不死者達の街で行われるヴォストニア最大の秋の祭り「黄泉返りの夜祭り」。 仲間たちと仮装して街に繰り出したリチャードとアンジェロは年に一度だけ祖国に帰ってくるという謎めいた紳士・メルヴィンと出会い、彼と共にミステリーを推理で解決するオリエンテーリングに挑む。 生と死が交わる聖なる夜に双子の王子と仲間たちの名推理が謎の闇に光を当てる! そして謎の紳士メルヴィンの正体とは?!
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

メルヴィンの言葉の迫力に押され周囲の観客たちすらも息を呑み、騒がしいはずの祭りの一角はそこだけ時を止めたように静まり返った。 わなわなと震えるキンプヘッズの手だけが、時間が止まったわけではないことを遠慮がちに物語っている。 そして数瞬の後… 「せ、せ、正解で御座いますーーー!!!」

2021-11-12 00:48:37
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

今にも土下座せんばかりの勢いで飛び上がってキンプヘッズが白旗を上げた瞬間、 「オーレ!!」 観客達が一斉に声を上げ、爆発の如き歓声が広場に響き渡った。 「やったーーー!!」 隣にいたリチャードに、リュウが思わず抱きつく。 一瞬どぎまぎしたのも束の間、 「やったぜ!」 「全問正解!」

2021-11-12 00:52:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

それに次いでアンジェロとフロログも何故かリチャードに飛びついてくる。 バランスを崩して倒れそうになりながらも、リチャードはメルヴィンの方に目を向けた。 メルヴィンはキンプヘッズの肩をぽんと叩くと、 「実に見事な催しだったよキンプヘッズ君、最高に楽しかった」 満面の笑みを浮かべ言った。

2021-11-12 00:55:21
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ああ、ああ…下賤の屍如きになんとお優しく、光栄な言葉で御座いましょう…。 メルヴィン様…このキンプヘッズ、正に天にも昇る心地で御座います!」 なんと感涙に咽び泣きながらキンプヘッズはメルヴィンの手を取っているではないか。 「今宵は今までの祭りで間違いなく最高の一夜だ、誇り給え」

2021-11-12 00:58:24
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

メルヴィンは優しくキンプヘッズの背を擦ると、 「諸君、今宵最高の黄泉返りの夜祭を主催した、この名誉ある首長に盛大な拍手を!」 言ってメルヴィンはキンプヘッズの片腕を掴み高らかに突き上げた。 「ビバ!ドン・キンプヘッズ!」 メルヴィンが叫ぶと観衆たちもつられて彼の掛け声を口にした。

2021-11-12 01:00:54
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ビバ!ドン・キンプヘッズ!」 「ビバ!サンタ・メルヴィン!」 2つの掛け声の大合唱に飲み込まれ、呆然とする子供たち。 特に双子の王子はこういった熱狂は伯父の凱旋以外で目の当たりにしたことがなかったため心底驚愕した。 まさか自領内で王家以外の人間にここまでの支持が集まっていようとは。

2021-11-12 01:03:37
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

(なあ、あのおっさん、実は公爵家の奴とかそんなことないよな?) アンジェロがリチャードに耳打ちする。 (うーん、公爵家の人だとしても、ここは公爵家の領地ではないと思うけど…) 大歓声の中、少し困惑気味にメルヴィンの横顔を見つめる双子の王子。

2021-11-12 20:29:24
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

公爵家とは彼らの祖父に当たる先王・コナー王の異母弟であるフィラン公爵が現在当主をしている王家の分家である。 しかしながら彼は妾腹の子で現王家とは隔たりがあり、領地はここから遥か東に離れた一角にある。 となると現在明確な国王の領地であるこの地方で公爵家の者が実権を握るとは考えづらい。

2021-11-12 20:32:47
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

それに…何故だろう、メルヴィンの立ち振舞から匂い立つ高貴さは分家というより正に正当な王家のそれだ。 王族だからこそ双子の王子には肌感覚でそれが理解できた。 と。 「おいリック、見ろよこれ!カボチャ頭のおっちゃんからもらったぞ!」 リュウが何やら光るものを手に割って入ってきた。

