アザラシこと青波零也が2023年の朝にぼちぼち書いている140字のおはなしのまとめ。
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青波零也 @aonami

指先が弦を爪弾けば、柔らかな音色が響く。僕は昔から音楽には縁遠く、奏者の抱えるそれが、何という楽器なのかもわからない。ギター、ではなさそうだが。細かく刻まれるリズム、遥か遠い異国の響きを帯びる旋律、そして、囁くような歌声。目を閉じれば、見知らぬ土地の情景が自然とまなうらに浮かぶ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/ap6KUugJvQ

2023-10-11 05:53:53
青波零也 @aonami

書き出し:指先が弦を爪弾けば、柔らかな音色が響く。

2023-10-11 05:50:58
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青波零也 @aonami

人波を縫って進んでいく。広い空間を埋め尽くす、人、人、人。一体どこから湧いて出たのか、と不思議に思う。机越しの彼らが、一様にその手で作った作品を持ち寄っている、ということも。「俺一人じゃ買う手が足りなくて」と言ったそいつの姿は見えなくなって久しい。渡されたメモの番号は、まだ遠い。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/X6xMQtlVHj

2023-10-12 05:43:01
青波零也 @aonami

書き出し:人波を縫って進んでいく。

2023-10-12 05:39:54
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青波零也 @aonami

一枚、羽織るものを増やした。寒さには強い方だが、我慢するものでもない。黒に近いグレーのコートは、彼女に選んでもらったものだ。そもそも、僕が着るものは全て彼女のチョイスで、彼女曰く「お前は服より先に鞄や靴を、それも『使い勝手の良さ』だけで選ぼうとするのがよくない」。否定はできない。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/XF2yvtZKQy

2023-10-13 05:38:35
青波零也 @aonami

書き出し:一枚、羽織るものを増やした。

2023-10-13 05:36:43
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青波零也 @aonami

道のあちこちに注連縄が張り渡されている。垂れる白い紙の名前は何と言ったか。知らない街の、非日常の光景。「祭りが始まるのさ」注連縄を張っていた年配の男性が言った。年に一度の祭りでは、若い衆が神輿を担いで街を練り歩くらしい。故郷から遠く離れたこの土地でも、祭りの形は、どこか似ている。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/jppdq8K4mK

2023-10-14 07:56:08
青波零也 @aonami

書き出し:道のあちこちに注連縄が張り渡されている。

2023-10-14 07:56:02
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青波零也 @aonami

鍛える理由を失って久しいが、もはや日課となっているトレーニングを欠かす気にもなれない。それに、体を動かしている間だけは自分のしていることが正しいと思えるから、トレーニングは好きだ。全力で体を動かした後の、心地良い疲労感を味わう。額から滴る汗を拭い、コップ一杯の冷たい水を飲み干す。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/VxDPofeHRZ

2023-10-15 09:05:03
青波零也 @aonami

書き終り:コップ一杯の冷たい水を飲み干す。

2023-10-15 09:04:18
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青波零也 @aonami

故郷の土地は酷くよそよそしくて、僕の場所ではないのだとすぐにわかった。かつての僕の家に、僕の大切な人はいない。失われたものを振り返ってばかりでは、前に進めない。だから、手放していいのか、と問われて、いいのだ、と答えたのだと思い出す。何もかも、思い出と一緒に、箱に詰めて捨てたのだ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/c5C8yV2r5E

2023-10-16 05:37:50
青波零也 @aonami

書き終り:思い出と一緒に、箱に詰めて捨てたのだ。

2023-10-16 05:36:15
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青波零也 @aonami

眩暈がして柱に寄りかかった。「大丈夫ですか?」呼ぶ声も、遠く聞こえてくる。それでも、僕は。「大丈夫、先に行って」「でも」「大丈夫」揺らぐ視界で、躊躇いがちに友人が身を翻すのが見えた。優しいひとだ。故にこそ報われてほしくて、目を凝らす。この事件のもつれた因果の糸を解こうと、試みる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/sQjJsUfSYt

