陰陽寮が残っている現代で、記憶あり力ありの状態で転生し、当主として仕事してる晴(7歳)が、インチキ占い師としてアングラ系で働いていた記憶なしだった道(25歳)を拾って側におく話。 道による晴健やか子育て話。完結しました。
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泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「と、まあ。ごらんの通り、拙僧とて今世を生きる大人でございますれば?小さき子供に対して無体を働く訳にもいきますまい。ええ、たとえ前世の記憶を持ち合わせようと、この体は7つの子にて」 「カラスの童謡の題名って、そういう名前でしたね」 「晴殿、お口チャック」

2021-06-08 13:41:19
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

童に言い聞かせるように、指で口を閉じるように言う道に、慌てて口を噤んだ。記憶があるので精神的には爺のつもりなのだが、つい従ってしまった。 「拙僧といたしましては、前世は前世。今世は今世だと思っておりまする。晴殿はまだ7つの子。本来なら学校で遊び学ぶのが仕事でございましょうや」

2021-06-08 13:54:02
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

子供に仕事させんじゃねーよと言いたいのだろう。美しく微笑む道に祖父と父は後ろ暗いのか視線を合わせなかった。 「拙僧は確かに平安の世で京を転覆せしめんとした大悪人。晴殿と対立いたしました。しかしながら今世、晴殿と会ってみれば童ではないですか。驚きましたとも。まさか仇敵が子ですぞ?」

2021-06-08 14:08:58
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

道はとても美しく嗤った。黒曜石の瞳をうっとりと細め、唇を蠱惑的につりあげる。人の意識を絡め取る術が、薄い唇から滴り落ちているが、祖父も父もきっと気付いていないだろう。はあ、とため息をついた。 「……晴殿につきましては、成人されるまでお仕事は全て拙僧を通されよ。よいな?」

2021-06-08 16:34:10
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

有無を言わさぬ言葉に、祖父も父もこくりと頷く。意識を絡め取られている以上、道の望むままにしか動けない。ぼうとしたまま退室していった2人を見送り、道は満足そうににんまりと笑った。 「重畳、重畳」 「こら」 「あ痛」 ぺちんと扇子で道の額を叩く。むっとする道に晴は深くため息をついた。

2021-06-08 16:37:32
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「人の意志を操る呪は使うなと、教えていたはずですが?」 「ンンンン?さァて、そのような事はございましたでしょうか。とんと記憶に、」 ぺちん。再び扇子で額を叩く。つーんと膨れっ面のままそっぽを向いた道の手を取った。

2021-06-08 16:39:55
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「ですが、おまえが私を思ってこういう手段を取ったことにつきましては、礼を言います。子供の体に無理をさせるなど、本当はあってならないこと。おまえの言うとおりです」 だが、人の意識を絡め取る術は相手に重大な副作用を起こす可能性もある。道ほどの術士であれば、手加減を間違わないと思うが、

2021-06-08 16:44:03
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

もし手元が狂ってしまっていたら、あの2人は廃人同然となっていただろうし、それを道に背負わせたくなかった。 「今後、人の意識を絡め取る呪は禁止です。今回は不問といたしますが、次回からは赦しません。わかりましたね?」 「……」 「道」 「…………かしこまりました」

2021-06-08 16:46:04
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

不服そうにしながらも頷いた道に、うんとこちらも頷く。 「道、先ほどおやつを食べていて何ですが、お腹が減りました」 「そうでしょうなぁ。ですが夕飯まであとちょっとでございまする。まあ、じいや殿には内緒にしてくださるなら、拙僧の隠しおやつを分けてさしあげましょうぞ」

2021-06-08 16:54:44
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

そう言って抱き上げられて、和室を後にした。握りしめた僧衣からはわずかに伽羅の香りがする。道の肩に顔をうずめ、それをすうっと吸い込めば、緊張していたのか強ばっていた体から力が抜けていくのがわかった。

2021-06-08 16:56:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

じいやに内緒でお菓子を食べた。砂糖がまぶしてある、小さい小さいドーナツを食べた。道が持つと更に小さい。2人で分けて食べて晩御飯とお風呂を済ませて、2人並んで陰陽道の話をした。 道はまるで水を吸うスポンジのように教えたことを吸収する。また自分でも理論を構築し、全く違う解釈を出すので、

2021-06-09 01:23:30
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

私もとても勉強になった。記憶を取り戻すまでの道の生活の話は、時折眉を顰めるような内容はあれど、だいたいは笑い話ですむ話ばかりを道は話してくれた。野草の毒性を利用した話や、反社会的組織のトップに気に入られて危うく貞操の危機だったとか、割と洒落にならない話もあったけれど、

