アザラシこと青波零也が2023年の朝にぼちぼち書いている140字のおはなしのまとめ。
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青波零也 @aonami

電光掲示板が何事かを映している。並ぶ文字は知らないもので、言わんとしていることは何一つわからない。ただ、文字のものものしい色と、掲示板を見上げた人々が一斉に顔色を変えて足早に立ち去るあたり、どうやらここにいるのはまずい、と悟る。遠くから、少しずつ、しかし確かに轟音が近づいてくる。 pic.twitter.com/UfjWXmAtFF twitter.com/aonami/status/…

2023-07-06 05:12:37
青波零也 @aonami

書き出し:電光掲示板が何事かを映している。

2023-07-06 05:12:15
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青波零也 @aonami

気づけば横になっていた。「目を回したか」彼女の冷たい手が額に触れて、頭痛がわずかに和らぐ。「見えないものを視る、というのはそういうことだ」しかし、彼女の目には、不可視の何かが視えている。もし僕が生まれながらの魔法使いなら、彼女と同じ景色が見られるのに。目を閉じて、深呼吸をひとつ。 pic.twitter.com/Av9ZPFRoec twitter.com/aonami/status/…

2023-07-07 05:12:12
青波零也 @aonami

書き終り:目を閉じて、深呼吸をひとつ。

2023-07-07 05:11:48
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青波零也 @aonami

「すぐに散ってしまいそうですね」宿の主人が苦笑いする。雨は降っていないが風が強い。先日満開になったばかりの桜が、曇天の下で激しく揺さぶられている。「風が落ち着いたら、山に行ってみてはどうですか。桜が群生していて、圧巻なのです」「なるほど」隙間から風が吹き込み、窓辺に花びらが舞う。 pic.twitter.com/vi0WDafHsV twitter.com/aonami/status/…

2023-07-08 06:03:08
青波零也 @aonami

書き終り:窓辺に花びらが舞う。

2023-07-08 06:02:54
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青波零也 @aonami

説明されたところで理解はできなかった。ただ、それが僕の仕事で、僕にもまだできることがあるのだ、ということだけはわかった。硬い寝台に横たわり、コードを取り付けられ、言われるがままに瞼を閉じる。合図と同時に意識がほつれ、ほどけて落ちて。夢を見るのと同じ手順で、遥か彼方、未知の世界へ。 pic.twitter.com/PLXBjz3MBq twitter.com/aonami/status/…

2023-07-09 06:48:30
青波零也 @aonami

書き終り:遥か彼方、未知の世界へ。

2023-07-09 06:48:11
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青波零也 @aonami

繁華街の灯りが遠い。「行かないんだ?」問われて、小さく頷く。「大勢での飲みは、得意ではないから」二次会に行こう、という上司の誘いを断るのは気が引けたが。「身内だけじゃないもんな、今回。別にいいんじゃない?」堂々と断ったそいつは大げさに夜空を仰ぐ。視線を追えば、空には頼りない星々。 pic.twitter.com/z7ApboeaD1 twitter.com/aonami/status/…

2023-07-10 05:11:10
青波零也 @aonami

書き出し:繁華街の灯りが遠い。

2023-07-10 05:09:56
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青波零也 @aonami

嫉妬は「狂う」ものだというが。ならば、僕はきっと、とっくに狂っているだろう。顔も知らなければもちろん名前も知らず、けれど確かに「いた」らしい、彼女の傍らの人々が、酷く妬ましい。僕が彼女の手を掴んだ最初の一人であればよかった、なんて、傲慢なことを考える僕が、狂っていないはずがない。 pic.twitter.com/ZxrVthFU6J twitter.com/aonami/status/…

2023-07-11 05:12:07
青波零也 @aonami

書き出し:嫉妬は「狂う」ものだというが。

2023-07-11 05:11:53
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青波零也 @aonami

静寂に包まれた森の中。虫の声も鳥の声も聞こえないのは、あまりにも気味が悪い。草木が、それ以外のものを拒んでいる、ような。いや、「ような」などという生ぬるい話ではなさそうだ。サンダル履きの足で踏む白骨。生きたものの残骸。木漏れ日とともに降り、肌の上に滴るそれは、ただの樹液ではなく。 pic.twitter.com/XSjz8nXLad twitter.com/aonami/status/…