2023-10-17 05:34:21
青波零也 @aonami

書き出し:眩暈がして柱に寄りかかった。

2023-10-17 05:33:19
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青波零也 @aonami

器を満たすのはあたたかなスープだ。大きめに切られた野菜はよく煮込まれていて、口の中でほろりと崩れ、スープの塩味に自然な甘みを加える。とびきり美味しく、そして、「美味しい?」と聞いてくるそいつと、そいつの恋人の笑顔に、一抹の場違いさを覚えつつも、僕には得難い温もりを一緒に飲みこむ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/JIVWNLxYrM

2023-10-18 05:30:59
青波零也 @aonami

書き出し:器を満たすのはあたたかなスープだ。

2023-10-18 05:30:13
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青波零也 @aonami

パトカーが、サイレンを鳴らして目の前を横切った。「何かあったかな」事故か事件か、はたまた。「随分と険しい顔をするな」彼女の声で我に返る。「問題が起きたのは、いいことではないと思って」「だが、お前には無関係な話だろう」「それでも」胸がざわつくのだ。「それが、お前の美徳ではあるがな」 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/Nch7ppWNyk

2023-10-19 05:09:35
青波零也 @aonami

書き出し:パトカーが、サイレンを鳴らして目の前を横切った。

2023-10-19 05:09:24
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青波零也 @aonami

少し変わった人かな、とは思ったが、それ以上ではなかった。変わり者はお互い様で、なんなら僕の方がよほど問題児で。「だけど、本当に嬉しかったんだ」と、そいつは僕を見下ろして笑う。「君はありのままで問題ない、って言ってくれたことが、さ」僕の場合、大抵のことに無関心なだけかもしれないが。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/n5xPe9jQd9

2023-10-20 06:09:38
青波零也 @aonami

書き終り:大抵のことに無関心なだけかもしれないが。

2023-10-20 06:09:15
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青波零也 @aonami

「妖精の輪だな」地面に生えるキノコが、綺麗な輪を描いている。「科学的な理由付けもあるが、妖精や魔女、つまり私のような『ひとでなし』が歩いた、もしくは踊った痕跡だと長らく語られてきたものさ」「何が本当の話?」「さあ、お前はどう思う」不可思議な痕跡を踏まないよう、爪先を意識して歩く。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/Y23KoeaIsL

2023-10-21 06:38:52
青波零也 @aonami

書き終り:爪先を意識して歩く。

2023-10-21 06:38:39
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青波零也 @aonami

荒い呼吸の合間に、助けて、と掠れた声。指を痛めないか心配になるほどに肩を強く掴まれ、爪が食い込む。痛くないと言えば嘘になるが、「落ち着いて」真っ青な顔ですがりつく彼の方が心配だ。「助けて」僕に伸ばす手はないが、「顔を上げて」せめて、「目を、見てください」少しでも、楽になるように。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/cuyht7nZUG

2023-10-22 08:02:01
青波零也 @aonami

書き出し:荒い呼吸の合間に、助けて、と掠れた声。

2023-10-22 08:00:19
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青波零也 @aonami

水面に垂らした糸は、ぴくりとも動かない。「釣れますか」釣り人の問いに「いえ」と答える。釣りが盛んな土地ということで試しているが、経験もない僕に釣れるとも思えない。ただ、「こういうのも、悪くないです」旅の足を止め、考えることも止め、揺れる水面を眺めるだけの時間は、不思議と心地よい。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/4WFpKhVOOf

2023-10-23 06:10:07
青波零也 @aonami

書き出し:水面に垂らした糸は、ぴくりとも動かない。

2023-10-23 06:09:55
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青波零也 @aonami

壁の染みが人の顔に見えた。「実際はただの三つの点に過ぎない。でも顔に見えただろ?」「ああ」「人間の脳は、思考よりも先に『顔』を認識するんだとさ。顔とその表情を見出すことで予測可能な危険を回避するため、って仮説もある」「へえ」こいつの知識は大概僕の知らないことで、いつだって新鮮だ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/hnMd5Nprsb

