one day 13 pages reading challenge #BooksForJimin #ReadingWithJimin という企画に韓国文学しばりで参加しています。これまでのポストを時系列順にまとめました。 ※Jimin=BTSのジミンさん。ファン歴6年です。
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P232-278 日本版ボーナストラックの「三豊百貨店」を読了。1995年6月29日に起こった大事故をもとにした自伝的短編。 1995年2月。大学の卒業をひかえ就職の決まっていなかった「私」は、三豊百貨店でZ女子高校の同級生だったRと再会する。高校時代には顔見知り程度だったのに、ふたりは親しくなる。 たった一日、「私」が三豊百貨店でアルバイトをした日のRのセリフの背景に〈販売員などサービス労働従事者をうっすら軽視する社会の目〉があるということを解説で読んで驚いた。驚いたけど、著者と一歳違いで日本の書店の販売員として就職したわたしも、そういう目を感じたことはあったなと思い出す。 営業中のデパートが崩れ落ちるというのは、かなり衝撃的な出来事だっただろう。事故についての記事も読んだ。セウォル号との共通点が指摘されている。 huffingtonpost.jp/2014/06/29/sam… チョン・イヒョンの小説は、話の持っていきかたが曲がりくねっていて面白いと思った。「三豊百貨店」なら、Rと再会する前の時計を読めなかった子供時代や、〈餅映画〉の翻訳台本を監修させられそうになった就職活動の話。 特に好きだったのは「ミス・チョと亀と僕」「ずうっと、夏」「三豊百貨店」。 D-493

2024-02-04 22:54:57
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su 『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社) 📄P12-26 雪の日に読み始めるのにふさわしい本じゃないかと思って。伝説の詩人、白石(ペクソク)が筆を折るまでの7年間を描く。 今日は「一九五七年と一九五八年の間」という章の途中まで。ソ連の詩人ベーラとヴィクトル、白石をモデルにした主人公キヘンが登場する。 「一九五八年のキリン」。南北分断後、北朝鮮に留まったキヘンは、朝鮮作家同盟の建物にあるロシア語翻訳室に勤務している。キリンの詩を書いたことで、社会主義リアリズムが理解できてないと批判される。 「一九五七年のパラダイス」。朝鮮作家同盟に招聘されてキヘンに詩のノートをもらったベーラは、帰国後ヴィクトルに会い、バイカル湖沿いの「パラダイス」と呼ばれる村へ向かう。 D-492

2024-02-05 20:34:29
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su 『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社) 📄P27-57 「一九五七年と一九五八年の間」を読み終わった。党の要望にそった詩が書けないキヘンの立場はどんどん苦しくなってゆく。 キヘンの詩を預かったベーラの周辺では不穏な出来事が。 翻訳の仕事が回ってこなくなり不安なキヘンは、友人の俊と酒を飲みながら語り合う。人に聞かれたら困るときは日本語を使うというところが印象的だった。 キヘンは作品総和会議で起こったことを話す。母牛を亡くした仔牛が寂しそうだという詩を書くことすら許されない。以下は会話が朝鮮語に戻ってからの俊のセリフ。 「いまのままじゃ、僕たちは二つのうちのどちらかを選ぶしかないな。”シバイ(芝居)”をするか、しないか。それこそが改造の本質じゃないかと思う。芝居ができる者は残れ、できない者は去れ。だから残った者は芝居をすることになるんだが、みんなが芝居をしたら、それは芝居じゃなくて現実になってしまう。新しい社会はそうやってつくられるんだ。こんな世の中でものを書くこともそうさ。自分を騙せるんだったら書けばいい」 D-491

2024-02-06 22:05:57
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su 『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社) 📄P60-101 「創作不振の作家たちのための自白委員会」の章を読んだ。なにも身に覚えがなくても、自白するまで許してもらえない文学者吊し上げ大会が恐ろしい。 昨日正しかったことが今日は糾弾される。党の幹部もいつ失脚するかわからない。翻訳室を追い出されたトンム(同務=友達や仲間を意味する)と、キヘンは食事をする。ふたりはパステルナークについて話す。トンムはモスクワにいたとき書き写したというロシア語の詩のノートを見せる。キヘンが詩を暗記しようとするところ、『華氏451度』を思い出した。 そのノートにハングルで書いてあった言葉。トンムが書いたものではないらしい。 〈時代という吹雪の前では、詩など、か弱いロウソクにすぎない。吹雪は散文であり、散文は教示するものだ。党と首領の言葉は、吹雪のごとく吹き荒ぶ散文である。峻厳で恐ろしく、緻密である。だが、詩は語らない。詩の役目は、吹雪の中でもその炎を燃やすところまでだ。ほんのいっとき燃え上がった炎によって、詩の言葉は遠い未来の読者に燃え移る〉 D-490

