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楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月16日】 懐中電灯を見せびらかすように回して、唇をとがらせた。 「夜に抜け出してくるだけで大変だったんだからさ……、」  亮は眉をしかめて、もごもごと言い返した。まったく、良識というものがない。 「そんなの! 大発見なんだぞ。もし見つけた pic.twitter.com/zuHlXNEksk

2022-07-16 08:00:17
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楠羽毛 @kusunoki_umou

ら……、」  かちかち、と落ち着かなげに懐中電灯のスイッチをいじりながら、崇は早口で言いつのる。少しずつ高くなる声で。 「もし、ったって──」  ……いるわけないだろ、プールに巨大魚なんか。そう言いかけて、ぐいと近くなった崇の顔に気圧されて黙る。 「見た奴がいるのさ! タカノリの友達

2022-07-16 08:00:18
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月17日】 だかなんだか──、」 「タカノリ? ずっと行方不明じゃんか。そんな前の話なの?」 「いや、また聞きだから……そいつが魚を見たのは最近らしいんだけど。でもね、なんとなく時期が符合するんだ。ちょうどタカノリが消えたころに、プールに水 pic.twitter.com/EsjEtj44Jf

2022-07-17 08:01:04
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が張られて──」 「そんないい加減な話! だいたい、授業もあるし、水泳部だってずっと使ってるんだぞ」  言いながら、なんとなく、あたりを見回す。崇がふり回している懐中電灯の光が、あちこちに飛んでいる。さすがにこの時間、学校には誰もいないだろうが、近所の人に見とがめられたら面倒だ。

2022-07-17 08:01:06
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月18日】  ふと、一瞬だけ、光の筋がプールを横切る。 (……あれ?)  亮は、じいっとプールを見上げた。光があたったのは一瞬で、よく見えない。けれども、あれはたしかに。 「……ちょっと、懐中電灯貸せよ」 「え?」  すっと崇の手から電灯をう pic.twitter.com/THSuVEF5rN

2022-07-18 08:00:29
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ばって、プールに向ける。  フェンス越しに、──みえる。  すぐに、スイッチを切って、亮はすっと息をのみこんだ。冷や汗を、蒸し暑さのなかに隠して、語気が荒くなりそうなのをぐっとこらえて。 「おまえ、帰れよ」 「え、……なんでさ」 「いいから! ぼく一人で見てくる。絶対に!」  ふたり

2022-07-18 08:00:31
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月19日】 は、5秒ばかりじっと目を見交わして、──崇はぎゅっと眉根を寄せて、刺すように一度だけ亮をにらみつけてから、 「わかったよ!」と、吐き捨てた。  亮は、うん、とだけ答えて、それから塀のうえに両手をかけた。懐中電灯をもった右手がかた pic.twitter.com/STloJ7B7Az

2022-07-19 08:00:14
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かたと震えて、体重がうまくかからない。  すっと、右手から懐中電灯が離れた。崇のつめたい手が、一瞬だけ触れる。 「よっ……、」  うめくような掛け声とともに、亮は塀のうえにはいあがった。下から崇がさしだしてくる懐中電灯を、青ざめた顔で受け取る。 「……気をつけて。」  いつにない静か

2022-07-19 08:00:16
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月20日】 な声で、崇はそういって、  小さくつりあげた唇を、ふっと緩めて、それから小さく手をふった。  亮は、ありがとう、と小さくつぶやいて、塀からとびおりた。 * 「伊藤さん!」  つんざくような、……かぼそい、少年の声。  明日香は、し pic.twitter.com/RRfNoNFX2s

2022-07-20 08:01:40
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ずかにふりむいた。少年はフェンスを越えてきたらしく、片手を網目にそえて、もう片方の手を腰にはさんだ懐中電灯に伸ばそうとしている。眼鏡をかけた目を、ぎゅっと細くして。  柏木亮。ぼんやりと、思い出す。  懐中電灯が、こちらへ向く。一瞬後、すぐにスイッチが切られる。明日香はぱちぱちと目

