不死者達の街で行われるヴォストニア最大の秋の祭り「黄泉返りの夜祭り」。 仲間たちと仮装して街に繰り出したリチャードとアンジェロは年に一度だけ祖国に帰ってくるという謎めいた紳士・メルヴィンと出会い、彼と共にミステリーを推理で解決するオリエンテーリングに挑む。 生と死が交わる聖なる夜に双子の王子と仲間たちの名推理が謎の闇に光を当てる! そして謎の紳士メルヴィンの正体とは?!
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「…し、知ってたのかよ、全部?!」 アンジェロは驚きに目を見開きメルヴィンに問うと、メルヴィンは片時も取らなかった帽子を取った。 刹那、彼の頭上から黄金の光の輪が現れ、土中から蓮の花が開くように背から純白の大きな翼が開いた。 「いつも見守っていたよ、君達のことも、リックのことも…」

2021-11-16 01:13:33
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「り、リック?え、それって…」 アンジェロが状況を飲み込めずにメルヴィンに問うた。 「君たちの愛する伯父上のことだ、君たちに自分と同じように市井を見せるとはあの子らしい。 …私が教えてあげたことを、あの子は覚えていたのだね」 白い光に包まれながら、微笑むメルヴィン。

2021-11-16 01:14:38
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「リチャード、アンジェロ。あの子に…君たちの伯父上に伝えてくれないか。 『リック、君は立派な王になった。二人の夢を形にしてくれてありがとう』と…」 メルヴィンの穏やかな微笑みは、父が子に向けるそれによく似ていた。 「わかりました、大叔父上…事付は必ず…」 リチャードは頷いてみせた。

2021-11-16 01:16:36
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それを聞いてメルヴィンは…グレーブレルム大公は満足げに微笑んだ。 「ああ、本当に素晴らしい夜だったよ、ありがとう。リチャード、アンジェロ。 兄上も弟もまだそちらにいるようだから、もし会うことがあったらよろしく伝えておくれ」 刹那、天から一筋の白い光が降りてきてメルヴィンを照らす。

2021-11-16 01:17:08
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「そろそろ時間だ。いずれまた会おう、私のかわいい又甥たち。 リックに…私の愛しい甥によろしく」 そう言って二人に背を向けるとメルヴィンは大きな純白の翼を羽ばたかせ、光の中に消えていった。 光が徐々に弱まると再び静かな夜の空気が流れ、何事もなかったかのように静寂が辺りを包んだ。 pic.twitter.com/CZ5TuPmByo

2021-11-16 01:18:18
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静かな夜風がメルヴィンのつけていたかすかな香水の匂いを運び去っていく。 刹那、 「王…坊ちゃま、遅れてしまい大変申し訳御座いません!」 墓場の門が開き見慣れたタキシード姿の醜男が姿を表した。 チェーザレだ。 「馬車は外に用意してございます、ささ、お屋敷へ…」 恭しくチェーザレが言った。

2021-11-16 02:59:02
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「ごめんチェーザレ、予定変更だ。 このまま屋敷には戻らずに城まで飛ばしてくれないか?」 切羽詰まった様子でリチャードがチェーザレに頼み込む。 「お、王宮にで御座いますか?」 突然の言葉に面食らった様子のチェーザレであったが、 「いいから四の五の言わずにサッサと出せ!急いでんだよ!」

2021-11-16 03:02:16
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アンジェロに詰め寄られ、 「か、畏まりました、それでは馬車にお乗りくださいませ。 暗いのでお足元にはお気をつけて…」 チェーザレは二人を乗せ、手綱を引いた。

2021-11-16 03:03:19
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【ⅩⅡ】 特区から馬車を走らせること半刻と少し、王宮に双子が辿り着いたのはすっかり夜も更けた頃であった。 とは言え、「夜行性の」伯父なら今頃上機嫌で一杯引っ掛けている頃だろう。 広い広い前庭の石畳の上を全速力で駆け抜ける蹄の音が静かな夜の王宮に響く。

2021-11-17 01:24:06
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二人が大柄なオーガの門番が四人がかりで開く王宮の大扉をくぐりエントランスホールに駆け込んだ時には、事情を聞きつけた伯父・エリック王が既に二人の到着を待っていた。 「おお、久しぶりじゃねぇか。 こんな夜中にどうしたい、祭りで酒の味でも覚えて帰ってきたか?」 開口一番、戯けるエリック。

2021-11-17 01:26:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

息を切らして駆け込んできた双子とは対象的に、どうやら二人の憶測通りエリックは一杯やっているらしく、寝間着姿で酒の匂いを漂わせている。 「お、伯父上…も、申し訳…ありません…!」 息を切らせながらリチャードが頭を下げる。 「や、お…起きてるとは思ってたんですけど…」 アンジェロも続く。

