pixiv.net/users/357324 ◆ silentsiren.yukihotaru.com くるっぷ crepu.net/user/kanfrog 成人済字書き絵描き。創作版権日常。妖怪/虫/ポケモン/DQ/長谷部沼、左右非固定燭へし推し。マシュマロ(Web欄)
「……はよ、はせべくん」寝ぼけた声、開き切らない瞳、鳥の巣のような頭。伊達男とは程遠い姿が今朝は堪らない。「ふふっ」「……笑わないで」「いや、夫(つま)が愛おしいなあ、と」「僕も今そう思ってたよ」昨日遂につがいになった俺たち。毎日がいい夫婦の日でありますようにと、柄にもなく祈る。
2023-11-23 07:26:25朝は白米にお浸し、焼き魚、味噌汁。手を合わせ、箸を取った長谷部くんに僕は言った。「君が和食派なの意外だなあ」長谷部くんはぱちぱちと大きく瞬きをする。「だって好物は」「オムライス、だな」「だろう?」「最近は洋食も好きだ」「そうなんだ」「好いた相手が作るものはなんでも好きだ」「え?」
2023-11-24 07:58:38長谷部くんの目の前には、僕お手製の黄色い小山。「召し上がれ」「ああ」スプーンで恐る恐る山を削り、そっと口へ。そして、目を丸くして僕を見上げる。これはなんだ、と尋ねる口調が幼い。「プリン、だよ」「初めて食べた」知ってる、とは言わない。君の初めてはこれからも全て僕のものにしたいから。
2023-11-25 10:01:22「最後に見た部屋だな」「僕も同じだよ」同棲に向け、幾つかの物件を内見した。駅近で南向き、使い易そうなキッチン。でも一番の決め手は。「風呂広かったし」「バスタブ、二人で入れそうだった」「お、俺もそう思った」真っ赤な顔で頷く長谷部くん。「僕ら気が合うよね」「だから一緒に住むんだろ」
2023-11-26 07:53:23「ありがとう、長谷部くん」光忠がはにかむ。歳下の幼馴染の、進学のための引越しだった。「家具の搬入と組立、助かったよ」「今後はご近所だ、何でも頼れ」「うん」「光忠は弟みたいなもんだからな」一瞬、金眼がぎらりと光った気がした。やがて幼馴染が恋人になるなんて、この時の俺は知る由もなく。
2023-11-27 07:45:04「ただいま。新しいパン屋さんがオープンしてて」リビングに入るなり、僕は腕に抱えたフランスパン二本を掲げた。「試食が美味しくて。……何、どうしたの」なぜか笑いを堪えている長谷部くん。「ふ、ふふっ、実は俺も」テーブルの上には同じパンが二本。「四本になっちゃったね」「腹一杯食えるな」
2023-11-28 08:12:34分厚い肉をひょいと口へ。えも言われぬ噛み応え、なのに柔らかい。溢れる旨みが口内を乱暴に蹂躙してゆく。「……うっま」「いい食べっぷり」「牛たん極定食最高」「連れてきてよかったよ」「お前は普通の定食なんだな」ねっとりと舌なめずりをする光忠。「僕はこの後、メインディッシュを頂くから」
2023-11-29 06:09:08風呂上がり。洗面所で乱暴に髪を拭いていると、鏡に映る黒い人影。「燭台切か」「またそんな適当にして」「俺は気にしない」「僕が気になるんだよ。待ってて」ドライヤー出してくるね、と消える影。そのお節介を待っていた、といつになったら言えるだろう。赤くなる頬を隠すように、俺はタオルを被る。
2023-11-30 05:27:27長期オフの初日。僕の腕の中で、長谷部くんが言った。「主演映画見たぞ。格好良かった」「ありがとう」「あと、こうして俺しか知らない光忠がいるって思うと」長谷部くんは、気分が良かった、と胸に擦り寄ってくる。かわいい独占欲につい頬が緩む。「しばらくは、君だけの僕だよ」「満喫しなくてはな」
2023-12-01 06:34:02遅く起きた朝。長谷部くんが作ってくれていた、蜆の味噌汁が二日酔いの身に沁みる。「ごめん、起きれなかった」「随分飲まされたな」「お得意様で、断れなくて」これも、と差し出されたのは、僕が好きな銘柄のヨーグルト。「買いに行って、」「早く起きすぎてな、散歩のついでだ」「……ありがとう」
2023-12-02 06:53:42「長谷部くんいる?」生憎本人は不在。炬燵の上に蜜柑とペンが残されていた。密着して置かれた蜜柑の片方には長い前髪と眼帯の顔、もう片方は左右対称な前髪と眉間に皺。「これは僕?」「燭台切!?」振り向くと真っ赤な顔の長谷部くん。「違う、違うんだ」「うん、何が違うのか、じっくり聞かせて?」
2023-12-03 07:15:01受験に向けた勉強会、お茶淹れてくるよと光忠が席を外す。手持ち無沙汰になり目に留まったのは本棚の卒業アルバム。六年一組に光忠がいた。カメラ目線ではにかんでいる。 この頃の光忠を知らないのが悔しい、そんな自分の醜い独占欲に愕然とする。見なきゃよかったな、と俺はアルバムをそっと戻した。
