不死者達の街で行われるヴォストニア最大の秋の祭り「黄泉返りの夜祭り」。 仲間たちと仮装して街に繰り出したリチャードとアンジェロは年に一度だけ祖国に帰ってくるという謎めいた紳士・メルヴィンと出会い、彼と共にミステリーを推理で解決するオリエンテーリングに挑む。 生と死が交わる聖なる夜に双子の王子と仲間たちの名推理が謎の闇に光を当てる! そして謎の紳士メルヴィンの正体とは?!
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「そういえばうちの父ちゃん没薬と乳香教会に卸してるけど、あれってひょっとしてここで使われてたりするのかな?」 今度はフロログがリチャードに問う。 「うん、この街の香炉に使うお香は教会で聖別されたものだから多分いくらかはこの街にも流れてきてるはずだよ」 リチャードが頷きながら答えた。

2021-10-24 04:04:27
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「しっかしすげえよなあ、10年くらい前まではそれこそリュウが言ってたみたいなゾンビがうじゃうじゃしてたんだろ?それが今じゃ国内で指折りの観光名所だからな」 アンジェロが感心しながら言う。 「ただボランティアで召天式を行ってた聖職者も数は少ないけどいたらしいよ、伯父上が言ってた」

2021-10-24 04:05:08
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そうこう話をしているうちに子供たちは墓場を抜け、いよいよ市街地にやって来た。 市街地は正に虹色に輝く夢のような場所であった。 「すっげぇ…遠くから見ても派手だったけど…」 リュウが呆然と呟く。 「普段は黒や白の建物が多いんだけど、みんな今日のお祭りの為に壁を塗り替えるらしいよ」

2021-10-24 04:05:49
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

リチャードが答える間もなく、リュウは道に設置されている飾りの祭壇に歩み寄り、美しく装飾されたドクロ型のお菓子を手に取ったり道に撒かれたマリーゴールドを拾ったりしている。 「初めてだから見るものみんな珍しいんだろうな」 リチャードが言うとフロログとアンジェロもつられて笑みをこぼした。

2021-10-24 04:06:32
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「おいリュウ、そろそろ広場に行こうぜ。開会式始まっちまうぞ!」 アンジェロが声をかけるとようやくリュウはマリーゴールドの花を持って戻ってきた。 「そんなん何に使うんだよ?」 フロログが問うのへ、 「だってきれいじゃん!」 屈託のない笑顔でリュウは答えた。

2021-10-24 04:07:04
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【Ⅲ】 中央広場は生者死者が入り乱れ、黒山の人集りでごった返していた。 皆一様に奇抜にドレスアップしており、大人達は既に一杯引っ掛けている者もいて実に賑やかだ。 広場の中央にはステージが設置されており、子供達は人混みをかき分けステージが見える位置に陣取った。

2021-10-24 11:50:03
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やがて舞台の上に門にいた者達と同じ衣装を纏った司会者らしき不死者が登壇し、騒がしかった辺りは途端に静まり返った。 「ご来場の皆様、本日はお忙しい中アンデッドストリート・デッドマンズナイトにお集まり頂き誠にありがとうございます」 司会者が挨拶を始めると観客から喝采が巻き起こる。

2021-10-24 11:52:14
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「我らが偉大なる指導者、エリック国王陛下が我ら不死者に正当な権利をお与え下さってから十余年、今年もこの祭りの晩を迎えることができました。 それではこれより不死者代表・キンプヘッズ卿より開幕のご挨拶です、皆様、温かい拍手でお迎えくださいませ!」 会場は割れんばかりの喝采に包まれた。

2021-10-24 11:53:43
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アナウンスのあとに登壇してきたのは頭にかぼちゃのランタンを被った身形の良い男だった。 顔は見えないが青白く干からびた手を見れば彼が不死者であることが伺い知れた。 (あいつだろ、伯父上に直談判した不死者って) (うん、その後に伯父上に特区の統治を任されたって) 囁き合う双子の王子。 pic.twitter.com/t8G3GgvVzg

