アザラシこと青波零也が2023年の朝にぼちぼち書いている140字のおはなしのまとめ。
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2023年4月の旅

青波零也 @aonami

これは夢だ。二人の姿に確信する。「夢じゃないわ」夢に決まっている。死後の世界なんて存在しない。死者の霊なんて存在しない。これは僕の未練が生んだ、ただの幻に過ぎない。「そんな悲しいことを言わないでくれ」かぶりを振って背を向ける。朝の光に向けて歩いていけば、長い夢は、終わりを告げる。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-01 07:26:08
青波零也 @aonami

書き終り:長い夢は、終わりを告げる。

2023-04-01 07:25:43
青波零也 @aonami

猫を何匹かぶれば気が済むのか。「かぶってないよ」「そうは見えない」「でも、上手くいっただろ?」片目を瞑るそいつに、「まあな」と返す。交渉事は任せて、僕は黙っていればいいのだから気楽なものだ。閉ざされていた門がゆっくり動き出す。「とはいえ」「ここからだ」そう、ここからは僕の仕事だ。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-02 06:38:08
青波零也 @aonami

書き出し:猫を何匹かぶれば気が済むのか。

2023-04-02 06:37:52
青波零也 @aonami

僕は決めることが苦手だ。何をするか、何を買うか、何がよくて、何が悪いのか。昔は簡単にできたはずのことが、今の僕には。「コイントスで決めるのはどうだ?」彼女は銀のコインを手に笑う。彼女には、どの選択が正しいのかも見えているはずで、でも必ず僕に選ばせる。受け取ったコインを指ではじく。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-03 07:32:35
青波零也 @aonami

書き終り:コインを指ではじく。

2023-04-03 07:32:20
青波零也 @aonami

帰り道、子供たちの笑い声が聞こえる。小さな影がいくつか、僕らの横を行き過ぎる。弾む黄色い帽子、つややかな黒いランドセル。そして、少し遅れて追うひとり。待って、と呼びかける声に、かつての僕が重なる。いつも誰かの背を追いながら、置いて行かれて、「どうしたの?」「懐かしいな、と思って」 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-04 05:13:41
青波零也/6/11そこ文委託! @aonami

書き出し:帰り道、子供たちの笑い声が聞こえる。

2023-04-04 05:13:12
青波零也 @aonami

思いがけず届いた手紙。封筒に書かれた住所と名前は間違いなく僕宛なのだが、「見ない方がいい」と彼女は僕の手から手紙を取り上げる。「悪い悪戯だ」僕の居場所は、誰も知らない。裏に書かれていた差出人も、もういないはずの人。そう、悪戯だ。あの日から僕の目にも映るようになった、ひとでなしの。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-05 05:28:56
青波零也 @aonami

書き出し:思いがけず届いた手紙。

2023-04-05 05:28:51
青波零也 @aonami

風に揺れる稲穂の黄金色。収穫の季節だ。つまり、僕の旅も季節を一周したことになる。随分長い旅になったものだが、どこかで足を止める気になれないまま、今日も一時限りの宿りを探す。「望む場所に辿り着けるよう」そんな祈りと祝福を受けながら、当の僕は終着点も見えないまま、道に迷い続けている。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-06 05:29:35
青波零也 @aonami

書き出し:風に揺れる稲穂の黄金色。

2023-04-06 05:28:01
青波零也 @aonami

うとうとしていたら、電話が鳴った。枕元に置いておいたはずの、支給の携帯電話を探る。僕の仕事はいついかなるときに始まるかわからない。手に触れた電話を引き寄せて。「おはよう、頼みたいことがあって、デートに行きたいんだけど車じゃないと行けない場所で、今から車を出して」「切るぞ」切った。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-07 08:13:42
青波零也 @aonami

書き出し:うとうとしていたら、電話が鳴った。

2023-04-07 08:12:46
青波零也 @aonami

森の中、小鳥たちのさえずりを聞く。木漏れ日の中、植物の気配に満ちた空気を胸一杯に吸うのはいい気分だ。森林浴という言葉がよく似合う。何一つ無駄はなく、あとは余計なものを一つ取り除けば完璧。「おい、どこまで行くんだ?」余計な「もの」の声に、振り返る。いつの間にか、鳥の声は消えていた。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-08 06:06:04
青波零也 @aonami