2022-07-20 08:01:42
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月21日】 をしばたかせて、それから気づく。裸だ。 「伊藤さん……、」  亮は、金魚みたいに口をぱくぱくさせて、……それから、黙ってしまった。 「柏木くん、」  明日香は、右耳にかかっていた髪を、右手でぐいと除けた。水泳帽をかぶっていないので pic.twitter.com/twFTGKfiil

2022-07-21 08:01:17
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、水につかるとざんばらに解けて、実にうっとうしい。  明日香は、プールの中にいる。  首だけを、まるで晒された生首みたいに、水面から出して。 「伊藤さん、」  三度、亮はくりかえしていった。  ふるえる手で、懐中電灯をなんとか握って、深呼吸を二回して。 「なに、……してるの。」 「柏

2022-07-21 08:01:19
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月22日】 木くんこそ。」  明日香は、いつもの、高い声で──いや、少しだけ沈んだ、喉にひっかかったような声で、 「こんな時間に、どうしたの。」 「ここに、……魚が、出るって。崇が、……」 「あぁ、」  突然、水面から姿がきえた。  いや、潜っ pic.twitter.com/ak22u51b5g

2022-07-22 08:01:00
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たのだ。亮はびくんと震えて、それからおずおずと、二歩だけ水面に近づいた。懐中電灯を点けようかと迷っている間に、もう一度ざばんと水音がして、プールサイドに、彼女の顔が。 「……ね、柏木くん」  塩素のにおい。  夜のかすかな光に照らされた裸の肩が、意外なほど近くて。 「魚を、見にきたの

2022-07-22 08:01:02
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月23日】 ?」 「そう、……だよ」  声が、かわいていた。懸命に目をこらすが、ほとんど何も見えない。ただ、塩素の匂いと、なにか生臭い体臭のようなものが、色白の肌から、むわりと漂いだして空気を澱ませている。 「……プールに、そんなの、いると pic.twitter.com/WqNUlPYvNl

2022-07-23 08:00:13
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楠羽毛 @kusunoki_umou

思う?」 「さァ、」  亮はボンヤリとそう答えて、それから、あわてて首を振った。 「……いないよ、わかってるよ、崇がさ……、」 「神社にさ」 「え、」 「いたの、」 「なにが。……魚が?」 「うーん、」  明日香は、目をそらしてぐるりと首をまわした。髪がぱちゃんと跳ねて、水滴がとんでくる

2022-07-23 08:00:15
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月24日】 。 「ナナちゃんがねえ、本屋にいくって言うから。」 「え?」  ナナちゃん。ちょっと考える。たしか4組にいる、明日香のふたごの妹が、そんな名前だったような気がする。そっくりの、ふたり並ぶとまるで、そろいの人形のような。 「私も、家 pic.twitter.com/53LHtFiAla

2022-07-24 08:01:01
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にいるよりどっか出かけようと思って。……神社にさ」 「神社?」 「まえから、行ってみようと思ってたの。……ほら、駅のとこの……、」 「駅って、」  ここのもより駅には、神社などない。いや、あっただろうか? 駅裏の、小さな林のあたりに、もしかしたら。 「ほら、あやのやの隣の!」 「あぁ、

2022-07-24 08:01:03
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月25日】 」  もより駅の話ではなかった。となり町だ。ちょうど、ふた駅むこうの。たしかに、あのあたりには、大きな神社があった……ような気がする。 「前に一度いったんだけど、ご朱印はもらってなかったから」 「それで、……」 「……神社の境内に pic.twitter.com/zrtDPH4Bh4

2022-07-25 08:01:12
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、こう、のぼってく道の途中にさ、……流れてたの」 「流れて?」 「水、が。」  ぽちゃんと、プールの水がはねた。その音におされるように、二人はしばらく黙りこんだ。30秒ほどか。それから、また静かな水面を乱すように、明日香が喋りはじめる。 「……小川っていうか、ちょっと雨がふって水が流

