one day 13 pages reading challenge #BooksForJimin #ReadingWithJimin という企画に韓国文学しばりで参加しています。これまでのポストを時系列順にまとめました。 ※Jimin=BTSのジミンさん。ファン歴6年です。
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Book For Jimin @booksforjimin

Hello. This account is made for self indulgent but I want to ask Jimin lovers, especially you who loves reading and books to join #BooksForJimin "One Day 13 Pages" reading challenge with me. This challenge will be held while waiting for Jimin returns. More information ⬇️ pic.twitter.com/SpAGskC84E

2023-12-05 14:32:46
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石井千湖 @ishiichiko

@booksforjimin ✅13 pages 📖『翼 李箱作品集』李箱著、斎藤真理子訳(光文社古典新訳文庫) 詩のところを再読。 D-542 pic.twitter.com/dwV64VqQbH

2023-12-17 15:31:18
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石井千湖 @ishiichiko

@booksforjimin ✅13 pages 📖『むくいぬ』鄭芝溶著、吉川凪訳(クオン) 「韓国現代詩の父」とも言われる詩人の選集。李箱「失花」の〈異国種の仔犬〉という言葉の元になっている「カフェ・フランス」など。 D-541 pic.twitter.com/JEV71TIoxP

2023-12-18 22:13:00
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石井千湖 @ishiichiko

@booksforjimin ✅13 pages 📖 The Haunting of Daebul Hotel by Kang Hwagil 『大仏ホテルの幽霊』カン・ファギル/著、小山内園子/訳(白水社) 📄P13-69 韓国社会の”恨”を描いていて、シャーリージャクスンも登場するゴシックスリラー! D-540 pic.twitter.com/7jDgXSz0G2

2023-12-19 22:13:00
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石井千湖 @ishiichiko

@booksforjimin ✅13 pages 📖The Haunting of Daebul Hotel by Kang Hwagil 『大仏ホテルの幽霊』カン・ファギル/著、小山内園子/訳(白水社) 📄P70-296 読み終わった。日本語の”うらみ”とは違うという”恨”の奥深さを垣間見た気が。物語についての物語でもある。奈良漬けとホットクを食べたくなった。 D-539 pic.twitter.com/3WEZvAHopo

2023-12-20 22:13:00
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖A Good Person by Kang Hwagil 『大丈夫な人』カン・ファギル/著、小山内園子/訳、白水社 📄P41-70 『大仏ホテルの幽霊』にタイトルが出てきた「ニコラ幼稚園――貴い人」を。地元の名門幼稚園に子供を入れるためにがんばる母親の話なんだけども不穏。ざらっとした読後感がいい。 D‐538 pic.twitter.com/zAvS9lvjA2

2023-12-21 22:56:45
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Poetry and Walks by Han Jeongwon 『詩と散策』ハン・ジョンウォン/著、橋本智保/訳、書肆侃侃房 📄P13-P32 寒い日に読み返したくなるエッセイ集。 春の心で冬を見ると、冬はただ寒くて悲惨で虚しくて、早く去ってほしいだけの季節だ。しかしどんなに急かされようと、冬は自分の時間をまっとうしてからでないと退かない。苦しみがそうであるように。(「寒い季節の始まりを信じてみよう」より) D-537

2023-12-22 08:55:29
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Mouthwatering by Kim Ae-ran 『唾がたまる』キム・エラン/著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P2-40 海に程近い田舎のカルククス屋の三人姉妹の末っ子として育ったという著者の自伝的要素がちりばめられた短編小説集。 「堂々たる生活」を読む。餃子屋を営む母が買ってくれたピアノをめぐる話。父が借金の連帯保証人になったせいで困窮しても、母はピアノを売ることを拒み、進学のためにソウルへ引っ越す娘に持って行かせる。幼い頃、音の表情を思い描くことを楽しんでいた娘。絶対弾かないという約束で半地下の部屋に置かせてもらったピアノを弾いてしまうくだりがいい。

2023-12-23 11:13:45
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Mouthwatering by Kim Ae-ran 『唾がたまる』キム・エラン/著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P42-74 表題作の「唾がたまる」。大手の進学塾で講師をつとめている主人公が、大学の後輩と同居する。一緒に暮らし始めて三ヶ月経ったときの心境の変化がリアル。生活力を手放したくないために自分を圧し殺して働く人の絶望的な〈疲れ〉にも共鳴してしまう。「堂々たる生活」に〈透明な不幸〉という言葉が出てきたけれども、住処を失って親しくもない先輩を頼ってきた後輩も〈透明な表情〉をしている。残酷で悲しい別れの思い出と結びつく唾も透明。 D-535

