兄・リチャードが一人発ちしてから2週間余り、なんの成果も残せずにいる自らの不甲斐なさにアンジェロは苛立っていた。 そんな折に先のやくざ者一味の残党が山に落ち延びて山賊になったことを知り、アンジェロは自らの実力を証明するため部下を率いて山に入るが…
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

すると男は手袋をはめていてもわかるほどごつい手のひらをぽんとリュウの頭に置いて、 「それは商人の考え方だ、お嬢ちゃん。 職人てのは儲け口より稼ぎ口、儲けるのは商人の仕事だ。 良い職人の品なら黙ってたって買い手がむこうから付くからな」 白い歯を見せて男が笑った。

2021-05-08 13:13:53
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅲ】 午後の蜂蜜色の日が温かく照らす石造りの建物、ここはヴォストニア王国軍の兵舎だ。 王宮内に併設されたこの兵舎の前は訓練場になっており、土埃の中鋭い剣戟の音が響く。 しかしそれは理路整然とした訓練の打ち込みのそれではない。 穏やかな午後の陽気を切り裂く死闘が今まさに行われていた。

2021-05-09 04:14:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

ズシャッと派手な音を立てて剥き出しの土の地面に倒れ込む一人の男。 仕立ての良い軽装の戦闘服を身に纏った彼は身形からそれなりの腕の持ち主であることが伺える。 が。 「オラどうした、立てよ、もう終わりか?!」 その男に詰め寄り叱咤と言うより罵声に近い言葉を浴びせる黒い馬体の蹄の音が響く。

2021-05-09 04:16:30
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「王子、もうおやめ下さい、この者は十分やったではありませんか!」 試合を恐々見守っていた兵士達が走り寄り、影を…王子・アンジェロを制止する。 「だから俺より弱ぇ奴の相手したってなんの足しにもならねぇって言ってんだろ、こいつから何を学べってんだよ!」 苛ついたように声を張り上げる。

2021-05-09 04:17:32
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「しかしエラルド殿は東部の剣術学校の師範で御座います、今の段階でこの方より腕の立つ者を用意しろというのは…」 止めに入る兵士をきっと睨みつけ、 「おい、じゃぁファルコ連れてこい、ここらの雑魚じゃ話にならねぇ。俺は強え奴と戦いてえんだ!」 アンジェロは不機嫌そうに兵士を怒鳴りつけた。

2021-05-09 04:18:43
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「し、しかし将軍閣下は今陛下の御用で…」 言い淀む兵士。 と。 「王子」 聞き慣れたよく通る低い声がかかり、アンジェロも兵士達も手を緩めた。 「ファルコは此処に」 声の方を振り返ると今し方アンジェロが所望していた男の姿があった。 「閣下、任務中では…」 「思いの外早く片が付いたんでな」

2021-05-09 04:20:05
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

平然と言ってのける彼の黒衣にはわずかに黒いしみのようなものが付着し、不穏な金属臭を放っている。 「なんだ、いるんじゃねえか。なら話は早ぇ、仕事上がりで悪ィがちょっと付き合っちゃくれねえか?」 苛立ちと不遜さを隠そうともせぬアンジェロとは対象的に、ファルコはといえば平静なものだ。

2021-05-09 04:21:06
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

しかしその目は鋭く、その気迫だけで動けなくなっている兵士もいる。 ファルコは側に控えた"カラス"に目配せすると、「さあ、こちらで手当を…」"カラス"の一人がアンジェロの憤怒をもろに浴びせられ地に伏した男に肩を貸した。 「…戦場で冷静さを欠くことは即ち死です。 私の言葉をお忘れで?」

2021-05-09 04:22:34
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「頭に血ィ上ってようが雑魚に遅れは取らねぇよ」 アンジェロのふてぶてしい回答にファルコは、 「それでは先の街での一件もお忘れであると」 冷たい声で言い放った。 「うるせぇ!いいからさっさと剣を抜けよ、やるのかやらねぇのか…」 怒りに我を忘れて叫ぶアンジェロの言葉はそこで途切れた。

