不死者達の街で行われるヴォストニア最大の秋の祭り「黄泉返りの夜祭り」。 仲間たちと仮装して街に繰り出したリチャードとアンジェロは年に一度だけ祖国に帰ってくるという謎めいた紳士・メルヴィンと出会い、彼と共にミステリーを推理で解決するオリエンテーリングに挑む。 生と死が交わる聖なる夜に双子の王子と仲間たちの名推理が謎の闇に光を当てる! そして謎の紳士メルヴィンの正体とは?!
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

いばらの壁の向こうから~双子の王子の物語~ 【Episode6】死者の街はお祭り騒ぎ pic.twitter.com/L4YYVfB465

2021-10-18 23:58:38
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【Ⅰ】 「まぁ王子、とてもお似合いですわ。うん、丈の長さも問題ありませんね。素敵ですよ」 秋風吹く満月の前の晩、ダイアナは鏡の前で試着をするリチャードを見て嬉しそうに言った。 「おお、これは見事で御座いますな!どこから見ても一端のお医者様で御座います」 傍に控えたチェーザレも続ける。

2021-10-19 00:00:05
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装飾の付いた大きな姿見の前に立つリチャードは自らの装いを見て照れくさそうに小さな笑みを溢した。しかしその装いは普段の王族のそれとは異なってる。 黒い鍔広の帽子に黒のケープ、黒のチュニックに黒革のグローブ。 これまた黒革のベルトには医療用のハーブを詰めた袋がいくつもぶら下がっていた。

2021-10-19 00:01:55
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これは古来、伝染病の治療に当たった伝統的な専門医の装いだ。 本来はこれに鳥のような奇妙な防毒マスクを身につけるのだが、この度の『催し』では危険なので外している。 「すごいよダイアナ、ありがとう。とても良く出来てるよ」 リチャードは嬉しそうに微笑むと、ダイアナも満足気に頷いた。

2021-10-19 00:03:25
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「しかしついこの間ようやく季節雨が明けたかと思うともう『黄泉返りの夜』で御座いますか…時間が経つのは早う御座いますなぁ」 既に色付きつつある庭のイチョウや楓を見やりしみじみとチェーザレが呟いた。 「みんなも気合い入れて仮装してくるはずだ、楽しみだよ」 興奮気味にリチャードは言った。

2021-10-19 00:04:52
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『黄泉返りの夜』とは、秋の収穫が終わった月の最初の満月の晩に行われるヴォストニア、ひいては西大陸北岸の伝統的な季節行事である。 古代では今年の収穫と収穫された生命の糧について神と先祖に感謝するという宗教的な祭事であったがここ十数年ではそれだけに留まらない『一大旋風』となっていた。

2021-10-19 20:34:24
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ヴォストニアでは古来から黄泉返りの夜には先祖の霊が共に収穫の喜びを祝うため冥界から返ってくると信じられていた。 しかし近代に入りその聖なる伝統と祭りから引き離され、不遇をかこつ者達が現れた。 …死して尚肉体から魂が離れぬまま朽ちた者、未浄化の霊等、即ち不死者と呼ばれる者達である。

2021-10-19 20:36:07
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この世に強い未練を残した者や、呪術師の呪いにより肉体が朽ちても生き続ける者等、様々な理由はあれど彼ら不死者は魔族が多数を占める西大陸北岸に於いても異質にして忌避される存在であった。 曰く不衛生、曰く不気味、曰く不浄なる者…彼らに対する差別や偏見は時代を追うごとに厳しさを増した。

2021-10-19 20:39:20
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先の北岸統一戦において北岸全土で多数の戦没者が出たが、不運にも不死者としてこの世に身を留めざるを得ぬ者達も当然現れた。 当たり前のように彼らも差別の憂き目にあった…かに見えた。 しかしそんな文明の暗部に光を当てる者が現れた。 他ならぬ双子の王子の養父・北岸の覇者エリック王である。