2023-10-24 06:04:51
青波零也 @aonami

書き出し:壁の染みが人の顔に見えた。

2023-10-24 06:03:17
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青波零也 @aonami

朝から、何かの開催を告げる花火が鳴っていたと思い出す。「運動会だな」傍らの彼女が言った。フェンス越しに聞こえる、拡声器から響くアナウンスと軽快な音楽、子供たちの応援の声、そして歓声。このひと時が、彼らにとってのよい記憶になればよい、と強く祈る。万国旗が、よく晴れた青空にはためく。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/GoXFQR0ZCr

2023-10-25 05:22:59
青波零也 @aonami

書き終り:万国旗が、よく晴れた青空にはためく。

2023-10-25 05:21:59
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青波零也 @aonami

首が落ちて転がった。「いやはや」胴体から切り離された首が、唇を開く。「びっくりしたね」「大丈夫ですか?」「問題ないよ」首のない体がおもむろに動き出し、落ちた首を拾う。「ああ、君は、首と胴体が繋がっている類の人間かな」言われて初めて、それ以外の人間を考えたことがなかった、と気づく。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/DgQC8IEPAl

2023-10-26 05:19:20
青波零也 @aonami

書き出し:首が落ちて転がった。

2023-10-26 05:17:02
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青波零也 @aonami

メモを見る。最初は呪文と思われたそれらも、今なら何を示したものかはっきりわかる。ジンにウォッカ、コアントローにクレーム・ド・カシス。紅のグレナデン・シロップに、彩りを添えるマラスキーノ・チェリー。準備は大事だ。僕にとっては日課でも、その人にとってたった一度かもしれない夜のために。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/U5tT7ouCs2

2023-10-27 05:15:06
青波零也 @aonami

書き終り:たった一度かもしれない夜のために。

2023-10-27 05:14:01
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青波零也 @aonami

滝がどうどうと音を立てている。これだけの水が常に上から下へと落ち続けている、という不思議に思いを馳せる。流れる水は循環しているというが、僕の目に映るのはそのうちごく一部に過ぎず、巡るイメージに結びつかない。離れた位置に立っていてすら身体を冷やす水の気配、目には見えない力を感じる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/JUV0uu0AhK

2023-10-28 07:18:27
青波零也 @aonami

書き出し:滝がどうどうと音を立てている。

2023-10-28 07:16:09
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青波零也 @aonami

突然、明かりが落ちた。停電だ。仕事中でなくてよかった。手探りでカーテンを開け、窓の外を見る。どうやら部屋のブレーカーが落ちたわけではないらしく、視界からありとあらゆる光が消えていて、黒々とした世界が広がっていた。唯一、いつもよりまばゆく輝く月が、家々の輪郭を浮かび上がらせている。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/2GBpVMOWq1

2023-10-29 06:50:46
青波零也 @aonami

書き出し:突然、明かりが落ちた。

2023-10-29 06:49:44
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青波零也 @aonami

色も形もとりどりのケーキが並んでいる。一目では良し悪しなどわかるはずもなく、さりとて今から試すわけにもいかない。甘いものが好きなあいつとその恋人に、と思ったはいいが、果たして喜んでもらえるだろうか。中でも見た目が愛らしいケーキを、一つ二つ。僕の感覚は、いつだってあてにならないが。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/nKqglIrfuz

2023-10-30 05:55:14
青波零也 @aonami

書き出し:色も形もとりどりのケーキが並んでいる。

2023-10-30 05:54:28
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青波零也 @aonami

部屋が明るくなりつつあり、いつの間にか夜が明けていた、と気づく。没頭していると、つい、時間を忘れてしまう。悪い癖だ。期日までに終わらせなければいけない仕事は山積みだが、果たして間に合うのだろうか。間に合わせるしかないのだが。ブラインドの隙間から差し込む太陽の光が、目を焼くようだ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/o6oqWUmKIh

2023-10-31 05:14:05
青波零也 @aonami

書き終り:太陽の光が、目を焼くようだ。

2023-10-31 05:12:30
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2023年11月の旅