2021-10-24 11:54:34
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「コモ・エスタ・アミーゴス!ようこそ黄泉返りの夜祭へ! 死者の皆様も、まだ生きておられる皆様も、今宵生死に関係なく同じ時間を分かち合えることを大変嬉しく思っております。 命ある者はいつか必ず死を迎えます、ですから今宵は与えられた時間に感謝し、共に存分に楽しもうではありませんか!」

2021-10-24 11:55:48
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「キンプヘッズ!キンプヘッズ!」 会場は熱気に包まれキンプヘッズコールが会場から湧き上がり、早くも凄まじい盛り上がりだ。 しかしキンプヘッズ卿が手をかざすと皆拳を下ろしコールを止めた。 「さて、今年の催し物ですが…例年のゴーストパレード、ミイラバンドに次いで新たな物を用意しました」

2021-10-24 17:05:11
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「今宵は参加者の皆様に街中に点在する祭壇に綴られたミステリーを解いていただきます。 そして正解した方にはキーワードを配布しますので、全問正解の上、合言葉を完成させた方には豪華景品を差し上げます!」 キンプヘッズの言葉にどよめく会場。 「へー!なにそれ面白そう!」 リュウも乗り気だ。

2021-10-24 17:06:15
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「それでは今宵は大人の皆様も小さなお友達も、生ける方も死せる方も存分にお楽しみくださいませ! それではこれよりアンデッドストリート・デッドマンズナイト、開幕です!」 キンプヘッズが両手を広げるとドーンという轟音と共に七色の打ち上げ花火が空を彩り、観客が沸いた。 と。

2021-10-24 17:07:18
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「ぷわーっ!」 「あっ!」 リュウは小さく叫んだ。 パチコが打ち上げ花火の轟音に驚いてリュウの腕から逃げ出してしまったのだ。 「マジかよ、こんな人混みの中で!」 アンジェロが思わず声を上げる横を、 「ワン!ワンワン!」 パチコを追ってスリが走り出す。 スリを目印に四人もそれに続いた。

2021-10-24 17:08:01
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「パチー!落ち着けー!」 リュウが呼びかけるも興奮してしまったパチコは止まらず、人混みの足元を掻い潜って走っていってしまう。 「おい、危ないな!」 「どこ見て歩いてんだ!」 ぶつかりそうになった周囲の見物人の怒声を浴びながら四人は尚も止まる気配のないパチコを追い続けた。

2021-10-24 17:08:45
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やがてパニックに陥ったパチコは人混みから外れたベンチに腰掛けている一人の紳士に向かって突進していった。 「あ、危ない!」 リュウが声を上げたその瞬間、不意に紳士が立ち上がり、パチコに手をかざした。 すると丸で透明な壁にでもぶつかったようにパチコは動きを止めそのまま卒倒してしまった。

2021-10-24 17:11:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ぱ、パチ!おい!しっかりしろ」 地面に倒れたパチコを抱き抱えるリュウ。 だがパチコは気を失っているのかぐったりとして動かない。 その隣でくぅん、と心配げにスリが鼻を鳴らす。 と。 「大丈夫だ、少し興奮していたようだから落ち着かせただけだよ。ほら」 言って紳士はパチンと指を鳴らした。

2021-10-24 17:13:00
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

その音でハッとしたようにパチコが目を覚ます。 「パチ、大丈夫か?!」 「ぷむー?」 心配げなリュウをよそにパチコは丸で他人事のように首を傾げた。 刹那、それを見ていたアンジェロが紳士を睨んだ。 「おいテメェ…!」 「アンジー!」 が、紳士に食ってかかるアンジェロをリチャードが静止する。

2021-10-24 17:14:50
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「失礼致しました、連れがご無礼を…」 これ以上騒ぎを大きくするのは得策ではないと踏んだリチャードは帽子を取って紳士に頭を下げた。 「こちらこそ驚かせてしまい申し訳ない」 落ち着いた声で紳士が言うのでリチャードは顔を上げた。 と、 「…?!」 その紳士を見てリチャードは思わず息を呑んだ。

