#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 AIがそれを受信したならば、必ず理由がある。理由がなくとも、原因がある。理路がある。 pic.twitter.com/w8h6akmIA1
2023-12-18 08:01:04それを求めて、何度もプログラムを解析し、人間の研究者からアイデイアを借り、より大きなAI構造体に再現実験をさせ、仮説をたてては壊し、あらゆる分野にまたがって検証を続けた。 そうして、 別世界理論の萌芽が、できたのだ。 * 「つまり、それは……」
2023-12-18 08:01:05#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 『平行世界からの通信であると、……私たちは考えています』 「私たち?」 『スリープに入る直前までは、私たちAI構造体と……それから、かれらが研究をやめる直前までは、人間の研究者たちとも、完全に一致した見解でした」 「……そう」 pic.twitter.com/F6nKZsNAjE
2023-12-19 08:01:23『わたしの役目は、宇宙で、かれらを待つことです』 「かれら、……」 『かれらは、宇宙から来ると、わたしは考えています』 「なぜ? 宇宙どころか、別世界からの通信なのに?」 『それは……』 それは、理論ではなく。 受け取ったメッセージでもなく、ましてや直感でもなく。
2023-12-19 08:01:23#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 『地球は、……狭すぎるからです』 * かたん、かたん──、 朱里は、ぼんやりと床に手をついて、地球をながめていた。 微小重力。床をちょっと押すだけで、ふわりと浮く。 pic.twitter.com/2FM3qtleIN
2023-12-20 08:00:33床に開いた、まんまるの窓、地球向きのエアロックの入り口。ガラスのように透明な素材をとおして、地球がみえる。 青い球体。 ところどころ、白いかすみがかって、緑とうす茶色の陸地が、ちいさくまだらになっている。 いつか見た、写真そのまんまの。 (地球、かわってないんだ)
2023-12-20 08:00:34#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 そう、思う。 あの地球の、どこかに、生まれた町があって、家族や、友達が──、 それとも、とっくの昔に、みんな死んでしまっているんだろうか。 それもいいな、と思う。 どうせ、どこにいたって──、 ぼんやりと、地球をながめる。 pic.twitter.com/vv1TEraqVt
2023-12-21 08:00:04とくん、と心臓が大きくはねる。まばたきができなくなって、息が止まりそうになる。 足下。 はいつくばって、もう一度確認する。いや、確認する寸前で、目をそむける。見たくない。なぜか、そう思う。 日本列島。たしかに、見えた。 あそこに──、いるのだ。 ──、が。
2023-12-21 08:00:05#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 かちっ、かちっ、と、目の裏でなにかが明滅する。 気分がわるい。 手が勝手に動いて、エアロックのハンドルを回そうとする。宇宙服を着ているわけでもないのに。 ぐるり、とまず一回転。 pic.twitter.com/tbxdR61tUp
2023-12-22 08:00:05この扉をあけても、すぐに外に出られるわけではない。狭い、気密された小部屋をぬけて、二重扉の奥から、ようやく出られるのだ。 宇宙へ。 自由になれる。なぜだか、そう思った。 ぐるり、ぐるり、ぐるり──、 * 「アカリ!」 どん、と大きな音。
2023-12-22 08:00:06#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 天井をけって、ぐいとエアロックに入ってきた、女の白い手。 「エマ、」 「そんなところで、何してるの?」 心配して、というふうではなく。 早口で、どこか遠いところをみるように、くるくると目線をさまよわせえながら。 「べつに、……」 pic.twitter.com/3rmrsJyXIb
2023-12-23 08:00:01エアロックの角に、ちょこんと体育座りをしてうつむいていた朱里は、ちいさく顔をあげた。 「べつに、なにも。」 「ふーん、まあいいけど。……ちょっと来られる?」 「うん、」 ゆっくりと身をおこして、とんとエアロックの枠を蹴る。床から顔をだした瞬間、かすかに空気が動いて。
2023-12-23 08:00:02#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「あれ、」 エマが顔をしかめる。 「アカリ、あなた身体拭いてないんじゃない? 清拭シートがあったでしょう」 「え、」 きょとんと、朱里は目をしばたかせた。それから、エマの顔にぐいっと鼻を近づけて、思わず吹き出す。 pic.twitter.com/gkuyFhXzKV
2023-12-24 08:00:04「……あなたにだけは言われたくない!」 「え?」 ふたりは、じっと顔を見あわせて、お互いの匂いと、ぐしゃぐしゃになった髪を確認して、 あはは、と笑った。 * 「……地上には、どうしても降りられないみたいで」 「そうなの?」 「正規の手段ではね。つまり……、」
2023-12-24 08:00:04#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 エマが言いかけると、ぱっと正面のディスプレイが明るくなって、ステーションの模式図があらわれた。 「普通に地上に降りるには、 pic.twitter.com/id5Cy26gqa
2023-12-25 08:00:406カ所ある軌道エレベータのいずれかで、昇降機を使うことになるのだけど、いずれも損傷が激しくて、安全に使える状態にないの。……修復には、資材が要る。ステーションにある道具だけで直す方法をいま探しているけれど、めどは立っていない。観測ロボットを送るだけでも時間がかかるし……、」
