前掲書、 第4章、自分への思いやりと自信~自分と向き合う 自己への思いやりは、とても大切なわりに話題にのぼることが少ない。自己憐憫(れんびん)や自己耽溺(たんでき)といった、好ましくない意味をもつ類語と混同されがちなせいかもしれない。
2017-09-20 17:37:39心理学者のクリスティン・ネフは、自己への思いやりを「友人に対してもつような思いやりを、自分自身に対してもつこと」と説明する。自分を思いやることによって、自己批判や恥の意識から解放され、気遣いと理解をもって自分のあやまちに向き合えるのだという。
2017-09-20 17:41:19あやまちはだれにでもある。一度やってしまったことは、元には戻せない。自己への思いやりは、「人間である以上、落ち度があるのはあたりまえ」という認識から始まる。自己への思いやりをもてる人は、苦境からより早く立ち直ることができる。
2017-09-20 17:45:54結婚が破綻した人たちを調査した研究で、自尊心や楽観性、離婚前のうつ症状、結婚生活や別居生活の長さなどは、レジリエンスとはなんの関係もなかった。離婚の苦しみを受け止め、乗り越えるのにいちばん役立ったのは、自己への思いやりだった。
2017-09-20 17:51:33アフガニスタンとイラクからの帰還兵を対象とした研究では、自己への思いやりを持つ人はPTSDの症状が有意に改善した。自分思いの人は、幸福感と満足感が高く、情緒的問題に悩まされることが少なく、不安感が低い。
2017-09-20 17:55:58自己への思いやりは男女どちらにもよい効果をおよぼすが、女性は男性よりも自分に厳しい傾向があるから、その分、得られる効果も大きい。「自己への思いやりには、ともすれば自分に厳しくしすぎる、私たちをなだめる効果があります」と、心理学者のマーク・リアリーは説明する。
2017-09-20 18:00:00自己への思いやりをもつからといって、過去の言動の責任逃れをすることにはならない。たんに、未来に希望がもてなくなるほど自分を痛めつけない、ということだ。📌自己への思いやりをもつことで、「悪い行いをしてしまったからといって、悪い人間になったわけではない」と気づくことができる。
2017-09-20 18:04:51「自分が〇〇でなければよかったのに」ではなく、「〇〇さえしなければよかったのに」と考えるようになる。
2017-09-20 18:07:15自分の人格ではなく、言動を責めるよう心がけると、「恥」ではなく「罪」の意識をもてるようになる。アーマ・ボンベックは、罪の意識は「尽きることのない贈り物」だといっている。罪の意識をなかなか振り払えないからこそ、私たちはよりよい人間になろうと努力し続ける。
2017-09-20 18:10:58罪の意識があるからこそ、過去のあやまちをつぐない、次はよりよい選択をしようという気になる。 「恥」の意識は、これと正反対である。恥の意識をもつと、自分はちっぽけでとるに足らない存在だと感じ、怒りに任せて人を攻撃したり、自己憐憫におぼれて自分の世界に引きこもったりする。
2017-09-20 18:14:32大学生を対象としたある研究で、恥の意識を感じやすい学生は、罪の意識を感じやすい学生に比べ、薬物や飲酒の問題を抱えることが多かった。恥の意識の強い囚人は、罪の意識の強い囚人に比べ、再犯率が30%高かった。
2017-09-20 18:17:51恥の意識の強い小中学生が敵対心や攻撃心をもちやすいのに対し、罪の意識が強い子どもは対立を和らげようとする傾向が強かった。 📌ブライアン・スティーブンソンは、「だれもが何かに傷ついている。だれもがだれかを傷つけている」と指摘する。
2017-09-20 18:24:08「私たちのだれしもが、人生最悪のあやまちでは計れない存在」だと、彼は強く信じている。キャサリン・ホークは「自分自身に思いやりをもつためには、まず自分のあやまちを認める必要がありました」と話してくれた。