青波零也 @aonami

ポスターのアイドルが、笑みを投げかけている。「わかる?」というそいつの問いに、グループ名を答えると、意外な顔をされた。「知ってるんだ」「目に入れば覚えるから」「顔と名前覚えるのは得意だもんな。歌は知らない?」「うん。でも、メンバー逮捕のニュースは聞いたな」「うーん、興味の方向性」 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/223kOzsikK

2023-11-01 05:18:47
青波零也 @aonami

書き出し:ポスターのアイドルが、笑みを投げかけている。

2023-11-01 05:16:55
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青波零也 @aonami

肩まで湯に浸かり、足を伸ばす。広々とした浴場に、僕以外の客はいない。給湯器の調子が悪いから、と近くの銭湯に初めて来たが、ゆったり緊張をほぐすのも悪くない。「いつも根詰めすぎなんだよ」と腕を組む相棒が脳裏に浮かぶが、あいつの場合、弛緩している時間が長すぎる。どうせ届かぬ溜息を一つ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/ZEFW6NT459

2023-11-02 05:17:22
青波零也 @aonami

書き出し:肩まで湯に浸かり、足を伸ばす。

2023-11-02 05:16:19
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青波零也 @aonami

目が合った。ぎらぎら光る金色の目、血塗れの口に、鋭すぎる爪。人を食らうことはないと聞いていたが、脅かしてきた不躾な相手を黙って帰す気はない、という意志がありありと伝わる。立ち向かうなどという愚行は避けるべきだが、さりとて背を向けて逃げ出す勇気も出ない。まさしく、蛇に睨まれた蛙だ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/TfOL5kSNE7

2023-11-03 07:03:35
青波零也 @aonami

書き終り:まさしく、蛇に睨まれた蛙だ。

2023-11-03 07:02:55
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青波零也 @aonami

匂いは記憶に結びつきやすいという。親しみある酒の香りが鼻をくすぐる。「お酒、お好きですか?」カウンター越しに店の主人が微笑みかけてくる。「ええ、近頃は全くですが」鮮明に呼び起こされる、遠い記憶。柔らかな闇に沈んだ空間、棚に並ぶ酒、ピアノの音色、そして。「昔は、供する側でしたので」 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/gIAP5ghPQB

2023-11-04 07:46:26
青波零也 @aonami

書き出し:匂いは記憶に結びつきやすいという。

2023-11-04 07:45:31
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青波零也 @aonami

昨夜のことを思い出してみる。仕事を終えてからも少し勉強をしていたら、彼女に「早く寝ろ」と言われた。ソファで寝ようとしたら、きちんとベッドで寝ろと引きずり込まれ、指を絡めて、そのまま。腕の中で眠る彼女を見る。閉ざされた瞼、肌に伝わる体温と息遣い。このままもう少しだけ、と瞼を閉じる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/Tdfs8BkntL

2023-11-05 07:04:46
青波零也 @aonami

書き終り:もう少しだけ、と瞼を閉じる。

2023-11-05 07:03:33
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青波零也 @aonami

赤く輝く星を見上げていた。僕はとびきり物覚えが悪い方だが、星のことは少しだけわかる。あの星にはアンタレスという名前がついている。火星に並ぶもの、さそり座の心臓。ほんとうにみんなのさいわいのためならば、と擦り切れるまで読んだ本の一節を唱え、音もなく燃え続けるさそりの火に憧れたのだ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/SxfgVajn3m

2023-11-06 05:22:02
青波零也 @aonami

書き出し:赤く輝く星を見上げていた。

2023-11-06 05:19:57
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青波零也 @aonami

謎は全て解けた。と、自称・名探偵は言った。その場にいる全員の目が名探偵に向けられる。期待、疑い、無関心と意味合いは様々だが。その身いっぱいに視線を受け止めた探偵が、傍らの僕に耳打ちする。「で、どう思う?」「謎は解けたんじゃないんですか」もちろん、事件解決のために力は尽くすけども。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/4W9LkTrgto

2023-11-07 05:13:16
青波零也 @aonami

書き出し:謎は全て解けた。

2023-11-07 05:10:47
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青波零也 @aonami