2021-06-09 01:25:42
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

この洋館からほぼ出たことがない私には、道が語る世界はとても刺激的で、まるで別世界のようだった。 「明日天気がよければ、料理人殿にお弁当をこしらえてもらって、お庭でピクニックでもしましょうか」 「ピクニックですか。楽しそうです」 「楽しいですとも。じいや殿や護衛の皆様も一緒ですから」

2021-06-09 01:28:11
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

安倍家当主が残してきた手記を見ながら、道は楽しそうに笑った。祖父と父と応対した時とは違う、穏やかな優しい笑顔だ。 「では、明日快晴になるように、呪を編みましょうか」 「晴殿がやられると、確実に快晴になりそうですなぁ」 「なりますよ。だって私は最高最優の陰陽師なので」

2021-06-09 01:31:15
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

料理人に明日晴れたら、庭でピクニックをしたいと言えば、彼は「晴れるでしょう」と軽快に笑った。晴様がお好きなサンドイッチをたくさん作りますねと笑う彼に、道はほっと胸をなで下ろす。安倍家の人間には、晴の祖父や父のように利用しようとする人間だけではないのだと気付かせられる。

2021-06-09 17:17:50
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

風呂からあがってきた晴の髪から水滴が滴り落ちていたので、逃げようとする首根っこを捕まえて髪の毛を拭き上げた。 「ドライヤーをあてまするゆえ、大人しくなされよ」 「……別にドライヤーまでしなくてもいいでしょう?自然乾燥で十分です」 むすっと拗ねた様子の晴を、無理やり目の前に座らせた。

2021-06-09 17:20:26
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「いいから、大人しくなさい」 風を当てて丁寧に乾かしていく。おそらく熱風が首にあたるのが苦手なのだろう。首を亀のようにひっこめている姿が、歳相応の子供のようだった。 「照る照る坊主を作りましょうか」 「照る照る坊主とは?」 「明日が天気になるように願い呪いの一種ですな」

2021-06-09 17:25:06
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

実際にティッシュを使って作って見せたところ、特に強い術をこめた核を埋め込む訳でもない呪いに晴は首を傾げていた。 「……大陸の晴娘に近い感じですかね?」 「ああ、そうですな。晴娘も由来の1つでございまする」 大雨が降り続くため、娘が天に祈ったところ、天からの声で龍王が妃に望んでおり、

2021-06-09 18:05:20
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

妃になれば雨を止めてやると言われ、娘が了承したおかげで雨が止んだという伝説だ。その娘を晴娘と呼び、軒先に娘をかたどった人形を吊すと晴れるという呪である。 「照る照る坊主には童謡がありまして、その3番の菓子に『それでも曇って泣いたなら、そなたの首をチョン切るぞ』というのがありまする」

2021-06-09 18:08:19
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

長く続く雨のため、僧がお経をあげるのですが止まず、嘘つきと言われ首を切られてしまう。そしてその体を吊したところ、次の日雨があがったという話である。 「……人間って、本当に残酷ですね」 「そうですなぁ。まあ、大正時代ごろに作られた歌詞でございますので、真贋のほどはわかりませぬ」

2021-06-09 18:12:11
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「え、つまり……」 「そういう歌詞が残っておりまするが、それが照る照る坊主の由来であるかどうかは不明ということです。都市伝説の一種ですぞ」 「……少し本気にしたじゃないですか!!」 怒る晴に対して、道はけらけらと笑った。

2021-06-09 18:13:46
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「せっかくですから、本当の呪いもこめてみましょう」 そういって、無地の札にささっと快晴祈願の文言を書いてくしゃりと丸めて、照る照る坊主の中に入れ込んだ。 「これで明日晴れます」 「100%晴れる照る照る坊主でございますか……なんと情緒のない……」

2021-06-09 18:26:32
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「だって、ピクニック楽しみなんですよ」 すねたように頬を膨らませる晴に、道はからからと笑った。子供らしからぬ晴が、子供のようにはしゃいでいるのを見れるのが嬉しかった。 「ピクニックに図鑑を持っていってもいいでしょうか?庭の植物を観察したいです」 「ええ、もちろん」

2021-06-09 18:44:08
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

この庭にはたくさんの花が植えてあった。まるで無聊を慰めるかのように。 「こんなにたくさん花が植えてあるなんて知りませんでした」 「定期的に庭師殿がいらっしゃって整えてくださってるらしいですよ」 「とても綺麗ですね……」 アジサイだけでない。夏を彩る花がいたるところに植えられている。