2022-07-25 08:01:14
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月26日】 れたみたいな……そこに、いたの」 「なにが」 「魚、が。」  すっと、明日香はプールから右手をだして、水をすくいとるようにすっと差し出した。亮はおもわずその手に顔をちかづけてじっと見たが、何もなかった。ただ、白い手に、ほんの少し pic.twitter.com/VGb25eLPyJ

2022-07-26 08:02:34
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の水があるだけ。 「……このくらいの、小さな、魚。ヘンな形の……」 「……めだかか、何か?」 「そんなんじゃない」  ちゃぽんと指をひらいて、水をまたプールにおとす。やっぱり、何もない。 「なんか、こう、細長くて。それでね、手をだしたら、スウっとのぼって来て」 「手を、のぼって?」 「

2022-07-26 08:02:35
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月27日】 そう。それでね、どっかに行っちゃった」 「……それ、魚じゃないんじゃないの」 「わかんない。それでね……、」  また、音。  風が、水面を揺らしたのか。それにしては、大きいような。 「プールで泳いでたら、出てきたの。」 「……なに、 pic.twitter.com/ya8Y3gTmm3

2022-07-27 08:01:52
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が?」 「だから、魚」 「そんなの……、」 「昼間はこう、透き通って、だれにも、見えないみたいなんだけど。大きくてさ……一緒に泳ぐと、気持ちよくて」 「それ、」  本当に魚なの、ともう一度、口を開こうとして、ふと気づく。  ふるえる手で、懐中電灯のスイッチを入れると、……揺れている。

2022-07-27 08:01:54
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月28日】  水面が、ではない。明日香の体が。  左右ではなく、上下に。  足が、プールの底についているはずなのに。まさか、ずっと立ち泳ぎを。  いや……、 「ほら、」  明日香の声は、ざぱんと大きな水音にかき消されて。  亮は、顔にかかった pic.twitter.com/1xcyU2qdkq

2022-07-28 08:01:00
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水しぶきに思わず懐中電灯をとりおとして、それから叫びだそうとするのをぐっとこらえて、ずれた眼鏡を直し、あかりを向けなおした。  上へ。  水面から、ぐっとかま首をもたげるように、大きな、……巨大な、蛇のようなシルエットをした生き物が。  蛇、いや、うなぎのような、ぬるぬるして、小さ

2022-07-28 08:01:02
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月29日】 さなひれが、えらの後ろに。  それが、  明日香の下半身を、まるごとくわえて、大きくもちあげている。 「ア……ァ、」  水面下で、大きく、その生き物の体がうねるのが見えた。とぐろをまくように体をおりまげて、プール全体に大きくひろ pic.twitter.com/p3q65LDlhW

2022-07-29 08:01:11
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がって。  明日香は、へそより下をすっぽりと魚の口のなかに入れて、上半身を大きく乗り出すようにして、こちらを見ている。  両手を、こちらに向けて。 (……人魚、)  そんな言葉が浮かぶ。あまりにも場違いな。  裸の腹に、魚の小さな歯が喰いこんで、血がにじんでいるのが見えた。 「……だい

2022-07-29 08:01:13
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月30日】 じょうぶ。」  明日香は、はねるような高い声で、……しずかに言った。 「こわくないよ。……いっしょに泳がない?」  その言葉が聞こえたように、……魚は、ぐいと体を動かして、明日香をプールサイドに突き出すようにした。すぐ間近に、明 pic.twitter.com/ZH2UQ2XCNF

2022-07-30 08:00:12
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日香の大きな目が。  白い肌が。  ぬるりと濡れた髪が。  塩素と、なまぐさい魚のにおいと、それから…… 「たのしい、よ」  ぴとりと、明日香の濡れた指が、亮の右手にふれた。  そうして、  亮は、なにも考えられなくなった。 * 「……ねえねえ、聞いた?」  ぐい、と肘をおして、うわさ