2021-11-17 01:27:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「なんでぇ、そんなに慌てて。祭りで財布でも落としたのかよ?」 片手にした黄金のゴブレットから血のように赤いワインを一口煽り、これまた赤い顔でエリックは戯けて言った。 「いえ…その…」 一度息を整えるリチャード。 「伯父上…言付けを預かって参りました」 真剣な目でリチャードは告げた。

2021-11-17 01:28:11
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「言付け?…誰からだ」 ワインにも負けぬエリックの真紅の瞳がリチャードの紺碧の瞳にかち合う。一見酔っているように見えてエリックの眼光はいつもの鋭い魔王のそれだ。 「…グレーブレルム大公…メルヴィン大叔父上からです」 それを聞いた瞬間、エリックは手から金のゴブレットを取り落とした。

2021-11-17 01:29:18
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エリックは紅玉色の目を見開き、瞬きもせずにリチャードの目を見つめている。 …リチャードもアンジェロも、そんな伯父の姿を今までほとんど見たことがなかった。 だが、 「…悪ィ冗談だぜリック。どこの不届き者でぇ、そんな法螺ァ吹いたド阿呆はよ」 頭を振り、エリックはまともに取り合わない。

2021-11-17 01:30:51
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「う、嘘じゃありません…」 今度はアンジェロが声を上げた。 「確かにお会いしたんです、俺たち、不死者特区の夜祭で…大叔父上に…」 「会ったも何も…見たことねぇだろお前ェらはあの人をよ…」 言われてみればその通りである。 確かにあの男が本当に伯父の知る大叔父である確証はない。

2021-11-17 01:31:50
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

気まずい静寂がホールを満たす。 と。 「あ、て、天使が通りましたね、今。はは…」 苦し紛れにアンジェロが戯けると、エリックは顔を上げた。 「お前ェら、ちぃと面ァ貸せや」 言うとエリックは二人に背を向け顎をしゃくった。 彼が指したのは…謁見の間だ。 二人は伯父に連れられ謁見の間に入った。

2021-11-17 01:33:03
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謁見の間を抜け三人がやってきたのは、殿上の奥にあるエリックの執務室だ。 エリックは執務室の本棚から数冊の本を動かすと、ゴゴゴ…と重い音を立てて暖炉が動き、隠し扉が現れた。 初めて目にする光景に、双子の王子が息を飲む。 この王宮のどこかに心臓部となる部屋があるとは聞いていたが…。

2021-11-17 01:34:00
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「付いて来ねぇ」 再び顎をしゃくってエリックが隠し扉に二人を招き入れる。 扉の奥は薄明かりに照らされた回廊になっていた。 恐らくこの奥に心臓部と呼ばれる場所があるのだろう。 回廊には歴代の王族達の肖像画が飾られ、見たこともない先祖の肖像画を双子は興味深くしげしげと眺めた。

2021-11-17 01:35:11
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

と、エリックの足がある一角で止まった。 二人には懐かしい、母・ジャネットの肖像画の隣にある、一際大きな一枚の肖像画の前だ。 その肖像画を見た瞬間、 「あっ!!」 二人は揃って声を上げた。 「お前ェらが見たのは…この人で間違いねぇな?」 エリックは低い声で二人に問うた。

2021-11-17 01:35:56
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

二人の前に飾られた金の豪奢な額縁で飾られたその肖像画は、正に今宵あの祭りで楽しい時を共にした紳士・メルヴィンの物であった。 豪奢な貴人の服に身を包んではいるものの優しげな眼差しと端正な顔立ち、そしてその高貴さは間違いようもなかった。 「メルヴィンさん…」 思わずリチャードが呟いた。 pic.twitter.com/h6kLdgz4mo

2021-11-17 01:37:22
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「間違いありません!この方です、今宵我々に特区を案内して下さったのは…」 リチャードが答えると、エリックは珍しく物憂げに目を伏せた。 「…そうか」 低い声で返す。 「あの…失礼ですが、伯父上は大叔父上とどういったご関係で?」 恐る恐るアンジェロが問うとエリックは溜息を吐いた。

2021-11-17 01:38:50
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「この人ァお前ェらが言う通り、俺の親父…先王コナーの実の弟、メルヴィングレーブレルム大公。 親父の宰相として国政を支えた天才政治家で…俺の育ての親だ」 エリックの言葉に双子が一斉に彼の方を見た。 「それは一体…御祖父上(おおおじうえ)はどうしておられたのですか?」 リチャードが問う。

2021-11-17 01:40:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「親父は国王としちゃ凡才、親父としても凡才だ、石頭で新しいモンがとにかく苦手、叔父上がいなけりゃこんな国とっくの昔に民衆の反乱で潰されてたろうぜ。 だもんでその程度のオツムで俺と反りがあうわけもねぇ…親父はテメェの意に沿わねぇ俺を早々に見捨てた…」 暗い目でエリックは呟いた。