2021-10-19 20:45:10
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大陸を平定した後虐げられてきた民衆の不平を取り除くために先ずエリックが着手したのが、領主を通さず平民が直接王国府に声を届けることのできる『目安箱』の設置であった。 その目安箱に届けられた、ある一通の悲痛な国民の叫びにエリックは目を留め、なんとその者に謁見と陳情を許可したのである。

2021-10-19 20:46:59
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そこで召し出されたのは先の戦で戦死した元兵士の不死者であった。 彼はエリックの前で涙ながらにこう語った。 「我らは愛する祖国を守るため、家族を守るために名誉ある死を遂げたはずです、だのにそんな私達を生者たちはぞんざいに扱い差別する…このやりきれぬ悲しみと無念を何と致しましょう!」

2021-10-19 20:48:23
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白く濁った瞳から滔々と澄んだ涙を流し、半分朽ちた体のその兵士は人目も憚らず咽び泣いた。 その叫びにエリックが動いたのだ。 先ずエリックは彼やその他の不死者に非礼を詫びると直ちに周辺地域の首長達と不死者の代表者達を王宮に招集、互いの主張を徹底的に話し合わせた。

2021-10-19 20:50:03
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それにより問題点と衝突する主張、それに対する打開策をがエリックの審判の下協議され、まずここで生者と不死者間の和解が成立した。 次いでエリックは王家代々の墓のあるグレーブホロウ墓地を中心に不死者達が生活するための街『不死者特区(アンデッドストリート)』を設立した。

2021-10-19 20:52:05
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差別こそ撤廃されたが、物理的に腐肉である不死者達は細菌感染や疫病の媒介が懸念される為、特区以外の地域での飲食店や病院、薬局等への出入りは禁止されたがそれ以外の商店などでは店内を汚染しないことを条件に入店が許可された。

2021-10-19 20:53:51
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さはさりながからも衛生面に考慮し、互いの心情も鑑みた上でやはり住み分けは必要であるとの協議の結果、死者特区は生者と死者とが共存していく上では欠かせない「聖域」として設立され、その役割を存分に果たしたのであった。

2021-10-19 20:57:17
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またエリックは王国内の聖職者を招集し、希望する不死者やその遺族のために魂を肉体から引き離し天界へ還す「召天式」も積極的に行い、不遇の内に墓所に捨て置かれた不死者達は数年の間に激減した。 この政策は生者・不死者共に高い支持を受け、エリックの求心力を高めその位置をより確かな物にした。

2021-10-19 21:00:10
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

不死者への差別が撤廃されて数年、生者とのより良い共生を目指した不死者側も新たな策を打ち出した。 腐った皮膚を絹と蝋に置き換え衛生化を図る者や肉体をからくり化する者が現れ、彼らは人形のように自らを美しく着飾った。 街は死臭を和らげる為没薬や乳香が焚かれ、独特な文化と景観が生まれた。

2021-10-19 21:01:11
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

呪われた不死者の掃き溜めであった墓地は今や昔、特区の頽廃芸術を思わせる不気味で洒脱で華麗な文化に今度は生者の若者達が熱狂した。 若者達は不死者の不気味で華美な服飾を真似て特区に繰り出し、中には特区で死者と暮らし始める遺族までもが現れ、今や特区は国内有数の先端都市として栄えている。

2021-10-19 21:02:11
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そんな死者たちの街で死者の魂を迎える黄泉返りの夜の祭りが結びついたのは最早必然であった。 十数年前から不死者特区では不死者先導の下、黄泉返りの夜に盛大な祭りが行われるようになったのだ。 そのユニークな祭りは評判となり、国王エリックまでもが協賛者となるまでさほど時間はかからなかった。

2021-10-19 21:05:16
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死者や魔物に扮した子供たちがお菓子をもらいに街を練り歩き、大人たちは着飾って飲んで歌って先祖の魂を迎える。 国内の聖職者や霊媒師が特区に集まり集団召天式や先祖の霊の言葉を伝える出見世が出たりと黄泉返りの夜祭りは今やヴォストニアの最大の祭りの一つにまでなっているのである。