2023-07-12 05:03:49
青波零也 @aonami

書き出し:静寂に包まれた森の中。

2023-07-12 05:02:45
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青波零也 @aonami

駅のホームで、電車を待つ列に加わる。視界に映るいくつもの頭。今は同じ場所に並んでいるが、これから、めいめいの場所に向けて運ばれていくのだろう。僕もまた、その一人。擦り切れつつあるリュックを背負い直す。次はもっと人の少ない場所がいい。人の気配は嫌いではないが、少し、疲れてしまった。 pic.twitter.com/0CpNvygw6B twitter.com/aonami/status/…

2023-07-13 05:25:41
青波零也 @aonami

書き出し:駅のホームで、電車を待つ列に加わる。

2023-07-13 05:25:30
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青波零也 @aonami

風が吹き、風鈴が涼やかに鳴る。「風流だな」眼鏡の下で目を細めた彼女は「珍しく気が利くな」と微笑む。鮮やかな赤い金魚が泳ぐ風鈴は、ふと、目に入って買い求めたもの。「懐かしいな、と思って」軒先に吊られた風鈴。今よりも少しだけ涼しかった縁側で、その音色を聞きながら母と語らった、思い出。 pic.twitter.com/BxtSybYKjk twitter.com/aonami/status/…

2023-07-14 04:56:49
青波零也 @aonami

書き出し:風が吹き、風鈴が涼やかに鳴る。

2023-07-14 04:56:43
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青波零也 @aonami

暮れ行く空の下、子供たちが立ち並ぶ柱に火を灯していく。ひとつ、またひとつ、炎が宿る。太陽が水平線の向こうに消えた時、祭りが始まるのだという。神を招いて歓待する祭りらしいが、彼らの言う「神」が何なのか、僕は知らない。知る必要もないと思っている。ただ、燈火の明かりに、温もりを感じる。 pic.twitter.com/97hBLkmwPu twitter.com/aonami/status/…

2023-07-15 06:33:59
青波零也 @aonami

書き終り:燈火の明かりに、温もりを感じる。

2023-07-15 06:33:05
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青波零也 @aonami

街路を行き交う車を眺める。「今、行けたぞ」と言えば、そいつは乱暴にハンドルを叩く。「わかってても、動けなかったの!」「下手に飛び出されるより百万倍マシだが」「そもそも、こんな鉄の塊がびゅんびゅん走ってるのがどうかしてるんだ!」「どうして、それで免許が取れた?」僕には理解できない。 pic.twitter.com/zL4DlQjqX5 twitter.com/aonami/status/…

2023-07-16 05:34:58
青波零也 @aonami

書き出し:街路を行き交う車を眺める。

2023-07-16 05:33:13
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青波零也 @aonami

駅を出て、あてもなく歩く。今日の宿を探さねばならないが、行く手の家々はまばらで、果たして泊めてくれる場所があるだろうか。所持金も心もとないから、屋根のあるところで眠るのも選択肢のうちかもしれない。耳の奥に響く潮騒。海の匂い。僕の住んでいた街にはなかったもの。夕日が海に沈んでいく。 pic.twitter.com/Y7fa269HYq twitter.com/aonami/status/…

2023-07-17 06:54:47
青波零也 @aonami

書き終り:夕日が海に沈んでいく。

2023-07-17 06:54:40
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青波零也 @aonami

たとえ偽善と嗤われても。「善く見せたいと思うこと、それ自体は否定されることじゃない」それが心からのものでなくとも、行動さえ伴っていれば。その結果が周囲から「善い」とみなされればいい。僕は、そう思う。「行動を起こさない方が、罪深い」そうでなければ、僕は永遠に善いものにはなれないよ。 pic.twitter.com/VSDYQ2FfVp twitter.com/aonami/status/…

2023-07-18 05:30:51
青波零也 @aonami

書き出し:たとえ偽善と嗤われても。

2023-07-18 05:28:43
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青波零也 @aonami

夕暮れ時の待ち合わせ。手持ち無沙汰に火をつけた煙草は、ほとんど灰になっていた。吸殻を捨て、もう一本に手を伸ばしかけて、やめる。そいつは煙草が嫌いだから。太陽が沈んでいく。夕焼けの名残りを残す空に、一番星が輝き始める。今日もどこに寄り道してるのか、なかなか姿を見せないそいつを待つ。 pic.twitter.com/SbGTxo1JC1 twitter.com/aonami/status/…