どうやら、誰かが亡くなったようだ。列の先頭をゆく遺影はもちろん知らない顔だ。名も知らぬ町の見慣れぬ葬儀を前に、深く頭を下げる。僕は死後の世界を信じないが、しかし、安らかな眠りであればよいとは思うから。雲一つない青空の下、誰のものとも知らぬ棺を連れて、葬列は道の果てまで続いていく。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/kp4jDaquAa

2023-11-08 05:15:35
青波零也 @aonami

書き終り:葬列は道の果てまで続いていく。

2023-11-08 05:13:21
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青波零也 @aonami

机に並べられた、指先ほどの大きさの玩具。「最近は、食玩も馬鹿にできないんだぜ」と言いながら、そいつは机上のコレクションに小さな車を加えた。確かに、サイズに反して随分と精巧なのは一目でわかる、が。「それで、僕に食玩の『食』の部分を押しつけるのはどうかと思う」「カロリーは大事だよ?」 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/0M6t5d6q10

2023-11-09 05:15:19
青波零也 @aonami

書き出し:机に並べられた、指先ほどの大きさの玩具。

2023-11-09 05:13:08
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青波零也 @aonami

ゲートラウンジにて、アナウンスに耳を傾ける。行き先に搭乗開始時間、そして出発時刻。ふらりと空港を訪れ、よく考えもせず知らない地名のチケットを取ったが、飛行機に乗るのはこれが初めてだ。貨物として積みこむほどでもない、ほとんど空のリュックサックを膝に抱え、遥か北の土地に思いを馳せる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/IFCH4fBE6p

2023-11-10 05:23:03
青波零也 @aonami

書き出し:ゲートラウンジにて、アナウンスに耳を傾ける。

2023-11-10 05:22:10
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青波零也 @aonami

久しぶりのあたたかな布団だ。ここ数日は随分と強行軍であったから、ありがたい。瞼を閉じる。視界が闇に閉ざされる。眠るのだけは得意なのだ、呼吸を三回、それで意識も途絶えるだろう。ただ、眠っている間に連絡がなければよい。僕が叩き起こされるとすれば、それは悪い報せしかありえないのだから。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/UglZIc4CGk

2023-11-11 06:47:05
青波零也 @aonami

書き出し:久しぶりのあたたかな布団だ。

2023-11-11 06:46:19
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青波零也 @aonami

列車から降りると、静かなホームが僕を迎えた。僕以外に降りるものもいなければ、列車を待つものもいない。駅員の姿すらなかった。恐る恐る誰一人見ていない改札を通る。何度経験しても、無人改札には慣れない。それも、僕が人の良心を信じられないからか。一歩踏み出せば、知らない町の知らない景色。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/8amvPGDmVx

2023-11-12 06:20:22
青波零也 @aonami

書き終り:一歩踏み出せば、知らない町の知らない景色。

2023-11-12 06:19:03
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青波零也 @aonami

昔から病院というものが苦手だ。必要なのはわかる、行った方がよいということも。しかし、あの、どこかよそよそしい白い空間に、忙しなく駆け回る医師と看護士、そして同じ場を共有する患者たち。「僕のような、少し具合が悪いだけの人間がいても迷惑かな、って気持ちになるだろ?」「気にしいだなあ」 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/hck2J5DBMj

2023-11-13 05:20:06
青波零也 @aonami

書き出し:昔から病院というものが苦手だ。

2023-11-13 05:18:08
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青波零也 @aonami

照りつける太陽は容赦を知らない。「暑い」僕らも好き好んで炎天下にいるわけではないが、せめて手心を加えてはくれないか。「溶けちゃうよ~」「残念ながら人間の融点はそんなに低くない」実際何度で溶けるんだろうな。「水買ってきていい? アイスも」「好きにしろ」額から滴る汗を、手の甲で拭う。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/8YSsRxB5Jo

2023-11-14 05:18:39
青波零也 @aonami

書き出し:照りつける太陽は容赦を知らない。

2023-11-14 05:16:47
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青波零也 @aonami