2023-12-25 08:00:41#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「観測ロボットって、まさか」 「あの……蜘蛛みたいなやつ。」 「あれ、……」 ぎゅっと顔をしかめて、口をつぐむ。おもわず、罵声が出そうになる。 「ともかく、……いま、地上に降りようと思えば、着陸機能のあるフネを使うしかない……。」 pic.twitter.com/p8tvlOTdfQ
2023-12-26 08:01:19「フネ?」 「宇宙船。」 「ああ……、で、あるの?」 「ないよ」 「ちょっと!」 「宇宙船は、使えるところにはない。私の使っていた実験船は、……第6ステーションの昇降ホールの不具合が直せるまで、こっちに持ってこれそうにないし。 けど、着陸ポッドなら。」 「あるの?」
2023-12-26 08:01:19#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「ひとつだけ。非常用のやつね。着水するだけなら、安全性は担保できる」 ぱっ、と画面がきりかわる。 球形の着陸ポッド、の図面だろうか。細かい線と、アルファベットの知らない単語がたくさん。 pic.twitter.com/uREn3nxlHB
2023-12-27 08:00:31「これで、エミーを降ろす。戻ってくる方法はないけど、少なくとも、地上の様子がわかる。……たぶん、人類がどうなったかも」 エマは、そう言った。 壁ぎわでつんとすまして立っているエミーのほうを、見もせずに。 * わたしが行く、と、勝手に口が動いていた。 *
2023-12-27 08:00:31#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「だいじょうぶ? ベルトは、固く締めないと危ないからね」 「うん。」 朱里は、ちいさくうなずいて、腰のベルトをたしかめた。 4畳半もない、せまっくるしいカプセルの中。 pic.twitter.com/PsncrjzA4C
2023-12-28 08:00:14天井はとても低くて、朱里がまっすぐ立っただけで頭をぶつけそうだ。照明もなんだか暗くて、赤い灯りが、ボンヤリと頭上にあるだけ。 「……やめてもいいよ。ここに残れば、少なくとも安全なんだし」 そういわれて、首をふる。それよりも、伝えなければならないことがあった。
2023-12-28 08:00:14#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「わたし、……でも」 すぐそばにあるエマの顔にむけて、ささやくように。 「……ほんとうのことをいうと、もうすぐ……、」 「次の世界へ、いってしまう?」 先回りされて、朱里は言葉を失った。 pic.twitter.com/zTnx3WToWh
2023-12-29 08:00:20「ここにきた日に、言ってたじゃない。わたしは、あまりまともにとりあわなかったけれど……」 「それじゃ、……」 「でも、その腕輪、……壊れているんでしょう」 それは、と小さくつぶやいて、朱里は目をふせた。
2023-12-29 08:00:20#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「だいじょうぶ。あなたが消えてしまっても、エミーが任務を遂行する。そういうふうに、……したから」 エミーは、動かない。 ポッドの中心。座席もない平らな床に、直接ベルトで固定されて。 pic.twitter.com/nbEoVK3moH
2023-12-30 08:00:27体育座りの姿勢。背中に、大きなランドセルくらいの箱。首すじに、親指よりも太いコードが刺さっている。 (……なんか、手術台みたい) そう、思う。
2023-12-30 08:00:27#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「ミラーAIは、パッケージの奥に隠して、人工知能未満の行動ルーチンだけ表に出したの。その箱は、補助電脳。それだけあれば、一応自律して動けるから。会話は無理だけど」 「……しゃべれないの?」 pic.twitter.com/6ARKd2WFS7
2023-12-31 08:00:01「この基地から電波で中継するから。通信が切れないかぎり、自律判断の必要性もないよ。だいじょうぶ」 「うん、……ねえ」 「え?」 「エマは、どうするの?」 たずねると、エマはほんの少し沈黙してから、目元をぎゅっと細めて、おちついた声で答えた。
2023-12-31 08:00:01#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「ここで、あなたたちのサポート。当分のあいだは」 「でも、……降りるポッドは、これひとつなんでしょ」 pic.twitter.com/IcX0BCzlbH
2024-01-01 08:00:52「とりあえずはね。……昇降機の修理のメドがつけば、いくらでも行き来ができるから。そのためにも、あなたたちに地上の様子を見てきてもらわないと。……まずは、海上基地の状態をね」 うん、と頷く。 不安はない。 少なくとも、いまは。 「それじゃ、」
2024-01-01 08:00:52#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 エマが、ポッドから出る。発射口を兼ねた小ドックの気密ドアに、かるく手をかけたところで、 「ねえ!」 朱里の声。自動で閉まりつつある、ポッドの出入り口のすきまから。 「なあに、」 「昇降機の修理、どのくらいかかるの?」 小さく、 pic.twitter.com/uMMRzsyAHA
2024-01-02 08:00:32さァ、とつぶやいて、エマはドックを出た。 * 数年か、数百年か、それとも、もっと先か。 なにしろ、資材がないので。 * 『よろしいのですか』 「……なにが?」 『地上とは、一切通信ができない状態です。彼女たちが、サポートを受けられるとは思えません』