2024-02-07 23:15:49
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su 『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社) 📄P104-153 「私たちがこの世の果てだと思っていたところ」の章を読んだ。詩人とは何か。 社会主義の建設に向けて一歩踏み出すのを拒むものは〈ない〉と証明するために、あらゆる職業の者が、党の提示する目標を超過達成するよう求められる。作家も例外ではない。 僻地の生産現場に派遣されることになったキヘンは、平壌に初雪が降った日、作家同盟委員長である秉道(ビョンド)の家を訪ねる。歩きながら、1957年にベーラ歓迎の晩餐に参加したときのことを回想する。 秉道は党が望む文学について〈りんごの木に実がならなくても、なったと書きゃいいんだよ〉と言う。絶望したキヘンが思い出す、ベーラの言葉。 〈夜は昼のように、昼は夜のように。水は火のように、火は水のように。悪が善になり、善は悪になる。それはまさに戦争、地獄の風景でした。そうして数か月後、消えるはずがないと思っていた火が消えたとき、都市は完全に廃墟と化したのです。その廃墟を見つめること、それが詩人のすることじゃないかしら?〉 展開は暗いけれども、秉道の家に居候する漫談家のアンナムが魅力的だった。キムチの名前をずらずら並べる漫談など面白い。 D-489

2024-02-08 16:22:09
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su 『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社) 📄P156-207 「無我に向かう公務旅行」。キヘンに与えられた〈最後の機会〉と、自分の詩を書くことができていた1935年の記憶を描く。 僻地に派遣されて一年経ち、キヘンはスキー場のオーチェルク(ルポルタージュ)の執筆を任される。何もかも捨てて〈これまでの自分とまったく違った一人称の”私”〉で書くことを求められる。キヘンは初めての詩集を出そうとしていた1935年のことを思い出す。 川端康成や伊豆旅行の話が語られる。 キヘンは文字を書いたり読んだりすることで戦争が終わったのちも生き延びられた。〈自分を生かしてくれた言語と文字は誰のものだろう〉と問う。 本が燃やされたときのことを回想するくだり。 〈そこで燃やされる一冊一冊は、それぞれが一つの世界だった。当然、互いの主張は食い違い、志向するところも異なる。文体もみな違う。そうして世界は一つではなくいくつもあり、現実はその数限りない世界が結合したところだ。そこには美しい世界もあり、醜悪な世界もある。ごまかしが蔓延る世界もあれば、上品で誠実な世界もある。ある世界は地獄に近く、ある世界は天国に近い。これらすべての世界が集まって多彩で玲瓏たる光を放つとき、完全な現実になるのだ。だから、単に一冊の本が燃えてしまうのではない。詩人がひとりいなくなるだけではない。現実全体が没落するのだ。〉 そう考えていたキヘンが、友人に届かない手紙を書いたあとすることが悲しい。 D-488

2024-02-11 05:34:03
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su 『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社) 📄P210-235 読了。「七年の最後」とは、1956年から1962年。キヘンが詩人として生きた最後の7年のこと。白石の詩が読みたくなる。 1963年、すっかり農夫の生活が板についたキヘンのもとに意外な人物から手紙が届く。その手紙の中にある〈スクリーン〉という言葉、前章「無我に向かう公務旅行」の以下の文章を思い出した。ユリウス・フチークの『絞首台からのレポート』についてふれているところ。 〈広いホールに長い椅子が六列並んでおり、取り調べを待つ人たちが背筋を伸ばして座っていた。尋問に、拷問に、死に、呼び出されるのを待っている間、彼らは目の前の白い壁を凝視した。〉 〈白い壁に映し出される自分だけの映画〉をキヘンも見る。 キヘンは党の方針にそった詩や文章を書くように強いられ続けて、ついに何も書かないことを選んだ。キヘンが〈自然に発火してあっという間に森全体をめらめらと燃やし、木々をそのままの姿で炭にしてしまう〉天火をじっと見つめるラストシーンがいい。 詩人が詩そのものになる。 D-487

2024-02-11 06:54:10
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 BAEK SEOK's poetry collection by Baek Seok 『白石詩集』/ペクソク著、青柳優子/訳(岩波書店) 📄P4-218 『七年の最後』を読んだら白石の詩を読みたくなったので。「焚火」「膳友辞」「わたしとナターシャと白い驢馬」「夜雨小懐」「許俊」「白壁があり」「南新義州柳洞 朴時逢方」が好き。 ---------引用---------- 真っ暗な雨のなかに 真っ赤な月がのぼり 白い花が咲き 遠くで犬が吠える夜はどこからか 胡瓜の匂いがする夜だ 「夜雨小懐」より D-486