書き出し:森の中、小鳥たちのさえずりを聞く。

2023-04-08 06:05:31
青波零也 @aonami

動物など面白いものではない、と思っていたが、「時に、人間よりよほど動物の方が時の求める物語を正しく理解する。ま、時流を理解できた者だけが今の形で生き延びたのだろうが」彼女がそう言うなら、興味がある。彼にもこの因果の糸が見えているのだろうか。キリンの首が、青空に向かって伸びていた。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-09 05:27:07
青波零也 @aonami

書き終り:キリンの首が、青空に向かって伸びていた。

2023-04-09 05:25:50
青波零也 @aonami

思うように指が動かない。指も、手のひらも、手首も、腕も、自分の体から延びているのに、まるでこちらの意志を反映しない。動くことも、感じることもなく、そこにあるだけ。なるほど、こういうこともあるのか。「辛くないか」という問いかけには「別に」と返す。流石に少し不便だな、と思っただけで。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-10 05:24:00
青波零也 @aonami

書き出し:思うように指が動かない。

2023-04-10 05:22:42
青波零也 @aonami

目指した場所は遠く、上を見上げればきりがない。日々忙しないけれど、どれだけ手と頭を動かしても終わりが見えない。考えれば考えるほど気が遠くなる。そんな僕を、彼女が笑う。「たまには立ち止まって、足元を見てみることだ。ほら」ふと、息をついて、視線を落とす。道端に、小さな花が咲いていた。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-11 05:11:15
青波零也 @aonami

書き終り:道端に、小さな花が咲いていた。

2023-04-11 05:11:00
青波零也 @aonami

痩せ細った犬が、あとをついてくる。見なかったことにして歩いていたが、足音が途切れない。仕方なく振り向いて、ほとんど骨と皮のそれと向き合う。「食べられるものは、持ってないですよ」それとも、僕を食べる気だろうか。期待に満ちた視線を受けて、僕は。「きっと、筋張ってて美味しくないですよ」 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-12 05:11:29
青波零也 @aonami

書き出し:痩せ細った犬が、あとをついてくる。

2023-04-12 05:10:54
青波零也 @aonami

夢を見るのは珍しい方だ。単に記憶していないだけかもしれないが。時計を持ったうさぎを追って、奇怪な世界に迷い込み、おかしなお茶会に招かれ、理不尽な裁判の証言台に立つ、そんな、明晰夢。「あなたの居場所はここじゃないでしょ?」どこかで見たような少女に手を引かれ、夢と現実の境界線に立つ。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-13 05:20:43
青波零也 @aonami

書き終り:夢と現実の境界線に立つ。

2023-04-13 05:19:41
青波零也 @aonami

指先の火傷がじくじく痛む。軽い火傷だ。応急処置は済んでいるのだが、なかなか鬱陶しい。原因は調理中の不注意、それだけの話だが。「気を付けろよ」僕の指に軟膏を塗りながら、彼女が言った。「因果を捻じ曲げれば、必ずしわ寄せがくる」つまり、この痛みは、あり得ざる魔法に手を出した僕への罰か。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-14 05:32:53
青波零也 @aonami

書き出し:指先の火傷がじくじく痛む。

2023-04-14 05:31:56
青波零也 @aonami

銃声が夜のしじまに響く。「やだ」そいつは弱音を吐く。こちらだって同感だが、「聞こえてて、放置しろってか?」「そうしたいのはやまやまだけど、できるわけないだろ」そう、迷わず答えるところを信頼している。「なら、僕らにできることをしよう」僕一人では無理でも、背中を預けるそいつがいれば。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-15 06:17:10
青波零也 @aonami

書き出し:銃声が夜のしじまに響く。

2023-04-15 06:15:41
青波零也 @aonami

契約書にサインする前に、よく考えよう。とは言うけれど。見慣れぬその人は契約書から顔を上げる。「本当に、いいの?」話はわかった。文面も読んだ。ただ、考える必要など僕にはなくて。もの言いたげなその人に一つ頷く。本当は契約書すら必要ないのだ、この身が誰かの役に立つなら、何だってしよう。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-16 05:55:44
青波零也 @aonami

