兄・リチャードが一人発ちしてから2週間余り、なんの成果も残せずにいる自らの不甲斐なさにアンジェロは苛立っていた。 そんな折に先のやくざ者一味の残党が山に落ち延びて山賊になったことを知り、アンジェロは自らの実力を証明するため部下を率いて山に入るが…
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅸ】 「来たな、伯父さんには許可はもらってきたんだよな?」 その朝、早くから鍛冶場にやってきた「弟子」にベアンハートは声をかけた。 「ああ、バッチリだ。月イチで実家に顔出せばそれでオッケーだって」 人差し指と親指で輪を作って新弟子・アンジェロは答えた。

2021-06-13 11:15:05
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「よし、それじゃ早速仕事について説明するぞ、そいつに着替えろ」 ベアンハートは工房の前のベンチに置いた着替えを指差した。 …荒く分厚い木綿のシャツに、これまた分厚い革の前掛け、そして火傷を防止する革の手袋だ。 「おお…これが今日から俺の仕事着か」 シャツを広げアンジェロが独り言ちた。

2021-06-13 11:16:16
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「いいか、作業中は指示があるまで基本は私語禁止だ、それから鍛冶場にいるときは俺のことは親方と呼べ。 職人の仕事は甘くないぞ、いいな?」 そこはやはり職人、先の世話見の良い親父の顔は影を潜め、名工・ベアンハートがピシャリと言い放つ。 「は、はい!」 アンジェロも弟子としてそれに答えた。

2021-06-13 11:16:56
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「職人仕事は一日にしてならず、強さもまた然りだ。 俺に弟子入したからにはそのへんは一切手は抜かないからな、覚えておけ」 「はい、親方!」 自分より強く大きな、信頼できる存在。 いつしかアンジェロはベアンハートをそう見ていたのだろう。 ベアンハートに従うアンジェロの心に迷いはなかった。

2021-06-13 11:18:16
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

その晩、心地よい仕事の疲れを伴いながらアンジェロは充てがわれた住み込み部屋で手紙を書いた。 宛先は兄・リチャードへだ。 以前自分を気遣ってくれたリチャードに、自分の進むべき道を見つけたことを自分で知らせたかったのだ。 ランプの薄明かりの下、紙質の荒い便箋に黒いインクのペン先が走る。 pic.twitter.com/IHtaKkMdTH

2021-06-13 11:19:42
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

『ハナタレリックへ こないだは余計なお世な手紙をどーも!俺はピンピンしてるぜ。 お前はどうだ?遊び歩いて勉強を疎かにしてるんじゃないだろうな? そんなことよりビッグニュースだ、聞いてくれ。 俺は今日から鍛冶職人に弟子入りして武器の錬成と兵法の勉強を始めたんだ。』

2021-06-13 11:20:34
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

『俺の親方は聞いて驚け、当代一の鍛冶職人、名工ベアンハートだ! やっぱり国を背負うんだから、師匠も超一流じゃないとな。 こないだのチェスではお前に遅れをとったが、次に会うときは見てろよ。 俺は親方から用兵術も習うんだ、次こそは絶対――― 【To be next episode...】

2021-06-13 11:22:22
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