2022-07-30 08:00:14
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年7月31日】 をする。何しろビッグニュースだ。 「水泳部、活動中止だって」  いいながら、未希はちょっと眉をしかめる。いきおいで話しかけたが、この子、なんという名前だっただろうか。たしかに、同じクラスにいたはずだが。 「……どうして?」  赤い pic.twitter.com/TkS26TVgmP

2022-07-31 08:00:47
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髪留めをした少女は、ちょっと低い声で聞き返してくる。ほんとうに誰だっただろう。喋ったことだって多分何回もあるはずだが。 「なんかね、よくわかんないけど。……いま、警察が来たみたい」 「なあにそれ」  少女は、きょとんと目を丸くして、ちいさく笑った。……それから、ため息。  廊下の窓

2022-07-31 08:00:49
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月1日】 から、遠くに見えるプールの、うっすら紅く染まった水面を眺めながら。 (人魚族 了) pic.twitter.com/2jk0UqInnI

2022-08-01 08:01:19
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巨人(9月10日 岡くるみ) 「……最近、なに食べても体重が増えちゃう」  くるみは、小さな声でそうつぶやいた。  給食の、フォークで巻いたミートスパゲッティを、ゆっくりと口に運ぶ合間に。ゆっくりとした声で、ゆっくりとため息をつきながら。 「え、オカさん、あんまり食べないじゃん」

2022-08-01 08:01:21
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月2日】  斜め向かいにすわった未希が、オカーさん、と少しのばした声で。お母さん、とはっきり言われることもある。まあ、あだ名みたいなものだ。 「そんなことないよ、」  ようやく一口を飲み込んで、いいかけると、右側から。 「オカアサン、めっち pic.twitter.com/uy8hWLpriv

2022-08-02 20:04:24
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ゃ食べるよ。こう見えて」  無遠慮な、高い声がとんでくる。  塚本さんだ。くるみは思わず身をかたくして、小さく首をふった。 「そんなでも、……ないけど」 「うそ。食べるのが遅いだけで、ほっといたらめっちゃ食べるじゃん」  くるみは黙って、またスパゲッティを口に入れた。たしかに、その通

2022-08-02 20:04:27
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月3日】 りだが。  ひととおり咀嚼して飲み込んでから、ちょっと小さめの声で、訊いてみる。 「……マユー、前すごい痩せたっていってたよね」  塚本さんとは反対の、となりの席の子に。 「前って、夏休み前でしょ」 「それでもさ……、」 「あれ、な pic.twitter.com/tjOzcbjuT5

2022-08-03 08:01:51
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んかおかしかったの。また元に戻っちゃったし」 「わたしも」 「わたしも、なに?」 「わたしも、なんかおかしいの。最近」 「ええ?」 「だからさ──、」  今度は、耳にそっと口を近づけて。ささやくような声で。 「食べたら、太っちゃうの。食べたぶんだけ」  きょとん、と見返されて、くるみは、

2022-08-03 08:01:53
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月4日】 もう一度、ひそかにため息をついた。 * 『大』のボタンをおして、流す。水だけ。  トイレを出て、手を洗う。水音にまぎれて、ため息。  今日も、出ない。もう一週間だ。  それなのに、体調はとてもよい。下腹部を触ってみるが、溜まってい pic.twitter.com/UkPMWas7CH

2022-08-04 08:01:36
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楠羽毛 @kusunoki_umou

る感じはしない。どこかに消えてしまったみたいだ。  とにかく、体重ばかりが……、 「ご飯だよ、」  と、母の声。あわてて廊下をぬけて、ダイニングへ。席につくと、珍しく姉が先に座っている。「ねえ、」と目の前に置かれた茶碗に、姉が文句をつける。 「ちょっと減らしていい? 多いよ」 「えぇ