2023-12-24 17:55:17
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Mouthwatering by Kim Ae-ran 『唾がたまる』キム・エラン/著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P76-103 偶然だけどぴったりのタイミングになった「クリスマス特選」を読む。クリスマスの日、ひとりインスタントのピビン麺を食べながらクリスマス特選映画を観る兄と、念願叶って恋人とデートに出かける妹の話。幸せな時間を過ごしたい若者たちの前に立ちはだかるのは、ソウルの厳しすぎる不動産事情だ。せつない。 D-534

2023-12-25 00:03:44
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Mouthwatering by Kim Ae-ran 『唾がたまる』キム・エラン/著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P110-141 「子午線を通過するとき」は、ソウルで漢江のほとりを散歩したときのことを思い出した。 求職中の女性が浪人生活を回想する。予備校のある鷺梁津(ノリャンジン)は、あらゆるものが〈通過する〉場所だと思っていた。でも、過酷な受験戦争を乗り越えて7年経った今も自分はどこにもたどり着いていない。〈どうして私は相変わらず通過中なのだろうか〉と思うくだりがつらい。 D-533

2023-12-26 00:01:03
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Mouthwatering by Kim Ae-ran 『唾がたまる』キム・エラン/著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P144-171 「包丁の跡」は著者の自伝的小説で、カルククス屋を営んでいた母について娘が語る。 田舎の働き者のお母さんの謎。冒頭の〈私は母が作ってくれる料理だけでなく、その材料についた包丁の跡も一緒に飲み下した。真っ暗な体内には、じつに無数の包丁の跡が刻まれている。〉という記述が、印象的なラストシーンにつながっている。 D-532

2023-12-27 01:53:01
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Biting One's Molar by Kim So Yeon 『奥歯を噛みしめる』キム・ソヨン/著、姜信子/監訳、奥歯翻訳委員会/訳(かたばみ書房) 📄P11-37 日本翻訳大賞を受賞した『一文字の辞典』で知られる詩人のエッセイ集。 あなたも、わたしの話をとおして、自身の話ができるようになりますように。傷のない明るい顔ではなく、傷を耐えぬいた明るい顔で生きてゆけますように。(「日本の読者へ」より) 少しずつ読む。 D-531

2023-12-28 00:42:27
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Mouthwatering by Kim Ae-ran 『唾がたまる』キム・エラン/著、古川綾子/訳(亜紀書房) 📄P174-280 読了。 「祈り」は考試院に住んで公務員を目指す姉と、化粧品会社を辞めてから職を転々として今は家庭教師で生計を立てる妹の話。妹は姉のために買った枕を抱いて漢江を渡る。 川向こうにビルが林立する都市が見える。透明な肌で全身に日差しを浴びている。綿雲のあいだにちらりと映る、ソウルの午後一時の表情。ソウル午後一時のきらめき。世界に窓が多すぎるから人間は暗い。(「祈り」より) 「四角い場所」は、主人公が生まれ育った急斜面の貧民街(タルトンネ)の部屋と、好きだった先輩が住んでいた部屋の話。先輩と一緒に道に迷うくだりが好き。 「フライデータレコーダ」は、ある島の話。「訳者あとがき」に〈この作品にかんしては情報のない状態で堪能していただけたらと思う〉と書いてあったけれどもそのとおり。不思議な味わいでよかった。 D-530

2023-12-29 00:55:42
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Biting One's Molar by Kim So Yeon 『奥歯を噛みしめる』キム・ソヨン/著、姜信子/監訳、奥歯翻訳委員会/訳(かたばみ書房) 📄P38-108 「少しちがうこと」の友人の引っ越しにまつわる話がよかった。あと、SNSについて書いているところ。 新しい形態で他人に接するこの方式にも慣れた今、わたしたちの「愛好」と「選択」がどのような形で決定されるのか、もはや知らないふりをすることができなくなってしまった。他者からの感染という方式で自分に近づいてくる「愛好」の世界に積極的に自身を”露出”し、「愛好」の世界にみずから”収斂”することによって得られる、情報弱者でも流行遅れでもないという安堵感が、所属感にすりかわる。自身の独創性によってのみ見いだされる、少しちがう楽しさを、置き去りにしたまま。(「少しちがうこと」より) 「間隙の卑しさの中で」は詩作について書いた文章。 単語ではなく文章が、文章ではなく文脈が、文脈ではなく歌と似たようなものが、歌ではなく滲む涙が、滲む涙ではなく炎が、炎ではなく灰の山が、最後に白紙の上に積もる。詩は、すべての失意と失敗を経たすえに決着を見る、一握りの灰なのだ。(「間隙の卑しさの中で」より) D-529