グラスを取る指のしなやかさから目が離せない。彼女のどこが好きかと問われたら、言葉を尽くしても、口下手な僕の言葉では何一つ伝わらないが、姿形で一つと問われれば、手指と答えるだろう。古代の彫像を思わせる端正な手。だが、僕は知っている。それが、確かな柔らかさと温もりを伴っていることを。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/rBhTkqxJ3u

2023-11-15 05:15:38
青波零也 @aonami

書き出し:グラスを取る指のしなやかさから目が離せない。

2023-11-15 05:14:05
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青波零也 @aonami

蝋燭の火が燃え尽きようとしていた。頼りない灯りを挟み、そいつが言う。「死神って知ってる?」「落語の?」「お、意外な反応」「僕が何も知らないと思ってないか?」「大体知らないだろ」「まあ否定はしない」「これが消えたら、誰かの命も消えたりな」嫌な作り話だ。その時、灯火は隙間風に揺れて。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/qGLsw3RgbU

2023-11-16 05:13:32
青波零也 @aonami

書き出し:蝋燭の火が燃え尽きようとしていた。

2023-11-16 05:11:42
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青波零也 @aonami

畳の上に横たわり、見知らぬ天井を眺める。これでいくつめの宿か、未だ足を止められぬまま、季節は変わりゆく。秋から冬へ、やがて春すらも過ぎ、夏がやってくる。僕が全てを捨てた夏、もしくはあいつに見限られた夏。でも、今ばかりは忘れて眠ろう。晩秋の夕暮れ、窓越しの木々が、燃えるように赤い。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/LlpmocGMx6

2023-11-17 05:29:46
青波零也 @aonami

書き終り:窓越しの木々が、燃えるように赤い。

2023-11-17 05:28:33
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青波零也 @aonami

黒々とした毛にブラシをかける。床に点々と毛が落ちる季節のため、彼女の猫にブラッシングを施すという名誉を与えられたのだ。ひとたびブラシを通せばごそりと毛が絡みつき、そろそろ小さな猫がもう一匹作れそうだ。さて、僕の膝の上で瞼を閉じ、されるがままの猫は、果たしていかなる心地なのだろう。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/udHMHUvaYL

2023-11-18 05:58:03
青波零也 @aonami

書き出し:黒々とした毛にブラシをかける。

2023-11-18 05:56:14
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青波零也 @aonami

踏み込み、腰を捻り、拳を振り抜く。力を込めるより、全身のバネを余すところなく使う。拳闘に限らず、体を動かす際の基本だ。「あなたって、本当に殴るのが得意なのね」後からその人に言われたが、「関節を極める方が得意ですが」「そういうことじゃないの」では、どういう意図の言葉だったのだろう? twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/POixkrRQLy

2023-11-19 07:24:03
青波零也 @aonami

書き出し:踏み込み、腰を捻り、拳を振り抜く。

2023-11-19 07:20:10
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青波零也 @aonami

共に生きていきたい、と思える相手がいるのは幸福だ。お互いに伸ばした手を引き寄せて、繋げられるのなら、尚更。「だからこそ」僕は手に力を込める。「誰であろうと、その幸福を壊す権利など持たない、そのはずだ」言葉への反応はなく、手に掛かる力もいやに重たい。ああ、もう聞こえていないのかな。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/iZAoj7vES3

2023-11-20 05:16:23
青波零也 @aonami

書き出し:共に生きていきたい、と思える相手がいるのは幸福だ。

2023-11-20 05:15:23
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青波零也 @aonami

「睨むな」と彼女は言う。「睨んでるつもりはないけど」「お前はそうでも、相手は違う。常に見られていては落ち着かないということだ」なるほど、カウンターに立っていると妙に目を逸らされると思った。「目は合わせなくていい」ただ、目配せだけは忘れずに。声なきメッセージを、見落とさないように。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/WPbTx3lQVd

2023-11-21 05:35:50
青波零也 @aonami

書き終り:声なきメッセージを、見落とさないように。

2023-11-21 05:35:10
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青波零也 @aonami