2021-05-09 04:23:23
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

アンジェロが気がついた時には既にファルコは剣を抜き、アンジェロの間合いに踏み込んでいた。 大振りながら視認すら難しい速度で斬り込むファルコの一撃を寸出でかわし、 「テメェ!」 怒りに声を張り上げ反撃するアンジェロの剣はしかし、ファルコにはかすりもしない。 直に反撃の一手が飛んでくる。

2021-05-09 04:24:36
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

先の戦いでは師範の男相手に繰り広げられた一方的な試合運びが、今度は立場を入れ変えてファルコとアンジェロの間で繰り広げられている。 (なんでだよ…) アンジェロの胸の内は怒りから戸惑いに変わりつつあった。 (なんで見えないんだよ…!) ファルコの身のこなしに一分の隙さえ見いだせないのだ。

2021-05-09 04:25:51
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

やがて焦りから闇雲に放った一撃を大きく弾かれ、 「ッ!?」 アンジェロがよろめいた隙にファルコは一気に間合いを詰めて組み付くと、兵士が三人がかりで止めに入ったはずのアンジェロの半馬の身体を片腕のみで投げ飛ばした。 「があッ!」 地に伏したアンジェロの鼻先に、銀の刃がギラリと光った。 pic.twitter.com/MfXsagRvaH

2021-05-09 04:27:21
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「御無礼ながら今一度申し上げます、戦場で冷静さを欠くことは即ち死。ここが戦場ならば今殿下の首はなきものとお考え下さい」 息を乱すこともなく、冷たい声でファルコが言うと辺りに静寂と冷たい空気が流れた。 「強さとは力だけのものでも一朝一夕で手に入るものでもありません。お忘れなく」

2021-05-09 14:35:56
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「失礼」 それだけいうとファルコは剣を収めアンジェロから背を向け振り返りもせずに去っていった。 後に取り残された冷え切った空気とアンジェロ。 やがて、 「王子!」 兵士の一人がアンジェロに肩を貸そうと近寄ると、 「触んじゃねぇ!」 しかしアンジェロは兵士の手を払い除けた。 「畜生…!」

2021-05-09 14:38:38
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「で、ファルコにとっちめられたってか?」 その晩、謁見の間に呼び出された仏頂面のアンジェロに、やや呆れたようにエリックは問うた。 「それは…先に一戦交えておりましたから―――」 「言い訳は男らしくねぇぞアンジー」 言い淀むアンジェロの言葉を遮るエリック。 …アンジェロは言葉を飲んだ。

2021-05-09 14:42:22
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

はぁ、とエリックは深く溜息をついた。 「なぁアンジー、たしかにおめえは腕が立つ。この国でお前ェとまともにやり合って勝てるヤツなんてなァ、ファルコくれぇのもんだろう。だがいいか、お前ェは一つ大ェ事なことォ見落としてんじゃねえか」 エリックのルビー色の瞳がジロリとアンジェロを睨む。

2021-05-09 14:45:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「お前ェが将来戦に出るときァ、お前ェは大将、前に出てバチバチやるのはお前ェじゃなくて兵士共だ。上に立つヤツに必要なのァ剣の腕じゃねェ、"ココ"よ」 とんとんと尖った黒塗りの爪でエリックは自らのこめかみを叩いてみせた。 「御言葉ですが伯父上、しかし弱い者に兵は付いてきません!」

2021-05-09 14:51:33
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「私は上に立つ者として力をつける必要があるのです、弱き者は…」 「するってぇとなにか、人前ェで弱い者いじめェすりゃァ兵士共がお前ェに従うとでも言うのかよ? …あいつらが兜の下でどういう面ァしてたかお前ェにはわかるか?」 エリックの言葉で、アンジェロの瞼の裏に昼間のことが蘇ってくる。

2021-05-09 14:57:05
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「わぁ!王子強くてかっこいいなぁ!あんな強くて苛烈な方のお傍にいたいなぁ!王子最高!」 パッと明るい声で、芝居じみた手振りを交え戯けるように言うエリック。 が、 「言っとくがンな奴ァ普通はいねぇよ、断言してもいいぜ。 尤も恥ィかかされた恨みでお前ェの首を狙う奴ァいるかも知れねぇがな」