2023-07-19 05:05:47
青波零也 @aonami

書き出し:夕暮れ時の待ち合わせ。

2023-07-19 05:04:22
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青波零也 @aonami

すっかり色の染みついたマグカップに粉を入れる。沸いたばかりの湯を注ぐ。立ち上る珈琲の匂い。当初はインスタントなんて、と嫌な顔をしていたそいつも、いつしか文句を言わなくなった。手軽だもんな。飲めて、息をつければそれでいい。人数分のカップを盆に載せ、張り詰めた空気にひと時の安らぎを。 pic.twitter.com/odQT67lNFH twitter.com/aonami/status/…

2023-07-20 06:08:34
青波零也 @aonami

書き終り:張り詰めた空気にひと時の安らぎを。

2023-07-20 06:07:11
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青波零也 @aonami

間違いなのだと信じたかった。一方で、間違いなどあり得ないとも思った。彼女はいつだって正しいのだから。記憶の奥底で彼女が笑う。「お前は、」続く言葉を思い出せないまま、瞼を開く。朝も夜もない小さな部屋の中に僕一人。一番大切な人を掴めなかった手を、握って、開いて、零れ落ちたものを思う。 pic.twitter.com/NCIqWa0mda twitter.com/aonami/status/…

2023-07-21 05:59:40
青波零也 @aonami

書き出し:間違いなのだと信じたかった。

2023-07-21 05:57:19
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青波零也 @aonami

大きな鰭を広げ、無数の魚が舞い踊る。「生きた宝石、と呼ばれています」その鱗の色は赤や黄色、緑に青ととりどりで、光に煌めく姿は確かに宝石を思わせる。水槽の主は胸を張る。だが僕の目には、水槽の中の彼らが疲れ果てて見えた。小さな水槽にぎゅうぎゅうに詰め込まれた宝石は、酷く息苦しそうで。 pic.twitter.com/7G3fblsggT twitter.com/aonami/status/…

2023-07-22 05:32:14
青波零也 @aonami

書き出し:大きな鰭を広げ、無数の魚が舞い踊る。

2023-07-22 05:30:49
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青波零也 @aonami

夜中に目が覚める。眠ることだけが取り柄の僕には珍しいことだ。時計を見れば深夜一時。寝直すのは簡単だが、目覚めた理由が気になった。何か物音でもしたのかと思ったが、部屋はいっそ異様なほどの静寂。そういえば、今夜は雪が積もるって言ってたっけ。ベッドから降りる。裸足に床の冷たさがしみる。 pic.twitter.com/Fp0UilQL05 twitter.com/aonami/status/…

2023-07-23 07:39:23
青波零也 @aonami

書き終り:裸足に床の冷たさがしみる。

2023-07-23 07:37:45
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青波零也 @aonami

「口笛得意なんだ。意外」かつて、そいつに言われたことを思い出していた。別に得意なつもりはないが、憧れたのだ。幼いころに見上げたシルエット。歌は苦手だから、と口笛を聞かせてくれた父の横顔。僕も父のような立派な人になりたい、と願っていたはずなのにな。ポケットに手を入れて、口笛を吹く。 pic.twitter.com/QzL1TrTA69 twitter.com/aonami/status/…

2023-07-24 05:18:25
青波零也 @aonami

書き終り:ポケットに手を入れて、口笛を吹く。

2023-07-24 05:17:16
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青波零也 @aonami

立方体を前に途方に暮れている。「これは?」「見ての通りだが」僕も流石に存在は知っている。子供のころに流行ったのを覚えているが、手に取ったことはなかった。彼女が挑戦的な、それでいて期待を込めた目を向けてくる。立方体を手に取る。ばらばらに分かたれた色、果たしていつ揃えられるだろうか。 pic.twitter.com/K7vLtFwaCZ twitter.com/aonami/status/…

2023-07-25 05:19:28
青波零也 @aonami

書き出し:立方体を前に途方に暮れている。

2023-07-25 05:17:25
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青波零也 @aonami

額から滴る汗を拭い、一息つく。「助かるよ」世話になっている家の主人が、日に焼けた顔で笑う。しばらくの宿と引き換えに、農作業の手伝いを。それが僕らの契約だ。「君さえよければ、これからも手を貸してくれないか」「それは」行き場のない僕には願ってもない提案、なのに頷くことができなかった。 pic.twitter.com/SA4oNTVe35 twitter.com/aonami/status/…

