A棟103号室の日々

リエ @rie_tkm

ワインフェスが終わってから、やたら熱心に求人広告を眺めていたと思ったら。 「よりによって保育園とか……お前のどこに保育士の要素があるんだよ」 「なせば成る、だ。おれはでけェ男になる」 「お、おう……よく解んねェけど」 まあがんばれよ、と。 門をくぐる勇ましい背中を見送るしかなかった。

リエ @rie_tkm

「おはようございます！今日からよろしくお願います」 水色の髪の女はビビと名乗った。 これ制服みたいなもんなんで、と笑顔でピンクのエプロンを渡される。 「園長代理、今ちょっと来客みたいで……一緒に子供達のお迎えからやってみましょう。バスで来る子もいるし、直接送迎の子もいます」

リエ @rie_tkm

「おはよービビせんせい！」 「おはようござ……あれ？あんた、もしかしてフェスで会った……」 最初にやってきたのは見覚えある親子だった。 「あ！きつねマンちのおにいちゃん！」 「なんだお前か。よろしくな」 「ヒマだからあそびにきたのか？」 「こらマリモッ」 「新しい先生よ。仲良くしてね」

リエ @rie_tkm

あのひと身重だぜ、ときつねが言っていたが、見た目じゃまるで解らない。 「まだ帰ってこねェのか？」 「ああ……前の家にゃ寄ったみてェなのに、どこほっつき歩いてんだか」 「心配ですね……」 「ありがとビビちゃん平気平気！」 帰ったらタダじゃおかねェから、と低く呟いた一瞬の目つきがヤバい。

リエ @rie_tkm

明るい笑顔で手を振り去っていくしたたかな妊夫を見送る間もなく、ガキどもは次々とやってきた。 「あー！おまえはあのときの！！」 「ね、もふもふしゃは？もふもふしゃ、どこ？」 「コラお前とか言うんじゃねェ！すいません、こないだはどうも……って、こんなとこで何やってんだ？」

リエ @rie_tkm

「短期のアルバイトで入ってくださったんですよ」 くすくす笑いながらビビが言った。あっおはようビビちゃん今朝も朝陽より眩しいね！と流れるように褒め称えてから、意外そうにおれを見る。 「お前子供とか苦手っぽいのに」 「まあ小せェ怪物だ。負ける気はしねェ」

リエ @rie_tkm

よししょうぶしろ、と足元にさっそく絡まれながら胸を張る。 「ははっ、てめェも案外好かれるタイプかもな。頑張れよ」 おう、と返し、思わずぽろっと言い足した。 「てめェのツレ、いい男だな」 気象予報士は一瞬きょとんとした後、 「……まあな」 照れ臭そうに、だけど誇らしげに、にかっと笑った。

きむ🦇 @zs_kimkage

#ZS島 #a102zs #ZS島ワインフェスティバル pic.twitter.com/YaxWc154Fj

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リエ @rie_tkm

一対一の勝負はもちろんあっさりカタがついた。ころんと足元へ転がしてやると、ガキの顔は悔しげにキッと引き締まる。 「いいツラじゃねェか。もういっちょやるか？」 うおおお！と叫びながら突進してくる小さな体。何度転がされても諦めないしぶとさ。五度目くらいからは目に涙が溜まっていた。

リエ @rie_tkm

がんばれ、がんばれ、と男のガキどもの応援にも熱が入る。 「あ、あのっ、何度かに一度は負けてあげたら……っ」 ビビがそっと耳打ちをした。 「男の勝負はそんなもんじゃねェ……いつだって本気じゃねェとなあ」 頭に黒いバンダナを巻き、両手を広げる。 「おら、全員まとめてかかってこい！」

リエ @rie_tkm

「おー、盛り上がってんなァ」 「サンジ先生っ……」 意識が逸れたところを一気に押され、仰向けに床へ倒れた。やった！と腹の上で飛び跳ねて喜ぶガキども。逆さまに見上げる眼鏡の金髪。 「気ィ抜いたな」 「ああ……上手いこと狙ったなお前ら」 小さな頭を次々撫でると、汗ばんだ顔が得意げに笑う。

リエ @rie_tkm

「さんじせんせー！」 「おれたち、かったぞ！」 「おう、力合わせて闘ったな」 どうやらこれが園長代理だ。挨拶しておくかと立ち上がる。 「男ウケはバッチリだけど、レディのご意見は？」 ビビの後ろに隠れていたもふもふ好きが呟いた。 「くろのおいにちゃ、こわい。かわいー、ないから、きらいよ」