2021-05-09 15:02:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「手っ取り早く特技を伸ばせばチカラになるなんて考えてんならその考えは今すぐ捨てるこったな。お前ェが考えるほど戦ってなァ甘くねえぞ」 鋭い王の目に射抜かれて、アンジェロは言葉に詰まった。 「一晩アタマ冷やして来い、行け」 言うとエリックは玉座から立ち上がり謁見の間の奥に消えた。

2021-05-09 18:19:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「クソ!」 自室のドアを乱暴に閉めるとアンジェロは一人きりの部屋で窓際に腰を下ろした。 …つい数日前までは、いつもここに兄・リチャードがいた。 自由な時間はお互いの部屋に行き来して過ごすのが二人の常だった。 だが今、リチャードはいない。 世話焼きの執事のチェーザレも、愛犬のスリも。

2021-05-09 18:22:35
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

昨日リチャードから手紙が届いた。 内容はなんとなくわかっていたが、自分を気遣う言葉が綴られていた。 あいつはわかっているんだろう、今自分が置かれている状況に。 王宮を離れていてもリチャードのことは城の者達から事細かに聞くことが出来た。 情報共有のため、チェーザレから日報が届くからだ。

2021-05-09 18:26:12
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

独り立ちしてからというもの、リチャードはうまくやっているらしかった。 困っている市民を助けたり、外で友達もできたそうだ。 市井の者たちの暮らしを知るという役目は着々とこなせているようだが、対して自分は何一つ成果を残すことが出来ていなかった。

2021-05-09 18:30:10
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

弓や用兵術ではリチャードに劣り、唯一の取り柄の剣術は伯父の懐刀の古強者とは言えファルコに劣る。 躍起になればなるほど兵士達の心は自分から離れていく。 同じ環境で育った双子の兄はいつでも自分の役割を忠実にこなしているというのに。 そのことがアンジェロには後ろめたかった。

2021-05-09 18:33:31
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「…情けねえ」 窓に大粒の悔し涙を浮かべた目をやると、涙で滲んだ街の灯と、窓に写った情けない泣き顔が目に飛び込んでくる。 慌ててアンジェロは手の甲で涙を拭った。 ―――あの街の灯のどれかが、リックの家のものなのだろうか? 瞑った瞼の裏に兄の横顔が浮かんで、アンジェロは鼻を啜った。 pic.twitter.com/f9SZX9GpHx

2021-05-11 22:55:37
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あと少しなんだがなぁ…」 都の夜景を一望できる自室の大窓の前に立ち、エリックは呟いた。 「あれも多少は手前ェが半人前なのァわかってきたみてぇだが…」 眉間に深い皺を寄せ紅玉色の瞳で窓越しに映るファルコを見やる。 「殿下は苛立っておいでです、恐らく兄上と御自分を比べておられるのかと」

2021-05-12 14:42:25
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

相変わらず冷静に所感を述べるファルコ。 「あれァ軍神の星の子だ、生まれついて下げる頭ァ持っちゃいねぇ。 …だがそれじゃあ務まらねぇのよ、上に立つ奴ってなぁ。謙虚でなけりゃぁ、軍をデカくすることも強くすることもできねぇ。 上に立つ奴に必要なのァ客観性よ」 溜息交じりにエリックは続けた。

2021-05-12 14:45:24
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「手前ェの弱さァ認めて初めて男は強くなれるのよ、だが今のあいつにゃそれがまだできねぇ。 それにお前ェが手前ェより腕が立つことに苛立って逆恨みまでしてやがる」 エリックが言うのへ、ファルコは苦笑いで返した。 「まぁ俺があれくれぇの頃も似たようなもんだったが…さァて、どうしたもんか…」

2021-05-12 14:46:25
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅳ】 「へー、じゃあ直さなくてよくなったんだ?」 その日楽器屋から出てきたリチャードにリュウは問うた。 「うん、見てもらったんだけど、きちんとペグとして機能してるし問題なく動くからこだわりがないなら高いお金を出してまで治す必要はないって」 リチャードは抱えた先の楽器を見て言った。

