(抜粋)① 『こころの処方箋』河合隼雄、新潮文庫、1998.6.1.

花びんに水をدعونا نملأ المزهرية بالماء☘️ @chokusenhikaeme

イマジネーションという豊かな精神の働きを破壊していないかを反省してみる必要がある。会社などでも、できることを上手に教えてゆくのではなく、不可能なことを要求したり、長時間にわたる仕事を要求したりして、それに耐えることを学ばせようとする。しかし、その方法こそは、本来の意味における

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「精神」のはたらきを貧困にし、没個性的にすることにつながっていないだろうか。にもかかわらず、忍耐力イコール精神力という図式が、なかなか消えないのはどうしてだろうか。まず、第一に、それは免罪符として使用されやすいことである。「われわれはこれほどの苦しさに耐えてやってきた」という

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言いわけを、負けた時に言いやすいのである。日本のスポーツマンの練習時間が長いことの、ひとつの理由である。次に、耐えることのみに重点を置くとき、それは指導者にとって好都合なのである。彼は自分を鍛える側に置いて、ひたすら選手を耐えさせるとよい。

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それは、選手の個性をつぶすことになり、没個性的な選手を集団として統率することを容易にする。このような集団は確かにまとまりはよいかも知れないが、新しい場面に対応したり、個性的な打開策を打ち出したりすることには劣ることになる。

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もう一度繰り返すが、単にスポーツのこととしてではなく、人生全般にわたる生き方として、そろそろ日本人は、耐える精神力というワンパターンを破るために、新しい精神力を養う必要があると思われる。p.113 27) 灯を消す方がよく見えることがある 漁船で魚釣りに出かけ、夢中になっているうちに暗く

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なってしまって方角がわからない。月も出ないし、たいまつを掲げても一向に見当がつかない。そのうち、一同の中の知恵のある人が、灯を消せと言う。消してみると、周囲は真の闇だが、目がだんだんと慣れてくると、まったくの闇と思っていたのに、遠くの方が浜の町の明かりのために明るく見えてきた。

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方向を知るために、一般には自分の行手を照らすと考えられている灯を消してしまうところが童話のつぼであった。子どもが登校しなくなる。困り切って母親が相談に行くと、学校の先生が、「過保護に育てたのが悪い」と言う。それで一切の世話を止めると、子どもは余計に悪くなる気がする。

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「過保護はいけない」などの考えは、それはそれなりに一理があって間違いだなどとは言えない。しかし、それは目先を照らしている灯のようなもので、その人にとって大切なことは、そのような目先の解決を焦って、灯をあちらこちらとかかげて見るのではなく、一度それを消して、闇の中で落ち着いて目を

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こらすことである。そうすると闇と思っていた中に、ぼぅーと光が見えてくるようになり、自分の心の深みから、本当に自分の子どもが望んでいるのは、どのようなことなのか、いったい子どもを愛するとはどんなことなのか、がだんだんとわかってくる。そうなってくると、解決への方向が見えてくる。

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不安に駆られて、それなりの灯をもって、うろうろする人(このことをできるだけのことをした、と表現する人もある)に対して、灯を消してしばらくの間、闇に耐えてもらう仕事を共にするのが、心理療法家の役割である。このように言っても、闇は怖いので、なかなか灯を消せるものではない。

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時には、油が尽きて灯が自然に消えるまで待たねばならぬ時もあるし、急を要する時は、灯を取り上げて海に投げ入れるほどのこともしなくてはならぬ時がある。 　もっとも、不安な人は藁をもつかむ気持ちでおられるので、そのような人に適当に灯を売るのを職業にしている人もある。

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それはそれなりにまた存在意義もあるので、にわかに善し悪しは言えないが、それは専門の心理療法家ではないことは確かである。 　目先を照らす役に立っている灯…それは他人から与えられたものであることが多い…を、敢えて消してしまい、闇の中に目をこらして遠い目標を見出そうとする勇気は、

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誰にとっても、人生のどこかで必要なことと言っていいのではなかろうか。最近は場当たり的な灯を売る人が増えてきたので、ますます、自分の目に頼って闇の中にものを見る必要が高くなっていると思われる。p.117