書き出し:契約書にサインする前に、よく考えよう。

2023-04-16 05:55:29
青波零也 @aonami

鏡を見て、自分自身に問いかける。「まだ、続けるつもりか?」鏡の中の僕は、とにかく酷い顔をしている。浅黒く焼けた肌、くぼんだ目に、こけた頬。いつからか鋏を入れていない髪に伸びっぱなしの髭。顎を撫ぜる手も荒れていて、それでも。「まだ、僕は」どこにも辿り着いていない。だから、旅は続く。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-17 05:17:52
青波零也 @aonami

書き出し:鏡を見て、自分自身に問いかける。

2023-04-17 05:17:42
青波零也 @aonami

いつの間にか、日の出の時刻になっていた。眠った方がいいとは思ったが、あまりにも綺麗な空に誘われて、薄手の上着を羽織って外に出る。まだ少しばかり肌寒い、澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで、一歩、踏み出す。太陽が昇るにつれ空がゆっくり色を変える中、気持ちいい風を感じながら、走る。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-18 05:09:02
青波零也 @aonami

書き終り:気持ちいい風を感じながら、走る。

2023-04-18 05:08:47
青波零也 @aonami

私を月まで連れてって、なんて。僕には不可能だ、と断じると彼女は目を細め、きれいな唇を笑みの形にする。「何もかもを、言葉通りにしか捉えられないのはお前の悪い癖だな」愉快そうに。店内に流れるのは、どこかで聞いたメロディ。「言い換えれば、」僕は、かの歌の詞を今もなお知らないままでいる。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-19 05:19:31
青波零也 @aonami

書き出し:私を月まで連れてって、なんて。

2023-04-19 05:18:11
青波零也 @aonami

「簡単な数学だろ? っていうかこの程度だと算数じゃない?」そう、そいつは言うけれど、僕は首を傾げる。決して数字に弱いわけではない。ただ、「個々に異なるものを数量にまとめるのが気に食わない」「うーん、統計ってそういうもんだし」僕とそいつは得意分野がまるで違う。数学の問題に悩む日々。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-20 05:09:20
青波零也 @aonami

書き終り:数学の問題に悩む日々。

2023-04-20 05:08:54
青波零也 @aonami

その瞳は、夜の海のよう。あてもなく旅していたころ、夜中に歩いた浜辺を思い出す。深い闇の中、月の光を受けて煌めく、寄せては返す波。「どうかしましたか?」首を傾げる友人に、「いや、綺麗な目をしているな、と思って」友人は目を見開いて顔を赤くした。僕はまた、何か変なことを言っただろうか。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-21 05:09:21
青波零也 @aonami

書き出し:その瞳は、夜の海のよう。

2023-04-21 05:09:09
青波零也 @aonami

雨上がりの路地裏で、猫と出会う。「こんにちは」「こんにちは」返事があった。「見ない顔だが、旅人さんか」「はい」頷けば、長い尻尾が翻る。「折角雨も止んだんだ、案内しよう」「よろしいのですか?」「いい気分だからね。ただし、飽きたらおしまいだ」何せ私は気まぐれなんだ、と猫は目を細めた。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-22 06:29:35
青波零也 @aonami

書き出し:雨上がりの路地裏で、猫と出会う。

2023-04-22 06:29:23
青波零也 @aonami

相棒関係と言いながら、そいつと僕とはまるで似ても似つかないが、「似てますよ」と、そいつの恋人は笑って言う。「どこが?」手製のオレンジのケーキを一口。「真剣なとこ、あと、目配せの感じとか」甘さ控えめの爽やかな味わい。「優しいとこも、似てると思う」「そう?」類は友を呼ぶというけれど。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-23 07:11:21
青波零也 @aonami

書き終り:類は友を呼ぶというけれど。

2023-04-23 07:10:54
青波零也 @aonami

春風に舞う桜の花びら。いつかと同じようで、確実に違う、桜の季節。出会いと別れの季節。「どうかしましたか?」友人の言葉に、かぶりを振ろうとしてやめた。そう、どうかしているのだ、僕は。「両親のことを、思い出していて」別れすら告げられなかったまま喪った大切な人たちを、忘れられずにいる。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-24 05:27:07
青波零也 @aonami