2023-12-30 10:42:55
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Biting One's Molar by Kim So Yeon 『奥歯を噛みしめる』キム・ソヨン/著、姜信子/監訳、奥歯翻訳委員会/訳(かたばみ書房) 📄P109-229 読了。「儚い喜び」は好きな詩人の話。最近読んだばかりのシンボルスカ『終わりと始まり』が出てきて嬉しい。〈差し迫った問いの前にみずからが立っている〉〈飾らない詩の真価〉。 「奥歯を噛みしめる」は、著者がある飲み会で女性詩人に〈歯をぎりぎり食いしばりながら誰かのことを耐えようとすることも、人間に対する最大の愛情表現じゃないかしら〉と話しかけられる。その具体例として見せられるドキュメンタリーが怖い。怪談のような味わい。 著者はいろんな場所で詩を書く。「楯突く時間」はバリ島。〈わたしを包みこむわたしの人生に、どうにかして楯突くために、リュックを背負って旅を続けてきたのだ〉と思う。 わたしは詩にも楯突きたい。わたしが書いた詩も含むあらゆる詩に、そしてみなが信じる詩に。楯突くのが詩であるというのなら、その言葉にも楯突きたい。詩に関するある種の知ったかぶりや信念にも楯突きたい。(「楯突く時間」より) D-528

2023-12-31 00:01:29
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P9-39 新年早々風邪引いて寝込んでいるけども、この本から読もうと思う。 斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』によれば、ファン・ジョンウンは〈文学の背骨に溶け込んだ朝鮮戦争を最も雄弁に描いている〉作家で、『年年歳歳』は〈若い世代が朝鮮戦争に向き合った小説の決定版ともいえそうな作品〉。イ・スンイルとふたりの娘を中心にした連作。 「廃墓」 71歳のイ・スンイルは、毎年鎌で道を作りながら行っていた山中の墓を廃墓することに決める。次女のハン・セジンが最後の祭祀に付き合う。 D-527

2024-01-01 15:05:07
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P43-78 「言いたい言葉」は、長女の悲しみを描いている。 イ・スンイルの長女ハン・ヨンジンは、ものを売るのが上手で、その才能で家族の生活費を稼いできた。例えば、デパートで高価な布団を受験生の母親に売るのが得意だった。 何が違うのかは実はハン・ヨンジンにもよくわからなかったが、いったい秘訣は何なのと聞かれるとハン・ヨンジンは、私は母親の気持ちがよくわかる娘だったんだと答えた。長女だからね、私。貧乏な家の大黒柱だから、お母さんとは特別な仲だったんだよ。(「言いたい言葉」より) 母親の気持ちがよくわかる娘だからこそ我慢してしまったこと。我慢しなくても許される弟。言いたいけど言えない言葉。〈嘘、と思うたびにどうして血の味がするのか、わかりはしない〉というラストがつらい。 D-526

2024-01-02 16:01:18
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P81-132 「無名」は、イ・スンイルの過去、ふたりのスンジャ(順子)の話。 ハン・セジンがドイツに行くと言ったとき、イ・スンイルは自分がかつてスンジャと呼ばれていたこと、そしてもうひとりのスンジャのことを思い出す。 従順の順(スン)に、子供の子(ジャ)。順子、おとなしい子。私はそれが自分の名前だと思ってた。だから、私もスンジャだった。私の友達もスンジャだった。(「無名」より) なぜ「ドイツ」といえばスンジャなのか、スンジャはどんな経緯でイ・スンイルになったのか。「廃墓」「言いたい言葉」に描かれた現在のイ・スンイルと結びついて、なんともいえない気持ちになる。イ・スンイルが誰にも手渡すつもりがなかったこと、誰にも話さなかったことが、朝鮮戦争と家族にまつわる記憶。 D-525

2024-01-03 00:19:33
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P135-190 読了。「近づくものたち」は、ハン・セジンがニューヨークに行って母のいとこの子供ジェイミーに会う話。 ジェイミーが祖母(=イ・スンイルの叔母)についていう〈アンナはアンナの人生を生きたの、ここで〉が記憶に残る。言えないことはあるし、わかりあえないこともあるけど、それぞれが自分の人生を生きて、お互いの人生を労ることはできるのだと思う。 あと、作中に出てきた映画「近づくものたち」を観たくなった。邦題は「未来よ こんにちは」。 『韓国の小説家たちⅠ』のファン・ジョンウンのインタビューと、『目の眩んだ者たちの国家』のファン・ジョンウンの文章にも目を通した。次は『ディディの傘』を読む。 D-524