2021-05-12 18:27:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あのおっちゃん何でもできんなぁ。だって鍋とかヤカンとかも直しちゃうんだろ?」 「みたいだな、複雑な機械以外は金属なら治せるって」 話しながら二人は先日の鍛冶職人の男のことを思い浮かべた。 ***** 話は当時まで遡る。

2021-05-12 18:28:51
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

あの後近隣の村の子供が壊れた鍋の蓋を持って男の下にやってきた。 蓋のつまみがやはり金属疲労でネジが折れてしまい、子供の母親がそれを直してほしいのだという。 男は笑って「すぐに治すから待ってろよ」と。 聞けば近隣の者たちはなにか物が壊れるとだいたい男の所に持ってくるのだそうだ。

2021-05-12 18:29:50
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「おっちゃんに言えば何でも直してくれるよ!へこんだフライパンも、穴の開いたヤカンも、取っ手の取れた手鍋も!」 何故だが子供は自慢げに二人にそう語った… **** 「なのにお金取んないんだもんなぁ、もったいねー」 リュウが唇を尖らせるのを見て、リチャードはクスリと笑った。

2021-05-12 18:30:53
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

と、 「アノー、ちょっといいデスカ?」 どこからか聞き覚えのある声がして二人が振り返ると、後ろの曲がり角に座した一体のガーゴイルと目が合った。 見れば手にはビラらしき紙の束を持っているではないか。 「おしろからのおふれデス、ドウゾ」 ガーゴイルが差し出すビラをリチャードが受け取る。

2021-05-12 18:33:40
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「お触れ?王宮から?」 「やまにおでかけするかたへのチュウイカンキのおふれデス」 「は?!なにそれ、あたし山から来たんだけど?!」 驚きの声を上げるリュウを尻目に、リチャードは眉をひそめビラに目を落とした。 ビラには見るからに悪人面という風情のオーガらしき男の人相書きが描かれている。

2021-05-12 23:46:16
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「『やくざ者一味・ゴルジ一家が山賊行為…現在王国陸軍で調査中。この顔にピンときたら最寄りのガーゴイル、または陸軍駐屯地まで…』」 ビラを読み上げてリチャードは表情を曇らせた。 「普段この手の任務なら陸軍じゃなくてレイヴンが動けば十分なはずだけど…」 独り言ちるリチャード。

2021-05-12 23:48:46
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

ヴォストニアにおいて陸軍は他国との交戦の主力であるが、戦のない平時は防災や災害時の救援活動に当たるのが一般的だ。 特に国内に於いて彼らが出撃する場面ともなれば大規模な反乱や他国からの扇動などによる暴動が起きた時に限られる。 それ以外のこうした小規模な犯罪者の討伐はレイヴンの管轄だ。

2021-05-12 23:49:28
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

レイヴンは前述の通り民間人に扮した治安維持の為の諜報部隊であり、更に表沙汰に出来ぬ暗殺や交戦を含む重要任務にはその上位部隊・ブラックホークが対応している。 何れもファルコの直下の部隊である。 しかし今回は表立って陸軍が鎮圧に当たるのは事情を知るリチャードからすれば実に妙な話だった。

2021-05-12 23:50:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「陸軍が動くなんて…そんな危険な連中なのか、このやくざ者っていうのは…」 ガーゴイルに問うリチャード。 「それがデスネ…」 ガーゴイルが耳打ちする。 (じつはこんどのトウバツグンは、アンジェロおうじがしきをとるらしいノデス) 「なんだって?!」 内緒話を忘れてリチャードが声を上げた。

2021-05-12 23:50:49
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

(じっせんをけいけんしなければせんじょうにはたてないと、こくおうへいかにつめよったらしいノデス。 へいかにもおもうところがありまして、こんかいのけんはアンジェロおうじにおまかせすると…) 事情を聞いて二重に驚くリチャード。 「アンジー…一体何考えてるんだよ…」 pic.twitter.com/mJJmDWV0iA

2021-05-12 23:52:38
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「なんだ?誰か知り合いでもいるのか?」 ひょっこり首を突っ込んできたリュウへ、 「いや、何でもないんだ。 ただこの国で陸軍が動くのはとても珍しいことだったからびっくりしたんだよ」 慌ててリチャードは戯けて見せた。 ふぅんと気のない返事を返すリュウ。 どうやら深くは突っ込まないらしい。