2024-02-11 17:53:04
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Mathematician's Morning by Kim So Yeon 『数学者の朝』/キム・ソヨン著、姜信子/訳(クオン) 📄P11-68 少し前に参加した韓国の詩の朗読会で「ワンルーム」という詩の朗読を聴いたらめちゃくちゃよかった。 〈ちょっとのあいだ 死ぬことにするわね 三角形みたいに〉ではじまる表題作「数学者の朝」「反対語」も好き。 ---------引用---------- わたしを大人というとき わたしを女だというとき 反対語がシーソーのように向こう側で跳ねあがろうとするのを ぐっと押さえなければいけない わたしを詩人というとき わたしのどんな反対語も無用になる 「反対語」より D-485

2024-02-14 14:18:57
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Mathematician's Morning by Kim So Yeon 『数学者の朝』/キム・ソヨン著、姜信子/訳(クオン) 📄P71-173 詩集の続き。「ほこりの見える朝」「内面の内情」「ふとんの不眠症」が好きだった。再読したら変わるかもしれない。 葉書を書いています あなたに書くつもりが 私に ずいぶんまえに暮らしていた住所をまず書きました 葉書の大きくはないスペースに猫が来てすわりました 猫がどくまで鉛筆を置いて 猫がどくまで鉛筆が自分の影を抱きしめて横たわっているのを眺めて そして鉛筆と鉛筆との影を抱きしめて横たわっているのを眺めて そして鉛筆と鉛筆の影との間を這ってゆく蟻をじっと見つめていました 「内面の内情」より そのあとも何ひとつ「つもり」の通りにはならないところが面白い。 D-484

2024-02-14 15:19:06
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Far Away Uru Will Be Late by Bae Suah 『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』/ペ・スア著、斎藤真理子/訳(白水社) 📄P7-68 わたしに読めるのかな? という不安をおぼえつつ読み始める。 三部構成の[Ⅰ]は〈独白は混乱とともに終わった。〉という書き出し。語り手の「私」は午前4時にベッドで目を覚ましたとき〈私の存在を規定している記憶がすべて消えていること〉を知った。場所はレストランを兼ねた旅館の一室。同行者の「彼」が椅子に座って本を読んでいた。 記憶は消えているが「彼」が同行者であることはわかるらしい。「彼」も自分の存在を規定する記憶をすべて失っていた。ふたりは部屋を出て、巫女に会いに行く。 巫女の造形がけっこう強烈。ごちそうをふるまわれるくだりは楽しい。この本を読みながら寝落ちしたらヘンテコな夢を見そう。 D-483

2024-02-14 23:57:59
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Far Away Uru Will Be Late by Bae Suah 『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』/ペ・スア著、斎藤真理子/訳(白水社) 📄P69-111 [Ⅱ]を途中まで。ものすごく面白い。踊る女、コヨーテの檻で死んだ男、結婚式を偽装して集まった知られざる陰謀家集団。 女はノートに文を書き、料理をつくる。[Ⅰ]の巫女も料理していたアンズタケが気になる。 独特のリズムがある文章で、声に出して読みたくなる。読んでみた。たとえば、女が踊る場面。 女は自分を、たった今霊魂が宿った瞬間のミルク色の蝋燭のように感じる。小さな、しかし生きている炎がそこに立ち上り、肉体は優しく終末を志向し、蠟燭はそのようにして熱い蠟の涙を流す。肉体はバレリーナのようにめりはりのある軽さを帯び、腕は感情を訴えるように前へぐっと差し出されては激情的に胸をかき抱き、向きを変えるたびにあごと首を優雅に上げ、片腕を宙に浮かせたままで身体をぐるりと回転させる。 この小説は朗読劇になっているらしい。観てみたい。 D-482

2024-02-15 13:24:50
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Far Away Uru Will Be Late by Bae Suah 『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』/ペ・スア著、斎藤真理子/訳(白水社) 📄P112-145 [Ⅱ]を読み終わった。小学校で即興劇を演じた4人の少女、記憶が生々しくなる病を患ったという人からかかってきた電話。女の名前はウルだとわかる。 そのあと女は客に〈驚くべきこと、または説明できないこと〉を経験したことはないかと訊く。客はあるゲリラ公演の話をする。客の話を聴いて、女は自分がこれから書くことになる文を即興的に朗唱しはじめる。その朗唱の部分がとてもよかった。一部引用してみる。 母が死んだ家で、私は両腕を垂らした姿勢で死体のように座っている。時がどれほど流れたのかわからない。家の中は薄暗い。どこからか差し込んできた妙に強烈なオレンジ色の夕方の日差しが私の左手にとどまっているのが見える。指は薄い灰色で、過剰に曲がっており、正体のわからない悲しみでけいれんするように震える。その瞬間、私は完膚なきまでに内面の存在だった。その瞬間、私の言語は完膚なきまでに内面の言語だった。その瞬間、私の記憶は誰にも属していなかった。 D-481