2021-10-19 21:06:06
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リチャードもアンジェロも王家のパレードで祭りに参加したことは何度もあったが民間人として参加するのは初めての体験だ。 チェーザレ曰く、当日は変装したレイヴンが所狭しと巡回しているので大きな危険はないとのことだったが、念の為護身用の武器に変装の杖に見立てた鉄杖を持つことになっている。

2021-10-19 21:06:45
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「リュウもフロログもアンジーも、みんなどんななのかな。 全員当日まで内緒ってことにしてるんだけど」 珍しく好奇心に目を輝かせリチャードは楽しげにダイアナに語りかけた。 いよいよ明日の晩は夜祭り当日だ。 「興奮しすぎて今夜は寝られそうにないよ」 外の夜風は冷たいが彼の笑顔は暖かかった。

2021-10-19 21:07:20
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【Ⅱ】 当日は夕刻にペンドラゴン邸で待ち合わせをし、四人でチェーザレに馬車で特区まで送ってもらう手はずになっていた。 仮装に身を包み仲間を待つリチャードの元に、 「おーいリックー!お菓子くれないといたずらするぞー!」 最初の訪問者がやって来た。

2021-10-22 14:46:33
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エントランスに降りてみると可愛らしい黒のチュチュに大きな三角帽子を被った小さな魔女の姿があった。 リュウだ。 「やぁリュウ、いらっしゃい!…いいね、かわいい魔女だ」 「いいだろー。アンナさんが作ってくれ…って、お前のそれ、なに?」 リュウは大きな目を丸くしてリチャードに問うた。

2021-10-22 14:47:15
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「これは昔伝染病が流行したとき活躍したお医者様の衣装なんだ。 ダイアナが作ってくれたんだよ」 「へー!なんか真っ黒だなあ、カラスみたい」 「実際普通はカラスみたいな防毒マスクをつけるんだけど、今日は暗くて危ないから見送ったよ」 答えるリチャードを尚もしげしげ見つめるリュウ。

2021-10-22 14:47:50
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「ぷむー」 と、足元から聞き慣れた声がしてリチャードが足元を見やると、 「!…ぱ、パチコ…」 リチャードは思わず吹き出しそうになった。 「なんだよー、お前失礼だぞ!パチコはあたしの『つかいま』なんだぞ!」 パチコは頭に黒猫のカチューシャをつけている。どうやら黒猫の仮装らしい。

2021-10-22 14:48:29
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「おーいリック、開けてくれー!開けてくれないといたずらするぞ!」 今度は玄関の扉を叩く音と共に聞き慣れたダミ声が聞こえてきた。 「はいはい、只今」 リチャードが観音開きの玄関扉を開ける。 と。 「わぁ!フロログ、なんなのその格好?」 フロログを見るなりリチャードもリュウも目を丸くした。

2021-10-22 14:50:06
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「へへん!どうだ、カッコいいだろ?父ちゃんが昔東を旅したとき買ったっていう砂漠の国の衣装だぞ!」 異国情緒溢れる繊細な意匠を施した不思議な民族衣装に身を包んだフロログは、本物さながらの着こなしだ。 「東大陸…砂漠の国…民族…。 あ、それってアサド人のことかい?」 リチャードが問う。

2021-10-22 14:51:20
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「うんにゃ、わかんね。でもこれ父ちゃんが着てたのをオイラのために仕立て直してくれたんだよ」 「てことはこれ、あのおっちゃんが縫ってくれたのか!すげぇなお前の父ちゃん」 リュウが言うとフロログはケラケラ笑って自慢げに胸を張った。 と。 「おいリック!さっさと開けないといたずらするぞ!」

2021-10-22 14:52:13
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ドンドンと乱暴に扉を叩く音と共に聞こえてきたのは「親の声より」よく聞いた声だ。 「わかったわかった、今開けるよ」 言ってリチャードは玄関扉を開けた。 …その瞬間、そこにいた三人は息を呑んだ。 「す、すっげぇ!え、ど、どうしたんだよアンジーそれ!」 リュウが驚きの声を上げた。