2017-09-20 18:26:42キャサリンの立ち直る力のカギとなったのが、だれかに…また自分に…宛てて文章を書くことだった。考えを思いつくままひたすら書き出す『ジャーナリング』では、瞑想と同じとはいかなくても、心を鎮め、自分に向き合うのにとても役立ちました。自分の気持ちを言葉で表すことで、心の内を吐きだせました
2017-09-20 18:32:01📌書くことは、自己への思いやりを身につけるための強力なツールになる。 ある実験で参加者に自分が嫌になるような失敗や屈辱的な出来事を思い出してもらった。そして、同じ失敗をした友人をなぐさめるようなつもりで、自分宛てに手紙を書いてもらった。
2017-09-20 18:36:27結果、このように自分にやさしくした人たちは、単に自分の長所について書いた対照群にくらべ、幸福感が40%高く、怒りの度合いが24%低かった。 感情を言葉で表現することは、逆境を自分の中で処理し、克服するのに役立つ。
2017-09-20 18:41:32ジェイミー・ベネベーカーは大学生を2つのグループに分け、毎日15分ずつ4日間連続で課題を行ってもらった。一方の対照群は、日常の出来事を感情を抜きにして書き、もう一方のグループは人生最大のトラウマ体験、たとえばレイプや自殺未遂、子どもの頃からの虐待経験などについて書いた。
2017-09-20 18:44:58書きはじめた初日は、トラウマグループの方が幸福感が低く、血圧が高かった。トラウマに向き合うのは苦痛を伴うだろうから、当然の結果といえる。しかし、6か月後の追跡調査では逆の結果が出た。トラウマについて書いた人のほうが、心身ともに良好な状態にあったのだ。 p.85
2017-09-20 18:48:51ジャーナリングの治療効果は、その後に行われた100を超える実験で実証されている。トラウマ体験について書くことには、不安や怒りを鎮め、学業成績を上げ、欠勤を減らし、失業の心理的影響を和らげるなどの効果がある。
2017-09-20 18:52:51健康効果としては、T細胞数の増加、肝機能の向上、抗体反応の促進などが挙げられる。たった数分間のジャーナリングを数回行うだけでも効果がある。「一生書き続ける必要はありませんよ」とベネベーカーは教えてくれた。「必要と感じたときに始め、やめればいいのです。」 p.86
2017-09-20 18:56:18(前掲書、第4章の続き p.91~ ) ジャーナリングは、私が立ち直るための大切な手段になった。始めたのはデーブのお葬式の朝、彼が亡くなって4日後のことだ。「今日これから夫を埋葬する」が、最初の1文になった。
2017-09-29 13:54:11「なぜここに一部始終を書こうとしているのか、自分でもわからない…どんな小さなことだって忘れられるはずがないのに」。子どものころからいつも日記をつけよう、つけようと思い続けてきた。数年にいっぺん、新しい日記帳を買って書きはじめるのだが、いつも3日坊主で終わっていた。
2017-09-29 14:05:05でもデーブのお葬式からの5か月間で、10万6338語が私からほとばしり出た。何もかもすっかり書いてしまうまでは、息もできないような気がした。朝のこまごまとしたことから、答えの出ない、存在に関わる問題まで、思いつくままなんでも書きつけた。
2017-09-29 14:08:54書かない日がほんの数日でも続くと、自分の中で感情がどんどんふくれあがり、決壊寸前のダムにでもなったような気がした。無機的なパソコンに向かって書くことがなぜそんなに大切なのか、あのころはわかっていなかった。答えを返してくれる家族や友人に話したほうがいいんじゃない?
2017-09-29 14:13:54ひとりになれる貴重な時間を、記憶をほじくり返すことに費やすより、怒りや悲嘆から離れる時間をつくったほうがよくないかしら?