2023-07-26 05:11:19
青波零也 @aonami

書き出し:額から滴る汗を拭い、一息つく。

2023-07-26 05:09:44
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青波零也 @aonami

コンビニで、いつもの栄養ドリンクと一緒に、チョコレートを買い求める。口に含めば甘く、甘さはいつかの記憶を呼び起こす。僕の名前を呼ぶ声、一歩前を歩く二人の背中、あたたかな部屋と、並べられた甘味たち。次に目を開けた時には、失ったそれらと向き合おう。瞼に浮かぶは幻影、悪夢のような現実。 pic.twitter.com/WZ4E7XEjvF twitter.com/aonami/status/…

2023-07-27 05:24:27
青波零也 @aonami

書き終り:瞼に浮かぶは幻影、悪夢のような現実。

2023-07-27 05:22:44
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青波零也 @aonami

将来の夢を書け、と言われて途方に暮れる。一寸先のことすら想像できないのに、どうして将来の姿など夢見ることができるのか。周りの机から聞こえてくる、鉛筆を走らせる音に急き立てられる。何か、何かを書かなければ。自分に嘘はつきたくない。適当なことは書きたくない。僕は何になりたいのだろう? pic.twitter.com/I6ECK7XHWW twitter.com/aonami/status/…

2023-07-28 05:29:50
青波零也 @aonami

書き出し:将来の夢を書け、と言われて途方に暮れる。

2023-07-28 05:28:58
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青波零也 @aonami

オフィスに向かう人の流れに背を向ける。「何で朝っぱらから俺らがこんな」「言ってる場合か?」そいつの文句をぶった切る。僕だって徹夜明けで次の仕事なんて思わなかった。流れに逆行するように、駆けていく。一歩後ろから声がする。「で、何があったんだって?」「君は本当に人の話を聞いてないな」 pic.twitter.com/2TO02SInIz twitter.com/aonami/status/…

2023-07-29 07:06:31
青波零也 @aonami

書き出し:オフィスに向かう人の流れに背を向ける。

2023-07-29 07:04:19
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青波零也 @aonami

彼女はいつだって正しく、不思議に満ちているが、「これは何?」僕の問いかけに彼女は「見ての通り」と画面を指す。表に打ち込まれた、細かな数字。何を買って、何を売ったのか。金銭の流れの記録。面倒な手続きも魔法で、というわけにはいかないらしい。静かな部屋に、キーボードを叩く音だけが響く。 pic.twitter.com/uLhJ2BLCUd twitter.com/aonami/status/…

2023-07-30 06:03:52
青波零也 @aonami

書き終り:キーボードを叩く音だけが響く。

2023-07-30 06:02:42
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青波零也 @aonami

眠らない街には、煌々と明かりが灯る。客寄せの声を振り切って足早に行く。元より用などないだろう、浮浪者同然の僕を捕まえて商売になるとは思うまい。夜更けにもかかわらず人工的な光の織りなす陰影に彩られた街は、行き交う人々も昼とは別で。毒々しい光の中に、履きつぶしたスニーカーで影を引く。 pic.twitter.com/9YnpSmYX5e twitter.com/aonami/status/…

2023-07-31 05:31:17
青波零也 @aonami

書き出し:眠らない街には、煌々と明かりが灯る。

2023-07-31 05:29:43
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2023年8月の旅

青波零也 @aonami

どうしてもカレンダーの存在を忘れる。予定は手帳に書いているし、日付は朝一番のラジオで確認できるから、ただ壁にかかっているだけ。よく見れば、それは五月を示していた。爽やかな、緑あふれる月。なお今は蝉の声がうるさく響き、窓から見える草木も暑さに負けつつある。カレンダーを久々にめくる。 pic.twitter.com/K3ySbpnmHJ twitter.com/aonami/status/…

2023-08-01 05:21:00
青波零也 @aonami

書き終り:カレンダーを久々にめくる。

2023-08-01 05:18:51
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青波零也 @aonami