2021-10-24 17:17:16
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

紳士は奇抜なジャケット姿の金髪碧眼の三十絡みの男だった。 だが、穏やかで高貴なその佇まいになぜだかリチャードは見覚えがあったのだ。 否、正確に言えば見覚えはない。だが、彼の感覚がその紳士を「覚えて」いた。 どうやらアンジェロも同じことを思ったらしく、黙って紳士を見つめている。 pic.twitter.com/howY4z8M7A

2021-10-24 17:19:15
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「おや、俺の顔に何かついているかい?」 紳士は端正な顔に穏やかな笑みを浮かべた。 「あ、いえ、失礼致しました…」 慌てて言葉を接ぐリチャード。 それを知ってか知らずか、 「髭は生えてるよなあ」 フロログが間の抜けた答えを返した。 「ふふ、生やしているのだよ」 それを受け朗らかに笑う紳士。

2021-10-24 17:20:09
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「その…どこかで…会ったこととか…ないッスよね?」 珍しく語気を弱めてアンジェロが紳士に問うと、 「さあどうだろう?前世やその前で我々は友人だったかも知れない」 曖昧に言葉を濁して紳士が返す。 …しかし不思議と胡散臭さは感じない。 それどころか何処か懐かしささえ感じると二人は思った。

2021-10-25 01:33:17
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「俺はメルヴィン、この国の出で、毎年この時期に里帰りする者だ。 これだけ広い国だからどこかで顔を合わせていても不思議はないよ、双子殿」 紳士は…メルヴィンは陽気な笑みを浮かべて双子に言った。 「…お前らの知り合いなん?」 状況を飲み込めずリュウが双子に問う。

2021-10-25 01:34:41
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「かわいい魔女っ子さん、そちらの黒猫ちゃんが落とし物をしているようだよ、ほら」 メルヴィンは言うと足元に落ちていたパチコの猫耳カチューシャをリュウに手渡した。 「あ、ありがとう!ごめんね、いきなりブタ走ってきたからびっくりしたでしょ?」 リュウが言うと、メルヴィンは小さく笑った。

2021-10-25 01:35:25
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「気にしないでくれ給え、猫は好きだから大歓迎だよ。 ときに諸君、子供だけで来ているのかい?親御さんは?」 メルヴィンは子供達の顔を見回して問うと、 「はい、僕らだけで来ています。帰りに迎えが来るのですが…」 「ってかもう子守が必要な歳でもないんだぜ、こう見えて」 双子が口々に答える。

2021-10-25 01:37:16
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「ふむ、そうか…」 メルヴィンは紺碧の眼でじっと双子を見詰めた。 そして、 「諸君、子供だけで夜の街を歩くのは不用心だ。俺が街を案内しよう」 言ってメルヴィンは頷いた。 「はぁ?!」 一斉に疑問の声を上げる子供達。 「祭りの夜は愉快で良いものだが同時に悪人共の書き入れ時でもあるからね」

2021-10-25 01:40:47
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ほんと?!やったー!」 単純に喜ぶリュウ。 が、 「ちょっと待って!」 慌ててリチャードは口を塞いだ。 …口にこそ出していないがリチャードもアンジェロもこの国の未来を担う王家の人間である、リチャードに至っては次期国王だ。 そうおいそれと見知らぬ男に付いていくことなど出来はしない。

2021-10-25 01:41:54
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あの、ご迷惑をおかけすることになりますので、折角のお申し出ですが…」 言葉を濁すリチャードへ、 「大丈夫、遠慮しないでくれ給え。俺は子供に危害を加える趣味はない。庶民の子でも、貴族の子でも、王族の子でも、ね」 気取って片目を瞑って見せるメルヴィンの一言に双子の心臓が早鐘を打った。

2021-10-25 01:44:03
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

青褪めて息を呑む双子を安心させようとするかのようにメルヴィンは再び朗らかに笑った。 「もしも万が一俺が怪しい素振りを見せたらその鉄杖や剣で俺を叩きのめせばいい。 だが、子供を狙った悪意ある者がいることも忘れてはいけない。 俺はこの街のことはよく知っているし、悪くない話だと思うがね」