2024-01-04 00:13:18
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖dd's Umbrella by Hwang Jung Eun 『ディディの傘』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(亜紀書房) 📄P4-118 「d」は恋人のddを失ったdが主人公。ddが死んだあと、dは物品から〈ぬくみ〉を感じるようになる。 ddと一緒に住んでいた半地下の部屋の窓の前で、老婆たちがケシの花を見ながらおしゃべりをする。子供や天気や健康、そして戦争の話。 ……若いときに最初の戦争を体験した彼女らは、人生の中でいつ何時でも二度目の戦争が起こりうると思い、それは思うというよりほとんど無意識の確信と予感であり、それを抱えて生きてきたため、ときおり、知らず知らずのうちに同じようにして過去が今でもここに現存していると認めるしかないことがあり、そう考えると自分たちの人生の内側では……つまり心の中では……戦争が完全に中断されたことはないみたいだ、と言った。(「d」より) そのあとに続く漢江の橋が落ちたときの出来事、生きていることを実感した〈恥ずかしさ〉。dが〈人間の心はあごにある〉と思った理由。衰退していく世運商街と「ラブ・ミー・テンダー」のレコードにまつわる思い出。光化門で行われたセウォル号の追悼行事とデモ。どの場面も忘れがたい。 彼らは愛する者を失い、僕も恋人をなくした。彼らが戦っているということをdは考えた。あの人たちは何に抗っているのだ。取るに足りなさに 取るに足りなさに。(「d」より) D-523

2024-01-05 08:54:02
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖dd's Umbrella by Hwang Jung Eun 『ディディの傘』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(亜紀書房) 📄P120-283 読了。「何も言う必要がない」は、12本の未完の原稿を抱えていて、13番めの物語を始めたいと思っている「私」の話。 「私」と一緒に暮らしているソ・スギョンの関係、1987年と1996年のデモ、セウォル号沈没事故とキャンドル革命のことが語られる。「私」が大学をやめた経緯、会社の同僚にされたハラスメント、妹が結婚するときの父の〈勝者の微笑〉という言葉、20年前に「私」とソ・スギョンが初めて借りた家で体験した嫌がらせ。権威とか常識って何なのか。自分はどのように今日を記憶するのか。考えてしまう。 作中で言及される作品:シュテファン・ツヴァイク『昨日の世界』、ロラン・バルト『小説の準備』、ハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン』、プリーモ・レーヴィ『溺れるものと救われるもの』、サン=テグジュペリ『人間の土地』、劇場版『エンド・オブ・エヴァンゲリオン』、アニメ『スカイ・クロラ』など。 D-522

2024-01-06 20:15:25
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P6-57 ファン・ジョンウンの初長編。「2000年代韓国文学における最も美しい小説」とも呼ばれているらしい。 語り手の「わたし」、ウンギョさんは森で影を見かける。影の後をついて歩いていると、ムジェさんに声をかけられる。ふたりは道に迷ったようだ。歩きながら、ムジェさんはウンギョさんに影法師の話をする。 どこかではっきりと自分の姿を目撃したのだとしたら、それは影法師なんだ、影法師というのは一度立ち上がったらどこまでも執拗につきまとう、そうなったら本体の体はいっかんの終わり(『百の影』より) 怪談みたいな始まり。ウンギョさんはムジェさんのおかげで助かったのかもしれない。読み進めていくうちに、ふたりは電子機器類を専門に扱う雑居ビルで働いていることがわかる。ウンギョさんは修理屋のヨさんの作業室で店番とかちょっとしたお手伝いをしていて、ムジェさんはトランスをつくる工房の見習い。ヨさんも影法師が立ち上がるところを見たことがあるという。 D-521

2024-01-07 16:22:48
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P60-78 今日は仕事でキャパ控えめの頭を使いすぎたので少しだけ。章タイトルの「口を食べる口」おもしろい。 8月の雨の日、ウンギョさんはムジェさんとユゴンさん(いつも宝くじの束を持ってヨさんの修理屋に金を借りに訪れる人)と一緒に飲み屋へ行く。ユゴンさんも影法師の話をする。怖い。 ウンギョさんとムジェさんが藤棚の下に座って話すくだりは好き。 D-520

2024-01-08 22:32:19
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P80-98 ウンギョさんの過去やビルの再開発の話。影を半分以上もがれたというおじいさんが出てくる。 帯には「恋物語」と書いてある。しかし、ウンギョさんとムジェさんの恋の進行はあまりにもゆっくりだ。かなり最初のほうでムジェさんはウンギョさんに〈好きです〉と言うのに、なんと89ページでやっと電話番号を聞く。教えたけどなかなか電話はかかってこない。その悠揚迫らざる感じが、もどかしいというよりおかしみがあって心地いい。 ある日、ウンギョさんが家でコップを拭いていると停電になる。 この小説がどうして「美しい」と言われているのかわかる気がした「停電」の章。読み終わるのがもったいないので少しずつ読もうと思う。 D-519