2021-06-10 14:58:15
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

ピクニックの名の通り、木陰にシートを敷いて、お弁当を広げる。私が好きなものばかり詰められたお弁当ににこにこしていると、道が水筒からお茶をついで差し出した。 「水分補給もしっかりなさいませぬと」 「うん、ありがとう」 平安の世では、茶葉は神聖品。仏に捧げるもので貴族であろうと

2021-06-10 15:00:44
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

手軽に飲めるものではなかった。麦湯なら、上流貴族であれば手に入れられただろうが、今世のように色んな茶葉を楽しめなかった。 「おいしい……」 「平安の世では飲めて白湯、あとは酒くらいでしたな。よい時代になったものです」 しみじみと言う道にこくりと頷いた。

2021-06-10 15:05:18
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「酒かぁ……今世だと20歳になってからしか呑めないのでしたっけ?」 「ええ、晴殿はあと13年後ですな」 「13年後……長いですねぇ……」 肩を落とす晴に、道はからからと笑った。 「なぁに。千年より短こうございまする。あっという間でしょうや」

2021-06-10 15:16:10
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「舐めるだけでも……」 「ダメです。20歳になってからのお楽しみになされ」 ぴしゃりと言われて、むっとしつつも大人しくサンドイッチをかじる晴の頭を撫でた。くすぐったそうにする晴に道はにこりと笑う。 「20歳になったとき、一緒に酒を呑みましょうね」

2021-06-10 15:29:59
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

昼間、植物図鑑片手に庭を駆け回ったりしたせいか、いつもよりとても眠い。大きなベッドに横になりながら、晴はうとうとと船をこいでいた。 「眠いのなら、寝てしまいなされ」 「うー……もう少し、起きていたい、です……」 嫌々と首を振る晴に道は苦笑をこぼした。

2021-06-10 15:42:48
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

ぽんぽんとあやすように胸を叩かれては、もはや眠気に勝てるすべはない。とろりと瞼が降り始めた。 「……道、やくそく。20歳になったら、」 「ええ、約束します。20歳になりましたら、一緒にお酒を呑みましょうね。楽しみにしていますよ」 その言葉を聞いて、晴はすうっと眠りについた。

2021-06-10 15:48:56
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「……ええ、約束しますとも。20歳までは側にいると」 道の手には、こっそり晴の父親からの手紙が握られていた。

2021-06-10 15:50:12
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

記憶あり転生現パロ晴道。 長くなったので、こちらで新しくツリーをたてます。 晴、10歳になりました。

2021-06-10 16:36:51
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

10歳にもなれば、それなりに安倍家の当主として顔を出すことが多くなってきた。今までは祖父と父、あと財政界の重鎮などが少人数で邸宅までやってきていたが、最近は邸宅の外部者用区域に多くの陰陽師が集まり、当主の指示を仰いでくるようになっていた。 道は相変わらず仕事内容には口を出さない。

2021-06-10 16:39:37
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

人がたくさん集まった時に、その横にそっと静かに座っていることはあるが、基本的には安倍家に任されている仕事について何も言わない。 道を側付きにしてからしばらくは、仕事の席に同席していたけれども、10歳になってそれなりに任せられると番、最近では余程のことがないと同席しなかった。

2021-06-10 16:42:09
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

特に血族だけの集まりの時は、道は同席しなかった。同席したとして、他の皆からは良い顔をされなかっただろうし、血族内で秘匿にしていることもあって、道は血族の集まりの時は外部者用区域にすら近寄ろうとしなかった。 まあ、道なら側にいなくとも、部屋の中の声くらい拾えるだろうしと思っていた。

2021-06-10 16:44:18
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「全く聞いておりませぬよ」 「え?術も何も使ってないんです?」 こくりと頷く道に、晴は大きく目を見開いた。てっきり、側にいないけれど血族の動向について耳や目を見張らせていると思っていたのに、全く関与していないというのだ。混乱する晴をよそに、道は読んでいた本を閉じて笑った。

2021-06-10 16:46:22
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「あなたも10歳になりましたからね。最近はちゃんと分別をもって、仕事の選別ができるようになってきましたし……血族内のことについては、目も耳もいらないかと思いまして」 「あ、つまり、血族内のこと以外は目も耳も見張らせているんですね?」

2021-06-10 16:48:04
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

晴がそう言うと、道はにっこりと笑っただけに留めた。なるほど。血族内のことについては、安倍家の問題なのである程度、こちらの裁量でさばけということだろう。ただし、外部のことについては、ある程度見張っていると。 「しかし、血族全員ではありませんが、結構人数がいますね。びっくりしました」

2021-06-10 16:50:27
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「平安の世より千年。子孫も多くなるでしょうしねぇ」 「子孫繁栄、良いことです」 「……その分、血が薄くて箸にも棒にもかからない者が多い気がしますが」 「おまえから見たら、祖父も父も箸にも棒にもかからないだろうよ」 顰めっ面をする道に、晴は苦笑いをした。