2021-11-17 01:41:13
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「その親父に代わって俺を一人前の王に育て上げるってェ拾った物好きがこの御仁…メルヴィン叔父上だった。 俺ァ四つからお前ェらくれェの年までこの人に育てられたのよ」 初めて紐解かれる伯父の過去に息を呑んで聞き入る双子の王子。 語るエリックの表情はどこか切なげにも見えた。

2021-11-17 01:42:38
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「叔父貴も頭ァ良すぎて何かってェと盆暗共と反りが合わねぇことで苦労された御仁だ、だもんで俺はあっという間に親父よりこの人を手前ェの親父だと思うようになってた。 …いや、多分…叔父貴もそう思ってたんじゃねぇかな。 丁度俺とお前ェらみてぇなもんだったぜ」 エリックの口元に笑みが浮かぶ。

2021-11-17 01:43:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「大公領だったグレーブレルムは親父が牛耳ってた王都より治安も良くて狭いながら豊かな場所だった。 王都からわざわざ移住してくる奴までいるくれぇだったぜ。 民一人に至るまで叔父貴は真摯に声を聞いて、それァ墓場に溢れた不死者共も例外じゃあなかった」 双子の脳裏にキンプヘッズの姿が浮かぶ。

2021-11-17 01:45:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「この人ァな、リック、お前と同じ聖王の星ともう一つ賢者の星を持って生まれた御仁だ。 叔父貴は直々に…それこそ亡くなる数日前まで墓地に溢れた不死者を天に還す儀式を暇を見つけちゃあやってたんだ。 だから叔父貴を白の大公、聖メルヴィンと呼ぶ奴もいらぁ」 それを聞いて双子は顔を上げた。

2021-11-17 01:46:18
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「特区の者たちは正に大叔父上をそう呼んでおりました、『サンタ・メルヴィン』と…」 キンプヘッズと共に喝采を浴びるメルヴィンの姿がありありと蘇り、リチャードは輝く瞳でエリックを見上げて言った。 …満足げに笑みを浮かべ、エリックが頷く。

2021-11-17 01:47:11
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「俺もお前ェらくれぇの年の頃はよく叔父貴に付き添って墓地ィ行って儀式の手伝いしたもんだぜ。 …頭の固ぇ親父にとっては不死者共は民でもなんでもねぇ、ただの害獣でしかなかったが、叔父貴はあいつら一人ひとりィ手前ェの臣民だって大事にしてたんだ。 …特区ぅ作るなぁ、この人の夢だったんだい」

2021-11-17 01:48:14
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「だが…」 それまで嬉しそうに語っていたエリックの声が沈む。 「…自領の民、それも墓地の不死者共まで逃がす為に最後まで戦って叔父貴は俺を残して逝っちまった。 夢ェ叶える前によ…」 俯くエリックの顔は薄暗がりに隠れて見えないが、彼の周りを言いようのない悲しみが包んでいるのは確かだった。

2021-11-17 01:49:04
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「伯父上…大叔父上は仰せでした。 『リック、君は立派な王になった。二人の夢を叶えてくれてありがとう』と…」 リチャードの言葉を聞いてエリックが顔を上げた。 心なしか潤んだ紅玉色の瞳がリチャードの紺碧の瞳とかち合う。 「大叔父上、めちゃくちゃ喜んでましたよ!」 アンジェロも続ける。

2021-11-17 01:50:02
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「我らは良き王を持った、聖者と死者、王と王国に乾杯!なんて言って。な!」 アンジェロの言葉にリチャードも頷く。 「私達に『私の愛しい甥に伝えて』と仰せでした。 …大叔父上にとって、伯父上は心から愛する甥であり、息子も同然だった…間違いないことでしょう」 リチャードは頷きながら言った。

2021-11-17 01:50:46
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

エリックは肖像画のメルヴィンの空色の瞳を見つめた。 「だったら俺にも顔くらい見せてくれたっていいじゃねぇか…」 寂しげな笑みを浮かべ、 「アスタ・ラ・ヴィスタ…叔父貴…」 語りかけるように呟いた。 双子の中で肖像画の聖メルヴィンと、今宵思い出を残してくれた紳士メルヴィンが重なる。 pic.twitter.com/SXD1Yz7Nzm

2021-11-17 01:52:41
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そしてきっといつか、今度は伯父も交えて彼に会える気がしていた。 「またお会いしましょう、大叔父上…」 エリックに倣い双子の王子も大叔父・メルヴィンの肖像画に語りかけた。 温かな思い出に包まれた三人を残して静かに黄泉返りの夜は更けていき…もうじき秋が終わる。 【To be next episode...】

2021-11-17 01:54:58
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