見知った顔が行き過ぎた。その横顔をつい目で追っていると、「知り合い?」と、そいつが遠ざかる背中を指す。「ああ、中学の同級生」「声かけないんだ?」「向こうは覚えてないさ。何せ、同じ教室にいただけで話したこともない」「その、顔と名前を絶対忘れない能力、俺にもちょっと分けてくんない?」 pic.twitter.com/6ITxlEdPZw twitter.com/aonami/status/…

2023-08-02 05:10:35
青波零也 @aonami

書き出し:見知った顔が行き過ぎた。

2023-08-02 05:08:24
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青波零也 @aonami

暮れゆく空にかかる雲が、怪獣に見えた。立派な身体にごつごつとした背びれ、牙の並ぶ口を開き、真っ赤な炎を吐いている。このまま大地に降り立って、何もかもを破壊してくれれば、全てうやむやになる、なんて。「空、きれいですね」振り返った友人の影を踏み、「そうだな」僕は本当のことを飲みこむ。 pic.twitter.com/OhioySwU9D twitter.com/aonami/status/…

2023-08-03 05:59:49
青波零也 @aonami

書き出し:暮れゆく空にかかる雲が、怪獣に見えた。

2023-08-03 05:59:30
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青波零也 @aonami

背伸びしても、手が届かない。「取ろうか?」「ありがとう」僕より頭一つ大きなそいつが、本棚の上の段に手を伸ばす。「どの本?」「将棋の指南書」「将棋指すんだ?」驚きの顔。「先輩に誘われたんだ。少しはわかるけど、念のためにな」「意外ぃ」僕がそんなに無趣味に見えるのか。見えるのだろうな。 pic.twitter.com/OdCYKb6JMi twitter.com/aonami/status/…

2023-08-04 05:15:35
青波零也 @aonami

書き出し:背伸びしても、手が届かない。

2023-08-04 05:14:29
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青波零也 @aonami

「あなたは、どうして旅を?」列車にて、同じく旅の途中であるという青年の問いかけ。「どうして」理由を説明できるようなものでもないが、強いて言えば。「じっとしていられなかったから、ですかね。良しにつけ、悪しきにつけ、変化が欲しかったので。ほら、よく言うでしょう」犬も歩けば棒に当たる。 pic.twitter.com/yt2YjrA9rj twitter.com/aonami/status/…

2023-08-05 06:23:56
青波零也 @aonami

書き終り:犬も歩けば棒に当たる。

2023-08-05 06:21:50
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青波零也 @aonami

朝早くに宿を出た。別に急ぎの旅ではないが、この時間の澄んだ空気を吸いたいと思い立ったから。ろくに中身が入っていないリュックを背負い、ぼろぼろの靴で道を行く。いい時間だ。人の姿も車の姿もなく、鳥の声と葉擦れの音だけが響いているし、見慣れない草花の上では、朝露が光を浴びて輝いている。 pic.twitter.com/huKhWRTtlg twitter.com/aonami/status/…

2023-08-06 07:39:03
青波零也 @aonami

書き終り:朝露が光を浴びて輝いている。

2023-08-06 07:38:13
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青波零也 @aonami

ポケットからくしゃくしゃのレシートが出てきた。コンビニのレシート。印字されているのは、手軽に腹を満たせるクッキー風の栄養調整食に、水に、ドリンク剤。それさえあれば、稼働するには十分だった。不健康だ、と腹を立てるかつての相棒に、もはや戻ってこない日々。感傷ごと丸めてゴミ箱に捨てる。 pic.twitter.com/wop7EgtxCF twitter.com/aonami/status/…

2023-08-07 05:27:04
青波零也 @aonami

書き出し:ポケットからくしゃくしゃのレシートが出てきた。

2023-08-07 05:24:39
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青波零也 @aonami

馬耳東風と言うべきか。溜息を隠せない。「僕は、何度も忠告したぞ」そいつが振り向く。かわいそうなくらいにひきつった顔、しかしもはや同情の余地はない。「聞いてない、聞いてないよ、こんな汚くて虫だらけの場所で仕事なんて!」だから僕は何度も言った、聞いてないのはそっちだ。溜息をもう一つ。 pic.twitter.com/V7Xa4dQec2 twitter.com/aonami/status/…

2023-08-08 05:16:00
青波零也 @aonami

書き出し:馬耳東風と言うべきか。

2023-08-08 05:13:44
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青波零也 @aonami