2021-05-12 23:53:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

同時刻、王宮兵舎にて。 「東部山中にてゴルジ一家のアジトを発見したとの情報が入った。 明日の日没後奇襲をかけ殲滅する。 いいか、他国からの侵略がないからと言って弛んだ気持ちでいていいなどと思うなよ。 市民の安全を守り、反乱勢力を叩き潰して王国の体制を維持するのも陸軍の大切な役目だ」

2021-05-15 00:46:02
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

兵舎に整列した兵団にアンジェロからの激が飛ぶ。 実際にアンジェロと同行する部隊は小隊程度の人数だが、山賊討伐としては十分すぎる人数だ。 「王子はほんとに俺達にやらせる気かね?」 後列にいた兵士の一人が隣の兵士に耳打ちした。 「まぁ、やるっていうからにはやるんだろ」

2021-05-15 00:52:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

呆れた調子で話しかけられた兵士は返す。 「市民の安全、ね。少なくとも皇太子が郊外でお忍びで生活しても差し支えがないくらいにはこの国は平和だってのによ」 最初の兵士がうんざりした調子で付け加えた。 「違いねぇ、荒れてる場所なんざせいぜい最近吸収された元他国だろ?」

2021-05-15 00:55:18
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「その例のゴルジ一家ってのも他国からの流れ者らしいぜ…国王も無茶な国土の広げ方したからなあ…」 はは、と呆れた笑いをこぼす兵士に、 「おい、そこの貴様ら!」 アンジェロは厳しい口調で兵士たちを指して怒号を飛ばした。 「は、は!」 言われて背筋を伸ばす兵士達だが、時既に遅しである。

2021-05-15 01:01:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

苛立たしげに大股で兵士達に近づくアンジェロ。 兵士達は震え上がって慌てて背筋を伸ばすがそんなものは無駄な足掻きだった。 「お前ら、今何を話してた?」 鬼気迫る眼光で兵士達を睨みつけてアンジェロが低い声で問う。 「は…、こ、此度の任務についての所感を…!」 「も、申し訳ございません!」

2021-05-15 01:04:09
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ほう、じゃあ今話してた内容を俺に教えてもらおうか?」 「あ、や…そ、それは…」 慌てて誤魔化す兵士。 周囲の兵士達もそのやり取りを目線だけ向けて気まずそうに見ている。 「俺に言えない話でもしてたのか?まさか伯父上への侮辱なんて懲戒もんの話じゃないだろうな?」

2021-05-15 01:16:36
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

全てお見通しとばかりに兵士に詰め寄るアンジェロに、 「誠に申し訳ございません!そ、それだけはどうか御勘弁を!」 地に額づく兵士達を汚い物でも見るような目で見やって、 「次はねぇぞ」 吐き捨てるとアンジェロは兵士達に背を向けたが、それでもなお立ち上がることができず兵士は膝をついていた。

2021-05-15 01:20:51
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

その様子を兵舎のバルコニーから密かに見つめる黒衣の男が一人…ファルコだ。 「…また敵を増やすような真似を…」 眉間に深いしわを寄せ、厳しい目つきでアンジェロを見つめる。 と、 「閣下」 同じく黒衣を纏った若い男がファルコの背後にやってきて跪いた。 黒衣はカラス…即ちレイヴンの制服だ。

2021-05-15 01:26:34
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「奴らの様子は?」 若者に背を向けたままファルコが問うと、 「一つ悪い知らせがございます」 焦りを滲ませ若者が答えた。 「奴らは用心棒代わりに人造生命体《ゴーレム》を従えています、小隊であっても油断は禁物かと…」 「…なに?」 珍しくファルコが表情に焦りの色を浮かべて呟いた。

2021-05-15 04:12:40
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「やはり此度の征伐は陸軍だけでは危険でございます、我らも後続として応援に参加するのがよろしいかと存じます」 「無論だ。陛下は王子に痛い目を見せると仰せだが、どうやらそう悠長なことも言っていられんな。 俺は陛下にこのことをお伝えする、人員を確保しておいてくれ」

2021-05-15 04:17:31
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