2021-10-22 14:52:58
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そこにいたのは立派な皮の鎧を身に纏い、角のついた本物の鉄兜を被ったアンジェロだった。 しかも腰には立派なブロードソードまでもを下げている。 「こちとら武装で商売してんだから、仮装だからって手は抜かねぇよ。どうだ、すげえだろ?」 アンジェロは自慢げに腕組みしてみせた。

2021-10-22 14:53:28
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「すっげー!それアンジーが作ったの?」 大きな目を輝かせて問うリュウへ、 「や……親方が…」 アンジェロは少し気まずそうにぼそっと返した。 「だよなー!入門したてでこれ作れちゃったら今頃独立できるもんな!」 「う、うるせぇな!」 ケラケラ笑うフロログにムキになるアンジェロ。

2021-10-22 14:54:26
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「でも驚いたな、ベアンハートさん、防具も作れるのか?」 「ああ、親方は鍛冶だけじゃなくて革の加工もできるし縫製までできるんだぜ」 リチャードの問いにアンジェロは自慢げに答えた。 「にしたってすげえなこれ、ガチの売りもんじゃねえの?」 「前にサンプル用に作ったやつらしいんだよ」

2021-10-22 14:55:07
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本格的な皮の鎧をしげしげ見つめるリュウにアンジェロが返す。 「ただ武器は流石に本物はまずいってんで刃を作る前の素延べの剣なんだ。ま、これでも振り回しゃ十分武器になるんだけどな」 言って鞘から抜いた剣は確かに刃がない薄い鉄板である。 「アンジーくらいの剣の腕があれば変わらないよね」

2021-10-22 14:55:48
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クスクスと笑いながらリチャードが言うとつられて3人も笑い出した。 と、 「さあさ皆さん、これより特区に参りますよ。馬車を外に用意して御座います。こちらへどうぞ」 玄関扉が開きチェーザレが現れ子供たちに告げる。 が。 「ギャーーー!!!」 チェーザレを見るなり子供たちは悲鳴を上げた。

2021-10-22 14:57:25
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チェーザレの出で立ちは普段のパリッとしたタキシードではなく、夜祭のための変装であった。 が、それが如何せん怖すぎた。 顔は血糊と泥で汚れ、顔にはボロボロの包帯を巻き、汚れた衣服をまとっている。 他の者がやるならまだしも、顔が怖いと評判のチェーザレがやったのだからたまらない。

2021-10-22 21:23:02
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「そ、そんなに大声を出さなくても良いではありませんか!」 慌てるチェーザレを尻目にリュウとフロログは涙目で身を寄せ合い、それを守るように双子が立ちはだかる形になっている。 「馬鹿野郎、仮装にしたって怖すぎるだろ、勘弁しろよ!」 アンジェロが思わず大声を上げた。

2021-10-22 21:23:31
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「え、えっと…チェーザレならもっとシュッとした格好の方が似合うと思うんだけど…。その、吸血鬼とか、博士とか…」 引き攣った笑みを浮かべてリチャードが続く。 「むう、再考の余地ありですかな」 難しい顔をするチェーザレへ、 「ったりめぇだろ!ったく、心臓口から飛び出るかと思ったぜ!」

2021-10-22 21:24:08
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既に祭りに行く前から冷や汗をかき、少しばかり不安になる四人だったが、 「それはさておき、まずは出発しましょう。 今から出れば開会式にも間に合います」 話を切り替えチェーザレが言うと、 「ありがとうチェーザレ。行こう、みんな」 リチャードに促され一行は屋敷から出て馬車に乗り込んだ。 pic.twitter.com/ZqkRXZsQtD

2021-10-22 21:24:59
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特区は郊外からは離れているため早めの出発となる。 見慣れた街の景色が特区に近づくに連れ日が暮れてきたせいもあってかどこか不気味な雰囲気が漂ってくる。 やがて暗闇にぼんやりと輝く街が見えてきたかと思うと、その灯りは近づくに連れ段々と眩しくなり、遂に七色に輝く華やかな街が見えてきた。