2024-02-16 20:00:33
石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Far Away Uru Will Be Late by Bae Suah 『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』/ペ・スア著、斎藤真理子/訳(白水社) 📄P147-211 [Ⅲ]まで読了。末尾の文章にたどりついたとき「?」となったけれども、好きな文章がたくさんあった。 [Ⅲ]は〈ウルは見る目だ〉という一文で始まる。このウルはMJに会いに行こうとしていてる。MJは何者かわからないが、葬式があるらしい。ウルは映画監督のジョナス・メカスに手紙を送ったことや、幼いころ経験した〈一時的で透明な失明〉について語る。それからMJの葬式には行かず即興的にタクシーに乗り込み、無意識に名前を口にした町で降りる。黒い犬に導かれ、自分が通っていた気がする学校にたどりつき、同級生だという男と話す。 自分を規定する記憶をいちから、即興で生みだしている〈はじまりの女〉の話なのかな。全体が。明日、もう一回全体を読みなおしてみよう。 D-480

2024-02-17 16:43:15
石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Far Away Uru Will Be Late by Bae Suah 『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』/ペ・スア著、斎藤真理子/訳(白水社) 📄P7-211 再読。やっぱりわからないけど、ものすごく面白い。 訳者あとがきによれば、この小説は〈中世の三連祭壇画〉のようなものだと著者は言っている。三つのパネルそれぞれに、絵ではなく映像が映し出されている光景を思い浮かべたらしい。 とりあえず三連祭壇画における中央のパネルにあたるのは[Ⅰ]の物語と仮定してみる。冒頭の〈独白は混乱とともに終わった〉という一文はあらためて読みなおしても不思議だ。午前四時に目覚めたウルは自分を規定する記憶をすべて失っており、チャンドラーの『大いなる眠り』を読んでいる同行者も何も思い出せない。二人のいる部屋は静かで〈まるでこの世も、我々も、ぴったり午前四時に創造されたかのようだった〉という。 独白が終わった途端に何らかのスイッチが入って、文字を読んでいるわたしの目の前で小説が生成されているような感覚がある。すでにある世界を描いているのではなく、世界が生まれる瞬間を目撃しているような。そして、[Ⅰ]の最後のページに行き着くと、ああそうかと思う。ウルは同じ一日を変奏しながら繰り返し生きているのだ。 [Ⅱ]のウルは午前四時、〈母さんが死んだ、私のはじまりのきざしが消えた!〉という一節が聞こえてきて、ぱっと身を起こす。[Ⅲ]のウルは午後四時という時間を同級生かもしれない男に知らされる。[Ⅱ]と[Ⅲ]のウルは文章を書いているという大きな共通点がある。[Ⅱ]と[Ⅲ]は[Ⅰ]と同じ一日を異なる形で即興的に生きている……という解釈をできなくもないかなと思ったけど、すっきりはしない。すっきりしないので、また細部を読み込む。いつまでも読める。読むたびに新しい小説が目の前にあらわれる感じというか。  生きるために書くという言葉は事実だ。言葉は先に立って歩み、そうやって生を発明してゆくのだから。そうでなければもうこの先には空っぽの時間という形式が残るだけだろう。  D-479 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-02-18 23:46:11
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Summer Outside By Kim Ae Ran 『外は夏』/キム・エラン著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P9-39 「セウォル号以後文学」の例として挙げられることの多い一冊。「喪失」をテーマにした短編集。七編を収める。 まずは「立冬」。幼い子供を亡くした夫婦の話だ。妻が深夜零時過ぎに壁紙を張り替えようと言い出す場面で始まる。赤黒い液体で汚れた壁紙は、めちゃくちゃになった二人の人生を象徴するものだった。 妻は公務員試験に三度落ち、結婚してからは不妊治療と二度の流産の末に子供を授かり、五回の引越の末に家を持った。妻が乏しい資金でコツコツ自分好みのインテリアをコーディネートしていく過程、ささやかだけれども子供の成長を感じさせる出来事を描くことによって、二人の失ったものの輪郭が際立つ。 D-478 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-02-19 21:58:57
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 It’s Summer, Outside By Kim Ae Ran 『外は夏』/キム・エラン著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P-43-86 体調悪すぎて一週間空いたけど「ノ・チャンソンとエヴァン」を読む。祖母と二人暮らしの少年と老犬の話。つらい。「赦し」についての会話が印象に残った。 D-471 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-02-27 00:55:15
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 『韓国文学の中心にあるもの』/斎藤真理子著(イースト・プレス)など 📄P1-P328 ポリタスのインタビューのためにもろもろ再読。 D-470 pic.twitter.com/XLfleMJ0hX