2017-09-29 14:17:54いまでははっきりわかる。書きたいという衝動が、私を正しい方向に導いてくれたのだと。ジャーナリングのおかげで、やり場のない感情や、次から次へと浮かんでくる後悔を処理することができたのである。
2017-09-29 14:18:17デーブとの時間が11年しかないことがわかっていたら自分はどうしただろうと、絶えず考えていた。もっと2人の時間を大切にすればよかった。こうした思いを綴るうちに、いつしか憤りや後悔は薄れていった。
2017-09-29 14:24:36キルケゴールはいみじくも、「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない」といっている。ジャーナリングは、自分の過去に意味をもたせ、現在と未来を生きていくための自信をとり戻すのに役立った。
2017-09-29 14:26:33(p.93) するとアダムは、今度は「今日うまくできたこと」を3つ書いてごらん、という。最初は正直気が進まなかった。毎日生きているだけでやっとなのに、会心の瞬間なんてあるかしら? 今日は着替えができた。すごい、すごい! しかし、うまくできたことを数えあげることで、心理学者のいう twitter.com/k_r_r_l_l_/sta…
2017-09-30 12:47:34「小さな成功体験」に集中できるようになり、その結果回復が促されると実証されている。ある実験で、参加者にその日うまくいったこと3つとその理由を、1週間連続で毎日書き出してもらった。すると、幼いころの思い出を書き出した対照群にくらべて、その後6か月間幸福感が高かった。
2017-09-30 12:51:54最近の研究では、「本当にうまくいったこと」とその理由を毎日5分から10分間かけて書き出した人は、3週間以内にストレスレベルが低下し、心身の不調も改善した。
2017-09-30 12:58:02それから6か月の間、ベッドに入る前にほぼ毎晩リストをつくった。最低限のことをするのでさえ精一杯だったから、まずはこんなリストから始めた。お茶を入れた。メールにぜんぶ目を通した。出社してひとつの会議のあいだほぼ集中していられた。
2017-09-30 13:03:30どれも華々しい偉業とはいいがたいけれど、枕元のあの小さなノートは大事な役目を果たしてくれた。生まれてこの方、その日にしたまずいことや、しでかした失敗、うまくできなかったことを考えながら眠りについていたことに気づかせてくれたのだ。
2017-09-30 13:08:08なんであれ、うまくいったことを思い返すのは、喜ばしい変化だった。 ジェーン・ダットンが行った研究によると、感謝できることを数えても自信ややる気は高まらないが、「役に立てたこと」を数えることにはその効果がある。なぜなら、感謝は受け身だからだそうだ。
2017-09-30 13:14:28自分がしてもらったことに対して感じるのが、感謝である。これに対して、人の役に立つのは自発的な行動だ。だから自分がだれかの力になれたことを思い返すと、自信が高まる。今では友人や同僚にも、うまくできたことを書くよう勧めている。やってみた人は口を揃えて言う。もっと早く始めればよかった。
2017-09-30 13:20:56こうして私は仕事での自信を少しずつとり戻しはじめた。それまで自信喪失に陥った人たちにしてきたアドバイスを、自分にも言い聞かせた。 完璧を目指さなくていい。いつもいつも自分を信じなくていい。いまは少し、次はもう少し貢献できると信じればそれでいいのだと。
2017-09-30 13:26:01この「一歩ずつの前進」の効果を思い知ったのは、生まれて初めてスキーに行った、16歳のときのことだ。なにを隠そう、私は「運動オンチ」どころの騒ぎではない。ところがスキーを始めて4日目に、母と私は道を間違えて上級者コースに迷い込んでしまった。
2017-09-30 13:33:05山を見下ろしてパニックになった私は、生きて山を降りられるはずがないと、ゲレンデにへなへなと座り込んだ。母はいちばん下を見てはだめ、10回だけターンしなさい、という。なんとか私を説得して立ち上がらせ、大声で数えながら一緒にターンしてくれた。10回終わったら、もう10回。
2017-09-30 13:43:09そしてもう10回。それを繰り返すうちに、とうとう下までたどり着いたのである。 それ以来、手に負えなさそうなことにぶつかるたび、この教訓を思い出している。 🎿怖がらなければ何ができる? 私なら1回ターンをする。そしてもう1回。
2017-09-30 13:55:27