2021-10-23 16:58:57
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街に焚かれる聖別された没薬や乳香の煙によって街はまるで霧に包まれたようにぼんやりと霞み、今宵の祭りのために色とりどりに塗られた建物の壁や花に飾られた美しい祭壇、七色の吊るし旗が見目にも鮮やかだ。 やがて馬車は特区の入口であるグレーブホロー墓地前の大きな門の前に停まった。

2021-10-23 16:59:43
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「わあ…話には聞いてたけど、こんな派手な祭りなんだな。東の祭りと全然違う…」 初めて目の当たりにする西国の夜祭にリュウはパチコを抱えたまま呆然と立ち尽くした。 「東には死者を迎える慰霊祭とかないのかよ?」 アンジェロがリュウに問うと、 「ううん、あるよ。でも夏だしこんな派手じゃない」

2021-10-23 17:00:34
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「ええと…ボンの祭り、だっけ。東では櫓の周りで人々が輪になって踊ったり灯籠を川に流して先祖の霊を迎えるんだよね?本で読んだよ」 リチャードの言葉にリュウが頷く。 「地方によっては夏の頭か終わりかで時期が変わるんだよな。オイラの住んでた地域では笹の葉に願い事書いた紙吊るしたりしたぞ」

2021-10-23 17:02:00
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頭の後ろに両手をやりフロログが続ける。 「どっちにしてもこんな派手でオシャレな感じではないよな」 そんな話をしている子供達の元へ、 「ブエナス・ノーチェス!黄泉返りの夜祭りにようこそ!」 鮮やかな刺繍をあしらった大胆な衣装に身を包んだ不死者たちが紙吹雪を散らし出迎えてくれた。 pic.twitter.com/BW5HnFq2BB

2021-10-23 17:03:22
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「なあ、この人たちってその『ふししゃ』なのか?」 初めて生ける屍達を目の当たりにし、リュウはリチャードに訪ねた。 不死者達はほとんど骨と皮だけになってしまった体にきらびやかな衣服を纏い、華やかな帽子を被り、骨張った顔に派手なペイントを施しているせいか、不思議と恐怖は感じない。

2021-10-24 03:55:56
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「そうだよ、彼らは…」 リチャードが言いさすのへ、 「その通りですセニョリータ、私達はこの不死者特区…アンデッドストリートの住人です!」 派手なペイントのミイラが言った。 「今宵は大いに楽しんでいってくださいね!」 他のミイラたちも陽気に続ける。 怖いどころか愉快だとリュウは思った。

2021-10-24 03:58:02
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「さあ、バスケットをどうぞ。道中の謎解きオリエンテーリングをクリアしてお菓子をゲットしてください!全問正解で豪華賞品ももらえますよ!」 言ってミイラの一人がかぼちゃをくり抜いて作ったバスケットを子供たちに配っていく。 「今年はそんな催しもあんのか!」 アンジェロが明るい声を上げた。

2021-10-24 03:59:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「毎年盛り上がるけど、今年は特に気合が入ってるね」 リチャードも紺碧の瞳を輝かせて言う。 「よーし、お菓子集めまくるぞー!豪華賞品もゲットだ!…何か知らないけど!」 フロログも気合いが入ってやる気のようだ。 不死者の吹く陽気なラッパが鳴り響く中、子供たちは華やかな墓場へと通された。

2021-10-24 04:01:05
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「不死者の人たち、全然怖くないね。もっとぐちゃぐちゃに腐っててヤバイ奴だと思ってた」 ほっと安心したようにリュウが零す。 「彼らはマナーとして見た目や臭いにとても気を使ってるからね」 リチャードが言うとアンジェロが頷く。 「ぶっちゃけそこらの生きてる酔っ払いよかよっぽどキレイだよな」

2021-10-24 04:02:58
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「それにここ、すごく綺麗でいい匂いがする。あのだいだい色の花が飾ってあるのってひょっとしてお墓?」 「そうだよ、あのオレンジの花はマリーゴールドと言って死者の魂を現世に導く目印になると言われてるんだ」 リチャードが指差す墓石はリュウの言う通り美しい花々で飾られている。

2021-10-24 04:03:44
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