用意されたマグカップは三人分。「いつ来てもいいよ」とそいつは笑う。普通、恋人との同棲生活に同僚を招くか、と思いつつ、僕のために用意されたカップを取る。珈琲とは違う香り。「ホットチョコレート」「ココアとは違うの?」小難しい説明を聞きながら一口。ほっとする甘さが、口いっぱいに広がる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/KTr1Gjb3hX

2023-11-22 05:17:52
青波零也 @aonami

書き出し:用意されたマグカップは三人分。

2023-11-22 05:17:00
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青波零也 @aonami

「今にも雨が来そうですが、お客さん、傘は持ってます?」「いえ、でもすぐそこまでなので、大丈夫です。ありがとうございます」親切な運転手に軽く頭を下げる。お釣りはいらない、と少しだけ多めに支払い、タクシーを降りる。風に混ざる湿った香り。手を伸ばせば届きそうなほど、低く立ちこめる暗雲。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/XKfuohZy0C

2023-11-23 07:14:09
青波零也 @aonami

書き終り:手を伸ばせば届きそうなほど、低く立ちこめる暗雲。

2023-11-23 07:13:02
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青波零也 @aonami

青い空を横切る、鳥たちの影。先頭を行く一羽が群れを率い、整然とVの字を描いている。雁行、という言葉を教えてくれた父の横顔を、すぐには思い出せなくなっていると気づく。僕はいつしか、父と母との思い出も、温もりも忘れてしまうのだろうか。群れからはぐれた僕を置きざりに、渡り鳥は空をゆく。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/T3dRqqDqui

2023-11-24 07:20:56
青波零也 @aonami

書き出し:青い空を横切る、鳥たちの影。

2023-11-24 07:19:50
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青波零也 @aonami

商店街は緑と赤の装飾と、きらびやかな照明に彩られていた。流れるのは僕にもわかる季節の歌。「クリスマスには早くない?」暦の上ではまだ一ヶ月あるが、「もう一ヶ月しかないしね」とそいつは言う。「早い分にはともかく、遅ければ商機を逃す」「そういうものか?」僕はまだ世の節理を理解できない。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/kyzRPt0WbZ

2023-11-25 06:01:34
青波零也 @aonami

書き出し:商店街は緑と赤の装飾と、きらびやかな照明に彩られていた。

2023-11-25 05:59:36
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青波零也 @aonami

「助かりました」どの宿も門前払いで、途方に暮れる僕を招いてくれた家の主人に頭を下げる。「何、厄介ごとさえ持ち込まなければいい」どうもこの町では、余所者である、というだけで警戒に値するようだ。「あの森には立ち入るなよ」理由はわからないが、逆らってもいいことはない、それだけは確かだ。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/tnMfitNdSx

2023-11-26 07:34:17
青波零也 @aonami

書き終り:逆らってもいいことはない、それだけは確かだ。

2023-11-26 07:32:38
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青波零也 @aonami

相手の目を見て、言葉に耳を傾ける。僕にとっては月に一度の楽しみだが、相手はどうだろう。不愉快な気持ちにさせていないか、それだけが心配だ。話したいことはないか、とも問われるが、僕は首を横に振り、ただ話を聞く。僕は神も仏も信じないが、それらが人々の心を支えてきた歴史には、興味がある。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/nRJtFNBW7U

2023-11-27 05:28:32
青波零也 @aonami

書き出し:相手の目を見て、言葉に耳を傾ける。

2023-11-27 05:26:13
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青波零也 @aonami

焼き菓子の甘い香りに、つい足を止める。「いらっしゃいませ」かわいらしい包みのクッキーを、一袋。「プレゼントですか」という問いには、少しだけ躊躇ってから、首を横に振る。もう、菓子を喜んでくれる彼らはそこにはいない。買い求めたクッキーを一口。口の中でほどける素朴な甘さに、胸が詰まる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/8PPHc8CReU

2023-11-28 05:20:37
青波零也 @aonami

書き出し:焼き菓子の甘い香りに、つい足を止める。

2023-11-28 05:20:28
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