2023-12-05 05:49:49アルバムの日 高校で知り合ったふたり 相手に対してた自分が知らないことがあるのに拗ねたりするし、なんなら光忠くんの方がその思いは強いと思う
2023-12-05 05:52:24「これ聞くと年末って感じだな」長谷部くんが足を止め、耳を澄ます。昨年末、彼に告白した日も第九が流れていた。あれからもうすぐ一年。「君がOKくれた時さ」「ん?」「第九がファンファーレに聞こえた」「ふふっ」実は俺もだ、と彼は悪戯っぽく笑う。「何それ、聞いてない!」「初めて言ったからな」
2023-12-06 06:04:28寒い。布団から出たくない。今日は二限からだし。二度寝しかけたところに、外からお隣の小学生の声がした。「はせべくん!」カーテンを細く開け、二階から見下ろす。「ゆきだよ!」冬装備は雪まみれ。自身が雪だるまのようになった光忠が、無邪気にこちらに手を振っていた。「待ってろ、今すぐ行く!」
2023-12-07 05:59:05鞄の中身までひっくり返したが、どうしても小銭がない。後ろに並んだ青年が声を掛けてくれた。「いくら足りないの」「百円、です」銀色の硬貨が澱みなく差し出される。「入試なんだろう?」背中から頑張ってという声。礼を言いそびれて俺は唇を噛む。 やがて、先生と生徒として再会するとも知らず。
2023-12-11 15:05:45テーブルの上には薔薇の花束。仕事帰り、一緒に飲んだ後に光忠から贈られたものだ。引っ掛かりを覚え『薔薇 12本』と検索し、俺は青くなり、それから赤くなった。慌てて光忠に電話をかける。「そういうことはちゃんと言え!」「でも、伝わっただろう」君のそういうところが好きなんだ、と光忠は笑う。
2023-12-12 07:47:57人目に付かぬ場所で、本丸から持ってきた弁当をめいめい広げる。「お握り重いね」「辛ーい」「今日の厨番、誰?」皆に倣ってかぶり付く。ぎっちりと米の詰まったお握りの具は明太子だ。 まるで長谷部くんそのもののようにかっちりとした三角形に、僕の噛み跡。擽ったくなって、残りを一口に頬張る。
2023-12-12 21:25:10似てないねと飽きるほど言われ、似てないふたごは山ほどいるよと飽きるほど答えてきた。同じでも似ていても意味がない。違う人間なのに、生まれる前から長谷部くんと一緒、これからも一緒。今世では僕が護り切る。そこが大事なのだから。 みつただ、と僕の胸に甘えてくる最愛の弟をつよく抱きしめる。
2023-12-13 07:51:54『もしもし、長谷部だ』別本丸の恋人の声。会えない時も声が聞きたいと電子端末を買い、初めての通話だ。「すごいな、本当に君の声がする」『声を聞くと会いたくなってしまうな』「僕もだよ」『なあ、今から』「会おうか」端末を放り出して僕は駆け出す。声より何より君に触れたい、そう伝えるために。
2023-12-16 03:12:07離陸直前、隣の子が震えているのに気づく。聞けば一人で祖父母の家に行く途中らしい。「飛行機初めてで怖くて」「これ、食べるか?」ポケットから出したキャラメルを、少年はポイと口に入れた。「あまい」「ほら、もう飛ぶぞ」「わあ……!」少年につられて俺まで笑顔になる。楽しい出張になりそうだ。
2023-12-17 09:46:38長谷部くんは禁煙始めて口寂しい時食べるようにキャラメル持ってた 光忠くんが心配で仙台駅の待ち合わせ場所まだ送り届けたら祖父母から連絡先を尋ねられ、後日お礼が送られてきて光忠くんともやりとりするようになって(略)燭へしになる
2023-12-17 14:12:04展示室のガラスケースを前に、彼は呟く。「深海で一人きりか」「でも仲間が居たから種が存続してきたんだ」「それはそうだが」「長谷部くんがシーラカンスになったら、深海まで探しに行くよ」やりかねん、と笑う彼。僕がこれまで何度君を探し当てたと思ってるんだ。何も知らない君には言わないけれど。
2023-12-21 07:41:40「現世には、遠距離恋愛ってものがあるんだって」長谷部くんの眉がぴくりと動く。「別本丸の僕たちも、ある意味遠距離恋愛かも」「現世での場所も時間も超えて一緒にいるのに、か?」「君の言うとおりだ」控えめに擦り寄ってくる彼をきつく抱き締める。この刹那に出会えたことが幸せ、そう思う。
2023-12-21 19:22:52夕餉を頂いて戻った自室は、爽やかな香りが漂っていた。差し出された湯呑みは優しい橙色で満たされている。「金柑茶か」「生姜入りだよ」熱さを警戒しつつ口を付けた。柔らかな甘味、そして生姜のぴりりとした刺激、どちらも好みだ。「何だかお前みたいだな」どういうことだい、と光忠は橙の瞳で笑う。
2023-12-22 06:26:09