書き出し:春風に舞う桜の花びら。

2023-04-24 05:26:52
青波零也 @aonami

乾いた土の匂いが懐かしい。地面にうつぶせになったまま、どうして「懐かしい」か考える。きっと、子供のころの記憶。こうして横になって、ぼんやり蟻の行き交いを観察していたり、土と草の境目を眺めていたり、何でもないことを、不思議に思っていたころの記憶。もちろん、母にはとても心配されたが。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-25 05:11:24
青波零也 @aonami

書き出し:乾いた土の匂いが懐かしい。

2023-04-25 05:11:15
青波零也 @aonami

たまには何でもない日もいいだろう、という彼女の提案で、今日は休日になった。アンティークのポットとカップ、それからとっておきの菓子を用意して、僕らは並んで本を読む。仕事の本を読み進める僕の傍ら、彼女は立派な革張りの表紙を持つ、知らない言葉の本を読む。古い本の香り、ページをめくる音。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-26 05:16:47
青波零也 @aonami

書き出し:古い本の香り、ページをめくる音。

2023-04-26 05:14:46
青波零也 @aonami

気づけば、時計は零時を指していた。今日も泊まりか、と溜息を吐く。僕の仕事が特別遅いわけじゃない、仕事が多すぎるだけだ。「あいつは帰ったのか」上司の言葉に「はい」と頷けば、呆れた声が返される。「奴も残らせろよ」その通りではあるが、「僕が代わりに働くだけ、あいつの平穏が守られるので」 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-27 05:12:50
青波零也 @aonami

書き出し:気づけば、時計は零時を指していた。

2023-04-27 05:12:42
青波零也 @aonami

ゆっくりと時間が過ぎていく日曜日。時間を無駄にするのが惜しくて、身体を鍛える。いつものメニューに、普段はやらない種目を追加。運動と休息のバランスも考えなければ、ただ疲弊するだけで効果は薄い。鍛えるのは好きだ、かけた時間と労力に対する効果が明快だから。時に不毛な仕事とは、正反対に。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-28 05:10:33
青波零也 @aonami

書き出し:ゆっくりと時間が過ぎていく日曜日。

2023-04-28 05:10:18
青波零也 @aonami

鈍色の空に、雷鳴が轟く。稲光から雷鳴までの間隔が短くなってきたから、相当近いだろう。幼い頃の僕は光と音の速度の違いが理解できず、それらが同期していないのが何より気持ち悪かったと記憶している。ともあれ、開けたところは危険だ。落ちる大粒の雨を浴びながら、遠くの建造物目掛けて、駆ける。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-29 07:46:47
青波零也 @aonami

書き出し:鈍色の空に、雷鳴が轟く。

2023-04-29 07:46:20
青波零也 @aonami

塵も積もれば山となるとは、よく言ったものだ。「それ、そういう意味の言葉じゃないよね」「知ってる」「どうしてゴミ溜め同然までほっといたの」「意識に上らなかったんだ」「ほんと仕事はできるのに変なとこでズボラだよな!」仕事の多忙は言い訳にはならない。いつぶりかもわからぬ大掃除が始まる。 twitter.com/aonami/status/…

2023-04-30 05:00:58
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き出し:塵も積もれば山となるとは、よく言ったものだ。

2023-04-30 05:00:44

2023年5月の旅

青波零也 @aonami

猫が布団の中に寝そべっている。「あの」声をかければ、黒い塊のように見えるそれの、鮮やかな色をした目が煌めいた。「どいてくれるかな」僕の声に応えて目を瞬かせるも、身じろぎひとつしない。交渉は失敗だ。仕方なく、布団の真ん中に陣取る黒い毛玉を避け、隅に無理やり体をねじ込んで目を閉じる。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-01 06:16:32
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き出し:猫が布団の中に寝そべっている。

2023-05-01 06:15:55
青波零也 @aonami

差し伸べられた手を握り返す。ごつごつした感触は、積み重ねた経験を物語る。「助かりました」見知らぬ場所で右往左往する僕に、親切にも案内を申し出てくれた兵隊は言う。「いえ、お役に立ててよかったです。よい旅を」朗らかな笑顔に映える、白く整った歯並び。僕にはない、その煌めきが目に眩しい。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-02 06:34:23
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き終り:煌めきが目に眩しい。