2024-02-27 21:32:30
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 It’s Summer, Outside By Kim Ae Ran 『外は夏』/キム・エラン著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P89-151 「向こう側」と「沈黙の未来」を読む。キム・エラン作品ではおなじみの鷺梁津で気まずいクリスマスの話と、この世界にたった一つだけの言語を駆使する最後の話者の話。 「向こう側」は、同棲中の30代カップル、イスーとドファが主人公。イスーはクリスマスに鷺梁津の水産市場に行こうと言う。鷺梁津は公務員試験を受験する予備校生の街。予備校生たちに無料の炊き出しをする教会で二人は出会った。ドファは試験に合格して、イスーは落ちた。うまくいかなくなる過程、決定的蛙化の瞬間が生々しすぎてうああああとなる。 「沈黙の未来」は、千人以上の話者が千以上の言語を守りながら暮らしている〈少数言語博物館〉を描く。〈ガラス球の中でありとあらゆる形態の活字が自由気ままに漂う、地球儀の形をした特別な造形物〉がある噴水とか、想像すると美しい。でも寂しい世界。 D-469,468 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-01 00:28:33
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 It’s Summer, Outside By Kim Ae Ran 『外は夏』/キム・エラン著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P155-284 読了。この短編集に表題作はないけれども、「風景の使い道」に「外は夏」につながる文章が出てくる。主人公が旅先のタイで、父と再会したときのことを回想する話。 母の還暦祝いのためタイを訪れた主人公は、仕事についての重要な連絡を待っているところで、スマートフォンを手放せない。 〈こうやって慣れない異国で母国の情報をのぞきこんでいると、スマートフォンじゃなくてスノードームを握っているような気分だった。球形のガラスの中では白い雪が舞い散っているのに、その外は一面の夏。〉 キム・エランの小説の特色として、比喩の鮮やかさがあると思う。母と別れて生活が苦しくても、きちんと養育費と行事ごとのプレゼントを欠かさなかった父は〈真冬、部屋の片隅にきちんと畳まれた布団のような人〉。「立冬」の壁紙もそうだけど、小道具の使い方も巧みだ。父からもらった万年筆を常にポケットに入れて書類を書くときに使っていた主人公が、ボールペンである書類にサインするくだりとか。 外は夏でも内側はスノードームになっている人がいる。どうして雪が降っているのかということを説明せずに、どんな雪が降っているのかを細かく見せるような感じの描き方。 「覆い隠す手」は、息子の誕生日にわかめスープを作っている女性が主人公。何やらよくないことが起こったらしく、緊張した様子で料理している。やがて息子が帰ってくる。覆い隠す手の中にあるものが明らかになるくだりで暗澹。 「どこに行きたいのですか」は、従姉の家の留守番のためにスコットランドへ行く女性の話。誰もいない家でSiriと話すところ、ジベル薔薇色粃糠疹という厄介な皮膚病を患うところが印象に残った。あと時間のとらえかた。 〈ある時間が自分の中に丸ごと入りこんできたことに気づいた。それを毎日毎日苦しみながらリアルな感覚として認識しなければならないということも。表皮が肉芽のように生え変わり続けることができるのは驚きだった。それはまるで、他のものはどうかわからないけれど死だけは死の上で咲き続けることができると言っているように聞こえた。〉 D-467,466,465 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-04 02:59:20
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 MY FATHER’S LIBERATION DIARY By JEONG JIA 『父の革命日誌』/チョン・ジア著、橋本智保訳(河出書房新社) 📄P5-21 韓国で32万部を突破したという長編小説。主人公のアリは、電信柱に頭をぶつけて死んだ父の葬儀に出るために帰郷する。父はパルチザンだった。 はじめのほうを少し読んだだけだけど、かなりユーモラス。 パルチザン=1945年の解放後から朝鮮戦争後まで、遊撃戦と呼ばれる不正規戦闘を行った共産主義武装組織を指す。アメリカ軍政によって非合法とされたため、山岳地帯に潜伏した。朝鮮戦争後はほとんどが討伐された。チョン・ジアの両親はパルチザンの幹部だったらしい。 D-464 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-04 23:07:30
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 MY FATHER’S LIBERATION DIARY By JEONG JIA 『父の革命日誌』/チョン・ジア著、橋本智保訳(河出書房新社) 📄P22-57 昨日の続き。父の拷問経験が語られる。父曰く〈拷問の中でも一番楽なのは電気拷問だ。すぐに気絶するからな〉。凄まじい。 拷問の後遺症で不妊判定が下された父を治療した漢方医、父を「仇」と見なしている叔父、父と思想は違っていたが長年連れ添った夫婦のように労りあっていたパク先生。それぞれ奥行きがある人たち、一筋縄ではいかない関係が描かれている。 D-463 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-06 00:37:06
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 MY FATHER’S LIBERATION DIARY By JEONG JIA 『父の革命日誌』/チョン・ジア著、橋本智保訳(河出書房新社) 📄P57-79 昨日の続き。葬儀場でいろんな人が父の話をする。〈三秒爺さん〉と呼ばれていたとか、革命家ではない父の顔。 〈父は十代の後半に選択したことに対する責任を、メーデーの明け方に八十二年生きたこの世を去るまで、背負い続けた。社会が個人の選択に対する責任をこれほどまで過酷に問うべきなのかについては、異論の余地があるだろう。思想の自由が保障されるべきだと言う人もいれば、アカなど皆殺しにしてしまえという人もいるだろう。同族同士の惨劇をもたらし、いまなお休戦中であるうえに南北のイデオロギーが異なるのだから、意見が一致するはずもない。それに私は是非を正す立場でもない。〉 父は自ら選んだことだから仕方ない部分もあるが、アリを含めて、選んでないのに父の選択に巻き込まれてしまった人がいるのはつらい。 でも、アリがパルチザンの娘であることで身についた習慣のおかげでちょっと変な行動をとってしまうところなど、細部におかしみがある。 D-462 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-07 01:02:43
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 MY FATHER’S LIBERATION DIARY By JEONG JIA 『父の革命日誌』/チョン・ジア著、橋本智保訳(河出書房新社) 📄P79-104 昨日の続き。賑やかでお節介な従姉たちや頼りになる餅屋の姉さんと話す。 〈よほどの事情があるんだろ〉が口癖で、自分の家のことはそっちのけで〈民衆〉を助けるけれども、ぜんぜん報われない父の思い出。パルチザンの特技おそろしい。 アリの幼なじみのヨンジャも挨拶に来る。ヨンジャと父のエピソードもいい。面白い人しか出てこない。 D-461 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-08 01:25:49
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 MY FATHER’S LIBERATION DIARY By JEONG JIA 『父の革命日誌』/チョン・ジア著、橋本智保訳(河出書房新社) 📄P105-151 昨日の続き。コ一族(アリの親族)がだいぶ好きになってきた。面白い人しかいない。 従姉が父を敵視して葬儀にもあらわれない叔父について、これまで黙っていたことを語る。 父が深く関わった麗水・順天事件。1948年10月9日、麗水に駐屯していた朝鮮国防警備隊十四連隊が、李承晩政府に済州島四・三事件の鎮圧を命じられたが拒否した。この反乱を鎮圧する過程で多くの民間人が犠牲になったという。当時、子供だった叔父が体験したこと。 父の故郷の求礼は、李承晩に対抗するパルチザンの拠点となった智異山の麓にある小さな町だ。父の親戚と友人がいると同時に、父を敵だと思っている人もいる。おびただしい数の死者が埋まっている記憶の地層。なんとも言えない気持ちになるけれども、弔問客の話を聞き、アリは父と出会いなおす。 なかでも父の〈タバコ友達〉と名乗る少女が訪ねてくるくだりは、すごくすごく良かった。 弔問客ではないけれども、父の友人で〈労働がつらい〉パルチザンの話も好き。 D-460 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-09 00:23:33