2024-01-09 23:10:59
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P100-119 体調よくないので今日も少しだけ。「オムサ」という、おじいさんがひとりで営む不思議な電球屋の話。 ビルの再開発が進み、建物が撤去され、人がどんどんいなくなっていく。ウンギョさんとムジェさんがスラムという言葉について語り合う場面が印象に残る。 D-518

2024-01-10 18:03:05
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P122-183 読了。美しいんだけど、こういう美しさだったとは、という驚きがあった。 ムジェさんとウンギョさんが夜の公園で一緒にバトミントンをするくだりが最高。終盤の海を眺めるところもいい。 著者あとがきにあるように世界は暴力にあふれているし、影法師の不穏な気配もあるけれども、ふたりが一緒にいると心強い。静かで優しくて、そこはかとなくユーモラスでもある会話を読んでいるだけで。 D-517

2024-01-11 22:07:46
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 No one by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P13-43 8編を収める短編集。今日は荒んだ田舎の風景と印象的なおばあさんが出てくる「上京」を読む。 都会に住む「私」はオジェに誘われて田舎の唐辛子畑に唐辛子を摘みに行く。唐辛子畑の主人は、オジェのお母さんの〈新しいおばさん〉だった。 〈新しいおばさん〉の半生には、朝鮮戦争の影が。〈新しいおばさん〉は、弟と老母と一緒に暮らしていた。しかし、土地の権利を持つ弟が死に、家を失うかもしれないという状況にある。「私」たちは放置されている作物を好きなだけ持って行っていいと言われる。 なぜこの話が「上京」というタイトルなのか不思議に思いながら読んでいたんだけど、オジェが唐辛子畑に来た理由を語るくだりで納得した。都会の人も田舎の人も、野菜もウサギも寄る辺ない。 ※英語タイトル間違えてたので上げなおし D-516

2024-01-13 00:03:35
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P47-74 「ヤンの未来」を読む。古い団地の書店で働く「私」が、ある事件の目撃者になる話。 「私」の母親はがん闘病中で、父親が介護していて、家が貧しいので「私」は中高生時代からずっと働いている。書店はなかでもマシな職場だったが……。 救いがなさすぎて感情の行き場がなくなる。暴力をまえになすすべもない人たちの世界。 D-515

2024-01-13 23:50:43
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P77-103 「上流には猛禽類」は、「私」が恋人のチェヒの両親と森林公園にハイキングに行ったときの話。 チェヒの両親は失郷民(解放後の南北対立と朝鮮戦争によって北から南へ避難し、故郷を失った人)で、友達に裏切られたために多額の借金を背負った。それでも家族仲良く支え合って生きてきたが、父親が大病を患ったことをきっかけに、両親の関係が悪化していた。 「上流には猛禽類」って不思議なタイトルだけれども、その由来がわかる場面があまりにも無慈悲で居心地悪くて、ちょっと笑ってしまった。ファン・ジョンウンは暗黒ホームドラマの名手。あと、人間以外の生き物も存在感がある。「上京」はうさぎ、「ヤンの未来」はねこ、「上流に猛禽類」はクモ。 「私」がチェヒの母親の少女時代を想像するくだりが好き。 D-514

2024-01-14 23:22:04
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P107-130 〈そして彼女は、ノートが一冊要ると思った〉という一文で「ミョンシル」は始まる。 主人公のミョンシルは、何かを書こうとして、ノートと万年筆を探している。ミョンシルは自覚がないけれども年老いていて、今自分がしていることも忘れてしまう。恋人のシリーは、本をたくさん遺してこの世を去った。ミョンシルはシリーと一緒に妹の家に行ったときのことなどを思い出す。 万年筆が好きなので出てくるだけでわくわくするし、とても美しい話だった。登場する生き物は、机と椅子! D-513

2024-01-15 22:48:26
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P133-158 「誰が」を読む。悪夢の集合住宅小説。 主人公は引っ越してきたばかり。ある日、壁紙を貼ったのりでべたべたした床を7時間もかけてそうじしていると、〈上の階の者だ〉という女がドアをノックする。騒音について支離滅裂な話を聞かされた主人公は困惑する。今の家は静かなところが気に入っていたからだ。 それから、寝ようとする主人公の脳裏にさまざまな思いがよぎる。人間嫌いになる原因になった町、主人公の前に住んでいた老人が床につけたけもの道のような跡、お棺みたいな壁棚……。ふっと眠りかけたときに、上の階の人が飼っているという犬の夢を見る。 その後の展開が不条理で怖い。人に悩まされずにすむ権利を持たない、〈手段なき階級〉の苦痛の連鎖。 D-512