空がにわかにかき曇る。「もう少し休んでいかれては?」窓の外を見て店主が言う。手元の皿は空だったが、「珈琲と、何か甘いものはありますか」「アップルパイはいかがです?」「では、それを」ほどなく、激しい雨が屋根を叩きはじめる。通り雨ならよいけれど。珈琲とシナモンの香りが、鼻をくすぐる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/dfRU48Gbzb

2023-08-09 05:14:45
青波零也 @aonami

書き出し:空がにわかにかき曇る。

2023-08-09 05:12:48
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青波零也 @aonami

一日付き合ってくれた上着を脱ぐ。あちこちに皺の寄った、すっかり型崩れしているスーツ。そいつが僕の手元を覗き込んで顔をしかめる。「クリーニングすれば?」「行く余裕なんてないだろ、衣装持ちの君と違って僕のは一張羅なんだ」「もー」そいつの不服の声を背に、よれたスーツをハンガーにかける。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/TnzwtqTRcB

2023-08-10 04:58:48
青波零也 @aonami

書き終り:よれたスーツをハンガーにかける。

2023-08-10 04:57:49
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青波零也 @aonami

口笛を吹く。幼い頃に教わった海のうた。目の前の海は広くて、大きくて、僕はあまりにもちっぽけだ。歌詞をなぞる代わりに、懐かしい旋律を唇でなぞる。日が沈み、月が昇るのを見つめながら、この音色すらも、どうせ絶えず響く潮騒に紛れて消えてしまうのだろうけれど。寄せては返す波が、素足を洗う。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/uLrk7Yr0Bx

2023-08-11 06:17:12
青波零也 @aonami

書き終り:寄せては返す波が、素足を洗う。

2023-08-11 06:15:25
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青波零也 @aonami

肉と野菜、卵をレジ袋に詰めていく。「満足な生活はまず食事からだ」と彼女は言う。かつての相棒も同じことを言っていたと思い出す。当時の僕には全く理解できなかったが、今ならわかったような気にはなれる。大切な誰かと囲む食卓と、あたたかな食事。かけがえのない時間のためなら手間も惜しむまい。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/ovTE6W0pe1

2023-08-12 06:26:38
青波零也 @aonami

書き出し:肉と野菜、卵をレジ袋に詰めていく。

2023-08-12 06:25:52
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青波零也 @aonami

壊れた時計の針が、同じ時を報せ続けている。僕がこの家に来る前からあったらしい、古びた時計だった。「寿命だろう」と、彼女が時計を取り上げようとするのを制止する。「あと少し、このままで」もはや進むこともなければもちろん戻ることもない時計に共感を覚えるなど、どうかしていると思うけれど。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/cHRDIgtTf1

2023-08-13 06:43:27
青波零也 @aonami

書き出し:壊れた時計の針が、同じ時を報せ続けている。

2023-08-13 06:42:00
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青波零也 @aonami

人は死んだらそれまでだ。だから「死後」なんて考えたことがない。そんなもの、ありはしない、もしくは「あってほしくない」。それでも、バケツから柄杓で水を汲み、墓石にかける。スーパーで買ってきた花を供える。線香に火を灯す。これは生き続ける僕に必要な手続き。両の手を合わせて、目を閉じる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/STblFBji3l

2023-08-14 07:34:19
青波零也 @aonami

書き終り:両の手を合わせて、目を閉じる。

2023-08-14 07:31:17
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青波零也 @aonami

氷を刻む音が、気持ちよく響く。好きな作業のひとつだ。透き通った、形も大きさもそれぞれの氷を、グラスと飲み物に合わせて整える。立方体に球体。形を維持していられるのはごく短い時間で、必ず溶け出してしまうものだが、それでも丁寧に刻み、削って。店が開くまでの時間、雑念を排して手を動かす。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/4SzGxzituq

2023-08-15 07:26:44
青波零也 @aonami

書き出し:氷を刻む音が、気持ちよく響く。

2023-08-15 07:25:12
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青波零也 @aonami

「あぢー」助手席でそいつがだらりと溶けている。炎天下、熱され続けた車内は地獄のような暑さだった。冷房が熱を払うまで、運転の合間に流れる汗を拭う。「汗は出てるけど、堪えてないよな」確かに暑さは苦ではなく、「夏生まれだからかな」僕が生まれたのは、よく晴れた、とても暑い日だったという。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/tKfN80MyZm