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 MY FATHER’S LIBERATION DIARY By JEONG JIA 『父の革命日誌』/チョン・ジア著、橋本智保訳(河出書房新社) 📄P152-188 昨日の続き。〈戦争という現代史の悲劇によって、絡み合った人々の因縁が勢ぞろいした、めずらしくともなんともない状況〉が描かれる。 アリの両親の結婚にも絡み合った事情がある。 父と同じ名前のサンウクさんのエピソードがよかった。サンウクさんは独裁政権下で孤軍奮闘していた谷城郡のカトリック農民、通称〈谷城カ農〉のひとり。〈谷城カ農〉のメンバーが、かつて谷城郡党委員長だった父を訪ねてきたとき、小川で幼子のように遊ぶ。サンウクさんはその後、アリが引っ越しをするたびに父と一緒に手伝ってくれた。 いろんな弔問客が来て、父は思想の異なる人とも関わりを持ち、助けられていたということがわかる。尊い話だけれども、そういうことを知りたくなかったというアリの気持ちもわかるなあと思う。 〈憎しみであれ友情であれ恩であれ、しぶとくつながっている気持ちが、絡まり合って切っても切れないその気持ちが、わたしには重くて怖くて、そして羨ましかった。〉 D-459 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-10 06:17:22
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 MY FATHER’S LIBERATION DIARY By JEONG JIA 『父の革命日誌』/チョン・ジア著、橋本智保訳(河出書房新社) 📄P152-265 読了。あー、終わり方いいなあ。波瀾万丈な人生を送った父を描ききって、普遍的な話になっている。 自分の父親が死んだときのことも思い出した。ある面を取りだせば酷い親とも言えるし、善い親とも言える。どちらかでも、両方でも語れる気がしない。いまだに知らない顔がたくさんあるんじゃないかと思う。 「作家の言葉」もよかった。特に〈五十を過ぎてようやく知った。もっと遠く、もっと高く進まなくてもいいということを〉というくだり。 D-458 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-11 08:03:16
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 What should I eat today? By Kwon Yeo sun 『今日の肴なに食べよう?』/クォン・ヨソン著、丁海玉訳(KADOKAWA) 📄P7-53 昨日の斎藤真理子さんと倉本さおりさんのトークイベントで言及されたので再読したくなった。第一部の「春・青春の味」を読む。 酒飲みの小説家による食エッセイ。〈ほどよく静かでほどよくくたびれた、そんなネコジャラシみたいな気分〉とか表現がいちいち面白くて好き。 スンデ食べたい。切らないキンパ持ってピクニックに行きたい。 D-457 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-11 18:24:58
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Childhood Garden By O Jeonghui 『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン) 📄P9-92 韓国におけるフェミニズム文学の源泉とも言われる作家の短篇集。朝鮮戦争を体験した著者の幼少期が反映されているという表題作を読んだ。 主人公はノランヌン(黄色い目)と呼ばれる女の子。母、兄、姉、弟、祖母と暮らしている。朝鮮戦争が勃発し、避難民となった一家は、ある村に流れ着いた。住まいは村の大工の家の裏庭にある小さな部屋だ。 兵士になったのか父は行方知れず。食堂で働く母はいつも帰宅が遅く、兄は姉を殴り、祖母はいつも風邪気味の弟の世話に追われている。くいしんぼうのノランヌンは、盗み食いを繰り返す。 貧困と暴力によって変容していく家族を、ぼんやりと、でも冷徹に観察するノランヌン。小部屋に閉じ込められているという噂がある大工の娘の話が印象に残る。死んでも家から自由にはなれない。 好きだったのは、川で祖母に髪を洗われるシーン。 〈私は腕をだらんとさせ、逆さに映る風景を静かに見つめた。空とそれを支えているのっぺりとした稜線、木、草むらなどが見え隠れするように揺れていて、小さなメダカの群れが矢のごとくまつげの上を過ぎていく。一本一本ばらばらになった髪は、水草みたいにゆらゆらしながら水の中の石のすき間に入っていった。〉 D-456 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-13 01:06:46
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Childhood Garden By O Jeonghui 『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン) 📄P95-144 また間が空いてしまったけども続き。「中国人街」を読んだ。避難先から仁川のチャイナタウンに引っ越した少女とその家族、近所の人たちの話。 〈市内の最も高い所から見下ろす、黒く煤けた木造の敵産家屋の物干し台に毛布とレースの下着が所々に干された中国人街は、この都市の風物であり、影であり、不可思議な微笑であり、秤の片方に載せられてどこまでも傾く水銀の重りだった。もしくは、ぐらりと沈みはじめた船の、すでに水に浸かった船尾だった。〉 敵産家屋というのは、日本の統治時代に建設された日本風住宅のこと。『大仏ホテルの幽霊』にも出てきた。 8人目の子供を身ごもる母、出産したことがない祖母、黒人と一緒に暮らす売春婦のマギー姉さん、ネックレスのガラス玉の一つをくわえながら〈あたし、パンパンになる〉と言う友達のチオギ、女の生に絶望する主人公、動物たち。すべてがなまなましい。 D-444 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-03-24 23:17:09
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Childhood Garden By O Jeonghui 『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン) 📄P147-182 春が来たけど「冬のクイナ」を読んだ。ダメな兄と地道な妹の話。 母と暮らす「私」のもとに、3年前に家を出た兄から金を無心する手紙が届く。「私」は兄が母に見捨てられるまでの出来事を思い出す。 子供のころはコガネムシの死体を埋めて7日経ったらきれいなチョウチョになると言い、実力に見合わない大学を受験して何度も失敗し、隠遁するつもりで山に行き、兵役のために連れ戻されて(入るのは論山訓練所)、除隊後も分相応に生きられない。そんな兄に対する複雑な思いが描かれている。借金をするときの兄の表情の描写がリアル。 30歳の「私」が〈オールドミス〉と自嘲しているのが時代を感じさせる。1980年の作品。ちなみにクイナは韓国では夏の鳥として知られているらしい。 D-436 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-04-02 01:18:40
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Childhood Garden By O Jeonghui 『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン) 📄P185-248 「夜のゲーム」と「夢見る鳥」を読んだ。父と娘が花札する話と、夫の転勤で引っ越したばかりの妻の話。 「夜のゲーム」の主人公は、重度の糖尿病患者である父とふたり暮らし。母はどうやら精神を病んでどこかに入院していて、兄は家を出て行ったらしい。使いすぎてボロボロになった札は裏を見れば何が描いてあるかわかるのに惰性で遊ぶ。父と娘のやりとりが印象に残った。花札は日本から韓国に伝わって定着しているけれども、ゲームのルールは違う。 「夢見る鳥」の主人公は、夫が不在がちなようで、幼い子供とふたりで家にいる。隣の女が訪ねてくると話が止まらなくなる感じが切ない。誰にも理解されない孤独と絶望にさいなまれている主人公に世界がどう見えているか。 〈私の前に置かれた果てしない時間、まったく信じていないものを信じているふりをしながら幸せに暮らさなければならない退屈な日々が、喚声となって森を揺らした。〉 というくだりから最後までの文章が好き。 D-435 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-04-02 23:58:29
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Childhood Garden By O Jeonghui 『幼年の庭』/呉貞姫著、清水知佐子訳(クオン) 📄P251-412 けっこう時間かかってしまったけど読了。とにかく文章がよい。一文にいろんなイメージが入っていて濃密だった。 「空っぽの畑」は、「夢見る鳥」とつながるような、子育てをしている女性の話。語り手の「私」は早朝釣りに出かけようとする夫に強引について行く。子供をおぶって。なぜそんなことをするのか、「私」が待っている「彼」とは誰なのか説明されない。ほとんど釣りをしている夫と川辺の風景を描いているだけなのに不穏。 「別れの言葉」は光州民主化抗争が発生した翌年に書かれた作品。主人公のジョンオクは母とバスに乗って霊園に向かいながら、釣りに出かけると言ったまま行方不明になった夫のことを思い出す。釣りに行くってそういう意味があったのかと解説を読んで驚いた。 「暗闇の家」は灯火管制訓練の日にひとりで家にいる女の話。女は暗闇の中で天井のあちこちから聞こえてくる水漏れの音や不可思議な緊張感に苛まれる。夏の庭でカマキリの頭を切ってしまったときの記憶が鮮烈。普段は押し殺している不安や怒り、悲哀があふれだす。 「日本語版刊行に寄せて」によれば、呉貞姫にとってこの短編集は〈三十代を生きる自分自身の内面の記録として残した〉作品らしい。初版は1981年。もし登場人物が『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだらどういう感想を持っただろう、と思った。 D-431 #BooksForJimin #ReadingWithJimin