2024-01-16 23:20:24
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P161-186 「誰も行ったことがない」は、旅先で韓国が経済主権を喪失したこと(1997年のIMF危機)を知る夫婦の話。 この夫婦は過去に大きな喪失を経験し、迷子のようになっている。お互いだけが頼りで、懸命に関係を維持しようとしているのに、悲しい記憶はふたりをじわじわと追い詰める。 これからどうしたらいいんだ、という絶望が重くのしかかってくるラスト。 わたしもヘルシンキ経由でプラハに行ったことがあるので、風景を思い出しながら読んだ。 D-511

2024-01-17 23:08:25
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P189-213 「笑う男」は、恋人を失い〈できるだけ単純になろう〉と洞穴みたいな家にこもっている男の話。 〈DDのことを思うと、僕の顔の前に傘が一本広がる〉という一文でわかるとおり、『ディディの傘』に収められた「d」と設定が一部重なる。 DDが屋上部屋の下の道が見えるところに椅子を持ってきて座り、本を読みながら主人公を待っているくだりが好き。 D-510

2024-01-20 00:33:19
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P217-253 読了。「わらわい」は地獄の接客業小説。めちゃくちゃ面白い。 語り手の「私」は白血病を患った母を看取って、〈人間らしさの条件は余力の有無〉と悟り、けものにならないようお金を稼がなきゃと思っている。デパートの布団売り場で働き、別に笑いたくはないが毎日笑っている。「私」が自らの笑いを〈わらわい〉と名付けるまでの出来事を描く。 従業員がお互いに憎しみ合う様子を「ふるポテ」にたとえたり、「ドゲザ」の本質を考察したり、クレーマーの持ってきた布団の臭いを描写するくだりなど、ファン・ジョンウン流のユーモアが冴える一編。 わたしもときどき書店員として働いているので、共感をおぼえるところが多くて笑ったしゾッとした。店員というのはほんとに、「誰でもない」「何でもない」人々として扱われやすいと思う。 〈そうした「誰でもない」人々の現実は、まぎれもなく二十一世紀の韓国のものだ〉と「訳者あとがき」にあるけれど、まぎれもなく21世紀の日本のものでもある。そしてわたしはファン・ジョンウンの「仮借ない」書き方が好き。 D-509

2024-01-20 11:09:16
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 SAVAGE ALICE by Hwang Jungeun 『野蛮なアリスさん』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P7-91 女装ホームレスのアリシアが四つ角に立ったまま見る悪夢を「君」に語る。 「内」「外」「再び、外」の三部構成。「内」を読んだ。 夢のなか。少年アリシアは「コモリ」のどんづまりにある家で、年老いた父と凶暴な母とあまりしゃべらない弟と暮らしている。家の隣には犬のケージがある。犬は食べるために飼われている。母は兄弟に暴力をふるう。 再開発のおかげでコモリに古くから住んでいる人たちは金持ちになる予定だ。より多くの金を得るために、父は新しい家を建てている。 アリシアが寝る前に弟に語って聞かせる話が印象的。グロテスクなんだけれども、弟のツッコミにおかしみがある。 父の〈知ってるか?〉という口癖は、「笑う男」(『誰でもない』収録)の主人公の父の口癖と同じ。父は戦争のとき北から南へ避難して生き残り、コモリで下男になった。元主人が営む焼肉屋に家族で行って嫌がられ、〈命にはみんな価値がある〉と言って陰惨きわまりない話をする。 D-508

2024-01-21 19:29:06
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 SAVAGE ALICE by Hwang Jungeun 『野蛮なアリスさん』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P95-207 読了。底なしの闇。容赦ない。 コモリの住人は増えていく。ある日、アリシアは母の身体が自分よりも大きくないことに気づき、今なら勝てるのではないかと思う。ずっと勝ち続ける方法を聞くために、友達のコミと一緒に区庁へ行く。家庭内暴力を受けていると相談すると、カウンセラーを紹介される。話が通じないまま終わる。 土地建物の買い取り交渉をめぐるコモリの人々の狂騒が描かれる。アリシアが弟に少年アリスの話を語る。夜と昼がひっくり返るのを待っているアリス。兎穴に落ちて、落ち続ける。やがて事件が起こる。 訳者あとがきで背景の解説を読むと、こういう現実がこういう小説になるのがすごいと思う。生々しいまま幻想的というか。 D-507