2023-08-16 07:28:58
青波零也 @aonami

書き終り:よく晴れた、とても暑い日だったという。

2023-08-16 07:27:46
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青波零也 @aonami

屋根が作る日陰で、猫が眠っている。「野良かな」この辺では見慣れない顔で、首輪はない。随分痩せた体で、満足に食べられているか心配になる。とはいえ、「手を出すなよ」と彼女が言う。「手を出していいのは、その生に関わり続ける覚悟があるものだけさ」僕はきっと、いつだってその覚悟が足りない。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/B7IIKDXyrM

2023-08-17 05:14:23
青波零也 @aonami

書き出し:屋根が作る日陰で、猫が眠っている。

2023-08-17 05:13:31
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青波零也 @aonami

街は妙に静かだった。「変だな」そいつが眉を寄せる。「人っ子一人見えやしない」事件の報を受けたというのに、だ。しん、と静まり返った家々、車の音も鳥の声も聞こえない、酷く重たい静寂。ただ、「見られてはいるようだ」カーテンの隙間から、少しだけ開いた障子の向こうから、確かに視線を感じる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/KSoKe4uRfv

2023-08-18 07:15:40
青波零也 @aonami

書き出し:街は妙に静かだった。

2023-08-18 07:14:32
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青波零也 @aonami

向日葵が、みな同じ側に顔を向けて咲き誇っている。見事に並んだそれらを眺めながら行く。さながら整列する兵隊のようだ。いつかは枯れ果てて頭を垂れるとしても、今この瞬間は、鮮やかな夏の青空を背景に、堂々と大輪の花を咲かせている。僕はこうはなれないけれど、それらにならって、背筋を伸ばす。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/BKioYHDbpb

2023-08-19 07:17:03
青波零也 @aonami

書き出し:向日葵が、みな同じ側に顔を向けて咲き誇っている。

2023-08-19 07:16:23
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青波零也 @aonami

「お客様なんだから気にしないで」と言われたが、「僕がそうしたいから」と主張して、シンクに溜まった皿を洗う。シンプルながらワンポイントの装飾が美しい皿、愛らしい模様と色味の皿、ちいさな玩具のような皿。目を楽しませる皿たちは、僕には足らない遊び心だ。スポンジに洗剤を垂らし、泡立てる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/JYZbIIXWEc

2023-08-20 07:20:23
青波零也 @aonami

書き終り:スポンジに洗剤を垂らし、泡立てる。

2023-08-20 07:19:16
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青波零也 @aonami

古本特有の、カビくさい、しかし甘さもある匂い。さして広くもない店内に厚い本が所狭しと並べられた、古本屋。本棚どころか床にも積みあがった本の表紙や背に書かれた文字は、僕の知らないものだ。その一つを手に取ってみる。立派な上製本。表紙の布張りの手触りを確かめ、書かれた文字を指でなぞる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/tM7nQtTfKO

2023-08-21 06:00:43
青波零也 @aonami

書き出し:古本特有の、カビくさい、しかし甘さもある匂い。

2023-08-21 06:00:05
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青波零也 @aonami

一枚、二枚と、写真を机に並べていく。現場を記録したもの、その周辺を記録したもの、ひとの写真、ものの写真。写真とは、あくまで撮られた瞬間を記録したものでしかなく、記録に意味を見出すのはあくまで僕だ。ひとつひとつの点を線でつなげていけば、過ぎ去った景色たちが、僕の中で物語りはじめる。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/cDcjmDlDoH

2023-08-22 05:23:57
青波零也 @aonami

書き出し:一枚、二枚と、写真を机に並べていく。

2023-08-22 05:23:17
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青波零也 @aonami

「浮かない顔だ」「どうして僕が付き合わされてるんだ?」「いいだろ、たまには。それとも泳げなかったっけ?」「泳げるけど、こういう場所は初めてだ」色とりどりの水着に、はしゃぐ人々。今まで学校のプールしか知らなかった僕にはどうにも縁遠い風景。プールサイドに座って、子供たちの歓声を聞く。 twitter.com/aonami/status/… pic.twitter.com/WJJzx1s6Cc

2023-08-23 05:13:48
青波零也 @aonami

書き終り:プールサイドに座って、子供たちの歓声を聞く。

2023-08-23 05:13:06
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