白布がかけられた大きな箱のようなもの。メイの背丈より、頭ふたつ分は大きい。  メイは、細身の長剣を腰にさし、防具を身につけている。胸と腹部を覆う部分鎧であるが、鉄製で分厚く、およそ矢も槍も通さない。

2020-08-05 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月6日】 そのかわり重いので、魔術で軽くする。  全身鎧を身に着けないのは、メイの技術では、複数のパーツを同時に軽量化するのが難しいからである。  鎧の下は、普段着と変わらない。前合わせの着物に、足首までのズボンの上から膝丈のスカート

2020-08-06 08:00:14
楠羽毛 @kusunoki_umou

。ただ、帯だけはきつく締めてある。 「さあ、」  ラナは、昼間の服装とはかわって、ゆったりした白い貫頭衣をきて、腰と胸の下を紐でぎゅっと締めていた。よく見ると、布のところどころに金色の刺繍がしてある。 「月も、星も、きれいに見える夜ですね。」  にっこりと笑って、ラナは芝居がかった様

2020-08-06 08:00:16
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#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月7日】 子で手をかかげた。  季節は、春の終わり。肌寒いというほどではないが、暖かくもない。空は晴れていて、まじりあった月光と星光が広場を照らしている。  召使いたちが、篝火台に灯をともす。まるで昼間のように明るくなる。 「今宵の戦

2020-08-07 08:00:20
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いを、皇帝に捧げましょう。それでは、まず……」  ぽんと、手を叩く。それが合図であったらしく、腰に剣をさした、下人らしき二人の男が、広場に入ってくる。  男たちは、向かい合って立つと、同じような構えで両手で剣をもち、身を傾けた。  柄に装飾がなされた、石に叩きつければぽきりと折れそ

2020-08-07 08:00:20
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月8日】 うな細身の剣である。 「前座であります。この男たちは、デミギア家の家人です。まずは、ご覧ください」  そういって、ラナは、すす、と広場の端までさがる。  ちょうど、小川の外にいる戦士たちと、広場をはさんで向かいあう格好である

2020-08-08 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

。  さて、二人の男は、どちらからともなく剣を動かしはじめた。  まずは、剣先がやっと触れ合うていどの距離で、かしゃんと重ね合う。  じゃん、じゃん、と型演舞のようにリズムよく剣先を打ち合わせているうち、二人の足がだんだん近づいてゆく。  しゃん!  ひときわ大きな音とともに、二人

2020-08-08 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月10日】 。  さて、二人の男は、どちらからともなく剣を動かしはじめた。  まずは、剣先がやっと触れ合うていどの距離で、かしゃんと重ね合う。  じゃん、じゃん、と型演舞のようにリズムよく剣先を打ち合わせているうち、二人の足がだんだん近

2020-08-10 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

づいてゆく。  しゃん!  ひときわ大きな音とともに、二人の剣が交差する。  ぎりり、とバインドしたかっこうになり、片手ずつの力くらべ。数秒そうしてから、右側の男が、ふいと力をそらすように剣を傾ける。同時に、空の左手を、抜身にそえるようにあてて、両手で剣を保持するように動く。  相

2020-08-10 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月11日】 手が、跳んだ。後ろにである。  主導権を握られるのを嫌って、逃げたのだ。  左手を剣身からはなして、追うように突きをいれる。が、遅い。跳んだ男はすぐに体勢をたてなおして、突きをかわす。カウンター。前傾姿勢となった男の脇腹を

2020-08-11 08:00:06
楠羽毛 @kusunoki_umou

、剣が貫く。  が、そこで戦いは終わらなかった。  腹を貫かれた男が、両手で剣を握りなおし、右から左へ、大きく振り抜いたのである。  首が飛んだ。  ごろりと、剣を握ったままの男の頭が地面にころがり、倒れた。  それから、腹を貫かれた男も、膝をつき、前のめりに倒れる。血を吐いて、目を

2020-08-11 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月12日】 見開いたまま。 「……いかがでしょうか。ところで、」  ラナは顔色ひとつかえず、目を細めてかすかにわらったまま、 「生と死は戦士のならい。死者はことほいで送り出すべきものですが、  ……今宵は、特別です。このように。」  つ

2020-08-12 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

かつかとサンダルをならして、ふたりの男の死骸に近寄っていった。  血だまりに足跡をつけながら、膝をまげてしゃがんで、落ちた首を両手でそっと持ち上げて、胴にくっつける。それから、 「セリ、セリ、ライサント、メリヤ、キリ、ラーサータンナ、ヤー、メリヤ、メリヤ、オーカマヤ、ララス」  ろ

2020-08-12 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月13日】 うろうと、うたを読み聞かせるように、となえる。  すると、  倒れていた男たちが、ふたたび立ち上がった。  戦士たちは、みな一様に、ぽかんと口をあけて見守るばかりだった。だれかが、「手妻であろう、」とつぶやいた。 「あら、

2020-08-13 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

」  ラナはくすくすと笑って、 「手妻とおっしゃいましたか。手妻といえば、帝都随一の手妻使いであられるケイ様は、たねがおわかりになりましたか?」  メイは反射的に、ケイ=バムン──全身をマントで包み、顔を隠した男──のほうを見た。男は身じろぎもせず、小さく、「たわごとを、」とつぶや

2020-08-13 08:00:06
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2020年8月14日】 いただけだった。 「……このように、今宵にかぎっては、戦いによって死したものは、ふたたび立ちあがることができます。皆様、ご安心ください」  とうてい、信じられることではなかった。おもわず、モリスのほうを見ると、少年はじっと

2020-08-14 08:00:04
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