2021-11-12 20:33:41
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

それは虹色に輝くクリスタルガラスで作られたドクロの置物であった。 ドクロを彩るペイントの代わりに七色のラインストーンが嵌め込まれ、大変美しい。 「わあ、すごいねこれ!…クリスタルガラス製か、ここの名産品だもんな」 リュウから渡された拳大のクリスタルドクロを見てリチャードは言った。

2021-11-12 20:34:32
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あとこれ!この街の高級ホテルのペア宿泊券だってさ。そのドクロとこれが今回の商品らしいぞ」 次いでフロログが血のように赤い蝋で封印された封筒を二人に手渡した。 「豪華とは言ってたけどマジで超豪華だな…よっぽど儲かってんだな、この祭り」 チケットをしげしげ眺めながらアンジェロも呟く。

2021-11-12 20:35:29
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「諸君、お待たせして申し訳ない。そろそろゴーストパレードの時間だから、商店街に見に行こうじゃないか」 と、人混みから戻って来るなりメルヴィンが子供たちに提案した。 「ごーすとぱれーど?なにそれ?」 聞き慣れない言葉にリュウが小首をかしげる。

2021-11-12 20:36:16
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「マリアッチの演奏に合わせて七色に輝く幽霊たちが街を練り歩くパレードのことだ。 百聞は一見にしかず、本物を見た方が早いだろう」 笑顔で言うメルヴィンに、 「なにそれ最高じゃん、早く行こうよ!」 リュウははしゃぎながらメルヴィンの手を引いた。 と。

2021-11-12 20:36:50
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「わっ!」 手を引いたリュウが思わずメルヴィンから手を離す。 「…おっちゃんの手、すごく冷たい…寒いの?」 「生憎冷え性でね、毎年この時期は冷えに悩まされるのだよ」 自らの手を擦り、苦笑いしながらメルヴィンが返す。 「うーん、オイラたちももう少ししたら冬眠の時期だしな…」 とフロログ。

2021-11-12 20:39:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「諸君も夜風に当たりすぎると風邪を引くことになる、寒さには気をつけ給え。特にアンジーは」 ほぼ半裸のアンジェロを見てメルヴィンが笑うのへ、 「生憎俺は寒さにゃ滅法強いんだよ。ヴォストニアっ子ナメンなよ?」 アンジェロは平気な顔で腕を組んでみせた。

2021-11-12 20:39:48
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刹那、パレードの始まりを告げるラッパの音が広場に響き渡った。 「お、いよいよ始まるようだ。 諸君、人混みの中ではぐれないよう気をつけ給えよ」 言って子供たちの後ろに回るメルヴィン。 5人は広場からも見えるパレードの山車を目印に商店街のパレードの通行路へと向かった。

2021-11-12 20:40:25
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【ⅩⅠ】 七色に明滅するゴースト達が虹色の街を彩り、バンドマンの奏でる盛大な演奏が夜の街に響き渡る。 普段はパレードの馬車からこの光景を見ていた双子の王子からすれば、路端で眺めるパレードは新鮮な眺めであった。 「うわ、すげえ!お化けがひかってら!」 リュウも興奮気味に声を上げている。 pic.twitter.com/76uQ6912Na

2021-11-12 21:08:39
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バンドマンたちの奏でる勇壮な行進曲と七色の幽霊達のパレードは、やがて時計塔の九回の鐘の音と共に終わりを告げた。 「え、もうこんな時間!アンナさんが迎えに来てくれる約束だったんだ、戻らなきゃ!」 リュウが思い出したように声を上げた。

2021-11-15 15:00:33
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「オイラも父ちゃんが来るんだ、そろそろ行かないとな」 フロログも両手を頭の後ろにやって続ける。 「そうか。リュウ、フロログ、二人はどこで待ち合わせしてるんだ?」 リチャードが問うと、 「アンナさんは宿屋街の入り口で待ってるって。今夜は泊まって明日森に帰るんだよ」 リュウが返す。

