従者の雄は反応しないが、それでも心が彼女を求めて悲鳴をあげた。 貫けぬ状態で良かったのかもしれない。この状態で行けば傷つけてしまっただろうと薄っすら考えた。
2021-02-08 22:26:44令嬢にいくら触れようとも、従者は焼かれることはなかった。 オーバーフローが落ち着いた翌朝、令嬢は従者に深々と頭を下げた。 「本当に、申し訳ありませんでした。二度と、このようなことがないよう。努力します」 この一言で従者は己の意志を固めた。 彼女の心をこじ開けることを。
2021-02-08 22:34:06軍病院の慰問がひどく負担であったのも幸いした。 従者は自分の全技術を駆使して令嬢を陥落させようとした。 従者が焼かれなかった時点で、令嬢は少なくとも拒否していない。 従者は古の契約について調べていた、それは婚礼にも使われた誓いだ。お互いだけを求めると口にすれば神への誓いとして解ける
2021-02-08 22:58:53令嬢には、従者を、自ら望んでもらいたかった。 望む道を選んで欲しい思いは本当だ。幸せになるなら構わない。 だが自分も諦めない。 主の行く先を阻まない、そこが従者としての最後の矜持だと考えた。 その結果が自ら言葉を口にしないという選択になったのだ。
2021-02-08 22:58:54たった一言「自分が欲しい」と言ってくれれば、従者は喜んで令嬢の愛を乞う下僕になろう。 だが、令嬢は、ひどく頑固だった。 素直になれば良い、そう促しても首を振り、行為中も口をふさいで声を殺す。 その快楽を耐える姿に煽られるのは従者の方だった。 従者は己の選択を間違えたと悟った。
2021-02-08 22:58:54ただ彼女自身から望みが聴きたいだけだったのに。 令嬢の焦がれるよな眼差しで好意があるのだと思っていた。それは錯覚だったのだろうか。 本音を聞き出せないまま慈善活動が終わってしまい、従者が失意を感じる中、久々に当主…つまり令嬢の父に呼び出される。 言い渡されたのは解雇通告だった。
2021-02-08 23:04:40令嬢の縁談が決まったためだった。 姉の為の愛玩従者になるのなら雇用を続けると言われたが、令嬢が居なければやめる気満々だったため、あっさりと解雇に応じる。 無性に令嬢の反応が、気になった。 これで、ようやく自分の望みを口にしてくれるだろうかと、淡い期待を抱いた。
2021-02-08 23:13:35しかし令嬢は無だった。静謐に、悲しみも苦しみも感じさせず。完全に受容していた。 「あなたに最後まで守れなくて、ごめんなさい」 守られなければならないのはあなたの方だ。 これ程気高く美しい人が、どうして!幸福を選ばない! いいや、違う。選べなかったのだ。 誰も幸福を与えなかったから。
2021-02-08 23:13:36従者は再び友人の男を、そして令嬢の師であった隠居を頼った。 「彼女がなんと言おうと攫うことにした。そのために、縁談をぶち壊す」 その言葉を待っていたと、男と隠居は悪どく笑った。 相手は叩けば埃が出る貴族だ。あっという間に証拠は出揃い、タイミングを待つばかりになった。
2021-02-08 23:16:13あとは従者が令嬢を攫うだけ。 はじめは怒られるだろう一生心を開いてもらえないかもしれない。それでも、あんな場所にいるよりは幸せにしてみせる。 そんな時、最後の慈善活動で起きた事件で、令嬢が再びオーバーフローを引き起こした。
2021-02-08 23:19:21その時の令嬢は、少しおかしかった。自分の許容量を熟知している彼女が、なりふり構わず魔術を使っていたからだ。 大層感謝されて、休むための一室を用意されたほど。 従者はいつも通り、楽器を出そうとして、呆然とする。 令嬢が自ら服を脱ぎ始めたからだ。
2021-02-08 23:21:32羞恥に震えながらも、慣れぬ仕草で一つ一つはいでゆくさまは、ひどく背徳的だった。 まるで自分が無理矢理命じているような、心地にすら陥る。 だが、一糸まとわぬ姿になった令嬢はその身を従者に寄せてきたのだ。まるで見様見真似で、娼婦の真似事をしているのだと、気づいた時。彼女の意図を察した。
2021-02-08 23:25:09彼女は、自分に焼かれようとしてるのだと。 なにを、馬鹿なことを従者は天を仰ぎたい気分だった。嫁ぐのではなく、修道院にでも入るつもりなのだろう。やっと選んでくれたのがよりにもよって、自傷だとは。 だが、意図とは違ってもようやくようやく、その言葉を聞ける。
2021-02-08 23:31:27「あなたが欲しいの」 その一言を、どんなに待ち望んだか。きっと彼女にはわからない。 まずは、好いた女にそう言われるのがどれだけ男を昂ぶらせるか教えよう。 そうして、彼女を溺れるほどの幸福で満たすのだ。 そして従者は手中に落ちてきた愛しくも頑固な女を愛し尽くしたのだった。 おしまい
2021-02-08 23:31:27