リエ @rie_tkm

まあそう言わずにサンジュちゃん、と優しく宥め、地味にショックを受けていたおれを見る。 「でもまあ、お陰でやっとビビちゃんに夏休みをあげられるよ。ホントはレディしか採らねェつもりだったけど……」 「本当にいいんですか？サンジ先生……」 「もちろんさ！短いけどゆっくりしておいで」

リエ @rie_tkm

「でも……」 「大丈夫だって。おれもフォローするし、ゾロも最初はこんなだったろ？」 それに、と園長代理は声を潜めた。 「さっき狐さんが来て、可愛いパンを差し入れてくれたんだ」 「かわいーぱん……？もふもふしゃ？」 「バンダナ先生がいる間は毎日食べられるぜ？」 「きつねのパンやさんだ！」

リエ @rie_tkm

わっと湧く子供たち。眼鏡の金髪が振り向いてニヤリと笑った。 「出来た奥さんだな」 「お、」 喉の奥で変な声が出た。 「あれ？身内っつってたからてっきり……違ったか？」 「いや」 違わねェ、と即答しつつ思い返す。すぐ先のレストランへパンを卸すついでだ、と着いてきたが、そんなこと一言も──

リエ @rie_tkm

「迷惑掛けると思うから、ってさ。味見させてもらったけどクソうまかったし、子供らの反応次第じゃ今後も卸してもらうかもなァ」 ちゃっかり営業してんな、とも思うが、その心配りに救われそうだ。 （身内、か） 口が悪いきつねの、やわらかな眼差し。括った腹の芯に、あたたかい力が滾る気がした。

リエ @rie_tkm

十五夜だと聞いて #ZS島 #a103zs pic.twitter.com/ToYjmKLZ83

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リエ @rie_tkm

#ZS島 #a103zs あいつのプライド傷つけちまうかなあとも思ったが、居ても立っても居られず気づいたらパンを捏ねていた。 きつねパン、パンダパン、キリンパン、あひるパン、車パン、飛行機パン、恐竜パン。子供が気に入りそうなものを次々と形にするのは楽しくて、ついついたんまり作ってしまう。

リエ @rie_tkm

おやつにでもしてもらえりゃいいなといきなり持ち込んでしまったけれど、あいつが働く五日間は受け取ってもらえることになり、とりあえずほっとした。上手くいけばお得意先が増えるかもしれない。 帰ったあいつも怒ってはいなかったから、それにも重ねてほっとした。

sim🐧 @simcolorname

#ZS島 #b404zs #まゆげ山虎狐 #b105zs ｢狐さーん！こんにちはー！｣ 今日は非番だが、先日のたんぽぽ保育園のおてがみ講座で、園児さんから大事な物を預かってきたのでまゆげ山に来ている。 木々の木漏れ日のなか、一見朽ち果てそうだけど意外としっかりしてそうな古びた神社に向かって

リエ @rie_tkm

パンを焼くおれの朝は早い。 まだ暗いうちにジジイの店へ飛び、パン用のガスオーブンでバゲット、食パン、ロールパンなど注文の品を焼き上げていく。 合間に店用の仕込みの手伝い。ジジイはまだまだ元気すぎて、任せてくれるのはこれと配達とたまの店番と、あとは忙しい時間帯の手助けくらいだ。

リエ @rie_tkm

配達まで全部済ませて帰っても、大抵まだ寝ているマリモだが、仕事がある今はそうもいかない。 急ぎの配達を終えたところで、叩き起こして朝飯の時間だ。 残りの配達ついでに園まで送ってやるのは、過保護というより後々の面倒回避のためである。

リエ @rie_tkm

二日目の任務も無事果たし、昼過ぎまでジジイの店を手伝ってからアパートへ戻った。 シャワーを浴びて、陽当たりのよいリビングのソファに転がり、息をつく。 疲れていれば仮眠をとるし、元気なら街へ出掛けたりもする。 けど、今日は。 「あー……アレどうすっかな」 憂鬱のタネが冷蔵庫に。