2021-11-15 15:01:06
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「オイラは東出口の馬車乗り場。 父ちゃんと馬車で沼地に帰るよ」 フロログも続く。 「そっか、俺は今日はリックん家泊まることになっててチェーザレが迎えに来るまでまだ時間あるからそこまで送るぜ」 アンジェロが二人に言う。 「諸君、道はわかるのか?」 メルヴィンが問うと二人は首を横に振った。

2021-11-15 15:01:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あたしこの街に来たの初めてだからわかんないんだ」 「オイラも来たことないわけじゃないけど詳しくなくて…」 リュウとフロログが口々に言うのへ、 「よろしい、なら俺が最後まで責任を持って街を案内しよう。 リックとアンジーも二人だけでは不安だろう、従者が来るまで俺が付いていよう」

2021-11-15 15:02:32
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

メルヴィンは頷きながら言った。 すっかりメルヴィンを信用していた双子も、 「それではお願いします、僕達も道には詳しくなくて…」 「なんか何から何まで世話ンなっちまって悪ィなおっさん」 リチャードとアンジェロも頭を下げる。 「これも大人の勤めだ、任せておき給え」 笑顔で返すメルヴィン。

2021-11-15 15:03:07
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「諸君はどちらで待ち合わせを?」 「あ、僕らは墓地の門の前です、さっきクイズに答えた…」 リチャードは元来た道を指さした。 「ではまずはリュウを、次にフロログを送り届けたら墓地へ向かおう。行こうか」 メルヴィンが宿屋街の方角を指さしたので、子供たちはメルヴィンに付いて歩き出した。

2021-11-15 15:03:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

宿屋街は広場から北に行ってすぐの所にある。リュウが人だかりの中、頭一つ大きなその人影を見つけるのにそう時間はかからなかった。 「あ、アンナさんとビリーだ!」 その人影と、その横に大人しく座っている狼を指差しリュウが声を上げた。 「アンナさーん!」 リュウがアンナに向けて手を振る。

2021-11-15 15:04:33
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

アンナもすぐに気が付いたようでリュウの元へやってきた。 「リュウちゃん、お祭りはどうだった?」 笑顔でアンナが問うのへ、 「超ーー楽しかった!な?」 満面の笑みでリュウは側にいた四人に向けて笑いかけた。 「リック、今日はリュウちゃんを連れてきてくれてありがとう。みんなもありがとうね」

2021-11-15 15:05:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

子供たちの顔を見回しアンナは笑顔で礼を述べる。 「ああ、あなた達がリュウちゃんの新しいお友達ね。 リックの弟さんと…」 「オイラ薬屋のフロログってんだ!よろしく!」 フロログはいつものように元気に答えた。 「リックの弟のアンジーです、どうも」 アンジェロも続けて頭を下げる。

2021-11-15 15:05:46
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「んーでね、こっちが今日街を案内してくれたメルヴィンさん!」 言ってリュウは子供たちから一歩距離をおいたところにいたメルヴィンを指して言った。 と。 「…え?」 アンナはよくわからないという風に小首を傾げた。 …メルヴィンもアンナに目を合わせず俯いている。

2021-11-15 15:06:14
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「メルヴィンさんすごいんだよ!クイズの謎解きぱぱーってみんな解決しちゃうんだ、な?」 リュウは構わず子供たちを振り返る。 「そうなんだよ!すっごかったよなあ」 笑って言うフロログを見て、 「そ、そう…」 アンナは気まずそうに話を合わせているようだった。 と。

2021-11-15 15:06:57
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ビリーはメルヴィンの前まで来て、くんくんと鼻を鳴らした。 そしてメルヴィンの目をじっと見上げている。 「君はわかるのだね、お利口さんだ」 穏やかな笑みを浮かべメルヴィンがビリーの頭を撫でると、 「ウォン!」 それに答えるようにビリーは一声吠えると嬉しそうに尻尾を振った。