2023-05-02 06:34:14
青波零也 @aonami

立ち止まり、ほどけた靴ひもを結ぶ。この靴との付き合いも随分長くなった。着の身着のままで旅に出て、服は必要なだけ買い求めているが、靴だけはずっとそのまま。汚れて元の色も定かではない表面に、すっかりすり減った靴底。次の町で買い替えるべきか、否か。思い切ることができないまま、旅は続く。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-03 06:27:56
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き出し:立ち止まり、ほどけた靴ひもを結ぶ。

2023-05-03 06:27:22
青波零也 @aonami

桜に似た、見覚えのない樹があった。白く、香り高く咲き誇る花の名を、僕は知らないけれど。「この地に眠る者を、慰める花だ」かつて、この地では醜い争いがあり、数多の罪なき人々の命が失われたらしい。「もしくは、この花こそが『彼ら』の魂かもしれないが」白い花弁がはらはらと、雪のように散る。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-04 07:32:44
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き終り:はらはらと、雪のように散る。

2023-05-04 07:32:28
青波零也 @aonami

「聞こえる?」問いかけに頷く。「気分に問題はある?」首を横に振る。瞼を開けば、妙に不安げなその人と目が合う。「あなた、突然意識を失ったのよ」なるほど。確かにまだ意識が朦朧としている。「そのまま安静に。ドクターを呼んでくる」言われた通りに横になったまま、見知らぬ天井を見上げている。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-05 06:43:41
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き終り:見知らぬ天井を見上げている。

2023-05-05 06:43:37
青波零也 @aonami

細長い影が地を這う。ひとつ、ふたつ、みっつ、たくさん。「こいつらが、」その後に続く音は聞き取れなかったが、おそらく、影の名前。「立ち止まるなよ、捕まったら終わりだ」具体的な説明が欲しい、と思った瞬間、ばくん、という音とともに並走していた人物が消える。なるほど。走る足を更に速める。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-06 08:00:22
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き出し:細長い影が地を這う。

2023-05-06 07:57:58
青波零也 @aonami

血も涙もない、という言葉を思い出す。視界に映る赤は、一応この身に流れる血を示してはいる。では、涙は。棺の中に物言わず横たわる二人を見下ろした日のことを、腕の中から消えたただ一人の大切なひとのことを、思い出す。頭の痛み以上に、胸が締め付けられて瞼を閉じる。それでも、涙は出なかった。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-07 07:46:46
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き終り:それでも、涙は出なかった。

2023-05-07 07:46:20
青波零也 @aonami

手帳の表紙は、すっかり擦れて色が変わっていた。「これは、確かにお前のものか」という問いに頷く。「中身は、レシピか」それと、人間観察の結果。ことあるごとにメモをするのは過去の仕事で身に着けた癖だ。今更手元にあっても仕方ないし、せめて役立てて欲しい。彼らの役に立つかは、わからないが。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-08 05:28:52
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き出し:手帳の表紙は、すっかり擦れて色が変わっていた。

2023-05-08 05:27:50
青波零也 @aonami

ロリポップキャンディにチョコレート。そいつの鞄からはいくらでも菓子が出てくる。「叩いたら増えたりするのか?」「ビスケットじゃないからなあ」キャンディを咥えて笑うそいつにとって、甘味は僕の煙草と同じ、意識を切り替えるための手続き。「さあ、仕事を始めようか」珍しくやる気がある証拠だ。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-09 05:14:50
青波零也/そ17a・COMITIA144 @aonami

書き出し:ロリポップキャンディにチョコレート。

2023-05-09 05:14:42
青波零也 @aonami

無数のカメラがこちらを向いている。不躾なフラッシュと、シャッターの音。レンズの向こう側に人の目を思う。今の僕は、カメラ越しの君たちには、どう見えているのだろう。僕が何を考えているのか、君たちはわかるのだろうか。僕自身にも定かではないのに。ああ、憎たらしいまでにすがすがしい青空だ。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-10 05:09:29
青波零也/J-08・文学フリマ東京36 @aonami