2022-08-04 08:01:38
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月5日】 ?」  母がすっとんきょうな声をあげる。父は、軽く眉を動かしただけ。 「いつも、そんなこと言わないじゃない」 「ダイエット!」 「だめ、成長期なんだから」  ぐいと、茶碗を押しつけるように母が動かす。姉は一瞬だけ、ぎゅっと唇をかむよ pic.twitter.com/sddJ0ZaJsT

2022-08-05 08:01:04
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楠羽毛 @kusunoki_umou

うにして、それから、はぁい、と小さな声で返事をする。  くるみは、気づかれないように唇をすぼめて、ため息をつく。  姉は、ぜんぜん太っていない。すらりと長身で、姿勢よく椅子にかけている。肩幅は狭くて、手首だって、くるみの半分くらいの太さしかない。  姉妹なのに、似ていない。顔も、体

2022-08-05 08:01:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月6日】 も。 「……いただきます、」  姉と同じくらい盛られた茶碗に、そっと箸をつける。ゆっくりと噛む。それから、豚肉のしょうが焼きに手をのばす。 「あ、ねえねえ、明日」 「うん、」  姉と父の会話がきこえてくる。 「明日、あたし誕生日じゃ pic.twitter.com/VOizOUuIl1

2022-08-06 08:00:12
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楠羽毛 @kusunoki_umou

ん」 「うん、」 「だからさ、……スイートライティングに」 「なんだ、それ」 「ケーキバイキングのお店!」  ようやく席についた母親が、口をはさむ。 「ダイエットしてたんじゃ、なかったの?」 「別腹!」 「そういうのは、ボクはちょっとなぁ。お母さんと行ってきなよ」 「いいの? お母さん」

2022-08-06 08:00:13
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月7日】 「いいよ。お昼ね」 「くるみも!」  いわれて、くるみは箸をとめた。明日は土曜日。予定はない。いつもなら、ふたつ返事だ。けれども、 「私、……いい」 「え?」  きょとんと眉をしかめる姉に、やっとしぼりだすような声で、 「……行かな pic.twitter.com/UWVumLQ0qH

2022-08-07 08:01:26
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楠羽毛 @kusunoki_umou

い。ごちそうさま」  立ち上がって、……ほとんど減っていない茶碗を、姉のほうに押しやる。 「くるみ、……ねえ」  姉が、唇をこわばらせて、まんまるく見開いた目をこちらに向けている。 「……大きく、なった?」  いわれて、思わず後ずさると、  ドアの上枠に、頭のてっぺんが当たって、少し

2022-08-07 08:01:27
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月8日】 擦れた。 *  自室にもどって、ベッドに腰かける。心なしか、部屋まで小さくなったような気がする。もちろん、そんなわけはない。  ベッドサイドで充電しっぱなしのスマートフォンが目に入る。通知ランプが点滅している。のろのろと手にと pic.twitter.com/14cGvhkzlf

2022-08-08 08:01:27
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って、ロック画面の通知をダブルタップする。姉に勝手に入れられた、アニメのキャラクターの壁紙が消えて、メッセンジャーアプリが起動する。 『おかあさん、ごめん!コバの数学、マジ無理!』  スマイルの絵文字と、『焦り顔』のスタンプ。未希からだ。 『おねがい、写させて!』    くるみはち

2022-08-08 08:01:28
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年8月9日】 ょっと眉をしかめて、 『ごめんね、まだやってない』  ──と、打ち込みかけて、手を止めた。 『いいよ。でもいま出かけてるの。あとで写真送る!』  それから、ため息ひとつ。深く。 *  翌日、土曜日。  けっきょく、食べ放題 pic.twitter.com/PD7kEMD3fy

2022-08-09 08:00:20
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楠羽毛 @kusunoki_umou

の店には行くことになり……、というか、何ごともなかったかのようにウェブで3人分の予約が入っていて、くるみも、なんだか意固地になるのも馬鹿らしい気がして、おとなしく母が運転する車の後部座席に乗り込んでいた。  家で父と過ごすのも、べつに嫌いじゃなかったけど。  スイートライティングま

2022-08-09 08:00:22
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