2021-11-15 15:07:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そのビリーを青褪めた顔で見つめるアンナを双子は見逃さなかった。 が、そんなことはお構いなしに、 「メルヴィンさん、今日はありがとう!…また来年もお祭り来る?」 リュウが別れを惜しむようにメルヴィンに問うと、 「ああ、きっとまた会えるさ。 アディオス、ドナ・リュウ」 メルヴィンは笑った。

2021-11-15 15:08:03
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「じゃあみんな、またな!メルヴィンさん、来年も遊びに来てね、約束だよ!」 リュウは元気に手を振ってアンナと共に宿屋街の人混みに紛れて見えなくなっていく。 その間も、アンナは何度もこちらを不思議そうに振り返っていた。 「あのおかみさん、なんかあったのかな?」 フロログが訝しげに呟く。

2021-11-15 15:08:41
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「大人と子供では見える世界が違うのだよ。さあ、次はフロログを馬車乗り場まで案内しよう。こっちだ」 メルヴィンが手招きするのへ、フロログは足取り軽く付いていくが、双子はお互い顔を見合わせていた。 …今になってこれまでの違和感の正体が少しずつ二人にはわかり始めていた。

2021-11-15 15:09:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

一度広場に引き返して、一行は今度は事務所や銀行などの企業の施設が立ち並ぶ一角を通り抜け、馬車乗り場までやってきた。 馬車は既に長い列をなし、帰りの客を乗せて出入りを繰り返している。 「あ!父ちゃんだ!」 その一角にある待合用のベンチに腰掛ける見慣れた影にフロログは声を上げた。

2021-11-15 15:10:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

こちらに気がついたらしく、影が…フロログの父・グルニールがこちらへやってきた。 「ペンドラゴン殿、今宵はご兄弟揃って息子がお世話になりました」 グルニールが深々と頭を下げる。 「父ちゃん、こっちのメルヴィンさんにもお礼言いなよ!オイラたちのこと、ずっと見ててくれたんだぜ!」

2021-11-15 15:10:45
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

満面の笑みでやはり少し距離をおいたところにいるメルヴィンを指してフロログが言う。 しかし、 「はて…何を言っているんだフロログ、まさか黙って酒を飲んだりはしていないだろうな?」 少し厳しい口調の意外な言葉が返ってきて、面食らうフロログ。 「や、何言ってんだよ…ねえ、メルヴィンさん!」

2021-11-15 15:11:41
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「俺のことは大丈夫だ。 満月とは言え夜道は暗い、気をつけて帰り給えよ」 ぽん、と優しくフロログの肩に手を起き、メルヴィンは微笑んでみせた。 「わかったよ、それじゃあ今日はありがとうな!来年また遊んでくれよ!」 フロログはメルヴィンに手を振るとグルニールに連れられて馬車に乗り込んだ。

2021-11-15 15:12:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

…これはいよいよ異様であった。 アンナもグルニールも社会的道義を弁えた大人である。 礼儀正しい二人が自分の子供たちの世話になった他人に礼を告げないわけがない。 メルヴィンにもそれがわかっているのか、墓地に向かう三人の間に言葉はなかった。 三人はただ、黙って墓地に向かって歩き続けた。

2021-11-15 15:13:20
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

やがて墓地の前の門に三人はたどり着いたが、珍しく周りには人気がなかった。 気まずい空気の中、無人の門前に三人は佇んだ。 この空気を打破しようにも、リチャードもアンジェロも何を言っていいかわからない。 祭りの喧騒とは切り離された無言の重苦しい空気が無人の門前を支配する。 と。

2021-11-16 00:55:23
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「…天使が通ったようだね」 沈黙を破り、メルヴィンがぽつりと呟いた。 「…え?」 アンジェロがビクリと肩を震わせて誰に言うでもない疑問の声を漏らす。 「この地方ではこうした会話の途切れた時間をそう呼ぶのだよ」 にっこりと微笑みながらメルヴィンが答えた。

2021-11-16 00:57:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「…その、やはりこの地方にお詳しくいらっしゃるんですね」 それを皮切りに、リチャードもぽつりとメルヴィンに問うた。 「ああ、この街は…この地方は俺のホームなのだよ」 その言葉を聞いてやはり、とリチャードは心の裏で呟いた。 「メルヴィンさん、あなたは…」 リチャードが言いさした刹那…