書き終り:憎たらしいまでにすがすがしい青空だ。

2023-05-10 05:09:19
青波零也 @aonami

お湯を入れて三分待つ。「カップ麺を作る時、すごい顔で時計睨むよな」「三分って書いてあるから」手順と待ち時間が書かれている以上、守った方がいいに決まっている。進む秒針を見つめる。「ほんと融通利かないな」僕よりも少し早くお湯を入れ、十数秒の誤差で蓋を開けるそいつをよそに、あと十九秒。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-11 05:17:45
青波零也 @aonami

永遠に変わらぬものなど、ありはしない。「何故、そう思うのです?」「時が流れる限り、何かしら変化しますよ。さもなければ、澱んで腐るばかりです。ただ、一つだけ」「心当たりが?」「死は、不変に限りなく近いのではないですか? 主観で変化を認識できなければ、何も変わらないのと同じですから」 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-12 05:10:29
青波零也/J-08・文学フリマ東京36 @aonami

書き出し:永遠に変わらぬものなど、ありはしない。

2023-05-12 05:10:10
青波零也 @aonami

いい夢だった。決して夢ではなく、現実に僕が過ごした日々なのだが、それでも「夢のような」日々だった。閉ざされた視界の中、背中を押されるように、一歩。かけられた、あたたかな言葉を思い出す。繋いだ手のぬくもりを思い出す。陽だまりのような思い出。目を閉じれば、夢の続きが見られるだろうか。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-13 05:15:54
青波零也/J-08・文学フリマ東京36 @aonami

書き終り:目を閉じれば、夢の続きが見られるだろうか。

2023-05-13 05:15:31
青波零也 @aonami

つまり、密室だったというわけだ。「ドラマみたい!」などと言い放つ、そいつの腰をどつく。「不謹慎だ、現実に人が死んでるんだぞ」「わかってるけど、密室だよ密室!」はしゃぐな、とそいつの脇腹に肘を捻じ込む。一見不可解に見えても、事件が起こっている以上は必ず解がある。僕らの腕の見せ所だ。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-14 07:35:58
青波零也/J-08・文学フリマ東京36 @aonami

書き出し:つまり、密室だったというわけだ。

2023-05-14 07:35:46
青波零也 @aonami

夢か現か幻か。「いやあり得ないっすよ!」僕もそう思う。突如として研究所を占拠したのは、武装した黒ずくめの集団だった。所員を人質に取った彼らから偶然逃れた僕らは、最上階まで追い詰められた。「だからって、ちょっと待って、」言いたいことはわかるが、待ってる暇はない。窓枠を蹴って、跳ぶ。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-15 05:24:27
青波零也 @aonami

尻に根が生えてしまいそうだ。「ちょっと待ってて」と二人で連れ立って行ったそいつは、まだ戻ってこない。無意識に、くしゃくしゃの煙草を引き出して火をつけたところで、苛立っているのだ、と気づく。「習慣づけだ」と僕の師は言った。「煙草を吸ったら、気分を切り替える」煙を吸う。呼吸を整える。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-16 06:21:35
青波零也/J-08・文学フリマ東京36 @aonami

書き出し:尻に根が生えてしまいそうだ。

2023-05-16 06:20:37
青波零也 @aonami

朝の冷たい空気に誘われ、公園に向かう。「今はちょうど、花が見ごろだ」と、彼女が言っていたのを思い出したから。確かに、植えられた色とりどりの花々が咲き誇っている。彼女はいつだって正しいし、僕の知らない世界を見せてくれる。かつては目にも留まらなかった名も知らぬ花が、肌寒い風に揺れる。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-17 05:20:34
青波零也/J-08・文学フリマ東京36 @aonami

書き出し:朝の冷たい空気に誘われ、公園に向かう。

2023-05-17 05:20:03
青波零也 @aonami

どれだけ歩いただろう、途方に暮れかけたところで、やっと見つけたバス停。あてもない旅だが、歩き詰めはそれなりに辛く、次の宿にも困る。このバスは、僕をどこに連れて行くのだろう。この先に、僕の場所はあるのか。ペットボトルの水を飲みほし、地図を広げてバスを待つ。見上げた空には、飛行機雲。 twitter.com/aonami/status/…

2023-05-18 05:28:13
青波零也/J-08・文学フリマ東京36 @aonami

書き終り:見上げた空には、飛行機雲。

2023-05-18 05:28:07
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