2024-01-21 22:15:33
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P8-48 第23回大山文学賞を受賞した長編。 大人になって建設会社で働くソラが、子供のころをふりかえる。ソラと妹のナナの父は、工場で巨大な歯車に巻き込まれて死んだ。母のエジャは生きる意欲を失い、ソラとナナを連れて半地下の家に引っ越す。半地下には二つの貸し部屋があった。姉妹は隣の部屋に住むナギという少年と出会う。 父の法事を執り行う息子がいないという理由で、事故の補償金は父方の親族が受け取ったとさらっと書いてあって、うわあとなった。絶望した母の言葉、ナギとの鮮烈な出会いの場面が印象に残る。 D-506

2024-01-22 20:17:51
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P48-101 昨日の続き。ソラが語り手の章を読み終わった。 弁当にまつわる考察。エジャは子供たちをネグレクト気味で、ソラとナナはお腹を空かせていた。ナギの母のスンジャさんが姉妹に弁当を作ってくれた。スンジャといえば『年年歳歳』を思い出すけど、スンジャのスンは旬らしい。 現在のソラとナナ、ナギのことが語られる。いちごを食べられないナギ。 ソラは〈ソラとして一生を終えるつもりだ〉〈絶滅するの〉〈ソラ、という名の部族として〉と思っている。自分ひとりでも部族という考え方を教えてくれたのはナギ。ナナという部族は絶滅しない(かもしれない)。 父の死が母の人生を壊し、ふたりの娘にも影響を与えている。 D-505

2024-01-23 23:13:08
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P104-142 昨日の続き。語り手がナナに替わる。 ナナの語りは敬体で一人称は「あたし」。(ソラは常体で「わたし」)ナナの言葉は少し幼い感じがする。幼いけど辛辣。 〈ときどき自分で自分のことをナナと呼びます。自意識の強い人にかぎって自分のことを名前で呼ぶのよと、上から目線で指摘されることもあるけれど、その程度の自意識を指摘してくるような自意識も相当なものだというのがナナの考えです。〉 というくだりで笑ってしまった。〈続けてみます〉という言葉が出てくる。ナギの他に、いちごを食べない男がもうひとり。 ナナとソラが銭湯で垢すりをするところがよかった。 D-504

2024-01-24 23:07:16
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P142-189 昨日の続き。ナナがソラの質問に〈答えてみます〉というところから。 ナナが語る子供のころの思い出。ナギと黒い金魚のエピソードは、後に起こる出来事の伏線になっている。〈人の痛みなんて考えない化け物〉にならないように覚えておかなければならないこと。 〈愛に満ち、愛を失った〉エジャのようになってしまうことを、ナナは警戒している。ソラとナナとナギが毎年恒例の行事(キムチとキムチ入り餃子を作って食べる)をする場面がいい。韓国餃子(マンドゥ)が食べたくなる。 一筋縄ではいかない家族の描き方が、既成概念に対する抵抗になっていると思った。 D-503

2024-01-25 18:48:14
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P192-273 読了。分類できない関係を描いた小説が好きな人にぜひ読んでほしい。 語り手がナギに替わる。一人称は「俺」。ごくたまに吸う煙草の匂いが、13歳のときに出会った「お前」の記憶を呼び起こす。いろんな伏線が回収される感じ。 ナギの母スンジャさんは戦争で避難する途中に家族を失い、6歳のとき奥地に住むおじいさんに預けられた。途中で伯母に引き取られたけど、今もそのおじいさんの墓参りをするという話も印象的だった。軍事境界線の近くにある墓。 エジャの状態を壊れたのではなく〈自分の苦痛を完成させ〉たと表現してるところもすごい。 最終章の語り手はナナ。タイトルはエジャの呪いめいた言葉に対するアンサーなんだと思う。めちゃくちゃよかった。 D-502

2024-01-26 18:30:31
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P8-34 2月6日に文庫化される短編集。「ミス・チョと亀と僕」を読む。猫と「僕」と老女と亀の不思議な関係を描く。 富裕層の老人が住む施設で働く「僕」は、ある日、ミス・チョ女史が亡くなったことを知らされる。ミス・チョは「僕」の父の昔の恋人だった。 ミス・チョの名前はウンジャ。「子」のつく名前はある世代の女性によく見られるという記述がある。「僕」の父のミス・チョに対する仕打ちがまさに優しい暴力。 亀の描写がとてもよい。特に〈最善を尽くしてそこに寝ている〉というくだりが好き。最善を尽くして寝たい。 D-501