2021-11-16 01:00:45
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「殿下ーーー!」 突然何処からともなく大きな声が響き、双子はビクリと身を震わせた。 声の方を見れば元来た道の向こうから何者かがこちらに向かって駆けてくるではないか。 「あ、あれ…キンプヘッズ卿?!」 リチャードの口をついて言葉が溢れる。 彼の言う通りやってくるのはキンプヘッズだ。

2021-11-16 01:03:59
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「で、殿下?!」 すわ自分達の素性が割れたのではと、双子が顔を見合わせる。 やがて息を切らしながらキンプヘッズが3人のもとにたどり着くと、 「ハァ、ハァ…カボチャが落ちるところでしたぞ…」 ずれた頭のランタンを正すとキンプヘッズは双子の前…にではなく、メルヴィンの前に平伏した。

2021-11-16 01:04:37
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「改めましてご挨拶が遅れてしまい、大変なご無礼を…お許しくださいませ、大公殿下」 頭を垂れたままキンプヘッズは先の戯けた素振りとは打って変わって襟を正した真面目な口調で言った。 「如何にも真面目な君らしい、気にしないでくれ給え、キンプヘッズ君。 私も今年は変則的な出方をしたからね」

2021-11-16 01:05:42
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

穏やかな笑みを浮かべ、キンプヘッズの傍にしゃがみながらメルヴィンが言う。 「大公…殿下?」 双子は思わず声を揃えて呟いた。 「キンプヘッズ君はね、かつては私の副官だったのだよ。 …バンガーヤードの戦いで、命を落とすまではね」 振り返りもせずメルヴィンは双子に告げた。

2021-11-16 01:06:58
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ヴァンガーヤードの戦い…聞いたことがあります。 当時の隣国だったジェロキアがヴォストニアと領有権を争いこの地方に侵攻してきた戦いだったと…」 リチャードはぽつりと呟くと、メルヴィンは振り返り、小さく頷いた。 「その戦でこの地を命がけで守り抜いたのが、このキンプヘッズ卿なのだよ」

2021-11-16 01:07:35
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「え、でもそれって…すっげー昔…それこそこの街がまだただの荒れ地だったときの話って聞いたけど…」 震える声でアンジェロが続ける。 「如何にも。あの時の戦でキンプヘッズ卿と彼の上官であったグレーブレルム大公は市民の撤退に成功したが互いに命を落とした…」 遠い目をしてメルヴィンが言う。

2021-11-16 01:08:08
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

その一言を聞いた時、双子は背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。 そしてこの男の正体を理解した。 子供と動物、不死者にしかその姿を見ることのできないこのメルヴィンという男…彼は既にこの世のものではないということを。 そして彼が話していたかつてこの地を治めた大公こそ、彼本人だということを。

2021-11-16 01:10:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

双子の様子を見て、メルヴィンも彼らの心中を察したようであった。 「いずれは言わねばならないと思っていたが…楽しい夜につい夢中になってしまい言うのが遅れてしまったよ。 …君達と会えたことが、心底嬉しくてね」 少し寂しそうに微笑みながらメルヴィンが静かな声で言う。

2021-11-16 01:10:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「キンプヘッズ君、悪いが積もる話があるので外しては貰えないだろうか。せっかく会いに来てくれたところ申し訳無いのだが…」 メルヴィンが言うと、 「承知致しました、殿下。 来年の黄泉返りの夜にお待ち申し上げております。私はこれにて」 もう一度丁寧に敬礼をするとキンプヘッズは去っていった。

2021-11-16 01:11:53
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「そろそろ最後のミステリーに終止符を打つときが来たようだな」 メルヴィンは小さく笑った。 「その…メルヴィンさん…あなたは…」 リチャードが言いさすのへ、 「会えて嬉しかったよ、リチャード、アンジェロ。私のかわいいリックとジェーンの子供達…」 その言葉に双子は息を呑んだ。

2021-11-16 01:12:32
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