2021-10-25 01:45:34
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「なぁ、このおっちゃんここまで言ってくれてるんだし、お願いしないか?実際変なのに絡まれると厄介だしさ」 不意にフロログは双子に視線を向けた。 「うーん、たしかに。これで騒ぎ起こしたら来年からお祭り行かせてもらえないかもしれないし…」 リュウも眉毛をハの字に曲げて呟く。

2021-10-25 01:46:55
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

双子はもう一度メルヴィンの方を見た。…二人の心中を察してか、メルヴィンも試すような目で二人を見詰めている。 …が、二人とも不思議とその目に嫌な印象を持たなかった。 なぜだろう、やはりこの視線をどこかで感じた気がする。 数瞬の後、 「それじゃあ…」 双子が顔を見合わせ同時に声を上げた。

2021-10-25 01:47:55
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あ、あの、僕はリック。こちらは双子の弟のアンジーです。 郊外のペンドラゴン邸に最近越してきた田舎貴族です」 再度リチャードはメルヴィンに頭を下げた。 「あ、どーも、アンジーです…」 珍しくアンジェロも頭を下げる。 メルヴィンは穏やかな笑みを浮かべると、 「よろしく。リック、アンジー」

2021-10-25 01:48:27
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あたしリュウ。サロペツクから来たんだ!」 いつものように自己紹介するリュウ。 「オイラはフロログ!よろしくな!」 フロログもいつもの親しげな笑顔で自己紹介した。 「ああ、こちらこそよろしく。リュウ、フロログ」 微笑んで返すメルヴィン。 「今夜は賑やかな夜になりそうだな、楽しみだよ」

2021-10-25 01:48:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

満面の穏やかな笑みで子供達に答えるメルヴィンに、リュウとフロログはすっかり懐いてしまっているようだった。 「なぁ…」 「うん…」 その様子を複雑な表情で見つめる双子。 …だが彼らもなんとなくだが理解していた。 この男が決して自分達に危害を加えることはないだろうということを。

2021-10-25 01:51:27
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅳ】 「デッドマンズナイト・サスペンスツアーへようこそ! こちらの地図に祭壇の位置が記してありますので順番に進み、出題されるミステリーを解き明かしてください。 正解しますと正解の証とキーワードを一文字発行致しますので、すべての謎を解き明かし、最後にキーワードを完成させて下さい!」

2021-10-25 19:38:41
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

毒々しいドレスに身を包んだ係員の女に5人がそれぞれ手渡されたのは祭壇の場所が記された街の地図だ。 「すげぇな、今年はマジ気合入ってんじゃねぇか」 感心するアンジェロの横で、 「この紙いいの使ってんなあ」 リュウが目ざとく地図の紙質に目をつける。 「さすが商人の子だな」 とリチャード。

2021-10-25 19:39:56
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「パピルスと呼ばれる原始的な紙だよ、かつて東大陸の砂漠地帯で使われていたとか。 羊皮紙より安価で加工も楽だし雰囲気も出るから採用されたのだろう」 メルヴィンが地図を撫でながら言う。 「へえ、おっちゃん物知りだなあ」 フロログが金の瞳で見上げるのへ、メルヴィンは微笑んでみせた。

2021-10-25 19:40:39
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「とりあえず最初の祭壇は広場のすぐ側にあるみたい。行ってみよう」 リチャードが既に目視できる距離の祭壇を指差すと、一行は地図を持って祭壇へと向かった。

2021-10-25 19:41:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「最初のミステリーへようこそ! お坊っちゃん、お嬢ちゃんたち、今から語られるストーリーを読み解き、謎を解明してください。 それではどうぞ!」 祭壇の傍ら控えたバンドマンと弁士が演奏と語りを始めた。 「それでは今宵は皆様に、検死官エトワールの目撃した数々の事件についてお話しましょう…」

2021-10-25 19:42:05
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**** 王立捜査局検死官エトワール・ド・サンプリは数々の難事件を名推理で解決してきた国外にも名を轟かせる評判の検死官だ。 人は呼ぶ、彼を「屍人読みのエトワール」と。 さて、そのエトワールが今回やってきたのは雨のそぼ降る薄暗い森。 森の中の古い木造の一軒家がこの度の現場だ。