2021-06-10 16:53:02
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「そういえば、ずいぶんと背が伸びましたな」 「平均身長より低いんですけどね」 10歳の平均身長は約138cm。晴の身長はそれに僅かに届かなかった。 「7歳のころの痩せた体に比べたら、随分と大きくなりましたぞ?それに、手も足も大きゅうございまするゆえ、もっと大きくなるでしょうなぁ」

2021-06-10 17:16:47
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「道より大きくなれますかね?」 「拙僧より大きくなるおつもりで?」 ころころと笑う道に、晴もあははと笑った。 「そうですなぁ……今世の栄養事情はかなり良いですし、あの平安の世でもあの身丈だった晴殿ならあり得なくも……まあ、余り大きくならぬ方がよいでしょう」 「なぜ?」

2021-06-10 17:21:39
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「服を探すにも大変ですし、着物を仕立てるとなると通常より反物が長く必要ですからね」 今世でも2mある道は、側付きとして得ている給料を貯めて、定期的に着物や服を仕立てているらしかった。 「早く大きくなりたいです」 「焦らずともなれますとも」

2021-06-10 17:24:32
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

晴は、髪を伸ばしていた。そもそも学校に行ってる訳でもなく、ほぼ洋館に籠もりっきりで、出会う人間はほぼ身内である。例え他人と会うとして、それから変な評価を受けたとしても、鼻で嗤うだろうが。 10歳になり当主として動くことも多くなったので伸ばし始めた訳である。それに髪には力が宿る。

2021-06-10 18:15:46
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

髪を伸ばし始めたら、道は喜んで髪の手入れをしたがった。わざわざつげ櫛で髪を梳き、手入れに椿油を丁寧に染み込ませていた。道が丁寧に手入れしている櫛で髪を梳かれるおかげか、自分の髪はつやつやとしていた。 血族内での集まりがあるため、白い狩衣を身にまとう。それと一緒に髪紐で結った。

2021-06-10 18:22:19
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「それでは、いってらっしゃいませ」 「行ってきます」 外部者用区域の手前で、道がつないだ手を離してにこりと笑っている。こくりと頷いて、身内の待つ部屋へと歩いた。 もう、昔のように服の裾を踏んで転ぶこともない。10歳になったのだから。

2021-06-10 18:24:01
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

安倍家は平安の世の私、晴を祖とした陰陽師一族である。古くからこの国を守るため、無数の糸を編んだような結界を国中に張り巡らしている。平安の世で最高最優の陰陽師が編んだ結界とはいえ、さすがに千年たてば綻びもでる。それを当主になった5歳の時から、修繕しているのだが。

2021-06-10 18:37:40
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「南九州で、山から怪異が降りてきていると報告が」 「……ああ、糸に反応がありました。調査員を霧島へ。異界の扉が開きかけているようです」 「かしこまりました」 全国各地にいる陰陽寮の調査員の声を吸い上げ、安倍家が張り巡らせた糸で原因を探る。ある意味、陰陽寮との共同作業である。

2021-06-10 18:44:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

なんとなく。なんとなくだが、結界に何かひとつ足りないのだ。 平安の世に組み上げた結界そのままに組み直し、修繕したというのに、どこか千年前と違う気がする。もちろん、当時より神秘が薄れた今世では、前世よりも術が組みにくいのはあるが、それでも何か違和感があった。

2021-06-10 18:46:13
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「ああ、そうです。2ヶ月後に大雨がきます。ここと、ここ」 近くにいた安倍家の人間が、さっと地図を広げる。 「土砂災害……まではいかなくとも、法面の崩壊が見えます。元より法面の老朽化が進んでいるようです。検査と共に、数日間の交通規制を」 扇子で指したところを、父の側の陰陽師が控えた。

2021-06-10 19:16:33
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「あとは……」 ぎゅっと目を瞑った。今の和室の視界から、視線が、目が、高く高く空を飛ぶ。雲より高い位置に目を持ってきて、雲の流れを見る。日付を1日、2日、3日と高速で早回しして天気を視た。 「…………ばけもの」 小さく小さく。おそらく自分から遠いからと聞こえないと踏んで呟かれた言葉。

2021-06-10 19:22:44
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まとめたひと
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

腐垢。成人済。 その時々にはまったCP吐き出し用。現在fごの晴道と神陛にはまっています。晴道や神陛吐き出し中。 道受も道攻も好きですが、晴道固定派。 吐き出したネタは定期的にプライベッターやminへ移しています。 マシュマロ→marshmallow-qa.com/v4v7mv9ckziiws…