2024-04-06 23:45:44
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 『29歳、今日から私が家長です』/イ・スラ著、清水知佐子訳(CCCメディアハウス) 📄P6-311 1ヶ月前に読んで、ポリタスTVで紹介した本。昼寝出版社という会社を立ち上げて両親を雇い、社長兼家長になったスラの日常を描く。 作中でスラの父はウンイ、母はボキと名前で呼ばれる。喜びと自由を大事にした家族の関係と、面白すぎる会話。読みながら、好きだなあ、いいなあ、と思った。 特に好きなのは、タトゥーをしようと思ったウンイがスラにどんな模様がいいか相談するくだり。 「強く見せようとするタトゥーは、かえって弱く見えます。美しいおじさんになるのは、容易なことではありませんよ。お父さんみたいな中年男性ほど、謙虚な可愛らしさを追求するのが賢明な選択です」 と、スラに言われて、ウンイが腕に刻んだのがモップと掃除機の絵! ウンイは掃除が得意なのだ。夫のタトゥーを見たボキのセリフも最高。 スラがボキとラウラ・エスキヴェルの小説『甘くて苦いチョコレート』(邦訳は『赤い薔薇ソースの伝説』)について話すところもいい。 D-401

2024-05-06 16:13:21
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石井千湖 @ishiichiko