2024-01-27 21:27:19
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P36-68 「何でもないこと」は、ある日突然、赤ちゃんの保護者の保護者になったふたりの女性の話。 ジウォンの16歳の娘が修学旅行から帰宅後、腹痛で倒れた。慌てて病院に連れて行くと出産。妊娠に気づかなかったジウォンはパニックに陥る。一方、ミヨンは息子が修学旅行で不在のあいだに恋人を家に泊めたのだが……。 何でもなくないことを、何でもないことにしようとする母親たちのエゴのぶつかりあい。ミヨンの家で起こった出来事と明るくて暗いラストシーンがつながる。 D-500

2024-01-28 23:59:26
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P70-96 「私たちの中の天使」は、貧しいカップルがある不穏な〈プロジェクト〉に挑む話。 ミジは恋人のナムウと狭いワンルームで同棲中だ。しかし、部屋の契約満了日を間近に控えて別れることを考えている。日曜日、ナムウがでかけたあと押し入れを開けたミジは、大金の入ったスーツケース発見する。 ナムウの愛犬に対する冷たさなど、ミジはあまり好感の持てる人物ではない。ただ、彼女をそうさせているのは、ナムウの優しい暴力とも言える。 ミジとナムウの関係は、「何でもないこと」の母親たちと男たちの関係に似ていると思った。ミジはなぜ共同名義のカードにまつわる不満をナムウに伝えられないのか。心配と怒りで不安定になる女たちに比べて男たちが楽観的でいられるのは、無意識に女たちに重荷を押し付けているからなのではないか。 優しい暴力とは、じわじわと逃げられないようにすることかもしれない。 D-499

2024-01-30 00:01:06
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P98-129 「ずうっと、夏」を読む。13歳の孤独な女の子に初めて友達ができる話。 主人公のリエは父が日本人で母が韓国人。父の仕事の関係でいろんな国で暮らしたが、どこの学校でもニックネームは〈ブタ〉だった。〈生まれたときから、体格によって他の子を圧倒していた〉からだ。 母はリエを痩せさせようと極端に食事を制限していて、いつもお腹を空かせている。新天地のK国の学校ではブタと呼ばれない代わりに、誰にも話しかけられなかったが……。 普遍的な青春を描いているけど、韓国文学ならではの要素もある。ラストシーンは痛切で美しい。 D-498

2024-01-30 22:42:57
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✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P132-157 「夜の大観覧車」は、〈決定を下すべきときに、何も決断しないという決定をしたために、全生涯にわたってその決定通りに生きている〉50代の女性教師が横浜に行く話。 主人公の過去の記憶を呼び起こすのが昭和の名曲「ブルーライト・ヨコハマ」。韓国でも流行った時代があったとは知らなかった。 惰性で送っていた日々がもしかしたら変わるかもという淡い期待を抱かせる旅の顛末。なんともいえない寂寥感が漂う。 D-497

2024-01-31 23:39:13
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✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P160-189 「引き出しの中の家」は、保証金の引き上げを宣告されて転居先を探す夫婦の話。 韓国文学と過酷な住宅事情は切っても切れない。おなじみの題材だけど、それぞれ異なる地獄がある。 最近、東京23区の新築マンションの平均価格が1億円超えたという恐ろしいニュースを見て、日本でも他人事ではなくなっていくのではないかと思った。 D-496

2024-02-01 21:25:23
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 The Age of Gentle Violence by Jeong Yi hyun 『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P192-230 「アンナ」は格差社会に押しつぶされた女性の話。 主人公のキョンは子供を通わせることになった英語幼稚園で、ラテンダンス同好会の仲間だったアンナに8年ぶりに再会する。アンナは同期のなかでも最年少で、ダンスの才能があり、すがすがしい微笑みが印象的だった。 裕福な医師と結婚したけれど、コンプレックスから逃れられないキョン。最低の待遇の補助教師として黙々と働くアンナ。キョンはアンナに助けられるが……。結末はやりきれない。 D-495

2024-02-02 23:54:21
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✅13pages 📖 I Put The Evening In The Drawer by Han Kang 『引き出しに夕方をしまっておいた』ハン・ガン/著、きむふな、斎藤真理子/訳(クオン) 📄P13-189 ハン・ガンの詩集。必要があって再読。 pic.twitter.com/82IZPd7xTp

2024-02-04 00:00:26
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石井千湖 @ishiichiko

ライター。新聞や雑誌にブックレビューを書いています。「ポリタスTV」の「石井千湖の沈思読考」でも本を紹介(3週間に1回、木曜日)しています。youtube.com/@PolitasTV 著書 『名著のツボ』(「週刊文春」連載をまとめたもの。文藝春秋) 『文豪たちの友情』(書き下ろし。立東舎→新潮文庫)