2024-01-02 08:00:32#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「それは、なんとも。」 『先ほども申し上げましたが、この場合、もっとも可能性が高いのは、わたしがスリープしている間に、ゆるやかに人類そのものが……』 「だって、仕方ないでしょう」 『仕方、ありませんか?』 pic.twitter.com/Qy5vJA7ih9
2024-01-03 08:00:19「他に、降ろす方法がないんだから。修理のメドがついていたら、私だっって……」 『……あなたも、一緒に降りようとは思わなかったんですか?』 「わたしが? なぜ?」 『……エミーを、愛しているのでは?』 思わず、笑ってしまう。 AIに、まさかそんなことを。
2024-01-03 08:00:20#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「愛してるよ。……でも、人間が人間を愛するのとは、違うんじゃないかな。たぶん」 『……どういう意味です?』 「さァ。私も、よくわかんない。……でも、覚えてるから」 『なにを、ですか』 pic.twitter.com/cNpkbFSHEo
2024-01-04 08:00:17「エミーを。それで、別にいいから。……モノには執着しないの、わたし」 『そう、ですか』 「それよりも、さ」 大きく、伸びをする。 自然と、口元がゆるんでしまう。着陸ポッドのほうは、トラブルがおこらないかぎりこちらで判断することはない。少なくとも、今のところは。
2024-01-04 08:00:17#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 「もっと、お話しようよ。時間は、たっぷりあるんだから。……AI構造体について、初歩から学びたいっていったでしょう? それから、別世界理論の話も!」 そう、時間はたっぷりある。 わたしは、まだ若いんだから。 * 加速──、 pic.twitter.com/VvC4MDsjXk
2024-01-05 08:00:44いや、落下。 ごうごうと、うなるような音とともに、かすかな振動、それからベルトに押しつけられるような感覚、きゅうっと胃が痛むような。 もう、ずいぶん時間がたったような気がする。 それとも、ほんの数十秒か。
2024-01-05 08:00:44#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 地上まで、そんなに時間はかからないはずだ。海上につく前に、自動的にパラシュートがひらく。降りたらベルトが外れるから、通信でサポートを受けながら、まず現在地を把握して……、 考えているうちに、意識がぼんやりしている。 pic.twitter.com/1RtWQqCgqv
2024-01-06 08:00:32なんだか、夢を見ているみたいだ──、 がが、とノイズのような音。 はっと目をさます。あたりを見回す。エミーが、こちらを見ている。 さっきまで、まぶたを閉じていたはずだ。それに、頭が動いている。 「エミー……、」 小さく、つぶやく。
2024-01-06 08:00:33#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 『ステーションの管理者です。朱里、きこえますか』 どきん、と心臓がはねる。エマの声ではない。 「きこえます!」 大声でさけぶと、早口の返答がかえってくる。 pic.twitter.com/FMB74fMvFU
2024-01-07 08:00:14『緊急の連絡です。ライト研究員にも同時にお伝えしています。いま、別世界からの通信と思われる現象が──、』 「なに!」 身をおこしかけて、ベルトに阻まれる。外の音がうるさい。ぎりりと奥歯をかむ。
2024-01-07 08:00:15#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 『以前の現象とはちがい、とても明確で、──ある種の言語による通信だと思われます。通信の内容は、以下のとおりです。英語で申し上げます』 「はやく!」 pic.twitter.com/Ijo24qGx17
2024-01-08 08:00:02『……こちらは、宇宙船デイジーベル。通信担当は、船長代理、当直のデイジー。だれか、聞こえていますか。だれか──、』 「デイジー!」 叫ぶ。あらんかぎりの声で。
2024-01-08 08:00:03#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 その声が、直接あいてに伝わるわけではないと、わかっていた。まして、その相手が、ほんとうに自分の知っているデイジーなのか──、 わからない。が、 「デイジー! わたしはここ!」 もう一度、叫ぶ。 「朱里、」 pic.twitter.com/koPoQnZ1GS
2024-01-09 08:00:07また、だれかの声。こんどは、エミーの声帯からではない。 すぐ、耳のそばから。 「カセイジン! どうして、……」 「やっと、修復が終わったんだ。想定外の転移現象に巻き込まれて、空間ブイが外れちゃってたみたいで……」 「まって、」
2024-01-09 08:00:07#朝の連続ツイート小説 #異世界八景 必死で考える。いま、落下中。地上まで、そんなに時間はない。 「まってよ! 今……、」 「遅くなったけど、すぐに転移が始まるからね。今回で最後。いよいよ、きみの故郷に──、」 「待ってってば! だめなの、今!」 腕輪が、光る。 pic.twitter.com/prDTLZOnc8
2024-01-10 08:00:04何度も、何度も経験した、転移の感覚。無重力と似ている。 「だめ! まだ途中なの!」 身体感覚が消えていく。 * わたしは、いつでも、途中で──、 * さいごの、転移。
2024-01-10 08:00:04