📖 『別れを告げない』/ハン・ガン著、斎藤真理子訳(白水社) 📄P9-25 ほんとは4月に読みたかったけど、ようやく読みはじめる。済州島4・3事件をモチーフにした長編小説。 2014年夏、ある虐殺にまつわる小説を出した「私」は、何千本もの黒い丸木の上に雪が降りしきる夢を見る。黒い木は墓碑で、海が押し寄せてくる。 「私」は何度となく脳裡に浮かぶ黒い木々が気になって、よい場所を探して丸木を植え、そのプロセスを記録映画にしたらどうかとドキュメンタリー作家の友達に提案する。友達は快諾したが、2人のスケジュールが合うタイミングがないまま、4年が過ぎる。「私」はいくつかの別れを経験して、ソウル近郊の古びたマンションに引っ越す。 遺書を書いたものの、宛先を思いつかなかった「私」は、手紙を新しく書くために〈すべてが壊れはじめたのはどこだったのか〉〈いつが分かれ道だったのか〉〈どのすき間と節目が臨界点だったのか〉を考える。 どうやら一度死に向かおうとしていた語り手が、生を持続させようと試みる話らしい。 D-400

2024-05-07 20:33:19
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石井千湖 @ishiichiko

ライター。新聞や雑誌にブックレビューを書いています。「ポリタスTV」の「石井千湖の沈思読考」でも本を紹介(3週間に1回、木曜日)しています。youtube.com/@PolitasTV 著書 『名著のツボ』(「週刊文春」連載をまとめたもの。文藝春秋) 『文豪たちの友情』(書き下ろし。立東舎→新潮文庫)