2021-10-25 19:43:48
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被害者はこの家に住む中年の画家の男だ。 彼はその繊細な芸術的感性の為俗世に耐えきれず、その姿をこの静かな雨の森に隠し、傑作と呼ばれる絵画を多数作出していた。 そんな天才画家の突然の死に、すわ保険金詐欺や彼の財産を狙った殺人ではないかとの噂が王都を駆け巡っていた。

2021-10-25 19:44:34
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「先生、あれです!あれが被害者の画家です!」 エトワールの助手・モワが部屋の中央に倒れた画家の男を見つけ叫んだ。 物言わぬ名画家の傍らには馴染みの捜査官・ソレイユ官長が立っていた。 「やあエトワール君、よく来てくれた。この被害者を見てくれ給え、私は毒殺だろうと睨んでいるのだが…」

2021-10-25 19:47:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

床に倒れた男に外傷はなく、きれいな顔でまるで眠っているようだった。 「被害者が亡くなったのは?」 「彼の世話をしている近所の農家の女房は5日前までは何事もなく元気そうにしていたと言ったよ、人に会ったのはどうやらそれが最後らしい」 それを聞いたエトワールは少しばかり考え込んだ。

2021-10-25 19:48:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「しかし蒸しますね、雨ばかり降ってジメジメしていて…ぼく、ナメクジが嫌いなのでこういう場所は苦手です」 モワが言うのへ、 「この森は年中雨ばかり降っていて湿度が高い、見給え、この部屋も壁紙にカビが生えている」 ソレイユ官長は部屋の壁を指さした。

2021-10-25 19:49:03
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「先生、見て下さい! 食べかけの食事が腐敗しています…やはり被害者は食事に毒を入れられたのでしょうか?」 モワの言う通り、テーブルには暑さと湿気で腐敗した食事が置いてある。 「ふむ…なるほど。 ソレイユ君、どうやらこの被害者は不幸な事故で亡くなったらしい」 エトワールは静かに言った。

2021-10-25 19:49:45
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「どういうことかね、エトワール君?その根拠は?」 訝しげに尋ねるソレイユ。 エトワールはぷかりとタバコをくゆらせ一言。 「君はこの被害者についてなにか奇妙なことに気が付かないかね? そしてこの奇妙な事故を引き起こした元凶はこの部屋の中にあるのだよ」 pic.twitter.com/XLiHb75ZDu

2021-10-25 19:52:47
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

**** 弁士の見事な語り口とバンドマンの渋い音楽に酔いしれつつも冷静に話を聴いていた5人。 「それでは問題です。 エトワールは一体何を見てこの被害者が事故死したと思ったのでしょうか?被害者の死因とその根拠をお応えください!」 派手なシンバルが鳴り、弁士が最初の問題を出した。

2021-10-25 19:53:27
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「おいおい、初っ端からトバしてんなぁ」 アンジェロが驚きの声を上げた。 「お、オイラこういう話はどーも…」 少しばかり怖気づくフロログ。 が。 「うーん、病気じゃなくて事故って言い切っちゃえるのはなんでなんだろ?」 意外と真面目に考えているリュウ。 「被害者に外傷はないんだよね?」

2021-10-26 14:36:58
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

リチャードが手を顎に考え込む仕草をした。 「被害者の家は雨の多い木造家屋。家は古く壁紙にはカビが生えるくらい湿度も気温も高い、か」 状況をブツブツと呟くリチャード。 こうして情報を頭の中で処理するとき口に出すのが彼の癖なのだ。 「先に検死官が言っていたが…遺体に気がつく所はないか?」

2021-10-26 14:37:40
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

と、ここでメルヴィンが四人に割って入った。 …この口振りではおそらく既にメルヴィンの中では答えは出いるのだろう。 「うーんと、特に変わったところはなくて、眠ってるみたいにきれいな顔、なんだよね?」 リュウが先の弁士の言葉を復唱した。 と、 「それだ!」 リチャードが急に声を上げた。

2021-10-26 14:38:21
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