༻カヲリ@b105zs ༻ @LycaonCoyote

#ZS島 #まゆげ山虎狐 #b404zs 山道をひょこひょこと降りていく金色の頭を眺めながら、狐はぷぷっと小さく吹き出した。 「俺は神さまじゃねェんだよ」 あの人間が初めてこの山に来たとき、少し驚かせてやろうと悪戯心が顔を出した。荘厳に光り輝く姿で現れた妖狐を前に、目をまん丸にしていたっけ。

リエ @rie_tkm

『おいチビナス、てめェ隣にちゃんと詫び入れたのか』 返事に詰まったおれに、ジジイが無言で押しつけてきた作りたての揚げと麺。 「解っちゃいるけどよォ……」 お隣さんとの衝撃の対面から数日。思い出すだけで火が出そうになる顔をクッションに深く埋め、うーうーとひとりで唸る。

リエ @rie_tkm

何がどこまで聞こえていたのか、知りたいような知りたくないような。 あれからご迷惑は掛けていないはずだが、これから先のことを考えると。 （ずっとヤんねェのも……無理だし） のろのろと体を起こし、耳を澄ます。隣の生活音は聞こえない。

リエ @rie_tkm

普段はたまに喧嘩の声とか──そういや一度とんでもない破壊音がしたこともあった。 （留守……って可能性もあるよな） あれもたぶん番いだ。思い返せば気を悪くしている風でもなかった。 今までだって顔を合わせたこともなかったくらいだし、これからはちゃんとベッドで、なるべく声を我慢すれば。

リエ @rie_tkm

「いや……どんだけヤりてェんだよ」 自己嫌悪に陥りつつ紙とペンを取り、窓際のテーブルへ。 デリカシーはクソマリモ以上になさそうな野郎だったけど、そんなに悪いヤツじゃないかもしれないし。 （とりあえず謝って、レシピも一緒に渡して……） 忘れてくれ、そう頼もう。

リエ @rie_tkm

#ZS島 #a103zs #a102zs うどんセットとレシピを握りしめ、隣の部屋のチャイムを押した。 緊張しつつ待つが反応はない。 （……マジで留守かも） もう一度押してみるか、このまま帰るか、心も体も後者へ傾きかけたとき。はーい、と微かに気怠げな声が聞こえた。 「す、すいません、あの、おれ隣の」

リエ @rie_tkm

慌ててドア越しに声を掛ける。 「んー？……あぁ〜」 鍵の開く音。ドアの向こう、目を擦りながら現れたお隣さんは明らかに寝起きのツラで。 「よお久しぶり……なんか用か？」 「え、お、おま」 つい指差してしまったその頭──くしゃっと乱れた金髪に、二本の立派な黒いツノを生やしていた。

リエ @rie_tkm

「夢魔ァ！？」 「おう、まあ茶でも飲めよ」 マイペースな悪魔がにこやかに出してきた緑茶を受け取り、どうも、と小さな声で礼を言った。 我に返って手土産を渡そうとした腕をがっちり掴まれ、あれよあれよという間に部屋へ連れ込まれたのである。 まじまじと眺めれば、ケツにも細い尻尾が揺れている。

リエ @rie_tkm

「ソレ出し入れ自在なのか？」 「ああ、もうこのまんまでいいよな面倒くせェし。てめェのソレはしまったりしねェの？」 おれの頭を指差し首を傾げる。 「しまえって言われたこともねェし……」 「ふーん。ま、ヒトじゃねェもん同士仲良くしようぜ」 差し出された手を弾みで握り返してしまった。

リエ @rie_tkm

（な、馴れ合ってる場合か！） 完全にこいつのペースだ。 新しい友達ができるのは正直嬉しい。が、だったらなおさら困ることもある。 （この部屋……まさか……） 「……ウチと真逆だな」 「へ？」 「いや、ここの間取りがさ」 「あ〜それでかァ！寝室にもなんか漏れてて全然収まんなかったもんなあ」

リエ @rie_tkm

悪魔はうっとり何かを反芻している。おれの背筋を冷や汗が伝った。 「えっ、そんなに、その……き、聴こえて……？」 「いやいや聴こえるとかそんな生易しいもんじゃねェよ」 悪魔がけらけら笑いながら言葉の鈍器で殴ってくる。 夢中になると我を忘れてしまいがちだ。ボロアパート時代もよく失敗した。

リエ @rie_tkm

あいつとの交尾が──あいつにされる気持ちいいことが好きすぎて、声とか全然我慢できない。 「こ……これからは気をつけるんで、どうかこのことは」 「あ？いや気にすんなって！あんな強ェ性気初めてでびっくりしたけど、お陰ですげェヨかったし、あいつのザー●ンたっぷり食えたし」 「性……？」

リエ @rie_tkm

「声とかはまあ、たまにゃ聴こえたかもしんねェけど、そりゃお互い様だろ？」 あまりに軽くそう言われると、そうなのかなという気分になってくる。 「てめェひとりで放ってるワケでもなさそうだし……すげェ興味あるわ、てめェらのセッ●ス」 なあ詳しく教えろよ、と。唇を舐めながら悪魔が笑った。

きむ🦇 @zs_kimkage

リエさん(@rie_tkm )が描いてくれてるお話の挿絵〜🦇 #zs島 #a103zs #a102zs pic.twitter.com/JtaafaEtKx

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リエ @rie_tkm

「うちもタフだけど、てめェんとこの緑もなかなかだよなァ」 「そーなんだよ……ねちっこいし遅漏だし、イっても硬ェまんまでちっともやめてくんねェし」 「それがイイんじゃねーか！うちのもおれが満腹になるまで付き合ってくれるし、ヒトとは思えねェしぶとさだぜ？」 「……お前すごそうだもんな」

リエ @rie_tkm

きつねうどんを一緒に作りつつ、猥談でやけに盛り上がってしまった。 「てめェも好きなくせに」 「べ、別に好きとか……っ」 「だってお前、緑のこととかセッ●スのこと喋ってるとき、すんげェ甘ェ性気ほわほわ飛ばしてんぞ？」 見えないソレを慌てて払うおれを見て、悪魔は無邪気な笑い声をあげた。

すずめ@島用 @chuno1132

#ZS島 #c103zs ⑤ pic.twitter.com/lkBYzdpbcX

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お隣さんとまだほんのり絡みつつ☺️ #ZS島 #a103zs #a102zs #ZS島たんぽぽ保育園 pic.twitter.com/aFOiPqGJez

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リエ @rie_tkm

続きました…☺️ #ZS島 #a103zs #b102zs #ZS島たんぽぽ保育園 pic.twitter.com/muKAF7J0xd

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リエ @rie_tkm

運転手さんのお陰でプリンセスと少し仲良くなりました☺️ 続きはまた裏になります〜

つづや @meguru1132

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きむ🦇 @zs_kimkage

ほんの少しの変化 (勝手に🦊ちゃん出してすみませんリエさん) #ZS島 #a103zs #a102zs pic.twitter.com/rqZ6kYbPMh

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リエ @rie_tkm

#a103zs #ZS島ハロウィンパレード 「ふざけんな！どう考えてもこっちがてめェだろ！」 「ああ！？てめェがふざけんなイラマリモ！おれがコレ着たらてめェの罰になんねェだろが！」 「イラマ……」 不名誉かつ的確なあだ名に感心しつつ絶句するおれを見て、きつねはハッとしたように頰を赤らめた。

リエ @rie_tkm

「と、とにかく！てめェは白無垢でおれが紋付な」 「断る」 「てめェに断る権利はねェ」 「そもそもなんであのジイさんこんなもん持ってんだ」 「知らねーよ。仮装にイイもんなんかねェかって訊いたら出してきたんだ」 狐の嫁入りセット。ご丁寧に面までついている。まあ妖のパレードには違いないが。

リエ @rie_tkm

ハロウィンパレード当日に間に合うようにドタバタしはじめました🎃 当日はきつねちゃんがお菓子たくさん持っていくので、どうぞお気軽にトリックオアトリートしてください〜 #ZS島 #a103zs

リエ @rie_tkm

「コレの意味解ってんのかお前」 「あ？狐のヨメイリ、だろ？白無垢ってのがレディ用で、紋付が野郎用だってジジイが」 「嫁入りってのは祝言だぞ」 しゅうげん、と繰り返すきつねの知識は思ったとおり乏しい。 「あー、結婚式だ」 「け」 固まったきつねに、やれやれとこれ見よがしな溜息をつく。

リエ @rie_tkm

「ジイさんの気持ちも考えろ。きっとてめェの晴れ姿が見てェんだ」 「ば、バカ言え！んなワケ……いやいや、そんならやっぱおれが紋付で」 「おれにソレが似合うと思うか？」 金糸が織り込まれた白打掛、白い花の連なる艶やかなかんざし。 「クソウケるとは思う」 真顔できっぱりきつねが言った。